Ultima Fabura―終焉へ向かう物語―

Aerith ◆E6jWURZ/tw     作



第二話 氷の森に潜むもの    SHOT 3 〝動き出した歯車〟



白いマント。

フェルドは横目でアルスのマントを見て、ふと気づいた。
確か、複数存在する〝伝説〟の一つにあったな。白いマントを羽織った、白魔導士。

「アルス」
「?なんでしょう」
「お前・・・まさか、白魔導士じゃないよな?」
するとアルスは目を見開き、ぶんぶんと首を振った。なんかコイツ、小動物みたいだ。
「そんなわけ、ないじゃないですか・・・。たぶん、僕が光の神霊だからだと思います」
「・・・そうか。いや、まぁ雷獅子のヴィルが生きてる時点でいたらおかしいよな」
「ははは、そ、そうですよ・・・。って、え!!?ヴィルさんが雷獅子!!?」
・・・知らなかったのか・・・。
まぁ、そういえば説明はしていなかった気がする。

白魔導士。

純白の聖なるマントを纏い、光で優しくこの星を包んで護ったという言い伝えのある伝説の魔導士。
普通、遺伝によってマントは引き継がれ、親の色を少し入り混ぜた色になる故に〝白〟は有り得ない。
しかし唯一、白魔導士だけは星より生まれた子の為にその色はなく、そして何より驚くのは――

守護神を、持たないことだ。

普通は刻まれる、魔法陣の中の魔法の刻印と守護神。
だが白魔導士は双方持たず、魔術の種類も縛られずに様々な魔法を扱ったという。
特殊、いやまさに異質。
そんな特異な魔術を持つのは白魔導士以外、一人しかいない。

光と闇は相対する。白と黒は相対する。


黒魔導士・・・。



闇で世界を包み、人の心を闇で包み、支配しようとしたいわば魔女。
その手から星を救ったのが白魔導士だった。
黒魔導士が存在しない今だ。それならば白魔導士だっていないだろう。けれど何か、いそうな気がしたのだ。
ヴィルお得意の、「かん」というやつだがな。


「お~いフェルド、壁だ!」
壁ってお前・・・。
フィネルの街は強固な壁が護るようにあり、門から出ないと入れない。

「ブッ壊せばいいのか?」
「門があるだろ!壊すな!」
「壊したら、アンタをぼろぼろに壊すわよ」
「す・・・すいませんでした」
強力なリトゥスの脅しに、ヴィルは90°の謝罪。効果テキメンですね、とアルスが感心する。
・・・感心するようなところか?

半周くらい壁の周りを歩き、やっとの事でたどり着いた巨大な門。
しかしそばにいた兵士らしき鎧を着た一人の男がヴィルに槍を突きつけた。

「貴様ら、怪しい者め!名を名乗れ!!」
「俺はヴィ・・・ブゴッ!!?」
「(馬鹿、名乗ってどうする。自殺行為だろ!)」
アルスはすっとフェルドたちの前に進み出てふたりを振り返った。
そっとフェルドに耳打ちする。
「(僕に任せてください)」
警戒する兵士。にこにこと人当たりのいい笑みを浮かべているアルス。
物凄い形相で見ていた兵士は気づけばアルスにつられた様ににっこりと笑って槍を下ろしていた。

「ややっ、これは失礼を。どうぞお通りください」
「(ね?)」
アルスには正直似つかわしくない片目ウインク。彼の魔術だ。感心するフェルド。意味不明顔のヴィル。
重い、鉄の擦れる音とともに巨大な門がゆっくりと開く。
開きゆく門の奥からは、外の静けさとは正反対とも言える賑やかな音楽と、人のざわめきが流れ込んできた。

「うっほーー!!サーカスサーカス!!!」
「あっ!ってちょっ!待ちなさい、ヴィル!!」
逸れそうなヴィルを追いかけたリトゥスはしかし、フェルドに肩をつかまれ止められる。

「待て」
「何よ、このままじゃアイツ――」
「あれです、リトゥスさん」
フェルドとアルスの視線の先にあったのは、賑やかなこの街の中では比較的質素な造りの建物だった。
いや、違う。建物じゃない。
それの下には掲示板があった。手配書が張り出されている。
手配書の中には3人のもちゃっかり居座っていた。リトゥスは舌打ちする。

「支部、ってことか。なんか顔を隠せるものは?」
「これくらいだ」
そう言ったフェルドの手に握られていたのは、三本のサングラスだった。


サーカス団らしい、緑と赤の美しいコントラストを持った巨大なドーム型のテント。
その中に、3人がやっとたどり着いたとき出入り口に最も近い席にヴィルはちゃっかり腰掛けてピエロがこけたことに爆笑していた。

「あっはははは!!ばっかだな~!ん?遅かったな」
「遅かったってアンタね・・・」
その上、後3人分の席もきっちりキープされている。
溜息をついたフェルドたちは、仕方なくそこに腰掛けた。――刹那、会場の照明は一斉に消えた。
真ん中の高い台、その前でマイク片手に深くお辞儀する男を浮かび上がらせるライトを除いては。
「レディースエンド・ジェエエエントルメェン!!」
男は顔を上げ、声の限りに叫んだ。どうやらコイツが団長らしい。
「お待ちになっていたファンの方々、初めての方も彼女の登場には惚れ惚れするよ! 嫉妬かい? するわけないじゃないか! 彼女の美声さには誰もが驚愕だしね!さァ、登場していただこうっ!!」

――団長は、腕を振り上げた。

「我らがメロウ・P・シャーフィナーぁあああ!!!」


台の上からすさまじい量の水が噴出す。
と、それは突如姿を消して代わりにいつの間にか辺りを神秘的な霧が覆っている。いや、包み込んでいるというべきか。
      ヨ
『悲しい 夜の夢 消えない不安に

  涙をこぼせば 月まで 揺らいで

    優しい 声にも 覚えはないのに

     なぜなの? なつかしい どこかで 感じる』

目を見開く、ヴィル。
透き通るような、心地の良いどこか懐かしい歌声。
初めて聴くのになぜか懐かしい。

その人物を知りたくて、ヴィルは目を凝らした。
少女の髪は月光のような金色の髪で、ゆっくりと開いた瞳にヴィルの心臓はどくりと鼓動した。

銀の、瞳―――――。