Ultima Fabura―終焉へ向かう物語―
Aerith ◆E6jWURZ/tw 作

第三話 銀水まといし水の歌姫 SHOT 1 〝遠い記憶〟
ソウギン
『青銀 鎖が 記憶を 奪って
優しく 包んだ 声から 離すの
消えたの 出ないの あなたのその声
わからない 誰なの? 旅中探すの』
―――誰、なんだ?
見たこともないのに。知りもしないのに。
なんでだ? 聴いたことがある気がする。 ・・・その、歌声。
あった。これだ。遠い記憶の中に、そいつの歌声を感じる。だけど、それは俺自身の記憶じゃない気がするんだ。
「ウッ・・・!!」
頭が割れるような頭痛が突如走る。ヴィルは頬杖つきつつ自分の目の前が真っ暗になるのを感じていた。
それと共に、自分の知らない記憶が走馬灯のように脳内でひた走る。
『守るのだ。星を。俺達を始めとする、15人の戦士全員で』
『―――そうじゃの。わらわ達がやらなかったのであれば・・・誰がやるのであろうの?』
『王ではない。あやつは・・・正式な王の兄を殺し、王位に上り詰めた闇に染まりし忌まわしき男じゃ』
『兄を・・・!?それは、本当なのかッ!?』
『このようなことで嘘をつく理由などありはせぬ。それに、あやつは―――― 』
フラッシュ。
意識の暗闇の中で光が点滅し、強風のような雑音が場面の切り替わりの節目に耳へ響く。
『貴様ら、王の私に背く反国者め・・・!世界を敵に回す気であるのか!!!』
『貴方は王ではない。真の王を殺した、ただの人殺しだ!!!――世界?私達はそれを守るんだ』
『黙れ!!!戯言を・・・。たった十数人、何ができるのだ!』
『お主の手から―――この星を救うこと、じゃな』
ガンッと再び頭痛がし、今度は意識が飛びそうだった。しかしそのおかげで、ヴィルの目に映っているのはサーカス団のテントに戻っていた。
目の前の歌姫の声と自分らしき声が会話していた相手の声が重なる気がした。
『氷の 鍵なら 私に 力を
貸しては 助けて ヒントも くれるの
夢では 私は それだけ 聞いたよ
天使の 翼と 救いの 鍵には・・・。』
何かの、メッセージ。
不思議とヴィルの頭は自然にそう理解していた。
青銀の鎖―――・・・。
まるで誰かに導かれているかのように、自然に向かったヴィルの目線の先にはメロウの髪をきつく結い上げている鉄のリングがあった。何故だか判らない不思議な自信があった。
あれを壊せば・・・。
刹那、12時を告げる真夜中の鐘がガラァン、ゴロォンと世闇に鳴り渡る。
残念そうに、団長はボールの上で逆立ちをしたまま片手だけでたつと、マイクをもう片方の手に口を開いた。
「おォッと!もうこんな時間か。シンデレラ・メロウはもうお帰りの時間!!」
ひと跳びのバク転で台上―5、6Mはゆうにあるだろう―に軽々飛び乗ると、メロウは小さくお辞儀をした。と、同時にどこからか生み出された水の帯がしゅるりと彼女の体を包み込み、銀の水球と化した。
水球が消えた時、そこにメロウの姿は無かった。
「!!」
軽くアセるヴィル。・・・俺は、あいつに会ってみなきゃいけねーのにッ!!
確かめなきゃいけねーんだ。
「ではでは、fioreも本日は閉店といたします。本日もありがとうございました!」
花束と、おひねりが舞台へ飛んでいく。
同時に人々はぞろぞろと立ち上がり、その波は狭い出入り口へと流れていった。
再び逸れないようにと隣の席を見たフェルドは脱力した。
「・・・やられた」
そこに一番逸れるヴィルの姿は、既に無かった。
顔をしかめたフェルドの肩をたたいたアルスは、ある方向を指差して叫んだ。
「アレ!ヴィルさんですよ!」
ヴィルの後姿は、舞台の後ろへと続く道――舞台裏へと消えていった。
* *
水に包まれて消えたものの、少しも濡れた様子の無いメロウは溜息をついて自分の姿実の前に腰を下ろした。
頭の中に駆け巡る悪夢。
拭いきれない不安は、鏡に映った自分の顔にもその色を見せていた。
すると隣から鏡の中に入ってきた茶髪の―団長の真娘のリズという―女性がメロウの肩に手を乗せた。
メロウにとって、リズの存在は家族の無い彼女の姉のようなものだった。
「どうしたの?・・・また、怖い夢でも見た?」
「・・・・・」
黙ったまま、迷子の子供のようにメロウはこっくりと頷いた。
リズは向かい側の自分の席に腰を落ち着けると、そこに山積みに鳴っていた白紙に手を伸ばしそれを渡した。
戸惑いを少なからず瞳に宿した顔をメロウは上げる。
「教えてくれる?」
「・・・・・」
「―――言いたくないんなら、いいよ」
今度は首を横に振った。
普通の人間が口から言葉をつむぎだすように、メロウの震える両手から躍り出た水は紙に言葉を綴る。
〝星が闇に呑まれる夢・・・〟
「闇に?」
〝そう〟
予知夢なのか。
ついこの前も団長が化物に襲われる夢を見たメロウ。それは本当にその日起こってしまった。
今回もそうなのだろうか。とにかく、不吉以外の何者でもない。
でもリズはメロウがまだ何かを隠していることを感じた。促すと、青くなってメロウは首を横に振る。
「そんなに悪いこと?」
〝みんなが・・・・・血溜まりの上に倒れている夢〟
「・・・!」
必死に言葉を綴ったメロウの口元はわなわなと震えている。リズは彼女を抱きしめた。
メロウは〝声〟を失っている。記憶と、声。
涙は失っているわけではないけど、彼女は決してそれを私にさえ見せたことは無かった。
「大丈夫。私達はずっとあなたのそばにいるわ」
〝・・・わかってる〟
「うん。そうだよ。安心して、ね。私先に寝るよ。お休み」
〝お休み、リズ。ありがとう〟
リズはにこっと笑ってテントを後にした。
強張った笑顔で手を振っていたメロウはしかし、まだリズに伝えていなかったことがあった。
血溜まり。
死体の山。
その中の、自分。
返り血を浴びた、自分――。
トントン。
テントの扉を叩くノック音。
顔を上げたメロウは首をかしげた。こんな時間にたずねて来るなんて。
だれ?
リズが、戻ってきたのか。それとも団長?団員の誰か?
声を出せないメロウは仕方なく扉を開けた。
「こんばんわ。メロウ・P・シャーフィナー。・・・いや、〝水不死鳥〟ミュレア・U・フェリーラ嬢」
月光が照らし出す大きな影。
背筋に走る、寒気。
だれ? 誰?
・・・わたしは・・・誰。

小説大会受賞作品
スポンサード リンク