Ultima Fabura―終焉へ向かう物語―

Aerith ◆E6jWURZ/tw     作



第二話 氷の森に潜むもの   SHOT 2  〝氷竜〟



空気が凍りつきそうな冷気。

その中、フェルドを先頭にしてヴィル、アルス、リトゥスと続く。
奥には何が待ち構えているのか全くわからないが、とりあえず――只者ならぬ気配を感じる。クレバスの亀裂から続く通路は薄ぼんやりと明るい。奥が明るい所為だろうか。

突然、フェルドが立ち止まる。
先に行こうとしたヴィルは無言で差し出されたフェルドの腕に制される。
「なんだ、どうし「静かにしろ」」


   ――聞こえる。息遣いが。

何がいるんだ?わからないが、とにかくとてつもなくデカいことは確かだ。
その時突然、明るいほうに見えていた― それまで岩だと思っていた―モノが動いた。さっきまでヴィルが岩だと思っていたソレは、爪だった。とてつもなく巨大な、足の爪。地響きとともにソレは移動し、再びさっきの入り口にふさがったのは黄色い物体だった。

!!?いや、違う。

瞳だ。黄色い瞳。ぎょろりと向く瞳。切れ目を入れたようなそれはしっかりとヴィルたちを見据えた。後ろからアルスの、「ヒッ」という情けない声が聞こえた。

「―――貴様ら、何者だ?ここへ何用だ」
「俺達は旅をしているただの魔導士だ。ここへは・・・このアホが立ち入ったが、出られない。あんただろ、術者」
巨大な生物は鼻でフン、と笑うと体を起こした。ヴィルたちは慎重にそこへ入る。
常に上から目線だったその生き物は、竜――だった。アイスブルーで、黄色い瞳はいいアクセントになっている。
・・・上から目線とか言ってるが、敬語とか使わないこいつ(フェルド)もどうなんだろうな。

「我は氷竜。――ただの魔導士・・・か。ふ、笑わせてくれる。並みの魔導士では我の力は抑えられん」
「ったりめーだ!フェルドはバハムート家の血族だぞ!!」
ヴィルが胸を張る。なんでお前が威張る、とフェルドは冷たく彼を見た。

「・・・まぁ、そういうことだ。竜は騙しが効かない、だろ?俺達には怪我してるあんたを襲う気はない」
「ふん。おもしろい。よかろう。お前達を、ここから出してやる。その代わり――」
一歩、氷竜は足を踏み出した。
爆風ともいえる風が巻き起こり、リトゥスとアルス、そしてヴィルはたっているのが精一杯だった。
唯一、フェルドのみはそのまま直立不動だった。
「〝聖月夜〟が終わるまでには帰って来い・・・・・」
氷竜は腕を振るった。その一撃で4人は吹っ飛んだ。
頭の中に、声が響く。

「治癒能力者を連れて、必ず帰って来い。さもなくば、氷の裁きが貴様らに下るであろう・・・」





目が覚めたとき、4人は乾いた土の上にいた。
否、無風の砂漠地帯にいたのだ。氷点下まで下がるはずのここも、さっきまでいた所に比べればいくらか暖かい。

「はぁ。・・・なぁ、"聖月夜〟って・・・なんだ?」
ヴィルの発言に、全員が振り向く。

「アンタ・・・"聖月夜〟知らないの!?本当にこの星の人間やってるワケ!!?」
「まったく、そんなことも知らなかったか」
「え・・・と、いいですかヴィルさん。"聖月夜〟というのは、ふたつの月の重なる3日間のことを言うんです」
今、真夜中近い。
二つの月の出ている夜空は澄み渡り、天界も綺麗に見える。
フェルドは自分の後ろの銀の月をくいっと親指で差す。

「北に位置する【銀月〝ギンヅク〟】――」
「そして、正反対に位置する南の【金月〝キンヅク〟】――」
リトゥスが立ち上がって続ける。指差した先には、金色の月がある。
いや・・・そもそも、月って重なんのか??いっつも方角的に、正反対にいた気がするんですけど。

「このふたつが重なり、月同志が重なる【月同食〝ドウゲツショク〟】の起こる三日間。周期は七億年に一度です」

七億年・・・?

と、いえば俺達と同じ能力を持った奴らの伝説の話があったのと同じ周期じゃねェか。
おいおい待て待て。まだ、〝水不死鳥〟が見つかってねェんだけど。

「そう。それで重なった月は1日目が銀蒼、2日目は銀翠、3日目は銀紅って変わってくのよ。それのこと」
「それぞれ、同じ瞳の色を持つ人々の魔力が高まる日でもありますね」
なんで銀闇の日はないのかしらという顔をするリトゥス。ふと、「わかった?」と睨むように問われる。
しっかりはわかってねェけどとりあえず頷いとく。

「じゃあ・・・どうしようか。人がいる点ではフィネルに行くのが一番よね」
「ああ、そうだな。ここからだと・・・」
「西に町の影が見えますね。あれじゃないですか?」
フェルドが頷く。
歩き出そうとして、ああそうだ、と振り返る。
「お前はどうせ知らないだろうから覚えておけ。銀翠以上の魔導士は魔力を封じる能力がある。〝記憶〟と何かを引き換えに、な。世間的には知られて無いが、そいつらはその間瞳が銀だ」
ふーん・・・。別にそれ今言わなくてもよくねぇ?
フェルドたちの背中を見ながら、ヴィルは面倒くさげにそう思った。
「そういえばフィネルって言ったら、サーカス団が有名ですよね「あ、ちょっ!!」」
振り返ると、ヴィルが立っていた。
さっきまでの面倒くさそうな顔とは打って変わり、表情は輝いていた。

                    *                      *


ここは〝大都市〟フィネル。またの名を、〝水の都〟。
サーカス団fioreのテントの中、金髪を蒼い鉄の輪できつく結わえた女性がちょこんと鏡の前に腰掛けていた。
花びらのように下向きに開いたスカート。白い短パンによってむき出しの脚は白く細く、ふくらはぎには薄いピンクのリボンが巻かれている様はバレリーナのようだ。

少し不安げに鏡の中の自分は見つめ返す。
瞳は銀。

「もうすぐ出番よ、準備いい?」
少女は不安を顔の表面から拭い去り、振り向いて笑顔でこっくりと頷いた。
テントの奥から顔を覗かせた女性は、にっこりと笑った。

「じゃあ、行こっか」