Ultima Fabura―終焉へ向かう物語―

Aerith ◆E6jWURZ/tw     作



第九話 白き衣纏いし者   SHOT 5 〝調和の神〟



 隣室は騒がしい。しかしこの部屋はまるでそれが別世界だとでも言いたげな程に静寂を守っていた。
 首を傾げ、不思議そうにヴィルは初めてみる異世界の建造物や服、そのほかの雑貨を見渡している。そんな中、白魔導士がさっきとは相反してその静寂を神妙な面持ちで破った。

「この世界には幾多の伝説があります。伝承の一つに今起こっていることや・・・私のことも」
「おまえ、白魔導士だもんな!」
「はい。・・・皆さんは、それでも私・・・白魔導士の伝説はあまりご存じないでしょう」
 白魔導士の伝説で明かされているのは魔術の種類が縛られていないこと、マントが純白なこと、守護神がいないこと。そして対立する黒魔導士を、倒さねばならないこと―――。
 それ以外に一般的に知られている情報は無い。4人は顔を見合わせる。全員が微かに首を振り、また白魔導士を見た。

「・・・でしょうね。私にはある使命が与えられているのです。
 黒魔導士を倒すことは勿論、あなた方調和の光の下で忠誠を誓った戦士達を導くこと」
「あー、ちょっといいか?」
 躊躇いがちにヴィルが手を上げる。どこの講習会だ、とヴィングが呆れ顔で眉をひそめる。

「その・・・『調和の光の下で忠誠を誓った』・・・ってやつ? 俺等身に覚えが無ぇんだけど」
「確かにそうだよね」
「頭悪いくせに何核心突いてんや」
 隅っこで何気にシュヴェロがぼやくが当の本人は気付かない。
「元から元凶の敵陣は〝混沌の闇の下で忠誠を誓った戦士〟なんですよ。敵対する貴方達は必然的に調和の光です」
「なんやゴーインやなぁ・・・」
「まぁそれは置いておいて。今現在お仲間の中で守護神がコスモスの方はおりませんか?」
「コスモス???」
 何それ? 花かなんか? そんな顔をしているのはヴィルだけだった。逆に、今出た固有名詞を理解していない様子の彼に気付いた他の仲間達が仰天していた。

「知らへんの自分!?」
「ヴィル・・・! やっぱり・・・・」
「な、なんだよお前ら! やっぱりってなんだよ! じゃ、じゃあヴィングは知ってんのかよ!!?」
「〝混沌の神〟カオス。敵対する〝調和の神〟コスモス。この神々が太古にこの星や宇宙を作ったって話さ」
 何じゃそりゃあぁー! 規模デカすぎて参っちゃうんですがー!? 宇宙規模になっちゃったよ、星の規模じゃなかったっけこの戦争!? しかもそれ従える魔導士がいるって・・・うぎゃぁ・・・。
 どんだけ強いんだよそいつ。

「残念ながら今はいねーな。うちらの仲間には、な」
「んー・・・。聖護は違ったと思いますし、私には伝説のとおり守護神もいませんから。王はカオスが守護神です」
 ナニーッ!? やっべぇな・・・。強すぎる。敵が・・・デカい。
 だが『敵の実力が高いから』『敵わない戦いだから』―――ヴィルは、そんなもので何かを断念するような小さい男ではない。むしろ、この馬鹿は・・・
「戦ってみてぇ!!」
 身を乗り出し、わくわくするタチである。

「はぁ・・・。てめーみてーなでしゃばり小僧にゃ倒せねーよ」
「ぁんだとぉ!?」
「まぁまぁ・・・。話はまだ終わりではありません。こちら側にコスモスがいないとなると光の守護は弱いでしょうね。彼女を見つけないと――星は、救えないかもしれません」
 全員の間に緊迫感が走る。ヴィルは立ち上がり、その辺りを歩き回るとまたミュレアの隣に腰を下ろし頭をかきむしった。本人はコスモスという名前さえ聞いたばかりだというのに探し出すのは可能であるのだろうか。

「コスモス、ねぇー・・・。まずはそいつを見つけんのが先決ってわけか!」
「纏めてしまえば、そうなりますね」
「よーっし! んじゃコスモス探すぞー!」
「待ってヴィル。どこ探す気?」
 重要は部分が陥没していたことに気がついたヴィルは、「そうじゃんか・・・」と言って頭を抱えた。忙しないやっちゃなー、とシュヴェロが苦笑いする。ヴィルは頭を抱えたまま、答えを求めるように白魔導士のほうを見た。白魔導士は頷く。彼女は立ち上がり襖の向こうに見える夜空を見上げながら口を開いた。

「私にも、よくはわかりません。ただ――コスモスを守護神にしているものがいるかどうかさえ怪しいのです。まずは世界の各地を回ってみましょう。コスモスゆかりの地・・・それでいて、人の踏み込む事のなかった地」
「心当たりっつーのはあんのか?」               アエデムアリアマリス
「今思いつくところといえば、深い海の底にあると言われる〝海底大神殿〟・・・」
 言うと今度はミュレアが身を乗り出した。後の人々が驚いたように彼女を見る。ミュレアはまるで自分でもなぜ身を乗り出したのか良くわからないというような不可解な顔で上半身を元の体勢へと戻した。

  アエデムアリアマリス
「〝海底大神殿〟・・・? 伝説上でしか存在しないはずでしょう?」
「はい。何度も言われているかもしれませんが・・・お二人も伝説上の人物。実在しているでしょう?」
「今更何の不思議も無いで、ミュレアちゃん」
 そう・・・よね、といいつつ項垂れる。まだ何か府に落ちない様子だった。


 ヴィルが隣室の襖を盛大に蹴破って入室すると(白魔導士の笑顔の口元が一瞬ピクリとしたようにミュレアには見えた)、聖護含め現在15人の仲間達が一斉に振り向いた。
 増えたなーとも思ったが内心彼は凄く嬉しく思っているのだ。

                    アエデムアリアマリス
「皆、聞いてくれ。俺達は明日から〝海の大神殿〟に向かう。
 目的は〝調和の神〟コスモスに協力を得ること! いねぇかもしれねーけど、情報があるかもしれないからな!」
「もう動いても平気なの? ヴィルも、テフィルも・・・」
「ええ、大丈夫です。彼らの傷口の〝時〟を戻しましたから。怪我をする前に戻したようなものです」
 有り難う、とヴィルが惜しげもなく白魔導士に頭を下げる。続いてテフィル。しかし白魔導士は顔を真っ赤にして手を顔の前で千切れんばかりに振った。いいんですよ~と言いながらも照れ屋なのか上がり症なのか・・・。
「私なんかそそそ、そんな大それたことは・・・ぶわっ!?」
 慌てて襖の奥に引っ込もうとした白魔導士は顔を真っ赤にしたまま座布団に足を引っ掛け盛大にズッこけた。