Ultima Fabura―終焉へ向かう物語―
Aerith ◆E6jWURZ/tw 作

第一話 〝雷獅子〟と〝風白龍〟 SHOT 5 〝堕落した神霊の勇気ある行動〟
政府の手の者か・・・。チッ、手が早ェやつらだ。
そう思い、ヴィルは席を立つ。既にシャンデリアにもテラスにも人はいない。
二人とも横にいる。
「用件ってのは俺達のことだろ?」
「あ、わたしも入ったから。よろしくね?」
ぎくっとしたようにそこのメンツを見る。
咳払いし、今のを取り繕うようにふんぞり返る兵士。・・・傍から見りゃちょっと可哀想かもな。
「わ、我々はお前達を捕らえるために来た」
「・・・って言われて大人しく捕まるバカがどこにいるのかな?兵士さん」
「戦んのか?」
振り返る、フェルド。
「では」
短く言ってお辞儀をすると、外に出て後ろ手に扉を閉めた。
向き直った目の前には、およそ300人くらいか。でも億越えがこれで止められちゃったら失格だな。
「・・・俺達を相手にしたからには覚悟しろよ」
パン、と拳を掌に当ててヴィルが言う。
「ひ・・・・・っ!!も・・・許じ・・・で・・・」
「・・・は、意気地のないヤツ」
ドサッ。
後――10人くらい?
もう全員戦意なんかとっくに喪失して、逃げ出そうとしている。無理も無い、290人が惨殺されたのだ。
返り血で染まった頬。
リトゥスは銀闇の瞳に殺戮の光を宿したまま腕を振り上げた。
「ま・・・待てぇ!!い、いや・・・ま、待ってくださいっ!!!こ、殺しなんかぁ・・・!」
「は?・・・何、あんた」
「ねぇ、もうやめましょうよぉおおお!これ以上の犠牲は無意味です、これ以上争いをしたら・・・苦しむ人が増えるじゃないですかぁあああ!」
涙をこぼし、足は震え、その人影はリトゥスの前に失神寸前で立っている。
困ったように腕を下げ、頭を掻くリトゥス。振り返った先の男子2名も知らないやつらしい。
「どいてよ。それともあんたも死ぬ?そんなちんけな正義論だけで生きていけるほど、世の中甘くないわよ」
「っ!!!」
「おいリトゥス・・・」
フェルドが止めに入るが。
「じょ~だん!」
舌を出すリトゥス。目をぱちぱちとし、状況がよく飲み込めて入れていない少年。
間の抜けた、「はぇ?」という声とともに首が力なくかしぐ。
「あんた、全員死んだと思ってたんじゃない?ざ~んねん。そこのおにーさんに止められてるから生きてるわよ」
・・・そう、フェルドが手加減を要求したために兵士達はまだ生きていた。
しかしそれを知る由も無い少年は惨劇を目の当たりにし、気づけば飛び出していた・・・という訳。
漸くそれを理解した少年はその場にへたり込んでいた。
「よ、よかったぁ~・・・」
「でも放っといたら死ぬんじゃない?」
「ええっ!!?」
流石にこれは効いたようで、うつぶせにまでなっていた少年は起き上がった。
フェルドが進み出ると、少し少年はビクッとした。
「別にとって食いやしない。そんなに怯えるな。お前、名は?俺がこいつら近くの病院に運ぶ」
「え、あ、アルス・Z・ベルゼビュートです、宜しくお願いします!」
数分後。
「なんで・・・俺まで」
「そりゃ俺でも290人なんて一気に運べねェからだ。・・・それともなんだ、もてないのか?」
頭にきた様子のヴィルだが、背中に一気に100人乗せてるとさすがにバランスも欠くわけで、結局反撃不可。
覚えてろよ、と歯噛みする。
「しっかし力持ちね」
「あ・・・あの。さっきはすいません」
「ん?ああ、気にしないで。どうせこいつがいなかったら全員死んでたし」
さぁっとアルスの顔から血の気がひくのが目に見えてよくわかった。
それは彼女が殺戮好きだということを改めて確認してしまったからだ。医者を求めて三千里。(※嘘です)
やっと行き着いた。てかもう真夜中だけどよくやってたな、医者。
「おーいすいませーん。鍵が・・・[ガチャ]おお!」
「ま、こんくらいはできるわよ」
今のはリトゥスがピッキングした音。
いよいよアルスはリトゥスを恐怖の目で見る。
「すいませーん」
「はいはい・・・・・って何だいこれは!!」
「急患でーす。ここのこいつがブッとば「道端に倒れていた」」
「そうかね、ではすぐ治療しよう」
バカだろ。ブッとばしたなんて言ったら医者に俺達がブッとばされるわ。
とりあえず、兵士達を置いて病院を後にする4人。
「んで?アルス、おめーどうすんだ?」
「いやあの、僕行くところが無くて・・・」
アルスが口ごもることを気にした様子も無く、ヴィルはそうか、と言って立ち上がった。
にんまりと笑う。
「んじゃさ、俺達と行こう」
え、という顔をするリトゥスとアルス。
とやかく言い出しそうな雰囲気のリトゥス視線でを黙らせたフェルドも立ち上がる。
「決まりだな。・・・それともなんだ。犯罪者とは一緒にいたくない、か?」
「いえ。あなたたちが悪い人じゃないことはよくわかりました。・・・でも僕、足手まといにならないですかね?」
リトゥスは首をかしげる。
「ん?あなた何族?」
「あ・・・神霊、です。一応」
「じゃ平気じゃん。行こう」
間髪いれず、ヴィルが歩き出しながらそう言う。
か、軽い・・・この人・・・。
それでもアルスにはこの〝軽い人〟が少し頼りがいのある人物に見えてくるのだった。

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