Ultima Fabura―終焉へ向かう物語―
Aerith ◆E6jWURZ/tw 作

第十二話 新たなる力 SHOT 3 〝鍛錬の儀〟
「っだぁ!! ばばばうぉおわぁあ溺れる溺れる溺れ・・・ん?」
目覚めた第一声は(聞き取れる範囲での話だが)、『溺れる』だったヴィルは言葉どおりもがく様な仕草をして暫く叫んでいたがあえ? と我に返りもがくのを止め、ぱっちりと瞼を開いた。
銀蒼の瞳は安堵したような柔らかい銀翠のそれと視線をかち合わせる。慈しみの光を宿す宝石のようだった。その双眸の持ち主を理解した途端、急に気恥ずかしくなってヴィルは逃れるように勢い良く転がった―――。
「うわわわわ、あばぁああっ!」
勢いが止まらないままヴィルは岩に嫌というほど顔面をぶつけ、もんどり打って鼻血を出しそうな位に痛む鼻を両手で押さえ、「おぅおぉ・・・」とうめき声を上げながら背中を丸めた。
「ヴィ、ヴィル!」
おおおと岩に向かって怨嗟の声ならぬ呻き声を上げながら痛みに転がりまくるヴィルを(彼がそうなった原因でもある)、ミュレアが抱き起こす。白目をむいている彼に呆れ、祐希は「放っておけー」と苦笑した。
「はぁ・・・。やっぱ、あン時の戦争より大変そうだな・・・」
木の上に座り目覚めたばかりのヴィルたちの様子を見ながら憂うヴィングはそう言って静かな溜息をついた。
「その戦争、とは・・・例の?」
「ああ・・・」
同じ木に寄りかかり、腕を組んだまま微かに視線を上へ向けてライシェルは心に出た疑問を唇へと乗せた。何を考え付いたか、ふとライシェルは唇の端を不敵に釣り上げた。まるで悪戯を思いついた子供のように。
「いいことを思いついたぞ、ヴィング」
「・・・は?」
「あいつに剣を教える」
ようやっと復活し「放っとけって言っただろ!」と祐希に詰め寄ったヴィルを視線で差し、ライシェルは言い放った。本気か? という、今度はヴィング側の問いが投げかけられ、ライシェルは本気さ、と返した。
「もううちらには時間が無ェんだぞ」
「わかっているさ。それでも、あいつには素質があるし何より――今のままで奴を倒せる確立は、はっきり言って無に等しい。ヴィルは私と同じ剣技を扱い、魔術も雷だ。飲み込みも早そうだし・・・」
なにより、とライシェルは続ける。
「今は時を操る白魔導士と結界を作り出す聖護がいる。二人の魔術をあわせて使えば、恐らくは・・・」
「成程。時の流れの速い空間を作り出して修行が出来る、ってか」
お前はフェルドやシュヴェロを手伝ってやれ。
魔術の同じ者と武器が同じ者の名を挙げ、ライシェルは腕組を解いて樹木から少し離れるとヴィングを見据えた。口角は今だ上がったままだったがその瞳には冗談のかけらも感じられない『本気』が感じられた。
「やるぞ」
多少遠巻きに眺めていたライシェルが近づいてきたのに少々の驚きを感じ、ヴィルは胡坐を掻いたまま訝しげに顔を上げた。
「ヴィル。今のお前では、」
反射的に身を翻す。見れば先刻まで自分の居たところには銃弾の穴が開いていた。ライシェルの右手の中に握られたそれから煙が出ていることに気付き、ヴィルは無意識に眉を寄せた。
「良く避けられたな。褒めてやる」
「っ、いきなり何す――」
「明確にことを表そう。今のお前では、闇の神霊は愚か私さえ倒せん」
「!!!!!??」
怪訝そうにライシェルが剣を仕舞うのを見ながら首を傾げる。その顔には微かな怒りと焦燥の色が見て取れた。恐らく本人には何処か図星な所とそれを認めたくなかったんだ、という悪足掻きな感情が渦巻いていたのだろうと予想がつく。
「そこで、だ・・・・。強くなりたいだろう? 私が剣技と魔術の有効的な攻撃手段を教えてやる」
「えっ!?」
「ああ、そうだな。回復や補助の練習にもなるだろうしヴィルも助かるだろう。ミュレアも一緒に。どうだ?」
「わたし、も?」
唐突なライシェルの言葉に顔を引きつらせたヴィルとは裏腹に、ミュレアは少々驚きながらも嬉しそうな色を隠さなかった。じゃあわいも、俺もと進み出てきた例の二人を横から割って入ったヴィングが苦笑いで制した。
「あー・・・。あんたらは別。聖護はあいつらを鍛える空間を作ってもらう。シュヴェロは私が仕込む」
「え、俺が空間作るのか?」
不満よりも不安の方が強めの聖護の口調に、ヴィングは薄笑いを浮かべる。
「何だ、自信無いのか?」
「あるに決まってんだろ!」
負けず嫌いな性格の聖護はそこまで言ってからはっと我に返ったが彼を手玉に取ったかのようにヴィングは勝ち誇った笑みを浮かべた。しまった、というのが聖護の顔に丸見えである。
「まさか男に二言は無ェよな? おし、決まり」
「わい、自分に教わるん? 女の子に教わる位まで落ちたつもり無いんやけどなぁ」
「・・・初対面・・・じゃない、か。久しぶりに会ったミュレアに一騎打ちで負けたくせに」
シュヴェロは精神的な大ダメージを食らって跪いた。何やら良い訳めいたものを呟きで聞き取れないほど高速にまくし立てているがヴィングとライシェルはその後の彼を総無視した。
白魔導士に話を持ちかけると、彼女の方は快く申し立てを受け入れてくれた。
彼女曰く、魔力の波長を持続的に同じ強さにしながら放出するのは少し難しいのだがそれも自身を鍛えることになる上、皆様のお役に立てるのであれば、ということだった。
聖護は少々いじけ気味のまま意外と乗り気な白魔導士の横に立った。
「いきますよ、」
「ああ。頼んだぞ」
「途中であんたらの魔力が途切れたら中に居るうちらは時空の狭間へ消えらあ」
「・・・ヴィング・・・。笑えない冗談だ」
皮肉げに苦笑したライシェルの隣に控えるは、ヴィルとミュレア。
「えぇなぁ・・・。わいにもミュレアちゃんの回復魔法を、」
「黙れシュヴェロ」
冷たくあしらったフェルドの隣には予定通り教え役のヴィングとシュヴェロ、追加で天使族のテフィルが配属された。ライシェル曰く補助や回復技は今覚えていなくても戦いを重ねることで習得できることがあるという。
そう説明したライシェルの瞳がふと揺らいだように見えたのは気のせいだったか。
「テフィル。お互い、がんばろーね!」
「あ・・・、うん。怪我とか気をつけてね」
兄のテフィルと同じ組には配分されなかったレフィーナだったが、彼女の性格上兄よりも幾分やる気である。
彼女の隣には教え役のフィニクス、同じ組のアルスが立っている。彼は微笑みながら双子のやり取りを見守っていた。
「残るはあたし達ですね」
カテーナが言う。ジェッズが気合を入れるためバズーカを担ぎ、リトゥスが退屈そうに欠伸をしていた。
「じゃあ、いきます」
合図の白魔導士の声に青緑色の光に包まれ、彼らの意識は一旦そこで途切れた。

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