Ultima Fabura―終焉へ向かう物語―

Aerith ◆E6jWURZ/tw     作



第十話 海底の大神殿   SHOT 1 〝海へ〟



 [航海経験者]
・ヴィング、ジェッズ、レフィーナ、テフィル、カテーナ、ライシェル、白魔導士。

 [航海未経験者]
・その他。

 結果、大方の予想通り(ミュレアを除く)全員が船酔いした。
 いや、『した』というよりも現在進行形。『している』の間違いだ。現在絶好調船酔い中。天気は好天、風も良好。気分は最悪。船酔い中の全員がおもしろいように船の淵にズラッと並んでだれている。

「クッ・・・俺はもう一生船などには乗らないぞ・・・」
「お、おへひょ~・・・(お、俺も~・・・)」
「ヴッ――わたしこんなことなら飛びたいんだけど」
 フェルドが珍しく音(ね)を上げている。いやそれ以前に彼が酔うのが予想外だった人のほうが多いだろう。
「意外な欠点判明だな」
「五月蝿いぞライシェル・・・」
 嘔吐寸前の背中に向かってライシェルが鼻で笑う。弱々しい声音でフェルドが反撃するも全く覇気が無かった。
 何しろ「任せろ!」とか言ってた本人(ヴィング)の操縦が半端じゃない。完全に船酔いさせるのが目的ではないかと疑惑を掛けられてもおかしくないような船の揺れ方。酷い。酷すぎる。
 その証拠に幾度と無くヴィルは顔に海水を食らい・・・というより既に飲んでしまっていた。

「もっとそふとに操縦しへふれぇ~~・・・(操縦してくれ)」
「これが精一杯だっつーの!」
「おいおいねーちゃんねーちゃん・・・」
 男勝りに舵を取るヴィングを宥めるようにジェッズが腕組しあぐらをかいたまま言うが、直後に海水をモロにかぶってしまった。ほぼ全員ぐしょ濡れだがライシェルだけは濡れていない。場所がいいのか、彼女の運がいいのか。はたまた、彼女が自分の反射神経で避けたのかは不明だ。

「ペッ、ペッ! おいおい! 見てらんねぇよ! ちょっと父ちゃんに貸してみな!」
「あァ? おい、私はお前の娘になった覚えはねーぞ?」
「いいから!」 
 何故かは判らないが無性に乗り気でジェッズが身を乗り出した。この手のものの腕に自身があるのか、それとも単に興味があるだけなのか――。後者であることだけはあって欲しくない。それなら死にたい・・・。
 そう思ってしまうほどにヴィルの精神状態は限界に達していた。
 刹那、船が嫌な横揺れをした。ギリギリ寸止めで間に合ったが本当に腹の中のものがリバースするところだった・・・。

「ほーれ、もう大丈夫だぞー」
「あ、あれ・・・?」
 揺れが殆ど感じられない。しかし進んではいる。ヴィングの操縦していた場合とは大違いだ。船酔い組はほぼ全員が安堵の溜息をつき、縁に背中を寄りかけた。

「あれ、フェルドお前・・・」
「い、言うな・・・」
 全員無事復活を遂げた。――フェルド以外は。



 見かねた心優しき子供達が重症人と化しているフェルド君の背をさすってやっていた頃、船が止まった。白魔導士の情報によれば、この辺りが最も海の深度の深い位置に相当するという。

「や、やっと・・・・・・着いたか・・・」
「おわ~・・・。やべーぞ、早くしねーとこいつキャラ崩壊起こすっ!」
 『リア充など知った事か』と思った方は今、この時だけは彼に同情してやって欲しい。船酔いって辛いんだよ。
 白魔導士はミュレアに何かを頼んでいるようだった。彼女が頷くのが見え、そしてミュレアはそのまま海に直線落下した。慌ててヴィルはミュレアの落ちた場所まで移動するが――そこで、躊躇しているようだった。

「どうした」
「お・・・俺っ――」
「飛び込め!!」
 背後からのヴィングの突進に耐えかね、ヴィルは船から落下した。そしてそのまま沈没する。呆気にとられ、仲間達はその様子を凝視する。フェルドは苦痛をかみ締めながらそちらに駆け寄った。今まさに彼の顔色は海と同系色なのだが・・・。

「おいっ・・・。あい、つ・・・・・・泳げないぞ・・・」
「えぇーー!?」
「生まれて・・・間もないとき、から・・・南東の森に・・・いたんだ。川もなかったしな・・・」
 眉をひそめて額に手を当てたままヴィングはマジかよ、と声に出さず呟いた。その間にも主人公は沈んでいく・・・。

「世代交代か?」
「じゃあ次はわいの番や!」
「おいおいにーちゃん達。いい加減助けてやんねーとあいつ死ぬぞー?」
「飛べ!!」
 見かねてジェッズが諭す。刹那、ライシェルが言って自ら瞬時に飛び込む。聖護が鉛色気味の海へと飛び込み、高き水しぶきを上げた。続いて恐る恐るアルス。白魔導士も飛び込み、シュヴェロに支えられながらフェルドも飛び込んだ。男性二人の体重が一方向にかかり、ボートは転覆しかかったが残りがバランスをとり船は少し状態を良くした。
「がんばれな」
 片手を上げ、弧を描いてヴィングが綺麗にダイブする。フィニクスが黒い羽根を畳みながら船の端の向こうに消えた。慎重に降りようとしてジェッズが船の縁を両手で掴んでいたがふとした揺れに手を滑らせ情けない声を上げながら落下した。
 次々飛び込む仲間達に戦々恐々の子供達を見て、リトゥスは宙にばっと舞った。

「行くわよ」
「あぁっ、待って!」
「テフィル、レフィー。ほら行こ!」
「えぇっ!? わっ!!」
 空が曇り怪しい雲行きになっている。それを見かね、カテーナが鎖を後の二人に巻きつけ、海に引きずり込んだ。かなりの恐怖を味合わせられる連れ込まれ方で無事全員が海へと飛び込んだ。