Ultima Fabura―終焉へ向かう物語―
Aerith ◆E6jWURZ/tw 作

第十四話 邪なる侵食 SHOT 3 〝聖星へ〟
子供達が遊びつかれ、ジェッズはその横で彼らの寝顔を見つつ思いに耽った。戦闘に狩り出されるような大きな力を持っている。それでもこの子達も今囚われの身である自分の息子と同じ。子供なのだ、と。
母親が死に、自分の力が及ばず唯一無二の息子を攫われ、今やっとこうして迎えに行くことが出来ている。
「大丈夫だ。きっと助け出して見せる」
聖星に居るであろう息子への誓い、そして自らを鼓舞する為ジェッズは一人呟いた。
本来自分の魔力はそう強くないものと考えていた。母方の系統の魔術を帯びて生まれた息子の魔力も母から継いだものと考えていた。
しかし、今になってみれば自分もこうして戦えるだけの魔力を持っていたのだ。それも、この世界の存亡をかけた戦争に選び抜かれたほどの。
元々魔力が高かった魔女。星を守るため選抜された魔導士。その二人から生まれた子供ならば成程、魔力が高いと考えられても無理は無い。実際、魔力が高かった。母の「糸」の魔術と同じものを駆使して、男子の幼児に人気なおもちゃを一人で何役もこなすほどに。
「しかし・・・」
一つだけ、ジェッズには不可解なこと。そう、少し前一戦を交えたばかりの少女の姿が頭から離れない。一体彼女は誰なのだろうか。
判ることといえば魔術の形状、声、雰囲気、そして何処か面影が妻に似ていたことだ。
記憶をなくしている。と少女は言っていた。そのために戦う、とも。
それならば少女と再び衝突することになるのだろうか。その際、自分はどうすればいいのだろうか。様々な想像が脳裏に浮かんでは消える。妻と出会ってからの思い出の数々と交わりながら。
星を、息子を救う為に彼と同じ年頃の少女、あるいは妻かもしれない人間を殺す。
人は死者の世界から再び生きて帰ってはこない。それでもやはり自分は生涯の伴侶の死を悼み、その夜は男泣きに泣いた。世の理(ことわり)を理解していてもまだもし妻だったとした時のことを考えてしまう自分がいる。
もしかしたら彼女を殺さなくても平気かもしれない。もしかしたら彼女は少女だった時代の姿を借りて冥界から霊族として出てきた浮かばれていない妻本人なのかもしれない。もしかしたら過去から来た妻が利用されていて、今彼女を殺せば自分は妻と出会わず、息子は生まれなかったことになるかもしれない。
魔術の存在する世界は曖昧で複雑に、密接に絡み合っている。どれが自分の幸せを崩壊させない唯一の本物のコードなのか。
ジェッズは苦悶の表情を浮かべ、近づく天空の大地を睨みつけるのだった。
*
保護者のような男性の苦悶する表情を、寝たふりをしたまま見ている一人がいた。彼女もまた、思い悩んでいた。
聖星へ繋がる鍵。それは自分。カテーナは自身をなぜる風を感じながら考えをめぐらす。彼女は子供のような無邪気な心を持つ反面、とても聡明だった。
自分は光の戦士たちを戦いの場へと繋がる扉を開ける鍵。しかしこの状況で自らが開く扉は無い。長老は言った。カテーナ自らが鍵になり開く扉の先にこそ戦いの終結が存在する、と。
この先にその扉が在るのだろうか?果たしてそれを開けるのが正解かどうか彼女に判断がついていなかった。
扉を開けることに躊躇いは無い。が、この気のよく、それでいて強い意志を持った戦士たちが敗北する可能性は少女にも薄々と高めに感じている。
確かに彼らは強い。しかしそれでも敵は全てを握っている。戦士たちが自らの立場を自覚する前、遠い過去から事を起こし掻き乱しているのだ。
憎悪に、怒気に呑まれない方がおかしい。そう考えるほどに。
敵方の狙いはまさしくそれだ。戦士たちの黒い感情が奴らに力を与える。わかっていても黒い感情は消えない。
一方カテーナ自身は全てを受け入れ、憎悪という感情を捨てている。怒気を感じることはあってもそれを鼓舞させる憎悪という感情を捨てているからすぐ冷静になれる。
だが人の感情は強い。そのうちのひとつを捨てるなど出来ない。カテーナ自身、憎悪を捨てているといってもまだ押し殺しているに過ぎないかもしれない。
だからこそ前を向き、過去を振り返らない決意が必要なのだ。
決意という名の憎悪の輪廻は断ち切らねばならない。決意を固めた者に「言う」のは簡単だ。しかし、それを実行するとなれば相当な覚悟が必要だ。下手をすればその人を支えている全てがその決意ならその人自身が揺らぐこともある。
子供達はこうして遊んで居ればそのような感情は全て流せる。夜に悲劇を思い出しても素直な心になぐさめは真っ直ぐ届く。
しかし大人は違う。様々に思慮深くなる。悪いことではないのだがその為、物事に対して理由をつけたがる。
だからこそ聡明な少女は戦士たちに憎悪を切り離すことをまだ調教できないで居るのだった。

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