Ultima Fabura―終焉へ向かう物語―
Aerith ◆E6jWURZ/tw 作

第四話 交錯する運命 SHOT 5 〝 もうひとりの私〟
やっと着いた噴水前。あのいろんな意味で酷い偽者は置いてきた。別に道端に放置したところで賞金首っぽかったし(雑魚の)別に支障は無いだろうと思ったためだ。
ミュレアは噴水に腰掛けると、鞘から海のような色をしたフルートを取り出した。彼女曰く、「これを使うと癒しの力が高まるの」だそうだ。
物悲しい調のメロディを横笛が奏でる。目を閉じて心を込めるように慎重に吹くミュレア。シュヴェロもその隣に腰を落ち着けた。
「いないなぁ〝水不死鳥〟ってやつ」
突然近くでした声にシュヴェロは思わず顔を上げていた。
目の前には鉄錆色の髪の少年と茶髪の少年、黒髪の男女がいた。黒髪の二人―特に女性のほうは翼も生えていることだし―鴉族だと見当がつく。
茶髪のほうは自分と同じような感じがするから多分神霊。
問題は鉄錆色のほう。魔導士だろうが、何かが決定的に違う。そういえば彼の瞳は銀蒼だが、よくよく見てみれば少し青緑っぽい。まだ上に伸びるだろう、力の度合いを図りかねる。
とりあえず〝水不死鳥〟を探すやつらだ。ロクな魔導士たちじゃないとは思うが――敵だろうか?戦闘になればいくら銀翠でもちと分が悪いなぁと隣のミュレアを眺めやりシュヴェロは考える。
「昼はいないかも。夜にまた来てみましょう」
鴉族の美人さんがそう言うと、ヤローはそれにつれて帰っていった。
そういえば今日は〝聖月夜〟の二日目。ミュレアとシュヴェロはまだそこにいた。
大分彼女の魔力もその力を取り戻しつつあるらしく、熱心に吹く瞳には銀蒼の輝きが伺える。
今日の月の色は〝銀翠〟だ。
「そろそろ、かな」
「なんや? 終わったんかいな?」
「ううん。歌のほうが本当は回復早いけど魔力消費激しいからできなかったの。そろそろイける」
シュヴェロは頷く。
頷き返したミュレアは軽々と噴水―※ここは5Mあるはずなんやけど―の最上段に着地した。
彼女の姿を見やすいようにシュヴェロは出入り口に近いほうまで噴水から離れる。それを見送ったミュレアは目を瞑り、歌い始めた。
『消えた 羽のように 軽く しなやかに
ふわり空に帰り ああ 天使のように
胸に 星座抱いて 自然を抱く』
道行く人が次々にミュレアの歌声に気づき見上げた。だが帽子を被ったままの彼女の顔が見えることは無い。
とその時人ごみを割りつつ彼女に近寄る奴がいた。昼間のあの女だ。
「どいたどいた! アイツはあたしが殺す!」
「来た水不死鳥だ!」
色めき立った風に人ごみの中の数人がささやきあう。成程彼女の名を語って強いやつ味方につけよ思うてたか。・・・人間の屑やな。確かに暗闇だとよく見えなくて月光の照らす瞳もカラコンだとは簡単には気づけないだろう。
「こいつはあたしをコケにした! 見せしめに死刑だ!」
――銃声。
ミュレアの白い帽子が弾丸に宙へと舞い上がった。
「・・・フン、それが私への礼儀という訳か? さっきはよくも私を突き飛ばしたな。雑魚の分際で」
目を瞑ったまま避けた弾丸は帽子のみを吹き飛ばし、静かに開いた瞳は銀紅だった。
シュヴェロの背筋に緊張が走る。
紅。
『もうひとりの私が銀紅の瞳を持ってるの――』
ここまで来る間に教えてもらったミュレアの言葉が自然と脳裏に蘇った。本物の鮮血のようにミュレアの瞳は赤かった。
まがい物の自分の前に本物を見た女は腰を抜かしていた。宙返りし、ミュレアはその女の前に降り立った。
「今更逃げる気か? 私に逆らった時点で貴様の命は消えたも同然だ」
怯む取り巻き。人ごみの多い街。
ミュレアはしかし殺人を拒んでいたはずだ。
『人を傷付ければミュレアも傷つく。だから私が――』
〝もうひとり〟の声が聞こえた気がした。
「仕方が無い。無駄な殺生は止めだ・・・しかし、お前は自分を失う」
手を握り、ミュレアは手を横に切ると女は泡を吹いて倒れた。
何がなにやら・・・。
「行くぞ、シュヴェロ」
「へ? は、あぁ。せやな」
一跳びで自分の傍らにまで跳んで来たミュレアにシュヴェロはしばし言葉を失っていたが彼女についていった。
「何やったん? さっきの」
「記憶を消した」
「ほぉ~・・・」
そんなこと簡単に言うか。
後ろから突如声が飛んで来た。
「待てミュレアって奴! ・・・と誰か」
「かっちぃ~ん・・・。誰かてなんや誰かて! わいにも名前あるんやで!」
振りかえるとそこにいたのは昼間の少年だった。
〝水不死鳥〟を探していた人物。
多少なりシュヴェロは警戒するがミュレアがそれを制す。
「俺・・・雷獅子なんだ! だから俺と・・・」
雷獅子!? 水不死鳥と世界救ったっちゅうあの伝説上の人か。
「すまないが――」
ミュレアは雷獅子だという彼に背を向けたまま言った。
「私達ではお前達に迷惑がかかる。だからあきらめるんだな」
迷惑? わいには?
後姿にはその本当の気持ちは現れていないようだった。
「んなこと・・・」
「じゃあな」
気づくとシュヴェロはミュレアの腕に抱えられたまま空へと舞い上がっていた。
ちょ、ゴーインやね自分・・・。
けれどシュヴェロは額に暖かい水が当たった感触に顔を上げていた。
ミュレアは顔を上へ向けたままだ。やはり表情は見えない。けれど水の感触は気のせいではなかった。
ミュレアちゃん、自分泣いとるん・・・?

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