Ultima Fabura―終焉へ向かう物語―

Aerith ◆E6jWURZ/tw     作



第九話 白き衣纏いし者   SHOT 4 〝異世界の結界師〟



 [魔力を持つ者の掟・其の壱]―――――。
・心を許した同志による傷、治癒魔法による治療は
どのような魔法を持っても成せるべからず。

 その中の一つの結果がこれ、というわけだ(テフィルは関係なく重傷だけど)。

「さって、と! 皆様、しばし退避を。あー・・・。聖護さんは残ってください」
「へーい」
 頭をぼり掻きしながら聖護は面倒くさそうに返事した。魔力で現れた、金の錫杖を肩に担ぐ。どこか神聖な、シャリンという音がした。恐らく彼の武器なのだろう、頑丈で傷つきにくい素材だろうが良く見れば大分使い込まれていた。
 襖の向こうに二人が引っ込む。手招きされ、レフィーナも恐る恐る後に続いた。彼女も天使族、精霊族のハーフだ。補助魔法として呼ばれたのだろう。ミュレアには複数の血が混ざっている為全ての血が希薄でそういった特殊な能力が欠けている。補助魔法の一環もそのひとつだった。

 数分ほど隣室で待つと、聖護一人が出てきた。二人は中で魔法を詠唱中だという。彼は魔力が空気中に散漫しないよう結界を張ったとの話だった。言われてみれば確かに空気中の魔力の流れが変わっている。彼の魔法は大した物だ。ミュレアも聖護と出会ったおかげで長く追っ手に見つからずにすんだのだ。
 そういえば、と聖護はあたりを見回す。
「俺は大層な結界を張ったんだが・・・? 誰かな、強引にブチ破ってくれたのは」
 皆は顔を見合す。そして互いに首を振ったり傾げたりしていた。
――ただ、一人を除いては。

「・・・・・・フッ。あれで『大層な結界』か。低レベルなお遊びだ」
 軒の方から声がした。外を眺めつつ腕を組んだまま背をより掛け、言っているのはライシェルだった。少々むっとしたように聖護が彼女を見据える。しかし彼が口を開くよりも先にライシェルが言葉を発していた。
                               パルフィディアエマージ
「一体、お前達は何が目的だ? 初対面の、それも重傷の裏切りの魔導士を救うだと?」
「・・・・・・俺は、」
 溜息と共に聖護が投げかけられる疑問―いや尋問のほうが正しいのか―を遮って疲れたように言葉を吐き出した。ライシェルの冷ややかな目線が向けられる。それにはあきらかに敵意も混ざっていた。


「この世界の人間じゃない」


 その場にいた誰もが目を驚きに見開く。聖護はその反応が分かりきっていたとでも言うように目を逸らした。ライシェルは驚きと困惑、疑心の混じった表情で聖護を見つめていた。

「7年程前さ・・・。此処に来たのは。辺りには魔法だの、種族だの俺の世界ではありえない光景が広がってた。おまけに7年も経つのに歳はとらねぇわ爪や髪も伸びねぇわで不可解なことばかりだ。2年目くらいにミュレアと出会って逃亡を助けて、その後今に至るってワケだ。
 白魔導士の話によりゃあ、あいつもなんか色々あって異世界から戦士を呼び集めたらしい。自分やお前らの仲間。それが俺ってわけ」
「なに、それ・・・」
「だったら、あんたのいた元の世界には種族も魔法も無いのか!?」
 珍しくフェルドが声を荒げて言う。ああ、と視線は床に落としたまま聖護は頷いた。ミュレアも口に手をやったまま硬直している。魔力も種族も無い世界など想像が出来ないのだろう。人に分類される血を受け継いでいないのだから自分の存在を否定されていることと同じだからだ。
 まだ少々困惑気味のライシェルが再び開口する。
「だったら・・・・・・魔力の無い世界から来たお前が、何故魔力を持っている?」
 確かに、と仲間達も合意し聖護の次の言葉を待つ。
 聖護は神妙な面持ちのまま顔を上げ、口を開く―――。
「悪ぃ。そこまでは俺にもわからねぇ」
 答えを待っていた誰も彼もが期待はずれの言葉に脱力した。使えない奴だ、とライシェルも愚痴を零す。
 質問を変え、ミュレアは首をかしげた。

「二人の治療ってどのくらいかかるの?」
「まぁそれ程時間はかからねぇよ。安心し・・・[ドゴン、ゴンッ!!]」
 何か重たいものが複数落下する音と共にレフィーナの悲鳴のようなものが聞こえた。空気が張り詰め、全員が隣室の襖に押掛ける。押し合いへしあいしながら襖を勢い良く開ける。
・・・と、そこに倒れていたのは――。

「・・・ヴィル・・・? テフィル・・・?」

 意識を取り戻した二人の姿だった。
 歓声が上がり、襖が膨張して破壊されそうなほどの人数が一気にそこを通り抜けヴィルとテフィルの周りに群れた。

「どうだ? これでも俺らを敵視すんのか?」
「・・・・・・どうだろうな」
「ま、仮に俺らが敵だったとしてもどうせお前らには反抗できないようになってるよな。俺が張ったのより強いしかも雷属性の混じった結界が宿の周りに施されてる」
 すっかり籠の中の鳥だ、と聖護が自嘲ぎみに笑う。
 そんな中、白魔導士がヴィル、ミュレア、シュヴェロ、ヴィングの4人を呼びつける。


「雷獅子はじめ、調和の光の下で忠誠を誓った戦士様方。
                      ――少し、お話がございます」