Ultima Fabura―終焉へ向かう物語―
Aerith ◆E6jWURZ/tw 作

第二話 氷の森に潜むもの SHOT 1 〝氷の嵐〟
現在全員いるのは――〝夜の街〟より少々南南東に位置する
空・・・。
神霊は飛べる。鴉族だって翼があるんだから、飛べる。
竜は飛ぶし、雷獅子は空を駆ける獅子だ。二人はそれに乗っている。ヴィルが億劫そうに体を震わした。
「さ・・・寒ィ」 、、
「そうですね。少し・・・寒いです。多分、下のアレのせいですよ」
「アレ?」
疑問に思ったリトゥスが自分の下を飛んでいた雷獅子の下を覗き込む。
するとそこにあったのは、雪山だった。時折雪交じりの風が吹き付ける。続いて覗き込んだヴィルが目を輝かせた。
「雪じゃねェかっ!!」
「おいヴィル、あんなとこには立ち寄らな「よぅし!行くぞ!!」」
見事にフェルドの言葉を総無視し、急降下を始めているヴィルはすでに点になっていた。
「あの馬鹿・・・」
「変な行動力があるんですね、あの人」
「面倒くさいだけでしょ」
口々に言われていることも知らぬまま、ヴィルは森にまで降り立つ。
上から見ると、ここは雪山に囲まれた森だ。徒歩では簡単には入り込めないような図柄になるだろう。しかし雪を楽しみにして降りてきたヴィルは嬉々としてそちらへ足を向ける。
若干遅ればせながら後の3人も降り立っていた。
「おいフェルド!」
「?」
「なんだ、こりゃ・・・?」
ヴィルの指差した先。そこから先は、白い森。
否、氷の森――だった。
決して雪が降り積もっているわけではない。なぜか森が、凍りついているのだ。
一歩前は氷の森。
その一歩前は普通の森。
「一体なんで・・・うぎゃっ!!?」
そう呟き、ヴィルは氷の森に一歩踏み出す。すると突然の吹雪に彼の体は後方に吹き飛ばされてしまった。
相棒が吹き飛ばされたと言うのに見向きもしないフェルドは氷の森のほうに手を突き出した。
「・・・やっぱりな」
「どうかしたの?」
フェルドは振り返り、森のほうを指差す。
「これ、魔法だ・・・。術者がいる」
「え」
慌ててリトゥスは周囲の気配を探る。
しかし辺り―半径300M四方―には術者どころか、生命体の気配さえ感じられない。
目の前を見つめていたフェルドは空を見上げた。
「空から出るしか無い、か・・・」
空へ舞い上がった一行はしかし、突如発生した雲に視界を覆われ身動きが取れなくなっていた。
さっきまでは晴天で、雲ひとつ無い青空だったと言うのに、だ。
「チクショ、これも術者の仕業かッ!?」
「・・・洞窟だ・・・」
「何!?アルス、何か言った!!?」
豪雪の中では隣にいる人物の声さえ聞き取れない。リトゥスは声を荒げて聞いた。
それに負けないくらいの大声を張り上げるアルス。
「洞窟ですよ、雪山のとこ!!ほらアレですッ!!!」
確かに、洞窟――いや、まるでクレパスの亀裂のような裂け目だがある。洞窟の入り口が。
本当だ・・・と、リトゥスとヴィルが目を凝らす。
「いるな、あそこに・・・」
「わかるんですか?」
ヴィルが確信を持った目で見つめる。アルスはふと疑問に思い、首をかしげる。
くるっと振り向いたヴィル。自信満々に親指を突き立てた。
「かん!!!」
「「「・・・・・・・」」」
とりあえず、降り立った一行。
あの説得力の無い一言では流石に命なんて賭けないが、彼の瞳が確信に満ちていたことと後の鴉族の血を引く二人が魔力を感じることで同意したことで4人は行動を起こしていた。
しかし氷の嵐は容赦なく4人に降り注ぎ、叩きつけ、翻弄する。これでは短時間しか持たないだろう。
歯を食いしばって耐えるが、不意にヴィルの隣から声が聞こえた。
「―――風壁【厚】」
パリィンと何かの割れるような音とともに、突如風がやんだ。
理由がわからないヴィルたちはふとフェルドが前に掌を突き出していることに気づく。
そう、彼は風の使い手だ。
「魔力を浪費するから・・・早く行け。人数多いだけ負担なんだ」
頷くヴィル。
続いて仲間たちも、ざくざくと雪山を登る。
しかし術者のいる吹雪を止めるのは自然のそれをとめるのとはワケが違う。自分が呑まれないよう常に気を張っていなくてはいけないし、術者の魔力の跳ね返りもある。
ヴィルは早々に、相棒の苦痛に気づいていた。
「・・・なんだ」
「乗れよ。おぶってってやるから」
別にいい、と断るのは目に見えていたためにヴィルはフェルドに反論する時間を与えないままおぶった。
不満そうなうめき声を発し、フェルドはため息をついたが抵抗はしなかった。
「――ここ・・・ですね」
「ああ。やっとついたな。・・・いつまでおぶってるつもりだ、降ろせ」
「ふん、礼の一つも言わねェのか」
フェルドはその言葉に鼻で笑い、振り返る。
「誰がおぶれと頼んだ。おまえが勝手におぶったんだ。ま、でも少しは負担が減ったかな。・・・ありがとう」
満足げに笑うヴィル。礼を要求したのは彼なのに、「気にすんな!」と言って相棒の肩を叩く。まぁ、こういうやつは気楽でいい。
「ほら、そこ無駄口叩くな。行くわよ」
「なんで上から目線なんだよっ!」
静寂を守る氷のクレパスの中、久々の来訪者に長き眠りから覚めたものがいた。

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