Ultima Fabura―終焉へ向かう物語―

Aerith ◆E6jWURZ/tw     作



第七話 衝突    SHOT 2 〝それぞれの窮地〟



カテーナの鎖は無限に湧き出る。デュラの虫たちはそんな彼女の鎖を喰らい、力にする。最初はぶつかって死ぬだけだった虫たちは叩き落とされ行き絶える直前に卵を産み、それから孵化したものは親の喰らったダメージに対抗できるだけの力をつけてくる。
長期戦はまずい、とカテーナは早くも直感していた。虫たちは増えに増える。しかもカテーナの鎖の持つ魔力を喰らいながら。よって必然的に、カテーナはただ魔力を浪費するのみだった。
楯にした鎖の魔力さえも奪ってゆく。攻撃した渾身の一撃も、多勢に無勢といった状況だった。
(一体どうすれば・・・)
玉の汗が額に滲む。デュラは薄ら笑いを浮かべ、再び虫たちをさし向けた。
「あ」
虫の集団攻撃の一撃をとっさに交わした目線の先のものを見て、自分は窮地に立たされているにもかかわらずカテーナは自分の発想にちょっと笑いそうになった。
一か八か、失敗したら危険だけれどカテーナはそれを引っつかんでデュラのほうへと向けた。デュラはそれを見るや否や、恐怖に怯えたような顔をした。今にも泣き出しそうである。

「えっ、な!?それは・・・!」
「虫にとっての安楽死薬☆」
勢い良く噴射した白い煙――殺虫剤はカテーナの期待に見事応じてくれ、廃墟の中にはその薬のにおいが充満した。
虫がぶんぶん唸る音は一瞬にして死骸の落下する音と化した。この速度ならば子孫を残す暇も無いだろう。
悪態つきながら少年が咳き込む音が聞こえた。居場所を察知されないためにカテーナも咳をしないように堪える。しかし耐え切れずゴホッとやると、止まらなくなった。焦っていたデュラの気配が殺気に変わった。はっとした時には蜂の群れが目前まで迫っていた。
「もう、終わりだよ」
その一言を聞くのとほぼ同時に、肩を貫く焼けるように熱いものを感じた。生暖かくぬるりとしたものがカテーナの左半身を濡らした。ばいばい、と白い霧の中であの少年が手を振った気がした。

                    *                      *

美女の前に八方塞りの馬鹿はむぅと唸っていた。攻撃したらあの艶やかな白い肌に傷が出来てしまう! しかしここで立ち往生はミュレアの命に関わるかもしれないのだ。シュヴェロは覚悟を決め、槍を抜いた。

「行くで。後悔しーひんな? アウィスさん?」
「それは貴様のほうだと思うがな、小僧」
威厳のある声でアウィス――ジアンタングイスは冷たく言い放つ。お~恐ぇー恐ぇーと肩をすくめるシュヴェロ。刹那、目の前から魔女の姿が掻き消えた。ひぇ!?と言い、辺りを見回す。妖しい笑いが四方から聞こえた。

「貴様はあの娘を救おうとしている・・・。だが、判るだろう? 奴は水不死鳥。それと共に並ぶ名は、雷獅子だ。貴様の入り込む余地は無いのだよ。――現実を、受け止めるが良い」
「わかってるんや、そんくらい」
悔しいが、それが真実である。最初からわかっていた現実だった。だから彼女を強引にでも連れ去りたいと思っていた。今は雷獅子とはほとんどかかわりも無いに等しい。しかし接点を持ってしまえば自分を忘れ、自分の元から離れるのではないかと恐れる自分がいる。二人は太古から約束されていた仲で、自分がいるのがおかしいのだ――と。

「どうだ? こちら側につき、雷獅子から奴を守り抜けばお前は一生娘と共に生きられよう」
「一生・・・?」
魅惑の言葉が、甘い悪魔の言葉がシュヴェロの心を揺さぶる。一生。それが頭の中でこだまし、頭の中にぼうっと二つのイメージが揺らめきながら浮かんだ。双方にはミュレアがいる。
「ミュレア・・・ちゃん」
片方のミュレアの脇にはヴィルがいる。彼の隣で、彼女は幸せそうに微笑んでいる。やめろ。そんな顔するな。
一方、もう片方には自分がいる。ミュレアの表情は見えないが、自分らしき男に肩を抱かれ、寄り添い歩いている。弱点と見抜かれている感情を認めたくは無いが、シュヴェロの心は満足感で満たされた。

「俺はずっと・・・一緒に――いたい」


                    *                      *


敵である双子の兄妹をほったらかし、兄弟はまだ口論をやっていた。
物凄い口論の激しさに、自分達は忘れられているのではないか――別に戦わなくても、逃げおおせられるのではないかとさえ思えてきてしまうほどだった。

「貴様がコンビニ弁当を買ってきている間に余裕で瞬殺しておける。早く行け」
「俺は・・・・・・コンビニで弁当を買ったことがない」
どうでもいーーーい!二人は心の中で叫んだ。弟・・・意外と田舎者だ。という無駄な情報が・・・。敵なんだから田舎者とか本当無駄知識!なんてレフィーナは額に手を当てた。

「しょうがない。兄は俺がやる。貴様は妹とやらをやれ。まさか子供程度には負けないよな?」
「フザけんな!誰が餓鬼の、しかも女に負けるか。俺はおこぼれ頂戴かよ」
「妹には、手出しさせない!」
テフィルが震えた声で言った。心配そうにレフィーナは兄の横で手を握り締める。大丈夫、とテフィルは呟く。
魔導士と対決するには幼すぎる。大人、と戦うには純粋すぎる。

「笑わせてくれるな、お前ごときが。5秒も持たん」
兄、ヒュドラの爪がテフィルに迫った。