Ultima Fabura―終焉へ向かう物語―
Aerith ◆E6jWURZ/tw 作

第十二話 新たなる力 SHOT 9 〝闇の模造品〟
「わたし・・・!?」
正に言葉通りだった。目の前に居るのは妖しく双眸を輝かせるも、レフィーナそっくり。まるで模造品(イミテーション)だ。
硬直するレフィーナの横にフィニクスが舞い戻ってくる。目顔でさえ問わせる暇も作ってくれず、彼女は口を開いた。
「そう・・・これは『今のあなた』・・・。殺意しかない魔力を持った人形」
「!! まさか、これが――」
「ええ。アルスさん・・・。これが太古に滅んだと言われる・・・『妖魔』。・・・実際は・・・彼らは異次元に封印されていた」
異次元。
「私達は・・・あの次元を・・・〝不可使世界〟と・・・そう呼ぶ・・・」
不可使世界。それはつまり人智では、人の力では使役することの出来ない世界。――確かに先刻の声の主も人に従うような雰囲気ではなかった。あくまで『力を貸す』。その契約の元にこうして妖魔達を遣している。
今の自分を遥か超えて、大切なものを守れるように。
「召喚された・・・時点で・・・最初に見た・・・その人の・・・。その人自身・・・或いは・・・記憶にある人物・・・。
妖魔と対面して・・・その人の・・・一番印象に残っている者・・・強さもそれを模る・・・」
「つまり、敵の記憶も偽造することがあるってこと?」
兄を殺され掛けたあの竜族の兄弟を思い出し、身を震わせる。いや、駄目だ。彼らを思い浮かべては、妖魔が姿形を変えてしまう。今の自分では勝ち目は無い。それに、怯んでしまい深手を負うかもしれない。
頷き、フィニクスは妖魔を見据える。
「自分と練習して・・・敵より強くなった・・・そう思ったときに思い出せばいい・・・。
恐怖の・・・印象を残さないように・・・。残すと・・・妖魔は姿を変えなくなる・・・」
静かな口調のまま、準備はいい?と問われる。いいも何も――。
「わたしは、守りたいものがあるから・・・。
守られるだけじゃなくて・・・。ちゃんと頼ってもらえるような・・・。
怖いとか痛いとかもう関係ないよ。大切なものの為だったらわたしは――」
いくらだって、強くなれる。前に進むことをあきらめない。
小さい前進でもまずは一歩踏み出す勇気。子供だからって甘えてなんか居られない。わたしは、お兄ちゃんの力になりたいから。
此処からが本番なんだ・・・。
「行きますっ!」
*
「―――それで?その『妖魔』がどうしたの?」
「もうそろそろです。多分」
教え役の全員に話されたことを一連に語り終えた後、リトゥスは興味が尽きたようにそう聞いた。
風が地に付く髪を攫い、巻き上げる感触を楽しみながらカテーナは緑衣の裾をはためかせて腕を挙げ、ほらと―少しずれた次元でレフィーナたちのいる滝の方向―出来立て(というのも変だが)の海岸から内陸を指差した。
「動物を感知して寄ってくんだろ?夜寝るときゃどうすんのさ」
「勿論♪寝てても妖魔を倒せる位にならないと寝られませんよ☆」
何か問題でも?と言いたげな笑顔でにっこりと見られる。いやいや・・・大有りだろう。何故か語尾に変な記号が見える。可愛らしい少女だと思っていたのに、あのオッドアイの瞳の色、この物騒な物言い・・・。
普通の『子供』なんかじゃない。
「嬢ちゃんは・・・そういうこと言うってこたぁ・・・大丈夫なのかい?」
「ええ?勿論」
おいおい、余裕満々かよ・・・。いくらなんでも、おっさんにゃ年齢的にキツいぜ・・・。年寄りはいたわるモンだろ、普通。・・・とかいって年寄りなんて言われたら不満たらたらなんだがな。
「さ、あれ。早速来ましたよ」
「大量生産にも程があるぜ」
「おもしろくなりそうね」
容赦ない少女の笑みと、完全に戦闘モードの殺戮美人兵器に囲まれて・・・。
父ちゃん、ここでダウンかもしれねぇ(いろんな意味で)。
*
閃光、爆音、煙――。その空間は蒼い光に包まれ、一瞬遅く衝撃波が周囲を襲った。
土煙が舞い上がり、衝撃波で地面がえぐれ、地に亀裂が走る。風圧に押され、木々が、川の水が宙を舞った。
「・・・成程、な・・・」
爆風の中、涼しい顔でそれをそよ風の如く平然と受けるライシェルはそう、不意に呟いた。
「あんだよーっ」
全然当たらない。何度繰り返しても全く。決してヴィルの気は長くない。涼しい顔で立っているライシェルを観てヴィルは獣のように低く唸った。
「当たんねーしっ!どーなってんだよっ!」
「どうもこうも・・・」
足まで組み、溜息をつき、岩の上で肩を竦める。すかさず攻撃を投げるが、煙が消えるとその場にライシェルはいない。
悪態をつきつつ振り向くと、メキッという嫌な音がしてヴィルは後頭部から地面に卒倒した。
「修行が足りん」
「は、がが・・・」
今の音はライシェルの踵落としがライ○ーキックの如く顔にヒットした音。顔面崩壊中。なんか顔面、生あったけぇ。全く酷い。こんな顔、カッコ悪くてミュレアに見せらんねー・・・。
・・・ん?なんでそんなの俺気にしてんだ?
「で、何か解ったか?」
「ああ。お前の雷は蒼・・・。私のは銀や赤だがな。一発が強力なのは集中型なんだ。だがお前はどうやら、広範囲型だ」
「こーはんい?」
「密度を高めろ。おまえのはただ放電しているだけだ。密度の扱いが雑すぎるんだ、お前は・・・」
呆れたとでも言うように溜息をつく。ライシェルは不貞腐れ唸るヴィルの脳天を軽く銃身で小突く。その様はまるで母親と息子である。ふっとライシェルの頬が緩んだが、銃身で頭を持ち上げるのを防がれているヴィルの視界には映らなかった。
「・・・あの子は頭は良かったが・・・。戦闘はちょっと下手だったな・・・」
「んー?なんか言ったかー?」
「いや。何でもない。さぁ、続きを始めよう。まずは――」
何処からか、生命を支える優しい歌が聞こえる。水の気配がして辺りに早苗が芽吹き、急速に伸びて若葉が輝く。荒野だった二人の周囲は一瞬にして森となる。
その煌く陽光の中に暗く見える高い山。ライシェルはそこを指差しつつあれだ、とヴィルに掲示して見せた。
「赤い雷であの妖魔たちを潰して来い。寝ながらでも射止められるほどに・・・な」

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