Ultima Fabura―終焉へ向かう物語―
Aerith ◆E6jWURZ/tw 作

第一話 〝雷獅子〟と〝風白龍〟 SHOT 2 〝共食い〟
腕をぐるぐると回し、肩の骨をコキコキと鳴らしたヴィルは身構えた。
高さはおよそ俺の3倍、横幅は――広すぎてワカラン。
黄色のたてがみ、オレンジ色の毛並み。随分と、派手だ。・・・んで、短足。ん?いや、豚足か。
ガーベル
そのぶっとい豚足を、化獣はブンッと勢いよろしく振り上げる。
しかし戦う、避ける事は愚か、ヴィルは目を閉じた。
「――〝雷獅子・爪〟」
「ガルルルアアアアア!!!!」
振り下ろされる巨大な前足。人一人の大きさほどもある爪は地面をえぐった。
しかし、そこに獲物はいない。
代わりに後ろから――
「〝【噴】〟!!」
「!!ガウウア!!!」
自分の背後に獲物の姿を確認した化獣はそっちに向き直り、今度は大きな口を開けた。
しかし突如その動きはがくんと止まり、白目をむいて巨体は地響きとともに地面に突っ伏した。
後頭部から尾にかけて、血が大量に噴出す。
雷剣を放電させ、消すとヴィルは返り血を拳でぐっとぬぐった。
「ザコめ!」
「ウ゛オ゛・・・ゴ」
「さ~てと。あっちはもう片付いてんのかな?」
* *
盗賊たちのいる方からたえず断末魔の恐ろしい叫びと、骨の折れる嫌な音が響く。
フェルドは大胆にも、化狼の群れに突っ込んだ。
化獣よりは小さいからと言って相手は高さ2M近く、全長はゆうに3Mはあるだろう。
〝敵〟と呼べるレベルの者が出てきたことで、そいつらは戦闘態勢にはいる。
―――ボスとも言える、最も大きな化狼が人の腕を喰らい尽くしたのが合図だった。
まず、5匹が一斉に5方向から跳びかかってくる。
なるほど、敵も馬鹿じゃない。まずはお手並み拝見というところか。
じゃあ最初の標的は――正面の、お前だ。
フェルドは5匹よりも遥かに素早く、標的に向かって跳んだ。凶器の備わる、踵をしっかりと化狼の首の根元に添えつつ化狼に心の中で思う。
・・・どうせまぁ順番なんて関係ない。数秒後、後の4匹も地面に落下するだろうよ。
雑魚に魔力なんか浪費させるか。俺はあの猪突猛進筋肉馬鹿とは違うんだ、わかったかバカ。
恐らく悲鳴を上げる隙も無かったのだろう化狼は、正面の一匹はもちろん他も沈黙の中息絶えた。
下に落ちるは、バラけた身体のパーツばかり。
勿論どれも原形をとどめることは無く、そして深紅に染まっている。
たじろぐ哀れな化狼。
容赦なく氷の瞳で笑う悪魔。
人の姿借りし悪魔のように。
「おい、終わったか?――うわ、またハデにやらかしたなぁ」
「別に。普通だ」
「これのどこが普通だよ。お前・・・作者と一緒にそういう感覚狂ってるんじゃねェぞ」
「一緒にすんな」
実質、作者はその辺感覚狂ってきてるらしい。いや、まじで。
・・・まぁそんなの、どうでもいい。
とりあえず今はムカつくほど五月蝿い咆哮が聞こえてきたとこだ。誰だ。息の根止めてやる。
「ちっ、面倒くさい・・・」
「?なんで」
「お前がちゃんと殺っとかなかった奴が仲間呼びやがったんだよ」
うえ~~・・・。冗談じゃねェ。つか、さっきので鼓膜破けそうだ。
んで、さっきのはなんで死んでねェんだよ。変にしぶとい奴め。
「ほら来やがった」
「げ、早っ」
1、2、3・・・。
いや待て。それ以前に、さっきからいた1匹が突っ込んでくるぞ。
「5匹。あわせて6匹。3匹ずつだな」
「わあってら。んで、こいつはどっちがトドメさすんだ?」
「責任持ってお前が刺すだろ、普通。」
突進を軽くかわしたフェルドは、そのまま高く跳躍した。深緑のマントがはためく。
腰に結わえていた大型もの、ブーツの中から取り出した細い銃身のものを続けざまに3発連射すると、そいつの背に乗った。他の化獣が背の上のフェルドをつぶそうと腕を振り下ろしたが、彼はそれをバク宙でかわした。爪は彼の乗っていた1匹に深々と突き刺さり、肉をえぐった。
さっき止めを刺し損ねた化獣が突っ込んでくる。
雷で生成された大剣で力任せに化獣の一撃をはじいてやると、そいつは焦りと憤りで変な声を上げた。
「ごチュージョーサマ!!」
化獣は今度こそ、断末魔をあげた。
首が落ちた(正確には、落とした)のだから、当然だろう。
風の魔術で5体をもろとも吹き飛ばしたフェルドは、後ろにいるヴィルの横へ跳んだ。
「ご愁傷様だろ」
「おお、そうそう、それ。まぁ化獣相手じゃ言葉も通じねェからいいよ」
「まったくだ。―――――!!!」
「うわ、なんじゃありゃ・・・」
なんだ、と言われても。
目の前の光景、それは化獣同士の共食いだった。
2人意外、人のいない静けさを守る〝夜の街〟に壊れた間欠泉のごとく、噴出すは赤い液体。
響くは折れる骨の音。
死骸の転がる音。
「奥方の見るモンじゃないな」
「卒倒するだろ」
「まぁこんなとこに奥方なんていたら相当驚くけどな」
ヴィルにしては正論だ。
こんな状況で、こんな呑気な会話ができるほどに二人はこういう状況に、こういう光景に
・・・慣れすぎていた。

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