Ultima Fabura―終焉へ向かう物語―
Aerith ◆E6jWURZ/tw 作

第三話 銀水まといし水の歌姫 SHOT 2 〝わたしは誰〟
だれ。誰。
水不死鳥って、誰。ミュレアって・・・誰。
わたしは? ・・・誰?
〝目を覚ませ!〟
この声は・・・?
わからない。世界の何もかも。自分は誰なのか。どうしてここにいるのか。なぜ生きているのか。
冷や汗が流れる。
いやな汗が頬を、背中を伝う。
〝わからないのか!?お前は、ただの魔術師ではないんだぞ!〟
「・・・ゎ・・・」
!!?
今、わたし声が出た・・・!?
どういう事!?
目の前の男が、軽く舌打ちする。隣の小柄な人影の襟首を掴む。
「おいっ!どういうことだ!?こいつは喋れねェはずだ!あの方が言っていただろ!?本当にコイツか!?」
「・・・っ!え、ええ、間違いありません、兄者。でもこいつ記憶もないだろうし・・・」
「へー?やっぱアタリっぽいじゃん」
頭上から降ってきた声に、全員がテントの上を見上げる。
そこにいたのは少年のような影。彼はテントの下に下りてちらりとこちらを見た。
誰・・・?
わたしは、知らない・・・?
〝いや。知ってる〟
そう。そうだよ。わたし、この人知ってる。
でもどうして? 貴方は・・・誰?
「誰だ、貴様は!!」
「俺ぇ?知らねェの、俺のこと?・・・ふーん。ま、いっか」
「てめェこそ俺が誰か知っているのか!俺は1億の賞金首、デリベラ・ビューロッセ様だ!」
刃物を取り出し、嘲る様にそう大声を張り上げるデリベラ。
しかし少年はひるむ様子などまったく見せず――むしろ、向かってきていた。メロウは慌てる。
「・・・ぇ、・・・ぇて」
駄目だ。声はまだちゃんと出ない。なんで出るようになったのかもわからないけど、まだ本調子じゃない。
その時。
気づかなかった。後ろにも、デリベラの手先がいたなんて。
パリィン。
何かの破片が視界に入る。
青銀・・・。
夢に出てきた〝鎖〟の色とおんなじだ。
そう確信した瞬間、意識が遠のいた。体はぐらりとかしぎ、視界は闇に包まれつつあった。
メ
「!?貴様、その瞳は・・・!!」
少年の瞳は銀蒼だった。それを目にしたデリベラは目を見開く。
しかし時既に遅く、デリベラは少年の右手から発せられていた蒼白い稲妻をもろひ腹部に食らっていた。
「ぐ・・・ぁあああ!!!」
雷は明るさを増し、メロウを照らし出した。
ばさりとほどけた金髪は銀月のような銀色へと変わっていっていた。
稲光の中、メロウの瞳に映った少年の後姿は彼女のそれに焼き付けられた。
メロウの瞳の色は銀翠だった。
* *
真っ黒焦げになって口から煙を吐いているデリベラ。
まぁ戒め程度だし、死んではいないだろ。そのくらいの手加減、俺は心得てる。(・・・つもり)
そして自分が救出した姫さんを眺めるため振り返ると・・・彼女はなんと、そこにはいなかった。あんぐり口を開けるヴィル。ねぇ、これってもしかして救出損!!?
ボカッ。
「あでっ!!?」
「何があでっ、だ。お前、急にいなくなってこれか」
2発目の拳をいさめ、足元に転がる真っ黒焦げのデリベラを見やったフェルドは溜息をつく。
一方リトゥスは低空飛行でさっきまで姫さんがいたところに飛んでいった。
拾い上げたそれは、たったさっき敵が砕いたあの青銀の鎖というやつ。
「ん?それは歌姫さんの髪輪じゃないですか」
「あいつに会ってたのか、ヴィル?」
「はっは~ん・・・・・そうなんだ、ふ~ん、へぇ~」
「な、なんだよ」
“明らかに怪しい”という目で見ているリトゥスの視線を不快に感じたヴィルは眉をひそめ一歩後ずさる。
・・・まぁ、リトゥスからしたらからかってるだけだが。
目的は別にある。
だがそれを知る由も無いヴィルは頭上に「?」マークを浮かべ、警戒するだけ。
恋愛私情に興味の無いフェルドが「これ見たのか?」と懐から取り出したのは一枚の手配書。
ヴィルは目を丸くする。
「〝水不死鳥〟ミュレア・U・フェリーラ・・・!」
「賞金首だ」
「そうそう。その子高いよね。1ヶ月前から行方不明らしいわよ」
何でもない風を装ってリトゥスは手配書を指先でトントンと叩いた。ヴィルは賞金額に目を留める。
あんぐりと顎が落ちたかと思うくらい下に勢いよく開いた。
「6億・・・4000万!!?」
「あ、ありえないですその額・・・」
戦ったら相当強ェな。いや、俺達が束でかかって勝てんのかな?
ぼんやりとそんなことを考えていると、フェルドは少し疑問に思ったふうに紙をヴィルの手から引いた。
「ん?お前、知らなかったのか?」
「全然。そういえばこいつ、あのメロウってやつに似てね?」
「あのなぁ・・・」
手配書の写真は間違いなくメロウのような気がするが、瞳に宿った鋭さがあいつとは少し違う。
瞳の色は銀翠。おろした長い髪の色は銀。
息を切らしているのか、少し開いた口から見える舌に刻印されていたのは魔方陣だった。
「え!!?これ・・・!?」
「俺達みんなあいつが〝水不死鳥〟ってことも気づいてた。お前もそうかと・・・」
「で、メロウさん・・・いえ、ミュレアさんは?」
「悪ィ。それが・・・。いなくなっちまった」
はァ!?
闇夜にそんな声が響くのも当然だった。

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