Ultima Fabura―終焉へ向かう物語―
Aerith ◆E6jWURZ/tw 作

第八話 戦いの終わり SHOT 1 〝叫び〟
凶爪がテフィルに迫る。幼いながらも天使族と神霊族の半純血の少年は死を覚悟し、目を瞑った。
刹那、カッと一瞬だけ銀光が目を瞑った状態でもわかるほど眩く輝き、何かが弾かれる音がした。目を開くと、間合いを取るヒュドラの姿が見えた。警戒するようにヒュドラが自分と敵との間に立ち塞がった人物を睨みつけ、「・・・何者だ」と唸るように低く呟いた。テフィルもその人物に視線をずらす。銀水の長い髪、潮の香り漂う緑色の上着。
見慣れた背中だった。
「カ・・・テー、ナ・・・?」
「どけ、じゃまだ・・・」
「一体どこから」
バシカリキ
「解鍵の妖精族にとってたかが創造したばかりの空間移動なんてた易いことなんですよ?」
チロリと舌を突き出しておどけた様に銀の救世主は言う。双方が金と銀の青の瞳の少女は魔力に満ちていた。味方であるはずのテフィルたちにも怖いと思わせるような何かのある、巨大な力。
「ふん、面白い、貴様がどれだけの能力か、私が味しらべだ」
「あ、いえ。お邪魔でしたね。あたしはバックアップするだけです。テフィル、頑張れ! レフィー、頑張ろ!」
「えぇっ、僕一人?」
「テフィルはおにーちゃんでしょ?」
にっこり笑むカテーナに、反撃の言葉が見つからない。というかその気が失せた。項垂れながらもテフィルはカテーナが来てくれた安心感と高揚感で力がみなぎって来る様な気がした。
包帯の下は金藍って・・・。凄い、やっぱり。カテーナは強かったんだ。僕もお兄ちゃんだから頑張らなきゃ。
種族ごとの専用瞳(スブリーズ・アイ)。それは一生変わることのない、種族だけの瞳。弱かろうが強かろうがその色は変わらない。双子の瞳もまた、そうだった。天使族特有の琥珀瞳。蜂蜜色のそれは決意に満ちていた。
「レフィー、カテーナ。必ず、一緒に帰ろうね」
閃光が炸裂し、光が交錯する。魔力によって爆発が巻き起こり、風圧で何度も体が浮きそうになった。それに耐え、テフィルは魔力を高めるとヒュドラに向かって唱えた。
フォリスプロモテコキステルスカンバーナ
「【果てなき現(うつつ)に終わりの鐘を】!!!!!」
「・・・?」
何も起こらない。何も出てこない。失敗か?ヒュドラは辺りに異変が無いか目を凝らし、神経を研ぎ澄ませた。何かを感じ、咄嗟に反射的な体の動きが『何か』を避けた。
ヒュドラが避けた『何か』は見えない刃だった。避けたところにあった廃村の枯れた花壇が大きく裂け、無残な姿を晒した。気配だけを読み取り、ヒュドラは次々に透明な凶刃を避けていく。と、彼が動きを止めた。今だ、とテフィルは力を込めて刃を一転集中させた。
リュウキョウ
「・・・【龍鏡】」
フィン、とテフィルから見たヒュドラの姿が一瞬揺らいだ。しかし何かした、と気付いたときにはテフィルの刃は全て彼に注いでいた。思いもよらず、当たり傷だらけいや下手をすれば重傷を負うはずのヒュドラの姿には何の異変も起こってはいなかった。
リバース・イメージ
「【鏡像】!!」
双子が目を見開くのと唸りを上げて刃が向かってくるのが同時だった。足がすくみ、身動きの取れなくなったテフィルは恐怖に目を見開いたまま、膝をついて叫んだ。
「うわぁあああぁぁぁああああああ !!!!!!!!!!!!!!!」
見えない刃は間違いなく双子の兄を捕らえ、無情にも斬り刻んた。
* *
「【ソロモンの恨み】!!!」
「はいやっ!」
命中力は高いはずなのに当たらない。相手もかなり回避率が高い。フィニクスは眉間にしわを寄せ、息を荒げながらそう思った。馬鹿にするように頭の上で手を叩き、飛び跳ねながらはやし立てるケフカ・・・。
――頭にきた・・・――
「くどい・・・死んでください・・・ボソッ(蠅が。)」
「がーーーーん!!!! は、ハエ・・・!?」
あからさまに傷ついたようにケフカは叫んだ。というか、絶叫した。しかし気を取り直し、何かを詠唱する。魔力の高鳴りが肌で感じられ、フィニクスは警戒した。これは何か、巨大なモノが――来る。
「えぇーい! 出でよ、ウィンデウス !!!!!!」
「なっ!? 召喚獣!!?」
出てきたのは――蛙。うわ、という顔をするフィニクス。
「行けいけウィンデウス~! ってコラぁ! ちゃんとやってちょうだいよぉ!!」
のっそりと伏せて寝に入った巨大蛙にケフカが憤慨する。しかし蛙は主に従うどころか、そのまま巨体を揺らし小馬鹿にするようにゲコゲコと笑った。その足元で、主である(はずの)ケフカが地団駄踏んでいた。その勢いで蛙を蹴ったところ、そいつは主(くどいようだがそれであるはず)のケフカに向かってゲップした。
ケフカ気絶。
「やる気・・・あるんですかあの人・・・」
主人の言うことを聞かない召喚獣って・・・何なんですか。思わず問いたくなるようなコンビだった。
「あるよっ!!」
「起きてた・・・」
飛び起き指摘してきたケフカにむしろ呆れ、フィニクスは呟いた。蛙がその辺に飛んでた鳥を太い舌で瞬時に絡めとり、(注※およそ5M離れてます)を易々と飲み込んだ。それを見てフィニクスは背筋に寒気が走るのが判った。鳥を飲み込むって、蠅じゃないんだから。でもそれもあの蛙にとっては蚊位の大きさかもしれない。自分が飛んでいて捕らえられるくらいのサイズが、あの蛙にとって標準のハエの大きさ。
私が、蠅ですか。そうですか、頭にきました。
「おりゃあっ! ウィンデウス! ほら、早く!」
「召喚獣・・・」
駄目。私まだ未熟だから・・・。まだ、召喚獣の加護を受けることは出来ない。
炎で蛙の頬辺りを掠める。と、蛙は火が触れたことでパニックになった。どうやら弱点だったようで――。
「あわわわわっ、ウィンデウス! そっちじゃないよ!! 何やってんの敵あっち!! わーっ、こっち来るな!!」
「・・・・・・」
内輪もめというか・・・。自滅というか。
結局、断末魔の叫び声とともにケフカは踏み潰されてしまった。

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