Ultima Fabura―終焉へ向かう物語―

Aerith ◆E6jWURZ/tw     作



第一話 〝雷獅子〟と〝風白龍〟   SHOT 4 〝銀波〟



とりあえず、今フェルドは機嫌が悪い。
体中、化獣の血でまみれていてべたべただ。気持ちが悪そうにとりあえずコートを体からはがす。

「ったく・・・。俺が待てっつってんだから待てよ、馬鹿。おかげで血みどろだ、馬鹿」
「馬鹿馬鹿連発するな、ばか!」
「黙れ。馬鹿は馬鹿なんだから仕方ねェだろ馬・・・おい、何だ?」
何がだ、と顔をしかめたヴィル。フェルドの視線の先には、天使の噴水があった。
二人の天使が大きな彫刻の花束を持ち、そこから水が出ているのだが、その水が出る穴のところから拳大の白い光の弾がゆっくりと出てきていた。
ゆっくりと見つめる三人。光はかすかに震えた。しかし微かだった震えは確実に大きくなってゆく。
ヴィルが手を伸ばした。と、激しくなっていた震えは突然震えることを止めた。
「一体なん・・・!?」
刹那、白球ははじけ、銀の光を一筋天に向かって伸ばした。
それも一瞬の出来事で、光は細くなった瞬間、銀色の波となって彼らを襲った。
波は三人を、街を飲み込む。

銀色に輝く波に飲み込まれた街を眺めていた人物は、時計塔の上で一人呟いた。
「・・・まったく。大地をこんなに血で穢すのは止めてほしいものだな・・・」


                    *                      *


水がぶつかってくる。
その感覚をいずれ感じることと思い、ヴィルは目を瞑った。しかしそれは無く、息はできなくなるはずだったし、水に濡れるの感覚も無かった。
再び開いたとき、目の前の全てに異常は無かった。
いや――ひとつだけ、あった。

血が無いことだ。

あんなに建物を赤黒く染めていた血が、どこにも無い。驚くことに――フェルドのコートも戦闘前のようだった。
戦闘を表していることといえば、砕け散ったはずの化獣の体くらいか。
体は砕け散ったはずだったが、それはなぜか斬り落とされた首の横に静かに鎮座していた。

「どういう・・・こと?」
「どうなってんだ・・・?」
「さぁ・・・?俺らに聞くなよ」
人の気配に気づき、振り返ってみれば・・・
「おおッ!皆様、この方々がこの町を救ってくださった方々です!」
確か、町長・・・。丸っこい(ついでに言えば、油っこい)男性が民衆に向かって言う。
子供達は無垢な目で賞賛の眼差しを持って三人を見上げるが、その母親達は主に化獣の死骸を発見して間も無く卒倒しかけていた。とりあえず、さっきの正体不明の〝波〟の正体では決して無い。

「じゃ、俺達はこれで」
「な~にをおっしゃっているのですか!」
苦笑いしつつ退散しかけるフェルドの腕を、隙の無い満面の笑みでがっちりと掴む町長。今度はあからさまに迷惑そうな顔で取り返そうとするが、是が非でも町長は彼を連れて行く気だ。
リトゥスが諦めの引きつり笑いでフェルドの肩に手を置いた。

「ま、いいんじゃない?」
「んん。ことわる理由もねェよ!」
「はぁ・・・。仕方ない、か。コソッ(でも夜のうちに抜け出すぞ)」
渋々といった感じでヴィルが頷く。
性格から判るように、まぁやっぱりフェルドは宴とかあんまり好きではない。それにやっぱり、兄ちゃんを探すためにちょっと急いでるんだろうな。フェルドも。
三人に浴びせられる歓声。苦笑いするヴィル。
「いいのか? 賞金つきの悪党がこんな歓声浴びちゃって」

「まぁいいんじゃないの? わたし達はこの町救ったエイユウ、でしょ?」
照れたように笑うヴィル。単純なヤツの一例。

「そっかそっか〝英雄〟かぁ!・・・ははっ」
時計塔の上にいた人影は、いつの間にか消えていた。




「うっしゃあ飲み比べだ!!」
「兄ィちゃんまだ未成年だろ?止めときな、酒豪の俺には敵わねェ」
「ヘンッ!望むところだァ!!」
自称:酒豪はすでに赤ら顔だが・・・本当だろうか?
生まれつきそういう顔のやつもいるが・・・。
とりあえず、単細胞×2が飲み比べを開始する。はやしたてる町民。
未成年と侮る無かれ、ヴィルだって普段酒瓶5本は朝飯前―朝から酒はたからせねェが―だ。

今、俺達は町長の家で世話になっている。
家――とはいっても、ほぼ屋敷みたいなものだ。第一、ここはエントランスホールだ。それがあるだけで〝家〟の規模じゃないだろう。そこにレッドカーペットが敷かれ、乳白色の階段。
上のシャンデリアに腰掛けたリトゥスは真っ赤なワインを口にしている。
・・・周りの金品に目がいっているの気がするのは気のせいか?

フェルドは薄暗いテラスから様子を伺っていた。避難もかねて。
ほどなくして歓声が上がる。

「兄ィちゃんやるなァ!」
「欠点無ェのかい兄ちゃん!化物倒す位強くて、イケる口で、色男でよぅ~~?それじゃ女が放っとかねェだろ!」
「イロオトコ?俺が??」
「オウヨッ!羨ましいねぇ~」
いや、そいつは欠点だらけだろ。今あげたこと(色男かどうかは判別不可だし興味が無いが)意外取り得があるのか?
って逆に聞きたい。
まぁ無い頭振り絞ってヴィルは考えるわけだ。自分が色男かどうか。で結局女なんてどうでもいいって結論に達するわけだ。
脳内丸見え・・・だな。
そのとき突然、バンッという音とともに扉が開かれる。

「町長、宴会中失礼します」