Ultima Fabura―終焉へ向かう物語―
Aerith ◆E6jWURZ/tw 作

第七話 衝突 SHOT 5 〝友よ〟
視界には虫、虫、蟲。身の危険を感じたカテーナは意を決し、頭の包帯をしゅる、と解いた。頭の解放は同時に、封じていた魔力の解放でもあったのは解いた瞬間デュラにも判ったが、しまったと言うには遅すぎた。
包帯を外した瞬間魔方陣が現れまばゆい光が辺りを覆いつくし、風圧がカテーナの周りのものを吹き飛ばした。
虫も、彼女を覆うような殺意の魔力も。
「ま、まさか・・・」
驚きを隠しきれないデュラ。目の前にいるカテーナの包帯の奥に隠されていた瞳。その、色。
「ごめんねぇ? あたし、金藍の瞳なんですよね♪」
馬鹿な、と叫びたかった。しかし辺りに満ちる恐ろしいほどの強大な魔力と、魔方陣が完全に物語っていた。
君には、勝ち目が無いんだよ、と。
「数年前、あたしはある事故でこの右目に重傷を負いました。以来、右目は色を変化させることは無い。けれど生まれ持った性質の性で魔力は増していく。嫌になる程・・・。嘘だと思いたかった。けれど左目は嘘だとは言ってくれない。あたしは魔力を封じる力があるという秘竜の鱗を粉上にしたものを刷り込んだ包帯で魔力を封じました。――忌まわしき、過去も。あたしは4歳のとき、いじめられました。強い魔力のことで。するとあたしの魔力は暴走し――。気がついたときには、村は崩壊していた」
「なっ・・・!?」
驚きを隠せないデュラ。しかし首を横に振ると言葉を慎重に選びながらも自らも魔力を高める。
こいつは動揺を誘ってるだけだ。きっとそうだ。落ち着け、僕。
「なんでそんなこと僕に言うんだ」
「貴方がうちの里長(さとおさ)と幼馴染でしたから」
な、に・・・・・・・?
バシカリキ
「まさか、おまえは・・・解鍵の妖精族だと、いうのか・・・!?」
「ええ」
結界を解く、鍵の種族。一番強力な銀の鎖も、何かの鍵。それは里長の一族。この子は里長の娘――。
ああ、なんということだ。
この子は僕の――親友の、娘だ。
〝その子を・・・たのんだぞ〟
そう言って病の床に就いた、親友の。
なんという運命のいたずらか。ああ、何故思い出せなかった。何故今になって思い出した。
記憶の最奥部の、色褪せかすれた思い出が脳裏に蘇る。それはセピア色で、横には3歳にも満たない少女が。大粒の涙を零す、銀蒼の瞳の。あぁ、あの子が。たった一人の親友が僕に残してくれたものを。
僕が今、壊そうとしている。
思い当たった途端、理性が吹き飛びいやだという呟きが漏れた。
「いやだ・・・。いやだぁあああああああああ !!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「!!」
高めていた魔力が暴走し、デュラの足元のマントと同じ蒼竹の魔方陣から現れ出たのは・・・
召喚獣・インセクトスレイ。
「哀しみの女神よ、救いの銀鎖を!! アリシダジィプシィ !!!!!」
銀光が発せられ、現れ出たのは銀蒼の衣を纏いし哀しみの女神。憂いの色を湛えた瞳に映るのは一人の少年。
巨大な女神は祈る。自責の念に駆られ、苦しみあがき暴走する哀れな迷い子の為に。
レクイエム オ ザラドシネフコリムサス
「鎮魂歌【死後の世界でも貴方を癒やそう】」
するとデュラは眠るように倒れた。目を瞑ったその顔はむしろ微笑んでいるようにも見えて。
瞑ったその目が永遠に開く日は来なかった。
* *
私はおまえの為に死んでやる気はないぞ―――
竜族の里。おまえの故郷。だが戦闘に私情は挟んではいけない。それが、弱点になる。昔から言っていただろう? 覚えてまでいたじゃないか。だが、自業自得なのはお互い様だな。自分で言ってまでいたのに、私も私情を挟んでしまったのだから、な・・・。
結果、どうだ。失ったのは一番大切なものだ。
私が死ねば――。私があの時死んでいればよかったんだ。それなのにあいつは私を庇って死んだ。自分が庇われて相手が死ぬなんて一番私が嫌うやり方じゃないか。「僕、これで貴女に嫌われちゃいますね」瀕死の状態で言ったあいつの言葉は、今でも心の奥底に突き刺さっている。
なぁ。友よ。
「お前の守りたいものはわかるさ、トゥザム。だがな・・・」
「守りたいものがまたできてしまった、か」
そうだ。
私にも仲間がいる。まだ守りたいものがある。彼らの明日の為に、私は前に進む。
イマ
「あの日からずっと、私は死んでいる・・・。未来を作るのは〝現代〟を生きている人間達だ」
ライシェルの体が揺らめいた。なぜだろう、彼女は狼の姿であるのにそれにダブる様に双剣を抜く姿が重なる。白狼が遠吠えをし、宙へ舞う。するとカッ、と雷が落ち、そこに出でたのは・・・
「ライ、シェル・・・!?」 ワルキューレ
双剣を腰に差し、緋色のマントを翻すピンクブロンドの戦乙女。薔薇色の唇と透き通るように白い肌。胴体の藍色の上着のような鱗鎧。引き締まった肉体はそれでも女性の曲線美を描いていた。
なぜだ? なぜ、戻れた?
それは二人の疑問だったが、ライシェルは目の前にかざした掌をしげしげと眺めると不敵に笑った。
「そうか・・・」
「なんだ」
思い当たったように呟いたライシェルにトゥリムは警戒しながらも問うた。ライシェルは腰から右の双剣を抜くと、右手でくるくると弄んだ。左も抜くと、それは銃身から刀へと変化する。そう、この二本はスパフィグレイルだ。ミュレアが持っていた武器と同じもの。しかしあの子の本当の武器は杖だ。
私がいたからスパフィグレイルになっていたんだな、と瞬時に理解する。
「あいつだ。シュヴェロが私の力を持っていた。スカイ・ジルコンだと思っていたが・・・違ったな」
ライトニング・ジルコン
「お前の・・・?では、【稲妻の複屈折石か】」
「そういうことさ」
これで存分に戦える。刀身を青白く光らせ、ライシェルはトゥリムに斬りかかった。

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