Ultima Fabura―終焉へ向かう物語―
Aerith ◆E6jWURZ/tw 作

〆第五章 〝高貴なる血筋〟 -Serene bloodlines- prologue
幼きころであった少女の姿が、頭から離れないまま彼は数年間を過ごしてきた。
強く、気高く、凛とした面持ちで――でもどこか、儚げで。
彼の母親と談笑していた一人の男性が言った。
あれは私の娘なんだよ、と。
健やかに育った若君の花嫁になる子です、と。
彼は素直にうれしかった。それから何ヶ月か一緒に過ごし、来年も、再来年も会った。
しかしあるとき。
未来の花嫁はその残り香をかすかにその場にとどめ、いずこかへ消えてしまった。
それでも彼は彼女を待ち続け、探し、他の者と婚を結ぶなどとは思わなかった。
彼女は自分の婚約者だった。もうすぐ数年ぶりのの再会を果たして、永遠の愛を誓うはずだったのだ。
なぜいなくなった? そう考えるより彼女の面影を探した。
表向きな、彼女の代わりがいてもただもう一度だけ、再び彼女とまみえたかった。
そして今日。
君も今、見ているだろうか。僕の見ているものと同じ月を。
誕生日おめでとう。ごらん、君の髪のような色をした銀の月が太陽を優しく覆っているよ。
女は、貴族と騎士の間に生まれた。
突然失踪した姫の代わりに親も亡い為にか偽りの王座へといざなわれ、偽りの自分でいる。
本物がいる限り、私は不完全のままだ。
なれば本物が消えれば、まがい物の私も本物になれる。
私を受け入れてくれた王に真に愛される。偽りの愛でなく、真実の愛を与えてもらえる・・・。
女は決意した。
本物など消してしまおう。
知らず〝彼〟と〝女〟の目的は交わり、交錯した。
一方は手に入れるため。
他方は消すため。
双方は同じ銀の朝に同じものを求めて旅立った。

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