Ultima Fabura―終焉へ向かう物語―

Aerith ◆E6jWURZ/tw     作



第四話 交錯する運命    SHOT 4 〝1/10000〟



蜂蜜色の瞳は人にやわらかい印象を与える。
なんか強そうでもないなぁとミュレアはぼんやり思う。

「どこ行こか?」
「この辺、地下から水くみ上げてるとこってあるかな?」
「地下ぁ? せやったらフィネル位や。あそこのごっつデカい噴水の水は地下1000Mから・・・ておいどこ行くん?」
「じゃあフィネルに戻る」
ミュレアの発言が何の為か何の意図かわからないシュヴェロはすっ頓狂な声を上げた。
意外と早くすたすたと歩くミュレアに歩幅をあわせる。
「なんのために?」
少々不機嫌そうにミュレアは振り返る。

「あのね? わたし水の神霊なの。でも治癒のためには人間が汚した水じゃ駄目。地下は人の汚染した水がないからそれで力が戻るはずなの。・・・放っといても戻るだろうけど早いうちのほうがいいでしょ?」
「そ、そうなんや。じゃあ行こか」
申し訳なさそうにシュヴェロは言葉を控える。頷いたミュレアは翼を広げた。
いたずらを思いついた子供のような笑顔で振り向く。
「徒歩で行くの面倒でしょ?」


                    *                      *


その頃、フィネルのとある宿屋――。
日は高く昇り、・・・いやすでに真上にまで上り現在お昼時。

「いつまで寝てるんですかこの人・・・」
「シバけば起きるだろ」
「じゃあわたしが」
ぎゃぁあああああああああ・・・
宿の一室にものすごい乱撃の騒音と叫び声が響いた。
5秒後、そこにあったのはボコされてあちこち傷だらけになったヴィルと拳を握り締めたままのリトゥスの姿。

「ぼほ・・・おこひかはほはにべーのばっ(起こし方他にねーのかっ)・・・」
「一番手っ取り早いと思って」
手っ取り早いってあのなぁ。

「〝水不死鳥〟って女、どこにいるんだろうな・・・」
「それより治癒能力持ってる人見つけないと僕達どうなるかわかりませんよ?」
「え? あぁそっかぁ・・・」
今更ながら面倒だと思う。なんとなくあのミュレアって女が気になる。
いや、とフェルドは昨晩と同じく懐から手配書を取り出し、広げ、ある箇所を指差した。アルスが読み上げる。

「〝水不死鳥〟能力・・・水・・・魔力のある歌・・・治癒魔法」
「「治癒!!」」
リトゥスとヴィルが同時に反応する。フェルドは頷く。
「このままアイツを追っかけよう。魔力封じれるくらいってことはあいつなら治癒能力使えるだろ」
「よっしゃー! 水不死鳥を仲間にするぞー!」
はしゃぐヴィルを横目にフェルドは少し考え深げに天井を見上げた。
姿を消した水不死鳥。とりあえず俺達を敵視しているかはわからないが、味方と見ていれば逃げることもなかったはず。遭遇したときに戦闘へもつれ込むようなら厄介だ。
その時、リトゥスが「あ」と言って窓の外を見た。
「ん?」
つられてヴィルもそちらを見る。すると鴉の姿をした氷が飛んで来るのが見えた。
「すっげー! なんで飛んでんだあ!?」
アルスが窓を開ける。氷の鴉はそこからすいーっと入ると椅子の背もたれの上に着地した。
この氷の気配は氷竜に似ていた。

『治癒能力者が現れた。我の傷は完治した。ご苦労だった。尚来たのは銀髪の女だった、以上』

鴉は氷竜と同じ声でそう告げると、ぱりぱりという音とともに崩れ去った。
唖然とそれを見つめていたヴィルは瞬きして我に返ると眉をひそめた。

「銀髪の治癒能力者の女?」
「いやミュレアさんでしょう、それは」
「どう考えてもね・・・」
するとその時どこからとも無くピンクの紙が降って来た。人々は気にもせず通り過ぎる。どうやら魔力でできたものらしい。きっと魔導士のみしか見えないのだ。ヴィルは一枚、手に取る。

「【〝水不死鳥〟ミュレア・U・フェリーラ仲間募集】・・・?」
「ここは王都よ、自殺行為に走る気? フェリーラ」
「噴水前と書いてありますが」
「行ってみるか」


                    *                      *


フィネルに着いた二人は早速噴水の方へ向かっていた。
顔を隠さないと二人とも追われる身だ。すぐに見つかるに決まっている。
ミュレアは白い帽子(カウボーイハットのような型だ)、シュヴェロは茶色い色違いを目深に被っていた。
人通りの比較的数少ない裏町を二人うつむき歩いていると誰かが勢いよくミュレアの肩にぶつかった。

「きゃあっ!?」
「ウッ!」
「! 何するんや!」
ミュレアを突き飛ばした人物にシュヴェロは憤慨する。しかし起き上がった女は嗄れ声で言った。
「何するの、はこっちだよ! あんたらあたしを知らないワケ?? 泣く子も気絶する〝水不死鳥〟だよ!!」
シュヴェロもミュレアも唖然としている。この女、何を言っているやら・・・。確かに目は銀翠だがそれも近くで見ればカラコンだと判るし、何より本物は目の前にいるし間違いなく偽者だ。
「土下座して謝んな! そしたら許してあげるよ。」
卑しい笑いを浮かべそういう偽者(ミュレアの美人度を1/10000にしたような女)にシュヴェロはブチ切れた。
「図に乗るんやないで!!!」
物凄い音がして殴られた女はその場にブッ倒れた。
・・・女タラシじゃなかったの?
この人面食いなのね、と思いつつ(自分の顔を可愛いとはとてもとても思わないけれど)も「ケガ無いか?」と言って差し伸べられた手をミュレアは笑顔でとるのだった。