Ultima Fabura―終焉へ向かう物語―
Aerith ◆E6jWURZ/tw 作

第十二話 新たなる力 SHOT 6 〝秘められていた真実〟
〝お前の両親と会ったときの話をしようか〟
不意にヴィングの口がそう言葉を発したことに対して自分の目が驚愕に開いていくのを感じたのはそう遅くは無かった。え、と声にならない声が唇から零れる。
「俺の両親・・・!?」
「あぁ。お前が鴉族の里に預かられる前の話、さ。小さかった所為でお前は私と会った時のことなんざ覚えて無ェだろうなってこの前また逢った時思った。やっぱ、覚えて無かったんだな」
「小さい頃、って」
自分が鴉族の里に来たのは生後間もない時だったと聞いている。つまり記憶に無いだけで自分達は初対面で無く再会したのだということだった。
「――いや、親なんて俺には関係ないね」
「まぁそう言わずに聞けよ。お前は自分を捨てていなくなった両親が嫌だったんだろ? ・・・とんだ勘違い野郎だな」
「・・・何?」
頭に来て若干威圧感のある声を飛ばす。・・・産んでおいて人を勝手に放った裏切り者を嫌って何が悪いと言うのだ。皮肉げな笑みを消さずヴィングは言葉を続けた。
「お前の両親はお前ら兄弟を守る為に死んだ」
死んだ・・・? 俺達のために・・・? そんななことがあるはずは無い。両親は俺達を捨てたんだ――。
震える声を抑えて低くそう言いながら、表情を殆ど外見に出さないその顔に動揺の色を滲ませる。
「私が言った事は真実だ」
「何故、あんたが知っている?」
「そんなに不思議か? ――竜族の里に住む純血は丁度お前が生まれた頃獄怪骸に襲われて大勢死んだ。
純血だったお前らも狙われた。勿論、お前やお前の兄や両親もな。
誰かに操られていたとも、奴らだけの行動ともいえるが・・・、獄怪骸は2人より多い純血の集団を察知できる」
何を言っているんだ、と思った。俺達は混血だ。鴉族の血も混ざっている。
気持ちを汲み取ったようにヴィングは頷いた。
「ああ、お前達は混血だと・・・『偽られていた』。身を守る為に。お前達を、守る為に。その時犠牲になったのがお前の両親だ。二人とも竜族だったしな・・・。
あ、因みに本当はお前らの母親の兄が・・・まあ、簡単に言えば伯父に当たるそいつは、リトゥスの父親の妹と結婚してっから、お前らは血が繋がってるっちゃあ繋がってんだ」
「あいつは、知って――?」
「いや、リトゥス本人も知らないと思う。必要以上に知られるのは控えてたし。・・・両親は、お前に憎まれても当然だって言ってたな。捨てていないとも言いがたい状況だから、っつってた」
成程・・・とは残念ながら素直に頷ける性分ではないのがフェルドだった。ヴィングもその位は解っているのだろう、どこか得心した様子で彼に向けて苦笑した。
「百聞は一見に何とやら、ってな」
「っ!?」
パン、と何かが弾けた様な音と共にフェルドは雑音(ノイズ)を耳に感じた。目を閉じてみな、という言葉にフェルドは雑音へと意識を向け、瞼の裏に映るヴィングの記憶へと意識を研ぎ澄ませた。
「・・・そう、か」
全て見えた。生後間も無くな赤子を抱いた母親が生まれてきてくれて有り難う、と涙を流していた様。彼女がこの子達をお願い、と兄やその親族に預けられたこと。そこには幼き日に世話になっていた育て親たちの若き顔ぶれがあった。
決意した両親。先陣切って獄怪骸を倒す。支えつつ母親も後ろで奮闘する。力尽き倒れていく、竜族の戦士達。悔恨の涙を流し、最も長く戦っていた父親もとうとう倒れ、母親も折り重なるように倒れた・・・。
それもすべて、自らの子供達の為に。
10年以上も憎まれることになろう可能性も考えた上で・・・。
「お前は見てたのか・・・」
「・・・ああ。本当は私も加勢したかったよ。自分の種族が絶たれそうになってたし。
でも、それ言ったら二人が許さなかったんだ。真実を教えてやって欲しい、憎しみの心を子供に持たせたくないから、と。
私はまた死ぬ機会も理由も失って此処に居る。幸か不幸か・・・。私はただの死に損ないさ」
その言葉にも今のフェルドには一言、そうかと答えるだけで精一杯だった。
暫くして、ふっと不敵な笑みを浮かべヴィングは少し眺めの沈黙を破りフェルドを強い眼差しで見据えた。
「知ってっか? 光の戦士の生まれ変わりには生まれた時にそうと見分けることが出来る出来事が起こる。21と7億・・・。
私の生まれた時もそうだったと聞いている。だからお前もなんだろ。
――生まれる時、産声を上げる赤子は自分が生者の世に生まれ出る前の死者の世界で交わした契約に基づき・・・
母体からではなく司る魔術によって生まれる」
「!!」
言い切ったヴィングとフェルドを、一陣の風が吹き抜けていく。風は優しく、そっと彼を包む。
ああ、だからこんなにも。
「お前は風に愛された子供だ。風より生まれ、風となって消える。ヴィルも雷に愛され、ミュレアも水に愛されてる。」
ふっと柔らかく微笑んだ、ヴィングの感情が垣間見えた気がした。
「両親の自己犠牲で生き残った光の魔導士・・・ねぇ。
普通の人間には出来ないが、何の因果かヴィルも似たような境遇だな・・・」
ヴィングの静かな呟きは誰の耳に届くことも無く風にかき消えた。

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