ブラッドエッジ

作者/ 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE



#2 Investigate『捜査』1



「…フー……」

 人造人間にとって必要であるか甚だ怪しいため息を、ノワールは吐いた。

そもそも、最近のノワールは休み無しであった。

第二部隊のエースとして活躍するノワール。頼れる兄貴分だが、心がある以上は働き続ければ無論疲労もする。

右肩にライフルを担ぎ、左手にマシンガンを携え。そのガタイも相まって、外見からは想像もできないが。

 しかし。

「…まぁー、多少めんどいが。そうも言ってらんねえな?」

「当たり前です。只でさえ最近異常に集団暴走事件が多発しているんですから、迅速に任務に移ってください」

 ノワールが着けているイヤホンから、ローズの声。

「へーいへい。ったく、人づかいが荒いぜ…おっと、機械づかいか?」

 がちゃん、と重い銃器の音。

「…増援は、必要ですか?」


「いや、いい。…俺一人で十分だ」


とある研究所裏。

ノワールは今、Sランク一人、Aランク二人の暴走した人造人間と対峙している。


 『断罪者』本部の人造人間でも一部の者しか知らない。本当のエースは誰なのか。

暴走した『断罪者』を処分する役割を持つ第二部隊の隊員は、詰まる所ノワール一人であり、

また、それで十二分だった。

 ノワールの右目代わりの照準が、敵を捉えた。






 ルージュはビル群を徘徊していた。正確には巡回と言った方が正しいだろうか。

時間は半日ほど前に遡る。


「巡回捜査?」

「はい。ルージュには直接街に出向いて、一連の暴走事件の捜査をしていただきます」

そもそもが只の偶然で人造人間が暴走するという事自体極めて稀である。

それにも拘わらず、最近の暴走事件の多さ。挙句見つかった例の端末。

ローズは、今回の事件は人造人間自身の暴走ではなく外部からの原因があると断定した。

「それが事故なのか人為的なものなのかは不明ですが、
 
 少なくとも例の端末が関わっているのであれば人為的なものの筈です」

「ふーん。で、犯人や原因の情報は?」

「現状では、皆無です。その手がかりの収集という意味合いも含めています」

「…だろうね」

 はぁ、と溜め息をつくルージュ。

「現時点で分かっているのは、生半可な設備や知識、及び技術ではこの端末は造れない事と、

 『断罪者』の情報網を駆使しても犯人の尻尾さえ掴めないという事です」

「…一筋縄じゃいかなそうだね」

ルージュは僅かに目を細める。

「現在、Sランクの暴走さえ確認されています。

 SSランクであるルージュ以外には、これを依頼できないのです。…お願いします」

小さく頭を下げるローズ。歯痒そうな、どこか悔しそうなその表情はルージュには見えない。

だが、

「うわ、やめてそんなかしこまらないでなんか気色悪い」

「気色悪いってどういうことですかゴルァ!

 ああ、折角おしとやかな乙女を演出してみせたというのに……」

「ははっ。御冗談を……あべしっ」

 空になったカフェオイルの缶が、良い感じの音を立ててルージュの顔面に直撃。

「…とにかく、よろしくお願いします」

「…りょーかい」


 時間は現在に戻る。

詰まる所そういう経緯で、ルージュはベージュのセーターに大きめのサイズのジーンズという格好で街に居た。

…とは言っても。困ったことに手がかりも何もない。

どんな捜査でもこの段階が一番難しく、また捜査の方向を誤りやすい。

手っ取り早く言えば、ルージュは途方に暮れていた。

そもそもこんな雑踏の中、犯人がいたって特定なんて出来やしないし、またその手段も無い。

考えながら歩くルージュ。


 その時すれ違った紫色の髪の何者かは、異常な電磁波を纏っていた。


「…ッ!?」

 振り返った先には、幾人もの一般人の中に……紫色の髪の誰か。

その後ろ姿は容姿18か19歳くらいの、恐らく人造人間。

纏う電磁波の所為でデータが正しく把握できないが、

人造人間に義務付けられた派手な髪の色、ほぼ間違いない。

服装は黒いワイシャツに、黒いスラックス。

肌が露出している筈の部分の色も、黒。

まるで雑踏の中、その人造人間が歩く道が最初から用意されているかのように、そいつは真っ直ぐと歩いて行く。

ルージュは急いで、その人造人間の後を追い始めた。

 …規定値をを遥かに超えた電磁波。一連の集団暴走事件の暴走の原因は電磁波。

「…可能性は、ある…!」




 これが『断罪者』ルージュと『紫電スパイダー』の、第一の邂逅。







 その様子はルージュを通して、断罪者本部のモニター、オペレーターであるローズの元にも送られていた。

「なッ…何なんですかあの個体は…電磁波の規定値を遥かに超えている…」

ローズは素早くタッチパネルを操作し国内の人造人間製造記録を保存するサーバーにアクセスし

外見、電磁波パターンの特徴から紫色の人造人間の製造番号を割り出そうと試みた。

製造番号さえ分かれば、何処で何時その人造人間が、どんなスペックで製造されたかが直ぐに判明するのだ。

そして、あらゆる手段で検索した結果は―――


「『Unknown』…!?」


 つまり、該当無し。

 つまり、正規の人造人間ではない。個人、或いは団体によって非公式に製造された人造人間。

そして、規定値を遥かに超えた電磁波量。

それらが意味するところは、つまり―――




「紫色の髪の人造人間は、『違法人造人間』……!」