ブラッドエッジ

作者/ 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE



#2 vs白髪ヤローと鉄人兵団。



 広大な面積と圧倒的な高さを誇るビルの屋上。

「何の冗談だ? そんなガール一匹でミーが擁するこの数の人造人間に勝てるとでも?」

言い放った男の名は『白馬叶司郎(シロマキョウシロウ)』。

「思ったから賭けを持ち込んだ」

「…やれやれ、こちらはスケジュールが詰まっているところを

 無名のチンピラの為にわざわざ来てやったというのに。このミーが。

 負けた際はしっかり落とし前を着けてもらうぞ。『実は払えません』とか言うなよ」

「わーってるっての。そっちこそ忘れんじゃねーぞ」

白いスーツに白い髪、頭にかけたサングラス。20代にして裏社会に深く通じ、

このビルを始めとする様々な企業を束ねるIQ200の天才。独特の話し方はその齢にして多くの世界を渡り歩いてきたためか。


 そして彼の左右に控える、総数30もの人造人間。


彼らはIQ200である白馬の統制のもと、精密に着実に確実に決定的に相手を追い詰める。

盤上の全てを、相手よりも何手も先を読む白馬にはチェスでの敗北経験が一度しかない。

あの日の夜あのバーで、紫色の髪の少年に敗北した一度しか。

…らしい。全部タローから聞いた。

「うーん、さすがにCランクといえどこんだけガン首並べられちゃあちょっとキツイ…かな?」

タローは口元に苦笑いを浮かべる。

「ひとつ言い間違えていたが」

うん?と思わずタローは妙な声を上げた。

白馬は不敵な笑みを浮かべる。


「これらはすべてBランク相当なのだ。違法ではあるがな」


 タローの部下が言葉を失う。タローはおそらく目を丸くしている。

「ちなみに、今更賭けの取り消しは不可能だ」

Eランクは家電、Dランクは家政婦、Cランクは警備用、Bランクは『断罪者』クラス。

それが30体。つまり、今私達3人は『断罪者』の小隊3つほどと相対しているのと変わりはない。

「や…やばいって! さすがにこれはマズイですよカズ…むぐ!」

黒スーツの男の口を、タローの右手が塞いだ。

「ばっきゃろ、その名前では呼ぶなってココ来る前言ったろ?

 …で、どうだい? 勝つ見通しとしては」

 タローが私に言ってきた。

確かにBランクぐらいの性能はありそうだ。そこらの人造人間なら多少強くてもこの数の連携で簡単にケリは着くだろう。

けれど。




「…ハッキリ言って話にならない」

 心からの本音。嘘偽りなし。




 今度はあの白髪ヤローが目を丸くする番だった。タローが口元に笑みを浮かべているのは見なくてもわかった。

「いーからとっとと始めるぞ、宇宙語野郎。こっちは早く終わらせてスシ喰うんだ、スシ」

「まだ喰うのかよオマエ」

「無論貴様のおごりだ」

「オイ」

「…いいだろう」

 白馬が、頭のサングラスをかける。


「私は女性には優しくする主義なのだが、相手が人造人間であるならば話は別だ。

 お前達、あれをスクラップにしてしまえ!」

白馬の放った命令と同時に、30もの人造人間が統制された動きで同時に刀を抜いた。


そして、相手に逃げ場を与えないような動きで一斉に私に襲いかかる。

人造人間同士が激突する重い音、金属同士が激突する高い音。

「おや? 早くも勝負がついてしまったかな?」

勝ち誇った笑みを浮かべる白馬。タローの表情は動かない。

と思いきや、不意に、言い放つ。




「ああ、最初からお前の負けだよ三流」

 人造人間達の中心、私には傷一つない。

蛇腹の刀身を自らに巻き付けて、それが盾の役目を果たしていたから。




 真空を作り出し、衝撃波を生み出し、大気の竜が私の周りをのたうちまわる。

それに弄ばれるように人造人間の群れは吹き飛ばされ、まずは幾つかを破壊した。

「な………?」

驚愕する白馬。タローは不敵に笑んでいる。

「すまん、こっちも言い忘れてた。

 …そいつ、SSSランクだから」




「どうした、そんなものか欠陥品共。

 私をスクラップにするって? やれるものならやってみろ!」

私は、高らかに声を張った。