ブラッドエッジ
作者/ 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE

#5 Act secretly『暗躍』3
白い髪を包囲しているのは、暴走した『断罪者』を始末する部隊。
言い表せないくらい好きなのに。機械が初めて好きになった相手なのに。
たとえこっちが機械でも、あっちが機械でも。
それでも、たとえ金属に覆われた人造人間だろうが粉砕する銃口はすべて白い髪をツインテールにした少女に向いている。
叫ぶ。
ひたすらに叫ぶ。
なのに銃口は背かない。俺を羽交い絞めにする仲間が、普段は親しい仲間が憎い。
わかってる。
こいつらだって好きでやってんじゃない。わかってる。でも。
ゆっくり、と。
白い髪をツインテールにした少女はこちらを向いた。
何かを決意したような瞳をしていた少女は俺を見据えて、
微笑んだ。そして。
「 」
そう言って、
一斉に、引き金が放たれて、
少女は粉々に
「xsswderfgthyjuikolp;4r6とぁえ8h9ktfsukvlebin[0sftyuvgorbinjom6e7riacpguhnbo42863pahgrv:u:];l@.aeehvrvnryaヴぉあ;あrwy8gviwua00vnaoir408r:@p」」gsdvwowru902ぐぇおaw][@]r30tgvoegrp!!」
第二部隊のエースは、戦闘に関して言えばSSランクをも凌駕する人造人間は今、狂っていた。
頭を掻き毟り、発する言語は最早言語ではない。
最愛のアイツはどこ? いない? いないいないいない? イナイ?
嘘だ。そんな事はあり得ない。早くアイツを出せ。出さねえってんなら、全て破壊してやる!
何もかも! 何もかも! 何もかも! 何もかm―――
「落ち着け、私だ」
気がつけば、ノワールは透の胸倉をつかみ、今まさに殴りかからんとしていた。
「―――――ぁ…」
ノワールは、しばし呆然とする。
何もかも思い出して、力無く手が離れ、力無く膝を落とし、座り込む。
「大丈夫か?」
「…俺は…」
「暴走した人造人間に包囲された瞬間に、突然命令を無視して見境無く発砲し始めたんだ」
ノワールは自身の手を見る。まだ震えているその右手を。
「…思い出していたのか?」
「…………ああ」
震えは収まらない。震えてる理由はわからない。ただの誤作動なのだろうか?
「…あの時は、ホントにごめんな。あのコを結局助けてやれなかった…」
贖罪のように透は言うが、たとえ謝ったって許されないことだと透は噛みしめていた。
ノワールは何か言おうとした。けれど、何も言えない。
ノワールは断罪者随一の戦闘力を誇る。
だからといって、何故第二部隊の隊員が彼だけなのか。それは。
「…いっそ、他の人造人間が暴走した時のように処分してくれりゃいいのに…」
「…馬鹿言ってんじゃねーよ」
何故か彼だけが暴走しかけても直ぐに復帰すること、そして高すぎる戦闘能力という足枷によってノワールは破壊されずにいた。
その、あまりに重すぎる足枷によって。
アイツ…『ブランシュ』はもうここにはいない、その事実だけがノワールに重く、重くのしかかっていた。
ローズはいつものように、モニター室にいて、数多のモニターの前にいた。
ただいつもと違うのは、今はうつむいている。
ローズは断罪者のオペレーターであり、その任務のすべてを管理し、断罪者たちに指示を出す。
同僚である断罪者が暴走した時に、それを破壊させる指示も。
ある理由によって、ノワールは突発的に暴走する事があるらしい。
だが、ノワールは何故か唯一暴走しても正気に戻れる人造人間だ。
その理由は分からなくても、それならいいと思うかもしれない。
でも。
もし、いつの日か暴走しても戻れなくなったら?
もし、いつの日か彼を破壊する指示を下す、下さなければならない日が来たら?
「…お願い……」
声が、かすれるような声が漏れる。
「……もうやめてよ………」
ローズが絞り出した声はあまりに悲痛で、痛々しくて、弱々しくて、悲しくて。
何度も『その現場』を見てきたからといって、慣れるわけがない。
仲間が破壊される現場なんて、見慣れられるものじゃない。
この時ばかりは、ローズさえも思う。
心まで機械だったらよかったのにと。
ルージュは、屋上に居た。
既に任務を終えたルージュはいつものお返しに、ノワールの分の缶カフェオイルも買っておいたのだが
しばらく待ってみてもノワールは来ない。
「…遅いなあ」
ルージュはとうとう、自分の分の缶を開けた。
ノワールもしばらく前に戻ってきたと聞いたのに、部屋にもいないみたいだったし。
―――今日も、僕は暴走した人造人間を手にかけた。
さっきここまで来るまでの間通りすがった仲間達もその筈だが、
その事から気を逸らそうとしてか素なのか、この制服の出来について講評していた。
確かにこの制服は以前のものより遥かに使い勝手がいい。
音による探索機能、胸元のバッチを押すことで発動する『クリア無効化機能』。
確かにそれは役に立った。けれど。そんな事で気を紛らわすことはできずにいる。
…もしも。
もしもノワールが、ローズが暴走した時も、あんなふうに…?
ルージュはそこまで考えて首を振った。
あり得ない。そんな事は。絶対に。考えたくもない。
高さの違うビルディングの数々を、夕日を見ながら一人缶の中身を啜った。
明後日辺りに、今日破壊した人造人間の遺族のもとへ行こう。

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