ブラッドエッジ
作者/ 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE

#1 ブラックホール胃袋。
「よっ! あんたが『絶影セントピード』?」
「…そうだけど、何?」
雑草を踏みながら歩いてくるその男は、予想通り「裏トゥルーズ」の「代撃ち士」をやってほしいと頼んできた。
金髪、ファーのついたジャケットに大きめのサイズのズボンと、ダウナーな格好に丸いサングラス。20歳くらいのようだ。
「…で、引き受けてくれっか?」
「報酬と相手による」
いつも、私が興味のない依頼は断ることにしている。
つまらない相手と戦っても、『彼』には追いつけない。
それと、折角働いて晩飯代がしょぼかったら私は確実に死ぬ。餓死する。
何よりこの男は……一見、とても私の存在を知っているような、裏社会の深部にいるような人間には見えない。
もしかしたら断罪者かもしれない。金色の髪…あり得る。
だとしたら、叩き斬るだけだけど。
「あ、そういやそうだな。どういう依頼か説明してなかった。ごめんごめん」
そう言うと、男は私に背を向け、
「まー、でもついてくればわかるよ」
「…待て」
ん?、と、男は立ち止まる。
「…まだ名前を訊いていない」
…うーあ、そういえば。と、軽く気だるげに意味もなく呻きを洩らした男は、
「…金子タローっての。よろ」
怪しい。
偽名だ明らかに偽名だ。今、「たろう」の部分絶対カタカナで発音してた。
「…『タロー』って、『太い』に『蝋燭』のろう?」
「あー、うん。多分そんな感じ」
怪しい。
しかしそれ以上にお腹が空いているので、とりあえずはこの男『金子太蝋』についていく。それが最善だと判断した。
そして、いざとなればこの男を解体して喰うのもありだろう。
私が舌舐めずりをした瞬間に金子の全身に謎の悪寒が駆け巡ったことを、私は知る由もなかった。
そうして連れてこられたのは、
「ほ……本当に何を食べてもいいと?」
「おーけーおーけー。奢ってやる」
そこはファミレス(と書いて宝島)だった。
先に席で待っていた黒いスーツの男になんて目もくれないし興味も向けない。
何を食べよう。迷う。とりあえず片っ端から注文。
「…アレ、平気なんですか……?」
「…やっべ、ポケットマネーで足りっかな……?」
金子と黒スーツが耳打ちすることにも、私は全く興味を向けずに。レッツイートレッツイート。
『人造人間って人間の食べ物喰えないんじゃなかったっけ?』
そんな質問はあの日、研究所を抜け出した時に置いてきてしまった。
そもそも、私は『人造人間ですらない』。
数分後、その席の周りは食器で埋め尽くされ、私はひとしきり満足していた。
他の客の変な視線なんて興味なしにつまよーじをしーはーしーはー。
「…どんな胃袋してんですか、こいつ人造人間のくせに……!」
「…スゲェ、会計が7ケタいったよオイ」
金子がレシートを見て顔をひきつらせることになんて興味なしにつまよーじをしーはーしーはー。
「…で、だ。ご満悦のところ悪いんだが、そろそろ本題に入っていいか?」
むむ。ついに来たな。
「まあ、さっきも言った通り。今度行われる『裏トゥルーズ』の『代撃ち士』をあんたにやってもらいたいんだ」
「報酬は?」
「勝てたら500万。日本円でな」
悪くはない。
「敵のランクは?」
「そうだな…Cランク、ってとこじゃないか?」
ふざけているのだろうか。馬鹿にされているのだろうか。
「断る。話にならない」
「x30台、としてもか?」
「雑魚が幾ら集まったって変わらない」
「おいおい、ご飯奢ったのにつれないなあ」
黒スーツが、『Cランクって結構性能良いんすけど…』とか言ったのはぜんっぜん聞こえなかった。知るかこちとらSSS越えだ。
「話は終わりか? なら私は行く」
私はさっさと立ち上がり、相棒蛇腹ノコギリに手を伸ばす。
くだらないことに時間を使ってしまった。あのグラタンっぽいのはおいしかったけど。
「追加報酬で、『 』に関する情報も付けてやる……と、言ってもか?」
その単語に、思わず手が止まった。
「…『代撃ち士』として荒稼ぎしては、すぐに消えていく金。
…その使い道は『情報屋』、だろ? 『 』の情報を求めて」
金子は頬杖をついて、不敵に笑みを浮かべる。黒く丸いサングラスが光を反射した。
「…なぜお前が知っている」
「お前さんがここ最近依頼をした情報屋・小山餡子…通称『化け狐』。
彼女にはウチの組も世話になってるから、さ」
そう、『 』。
彼こそが、私が追い続けている相手。私の旅の目的。私の憧れ。私のヒーロー。私の好きなひと。
「…で、この依頼を受けるか受けないか、もう一度訊こうか?」
金子の笑みが挑発的になる。きっと今私も、それに負けないくらいに笑みを浮かべているのだろう。
「…その『裏トゥルーズ』の日程と時間を教えろ」
「この後すぐだ!」
かくして、不敵な男『金子太蝋(偽名)』と私『絶影セントピード(仮名)』の
『 (通称)』を追う物語が始まった。

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