ブラッドエッジ
作者/ 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE

#7 Centipede『絶影』3
「…そーいやさ」
「にゃひゃっ!?」
顔から火を噴きだしそうなほど極度な緊張に苛まれながらも
今一茶君と二人きりで歩いてるけれどこれってもしかして傍から見たら恋人に見えるのかなにへらーっ
状態だったので、ナオは咄嗟に変な声が出た。
「水川は知ってる? 昨日、断罪者本部が襲撃されたって話」
「えっ……そうなの?」
以前、ナオは紅い髪をした断罪者の少年…もとい、人造人間に助けられたことがある。
つまりその強さも目の当たりにしているため、一瞬その言葉を信じにくかった。
「でも、それってニュースになっていないよね?」
「ネットとかじゃその噂で持ちきりだ。外壁に穴があいたりしてたらしい」
どうしてもナオの脳裏にはあの人造人間が浮かぶ。…無事だといいけれど、と。
そんなナオの表情を見たのか、一茶はナオを頭の上に手を載せる。
「…ま、平気だろ。事実上あそこは日本の軍事力の粋って言っても過言じゃないらしいし」
「そうなの?」
「ああ」
ほぇー、とナオは感心しつつ安心する。
そして気付く。
今、一茶になでなでされている的状態だということに。
「…むきゃーぅ!」
「うわっ!?」
突然奇声を上げるナオに、珍しく驚く一茶。
「…そんな嫌がらんでも」
「い、いいいい嫌がってなんかないよ!」
一茶は軽くため息をつくと、
「とにかく…それより問題なのは、断罪者を襲撃した奴が居たってこと、そっちの方だ」
「…う?」
「その日本の軍事力の粋にテロを吹っ掛けたやつってことは、つまりは相当ヤバい奴らだってことだろ。
しかも厳重なセキュリティをすり抜け、核シェルター級に強固らしい外壁に穴をあけた…って話だ」
「え…まだ捕まってないの?」
「さぁな。それはわからん」
一茶は素っ気なく言った。
会話が途切れ、少し無言が続く。夕日がほぼ落ちた空は深い青。
「あ、そうだ」
「ん?」
「さっきは…その、ありがとうね」
「どういたしまして」
で、また会話が途切れる。
ナオの周りを気まずさが包み込む。
ナオは別に話したいことがない訳ではないのだが、何を話せばいのか分からないのだ。
たとえば、何の飲み物を買ったの?とか、空きれいだね?とか、何の曲聴いてるの?とか、
「…あの、さ」
「ん?」
家はどの辺りなの?とか、バイトとかしてるの?とか、兄弟はいるの?とか、
「…その、一茶君ってさ」
…付き合ってる人、いるの?とか。
今、断罪者本部には各地の断罪者の精鋭と優秀な科学者が招集されていた。
目的は無論、製造スペックランクSSの『彼』、ルージュの修理。
動力中枢は大概が人造人間の胸の中央にあり、
ルージュの場合は撃ち抜かれた箇所が中央よりも少し左に逸れていたため動力中枢の全壊には至らなかった。
が、その4割ほどが欠損したのも事実だった。
予断を許さない状況で、しかしこのクリア先進国・日本の優秀な科学者たちは呆然としていた。
「…凄い……」
「……あれが天才か…」
世界最高の、人造人間と異能力の研究の権威である限前透。その技術を前にして。
並ぶ無数のモニター、タッチパネル。
まるですべて同時に見ているかのようにそれらを駆使して修理のための機械類を的確に繰る。
それも、本来なら数十人でやるような作業をたった一人で。
普段なら口元に咥えている煙草は、今はない。
メンテナンス室ではない、断罪者地下『技術室』。
地下の二階分、その広大な面積に数え知れないほどの機械が並んだ空間。
機械の活動効率を限界まで上げるために0度寸前まで温度を下げられた空間で、
白い息を吐く透は脇目もふらずに修理に没頭する。
数多くのコードに接続されたルージュは眼を閉じたまま。
他の支部の断罪者の精鋭と共に、ベールは本部の警備についていた。
ベールが担当しているのは正面玄関。普段からだが、今日は特に別段誰かが来ることもない。
だが。
道路を渡り歩いてくる二つの人影。そいつらは間違いなくこちらへ向かってきている。
一人は若い男。
ツンツンの金髪をしていて、丸いサングラスをかけている。
服装はファーのついたジャケットにTシャツ、サイズが大きめのズボンに首元にはネックレス、耳にはピアスといった格好。
もう一人は少女。
伸ばされた灰色の髪はとても長い。
目元にクマがあり眠たそうな目をしてはいるが、その顔立ちは整っている。
黒い擦り切れたワンピースに靴代わりに巻いた包帯、首元の真っ赤なリボンと目につくところは幾らでもあるのだが
何よりもまず、ひきずる大きなノコギリのようなものが目をひいた。
「あー、ちょっといい? そこの緑髪の方」
金髪の男が片手をあげ、割とフレンドリーな感じでベールに声をかける。
一見すればナンパに見えなくもない…が、なぜかその男にはそういった雰囲気がない。
「…何か用でしょうか? それと、この施設内への武器およびそれになり得る物の類の持ち込みは厳禁です」
「ああ、いや。そんなに大した用事じゃないんだ。ただちょっと訊きたいことがあってさ」
金髪の男は言う。
「『紫電スパイダー』についての情報が欲しいんだけど」
その名を聞いたベールは思わず身構え、腰の刀に手をかける。
「…貴方達は一体何者ですか?」
「んー? ああ、俺ら? まあ、別にそんなどっかのお偉いさんとかじゃないんだけど…」
金髪の男はサングラスを取ると、言った。
「ハジメマシテ、俺の名前は『黄河一馬(コウガカズマ)』。それでこいつの名前が『グレーテル』。通称『絶影セントピード』だ」
金髪の男のその名は『裏社会の頂点』を示し、灰色の髪の少女のその名は『SSSランクオーバーのUnknown』の一体を示す。

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