ブラッドエッジ
作者/ 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE

#3 Enter secretly『潜入』3
「―――ッ…!」
『氷華スコーピオン』。
「非公式に製造され裏社会にばらまかれたとみられる、計四体の『Unknown(番号無し)』。
『煉獄メイフライ』、『氷華スコーピオン』、『絶影セントピード』…そして『紫電スパイダー』」
―――ローズが言っていた、製造番号UnknownのSSSランクの人造人間の一体…!
「…いきなり呼び出すもんだから、どんな奴が相手かと思えば」
『氷華スコーピオン』…ブルゥは髪を掻く。体躯は大きく、恐らく身長はノワールと同じくらいかそれ以上。
「こんな餓鬼と戦えってのか? 霊零さんよ」
「外見は子供とはいえ、断罪者。油断しない方が良いですよ、ブルゥ」
「ん? …ああ成程。確かにそいつは自衛隊の軽戦闘用装備だな」
サングラスの奥から、見定めるようにルージュを眺めるブルゥ。
ルージュは思わず身構える。しかしブルゥからの言動や行動から伝わってくるものは余裕でも傲慢でもなく。
まるで最初から勝負の行方が決まっているかのような、そんな『平然』。
それがこの氷華スコーピオンの実力を暗に示している様にも、ルージュには思えた。
「…んーじゃ、まあ…ダラダラやってもしょうがねえからよ…」
ブルゥは再度、頭を掻く。
「…とっとと、おっぱじめようぜ」
瞬間、強力な冷気を帯びた風が一帯を吹き抜けた。
「…うん、そうしよう」
しかしルージュは怯まず、なおかつ一片の隙も見せない。
断罪者のエースとして任務を遂行する以上、敗北は許されない。敵前逃亡は言語道断。
その責任感が時に危ういと、SSランクの人造人間は今まで知る由もなく。
軽く体を後ろにひねり、オリハルコンの紅い刀身を覘かせる。
その刃を見た瞬間に、ブルゥが眉をひそめたことにルージュは気付かない。
「…勝負は、どちらかが戦闘不能になるまでです」
迸る冷気、冷え切った紅刃。
ルージュが駆け出して、その『賭け』が始まった。
鋭く尖った、ルージュの身長ほどもある氷の柱がブルゥの足元から幾つも現れて、ルージュに襲いかかる。
ルージュの右目に突き刺さるその寸前。
氷の柱は高い音と共に、深紅の刃に両断された。
しかし切断面から更に、幾つもの氷の槍が襲いかかる。
―――クリアを主軸にして戦うタイプか!
主にクリアを使役する目的で造られた人造人間は、少ない。
クリアとは、言い換えれば『心の力』、『思念の力』、『想いの力』。
人造人間の『造られたこころ』には所詮限界があり、故にクリアを発動した際の出力も限られたものになってしまう。
だからこそ、ブルゥが放つ氷結の一撃一撃が、
彼が氷華スコーピオンと呼ばれるその理由を簡潔に明確に証明していた。
この人造人間、ブルゥは『精神特化型』であるとルージュは結論付けた。
ならば。
接近戦に持ち込んでしまえば、近接戦闘に特化したこっちの土俵だ―――!
左腕の赤い刃が、次から次へと氷槍と切断し、ルージュはブルゥめがけて一直線に突っ走る。
不意に、足元からの一閃。
自身の真下から突き出した氷柱を、やはり両断し、
切断面を足場にして、宙返り。
ルージュとブルゥの距離はわずか80cm、十二分にルージュの間合い。
「はぁッ!」
思い切り左腕を振りかぶり、ブルゥの両脚を切断しようとする。
しかし。
「―――ッ!?」
それよりも早くブルゥが背後の木に裏拳を叩きつけると
上から幾つもの小さな破片の群れが、ルージュに襲いかかった。
慌てて後ろに飛び退くルージュ。
左脚と右の太腿、右腕に左眼が凍りついている。
「紅葉を凍らせたのか…!」
「そしてそれを、木を叩いた衝撃でお前さんに降らせたって訳だ。地の利も利用してこそ、だ」
ブルゥはルージュを指差しながら説明する。まるで戦闘中とは思えないような、
もう勝負が決したかのような態度で。
ルージュは凍りついた部位を、上手く動かせない。
このままではやりづらいにも程がある。
氷を刃で砕くか? ダメだ、そんな事をする瞬間にも攻撃されるだろう。
そしてそれをモロに喰らえば、最悪自分の体を自分で切り裂くことになる。
かといって…
「自然解凍は期待しねぇ方がいいぞ。この辺り一帯の気温を零下まで下げてんだし、第一…」
ブルゥは頭を掻きながら、上空を見上げる。
その行動の意味を見出せずルージュは眉をひそめたが、
次の瞬間に、嫌な予感が全身を駆け巡る。
上空を見上げるルージュ。
空は暗黒、天気は曇天。―――まさか。
「もう分かってはいると思うが、俺の攻撃に触れた対象はその触れた部位が凍りつく。
幾ら人造人間つったって、隅々まで凍結させられたんじゃそら行動不能になるだろうな。
つまり―――もう勝負は決まってんだからよ」
言いながら、天空に向かってゆっくりと手をかざすブルゥ。
そして、人造人間に限らず、ヒトがクリアを使う際に発動の為の補助として放つ言葉…
「『天譴の氷柱(アトラス)』」
技の名前、『クリアコード』を呟いた。
ブルゥの手から放たれた氷の槍が空を翔け上がる。
「…マジ、…?」
ルージュは曇天に目を釘付けにして思わず言葉を洩らす。心なしか、唾を飲み込んだような気さえした。
霰が、闇色の空から降り注いでくる。
―――上空5000m。
そこまで影響を与えるほどのクリアが存在するのか―――!?
「くそッ…!」
脚はこの状態、そして範囲的に当然、避けきれるわけがない。
霰は、地面に着地すると同時に凍りつき。
それが幾つも幾つも連鎖して、3秒もしないうちにルージュを包み込んで。
78秒たつ頃には、天を地を繋げるほどの巨大な氷の柱がその場に聳え立っていた。

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