ブラッドエッジ

作者/ 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE



#6 Run recklessly『暴走』6



 ルージュの両腕が、だらんと力無く垂れる。

ぼろぼろのロビー、辺りには瓦礫が飛散しているからどれがルージュのパーツかはわからない。




確かなのは、ルージュの左胸に大きな風穴が空いていたこと。


 

「いやああああああああアッ!!」

ローズが叫んだ。

透は微動だに出来ない。

そしてルージュは仰向けに倒れた。がしゃんという音と共に、またパーツのいくつかが散らばる。

口は半開きのまま、その目は見開かれたまま、どこを見ているのかわからない。

ノワールはその有様を一瞥する。




だが、やがてローズ達の方を向く。




「―――っ…!」

ベールはローズを下ろし、再び刀を抜き、構える。

「…ローズさん、私が足止めしますからその間に逃げてください」

ベールはノワールから視線をそらさず、構えを崩さないままでローズに言う。

「うそ…るーじゅ、るー…じゅ…」

しかし再度へたり込んで、俯きながらつぶやくだけのローズの耳には届かない。

「早く…ローズさん」

「るーじゅ…こわ、れ…」

ノワールがローズ達の方へ歩み始め、ベールは一層警戒を増す。

「ローズさん、お願いですから早く…!」

「…るー、じゅ…しん、だ…?」

ノワールの両腕が水平に、ベールたちに狙いを定める。


「―――早くッ!」


感情が希薄の筈のベールが遂に叫ぶも、それさえ届かない。

ノワールの指に力がこもり、引き金が











引き金が引かれる直前、ルージュが立ち上がった。









立ち上がる動作は力が無く、ゆらりとしたものだった。

ノワールがそちらを向く。

「―――え…!?」

ベールでさえ、信じられないといった表情をする。

ただ、ルージュはどうやら立っているのがやっとのようだった。

ぐらぐらと不安定で、あろうことかそのままゆらゆらとおぼつかない足取りで、ゆっくりとノワールの方へ歩み始める。

「…ノワー、ル…」

「…ルージュさん、ダメです…!」

ベールの声は聴こえていないようだった。いや、正確には聞いていないようだった。

尚も歩みを進めるルージュ。

そして、ノワールは再度ルージュにライフルを向ける。

あまりにも無防備なルージュ。今引き金を引かれたら、今度こそ頭が吹っ飛んで終わるのは明確。

「……いっしょ、に…」

しかし、それでもルージュはノワールの方に歩いていく。

ノワールはライフルを構えたまま。でも、それでもルージュは近づいていく。

「さん、にん…いっしょに…」

一歩、また一歩。引き金はまだ引かれない。




ルージュはついに、ノワールの目の前に居た。まだ引き金は引かれない。




そして。

ルージュはぼろぼろの笑顔を浮かべる。

「また…さんにんで、おくじょう…」

ノワールの顔に手を伸ばす。

引き金は、引かれない。

「…ずっと、いっしょに……」


ルージュの言葉は、そこから先はなかった。最後まで言い切る事が出来ず前のめりに倒れていく。


自然、意識の途切れたルージュはノワールにもたれかかる形になる。

引き金を引くどころか微動だにしないノワール。

しかし。




「―――ブランシュ…」




ノワールの両手から、銃が、落ちた。

がしゃがしゃあん、と連続して音を立てて。

そして、ゆっくりと目を閉じていき。

ゆっくりと、前にぐらついて。もたれかかっていたルージュも、また。



二人がそれぞれ床に倒れる音がする。

瓦礫の中に、二台の人造人間は倒れた。






 ―――ノワールの暴走によりメンバーの9割超が破壊。この日、断罪者本部は事実上壊滅した。