ブラッドエッジ
作者/ 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE

#7 Centipede『絶影』2
前略、おかあさん。どうしてこんな状況になったのでしょうか。
「…えー…と……」
「………………」
今、私こと水川奈桜はクラスメイトの一茶薫君と並んで歩いています。
時を遡ること10分ほど前。
「ほ、ホントに今日私の家に泊るつもりなの!?」
「おうともよ! 徹夜で作戦会議だ!」
「なんか面白そうだねー。あたしもそうしよっかな?」
ナオにユナ、金髪の女子の三人の少女は住宅街の通りを並んで歩いていた。
ナオと金髪の少女の交流歴は、実は結構長い。小学校からの付き合いである。
お互いの家の両親ともずいぶん顔見知りになったので泊まったりする分には問題はない。
のだが、その議題の内容が内容なためナオは少し混乱気味でいる。
「だ…だから私はべっ別に一茶君のことなんて全然好きでも何でもないんだからねっ!」
「ナオ、口調がツンデレになってる」
「しかもベッタベタじゃん」
「うるしゃいっ!」
本当に混乱気味でいる。
大体そんな感じで歩いていく三人の女子高生に、
「ねえ」
「ん?」
「あ?」
「ぎょば?」
5人ほどの男たちが声をかけた。
「君たち、可愛いね。どこ高?」
外見がいかにも軽そうな男たちの一人が親しげに、悪く言えばなれなれしく訊いてくる。
まったく怯みもせず前に一歩進み出たのは金髪の少女。
その間にユナが早速絶賛おどおど中のナオの前に立つ。
「何? ナンパとかならお断りだけど」
「そんなカタいこと言わないでよ。いいじゃん、ちょっとぐらい。
ね、これから俺たちと遊ばない?」
ナオは、似たような格好でもさっきハンバーガーショップにいた金髪の人とは全然違う印象だなと思う。
ユナは思わず小さく、「古っ……。そしてダサッ」と呟いてしまった。
それがよくなかった。
「あ? おい、お前。今なんつった?」
五人の別の一人が言いながらユナの襟首をつかもうとした時、
「だらっしゃア!」
「ぉぐふっ」
金髪の少女によるとても勢いのよい蹴りが、その男の股間に直撃。
無論、男は股間を抑えてうずくまる。
「てめぇ……」
「空手で県大会にも出たことあるあたしをナメんなぁ!」
ユナが「いや、それ空手だと反則じゃないの?」と突っ込んだのは金髪の少女の耳に入らない。
次の男に、金髪の少女がさらに鋭い蹴りを繰り出す。
が。
その蹴りは男には届かなかった。
「なッ……!?」
というよりも、空中で脚が静止した。
まるで見えない力に抑えられるように。
「へへ…念動力(サイコキネシス)準2級のオレをナメんなよ……」
「くっ………!」
金髪の少女の脚は動かず、ナオは怯え、ユナはただ男たちを睨みつける。
「ただじゃあ帰してやんねーぞ…」
男たちがにじり寄ろうとした時に、何かが彼らの背後から飛び出し音の一人の後頭部を勢いよく殴り飛ばした。
殴り飛ばされた男は抵抗なく地面に倒れた。
うつぶせになったまま立ち上がらないので、おそらく意識はすでにない。
「んなっ……!?」
「えっ」
男を殴り飛ばした少年はナオたちに背を向けていたが、毎日クラスで見かけるその後姿には見覚えがある。
「い…一茶君…」
イヤホンを首から下げた茶髪の一茶薫は左手で少し制服の胸元を緩め、気だるげに男たちを睨みつける。
「あぁ? んだおま」
え、まで言う前に男の顔面にひざ蹴りが突き刺さる。
動揺するもう一人の、念動力準2級らしい男に今しがたひざ蹴りを喰らわせた男を投げつける。
念動力の使える男は咄嗟に投げつけられた男を能力で止めたが、
一茶は素早く静止した男に飛び乗り、念動力を使える男にかかと落としを浴びせる。
「ひぃっ……」
残るは一人。尻餅をついた男の胸倉を掴んで一茶は
「…ねぇ。こいつら、俺のクラスメイトなんだけど」
男は無様に逃げ出し、残されたのは打ちのめされた4人の男と、
呆然とする三人の少女と、やれやれといった感じでイヤホンを着け直す一人の少年。
「お前ら、この時間帯って結構危ないから気を付けろよ」
気だるげな視線で三人の少女を一瞥すると、一茶は立ち去ろうとした、が。
「さんっ…きゅー一茶クン! かっくいーッ!」
「ありがと! てかやるじゃん!」
いきなりの金髪の少女とユナの大声にむしろびっくりしたのは一茶の方だった。
「ていうか一茶クンなんでここにいんの!?」
「いや…普通に飲み物買いに」
見れば確かに左手にコンビニ袋が提げられている。
「ねぇねぇ、一茶君これから用事ある?」
「え、っつーか帰r……」
「これから奈桜んちでさ、作戦会議しようt」
「ぎょば―――――ッ!!」
「むげがご!?」
ものすごい速度で金髪の少女の口を押さえるナオ。
「……ぎょば?」
一方、何かを考えていたユナは唐突に
「あーっ、ごめんなおー、あたしらそういえばきょうようじあったからなおんちとまるのむりだわー」
「え? そうなの?」
明らかに棒読みなその言い方に、しかしナオは疑問を抱かない。
「え? ユナ、何言って…痛い痛い! 耳引っ張らないで!」
「というわけでー、こういうじかんたいってきけんだからいっさくんなおをいえまでおくってあげてねー」
「え…ちょ……え?」
「じゃ、わたしたちはこれでー」
「痛い痛い! ユナ、わかったから耳引っ張るのやめて!」
ユナと金髪の少女は去り。
「…えー…と……」
「………………」
そして、現在に至る。
ナオは緊張のあまり、顔から火が噴き出しそうでいた。

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