ブラッドエッジ

作者/ 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE



#2 Investigate『捜査』3



「ったく、一体何だったんだあの違法ヤローは!」

 がぁん、とゴミ箱を蹴り飛ばすノワール。

「ノワール、落ち着け。物に当たったからってどうにかなるもんでもないだろ」

「落ち着いていられるかよ。あんな危険度の高い奴を捕り逃して」

ルージュの言葉に反論するノワール。ノワールの態度には勿論、ルージュの表情にも焦りの色が浮かんでいた。

「こういう時だからこそ、落ち着くべきだと思います」

ローズが、セラミックの盆に、カフェオイルを三つ載せて来た。

「それにあの違法人造人間の正体も、大体目星がつきました」

「本当か!?」

「あまり私を甘く見ないでください」

身を乗り出す二人に対して、ふふんと得意げに鼻を鳴らすローズ。

いわゆるドヤ顔というやつである。

「とは言っても、結局何処で製造されたのかなど決定的な情報は得られませんでしたけどね…」

テーブルに盆を置きながらローズは苦笑。

「あの違法人造人間は、陽の当らない場所…つまり、裏社会で活動しているものである可能性が高いです」

「それはボク達も予想してたけど、可能性が高いってことは何か根拠が?」

「根拠も証拠も何もない、私もただの予想ですが私の話を聞けばわかると思います」

コップを両手で持ちながらソファに座るローズ。

「まず間違いないのは、あの電磁波の影響力から言って、製造スペックランクはSSSランク相当以上である事」

「SSSランク…」

「ルージュよりも上、存在しないランク、つまり測定不能です。

 …そして、SSSランク相当の人造人間が観測された例は今までに七体」
カフェオイルを口元に運びながらルージュは黙って聞いている。

「一体目は勿論、ノワール。ノワールの場合は戦闘能力面においてのみですが。

 残る六台の内二体は『国連が誇るあの二体』、そして残る四体は―――」

カフェオイルをすするとローズは一呼吸置いて、コトリと小さな音を立ててコップをテーブルに置いた。




「非公式に製造され裏社会にばらまかれたとみられる、計四体の『Unknown(番号無し)』。
 『煉獄メイフライ』、『氷華スコーピオン』、『絶影セントピード』


 …そして『紫電スパイダー』」



「紫電スパイダー…」

「今挙げた中でも特に紫電スパイダーに関しては謎が多く、分かっている事と言えば

 人造人間製造の歴史上でも類を見ない膨大な電磁波の量とわずかな外見特徴ぐらい。

 紫色の頭髪。蜘蛛のように突然現れ、電光のように忽然と消える。
 それが紫電スパイダーです」

「…なるほど。電磁波の量はSSSランク相当、紫色の髪、突然現れ、突如消えた…。

 確かに可能性は高いな」

「SSSランク『Unknown』の四体は断罪者のブラックリストにも記載されています。

 載っているのはあくまでごくわずかな情報ですが」

「何にしても、違法人造人間である以上は断罪者としてボク達がそいつを破壊しなくちゃならない」

 ルージュは澄んだ深紅の瞳で、まるで眼前に敵を見据えているかのようだった。

「無論です。もしかしたら紫電スパイダーが一連の暴走事件の原因かもしれない。

 そこでルージュには紫電スパイダーを追ってもらうことにします」

「現場はどうするつもり?」
「俺に任せておけよ」

 にぃ、と自信ありげにノワールが口角を上げる。

「それに国内の研究所の方から、もうすぐSランク相当の優秀な新個体が配備される予定です。

 なんでも、対電磁波特化型だとか」

「へぇ、そりゃ頼もしいな」

「ええ、ですがやはり事件の解決は早期の方が望ましい。

 という訳でルージュ」


「うん、言われなくてもわかってる。任せて」


 かくして、名も知れぬ人造人間、通称『紫電スパイダー』を追う追走劇は始まった。