ブラッドエッジ

作者/ 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE



#5 Act secretly『暗躍』4



 人が人の手でヒトを創造するなどと、許されることなのだろうか。

「否! 許されて良い筈が無い!」

その老人は声高に叫ぶ。多くの生身の人間が集まった、どこかの講堂のような場所で。

老人の茶色の髪は縮れていて、顔のサイズに合わない大きな丸眼鏡をかけている。

一見すればどこかの民族の衣裳にも見えるその衣服を纏った老人の声はかすれつつも講堂の中に響く。

「『人造人間の創造』、これは我らが主神に対する冒涜であり、許されざる傲慢だ!」

熱弁する老人の口調には怒りさえ混じっているようにも思える。

「このままでは、いずれは人類は自ら滅びの道を行く事は明確!」

老人の後ろには、3人の若者。彼らは不敵に佇む。

「なれば、人類は今すぐ救済されねばならない!」

異邦の研究者である老人は、一層声を荒げる。


「人造人間の根絶によって、『デウス・エクス・マキナ』の誕生によって!」

場内が揺れんばかりに沸き上がった。






「ちょっといいかな」

「はい?」

 断罪者ロビーに居たルージュは、人間に声をかけられた。

確かに断罪者は人造人間を中心にした組織ではあるが、別段生身の人間が本部に入ってはいけないということもない。

透に用件があるようなお偉いさんがたまにこんな感じで訪ねてくることもあるし、

透に用件があるような著名な科学者がたまにこんな感じで訪れることもある。

この白衣にぼさぼさの髪の緑色の瞳の女性も、そういった類の要件で来たのだろうとルージュは予想する。

「何か用でしょうか? インフォメーションであればすぐそこ、透さんに用件がおありでしたら―――」

「ああいや、そう言った要項ではなく…」


 女性が言い終わるか終らないかのうちに、ロビーの天井、壁、床、数か所で大規模な爆発が起きた。


「―――なッ…!?」

あまりに突然で、ルージュでさえ驚く。

「…ここ人造人間の巣窟、断罪者本部を襲撃させていただきに来た――――――」

 断罪者本部の非常時の警報が鳴り響いたのは十数年前以来だという。






「な…何だ、今の爆発!?」

「…下の階…ロビーからのようです」

「襲撃者です、二人は急いでロビーへ迎撃へ当たってください!」

 爆発の衝撃は今ローズ達がいる上層階にまで響いた。

「私はオペレーティングします、二人とも、急いで!」

「わかった!」

「了解しました」

ベールとノワールは非常階段へ全力疾走し、ローズもまたモニター室へと。

壁に寄りかかっていた透は、腕を組んでいる。

「…ついに来たね」

たった一言だけ、そう呟いて。






「…ふぅむ、まだ本部の内装には対クリア装甲を実装していないようだな」

 ぼさぼさの髪の女性は特に重みの無い口調で言う。

「いきなり御挨拶だね、一体お前は何者で何が目的なの?」

きぃん、と赤い刃が姿をのぞかせ、ルージュは完全に臨戦態勢に入る。

「ああ、そうだな。名乗り忘れていた。私は『三日月(ミカヅキ)』という。

 目的については…今しがた言った筈だが」

三日月は両手を広げる。


「ここに居る人造人間達の破壊だ」


空間に突如現れた白い閃光が奇妙な曲線を描いて、高速でルージュに襲いかかる。

当然回避など間に合わない。閃光はルージュを包み込むと爆発を巻き起こした。

「…つまらんな、アレでも本当にSSランクなのか?」
三日月はふー、と溜め息をついて…


煙を引き裂いて、ルージュが飛びかかってきた。


「…アンチクリア機能か!」

五指を開いたルージュの掌が三日月に襲いかかる。






「―――何もんだ、おめーら」

「識別、生身の人間。…状況から鑑みるに侵入者ですね?」

 ロビーに向かうノワールとベールの前に、二人の人間が立ちはだかった。


「んー、しんにゅーしゃってーか、侵略者って―か」

「どうでもいい。それよりもさっさと壊してやるからとっとと壊されろ」


 ジャージを着た青年と黒いスーツを着た青年は余裕を微塵も崩すことなく、彼らの前に立ちふさがる。

『なるべく連携を重視した上で、確実に捕縛してください!』

「言われなくてもわかってんよ! ベール、お前はジャージ野郎を頼む!」

がちゃがちゃがちゃと音を立ててノワールのコートの下から重火器が姿を表し、

ベールは腰に帯刀した刀の柄に手を添える。

「…了解しました」






 上層階、壁に寄りかかり煙草を吸う透。

あくまでも冷静な彼女の前方から足音がする。杖の音と一緒に。

透が視線をやった先に居るその人間は。




縮れた茶髪に大きな丸眼鏡の老人だった。




「…久しいな、限前透」

「………………」

お互いはお互いを見据える。異色の研究者同士の邂逅である。