ブラッドエッジ
作者/ 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE

#7 Centipede『絶影』1
「っつーかさ最近あの教師マジウザくないいちいちねちっこいしさしっかも話し方まで腹立つジャン上から目線でさー偉そうだしほんとあんなのが人を教える立場かよって言いたくなるよねーあそうそうそういえばさこないだ隣のクラスのあの子いるじゃんほらあのちょっと大人しめの子あの子がねー」
「あ、ナオこのシェイク結構おいしーよ」
「ほんと? 私も今度それ頼んでみようかな」
「聞 け し」
奈桜とユナと金髪の、三人の少女は某ファーストフード店にいた。金髪の少女のマシンガントークは通常営業。
今は放課後、彼女らは帰路の途中で寄り道をしているのだ。同じ制服を着ている学生もほかの席にちらほらと見かけられる。
ただ一つだけありえないほどの量のハンバーガーが山を成している空間の奥のほうで
「何だコレはむが、美味すぎるぞもふぁむしゃりごくんもぐばりばり」
「相変わらずどんな胃袋してんだ……ってああおい馬鹿紙ごと食うなよ!」
などと金髪でツンツン頭の若者と灰色のボサボサ髪の少女が何やら言っているのはあまりにも周りから浮いている。
カップルには見えないし、そもそもそれ抜きにしてもなんかおかしい。
特に灰色の方が。
この場にいる客全員が彼らを完全にスルーする方向で一致していた。
「っつーかさナオ、最近どうなの?」
「へ? どうって?」
ナオはオレンジジュースを両手で持ってストローで吸いながら聞き返す。
「だから、ナオの王子様の一茶クンとはなんか進展あった?」
ぶごふぁ、と。容器の蓋が外れるほど盛大にナオは吹き出した。
「お、ビンゴ」
「な、ななななななんでそれを!?」
「いや、見てりゃーわかるでしょ」
「いつも授業中一茶君の方ばっかり見てるもんねー」
言う二人を前にして、ナオはあわわうぇわと耳まで真っ赤にする。
「…で、何か進展あった?」
「いやべっ別に一茶君のことが好きなわけじゃなくてただちょっと気になるかなーって程度でいやホントにだよ
四六時中一茶君のことが頭から離れないなんて全然そんなことないし私なんかが好きになっちゃったら一茶君に迷惑だろうし」
「もうソレどうしようもなく好きなんじゃないすか水川さん」
ユナの左からの冷静かつ的確な指摘を受けて、ナオはあわわわわうぇわわりゃりゃりゃわわぎょばと混乱を極める。
何とかごまかそうとして残りのオレンジジュースを一気に吸って
そして、むせる。
「でも確かに一茶君って結構かっこいいよねー」
ユナがナオの背中をさすりながら言う。
「そうなの? いつも音楽聴いてるか寝てるイメージしかないケド」
「でも結構試験の成績良かったりしてるじゃん」
「あー、そういえばさっき言ってた教師がさ、わざとわからないような問題を一茶クンに答えてみろっていったじゃん?」
「確か、全部一発で完全に正解だったね」
「いやーあの時はよくやった!って思ったねー。見ててこっちまでスカッとしたし」
実は金髪の少女、その教師に授業中にいじっていた携帯を取り上げられたという一件以来その教師を目の敵にしている。
「喋らない割に結構女子から人気だもんねー。でもナオ可愛いし釣り合うんじゃない?」
「え…そ、そんなことないって……」
私、暗いし…と俯きながらつぶやくナオを見て、ユナはほほ笑むと
「大丈夫だよナオ十分可愛いって。自信持ちな」
そう言いながら頭をなでる。
「…よし、決めた! 私ナオ応援する!」
「ふぇ!?」
金髪の女子はいきなり立ち上がると宣言した。
「そうと決まれば作戦会議だ! こうしちゃいられない、ナオ! 今すぐあんたん家行くよ!」
「ふぇぇ!?」
「明日土日だから大丈夫!」
「しかも泊まる気!?」
そう言いつつ立ち上がる三名は、各々の荷物を持って出入り口の方へ行く。
出入り口の方へ行く途中でナオはちらっとハンバーガーの山の方を見たが、
ちらっと見ただけでそのまま出て行ったため
金髪ツンツン頭の若者と灰色頭ぼさぼさ少女のその会話を聞くことはなかった。
「…ホントに食いすぎだろ…お前、自分が女ってこと自覚してる?」
「私に欲情するつもりか。いやん、ケダモノ」
ハンバーガーを咥えながら表情を変えずにわざとらしく胸を隠して肩をすくませる動作をする少女を見て、
若者は最早怒る気力も涌かず普通に呆れる。
少女の顔立ちはとても整っていてまぎれもなく美少女の部類に入るのだが
いかんせんクマがひどく、目も眠そうな俗に言うジト目をしていて、というか目が死んでる。
サングラスをかけた、モスグリーンのジャケットを着た若者は頭に手を当ててため息をつく。
断罪者本部が壊滅した翌日、その街のとあるファミレスにて。
「本当に、断罪者本部に行けば『彼』の行方がわかるんだろうな?」
「ああ。少し前に交戦したらしいぜ」
金髪の若者は両手を頭の後ろに組み足を組みなおすと、言った。
「とりあえず、ソレ食い終わったら行くぞ。『絶影セントピード』」
「その名で呼ぶな。私には『グレーテル』という名があるんだ」
少女の傍らには、蛇腹のような大きなノコギリ。

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