ブラッドエッジ
作者/ 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE

#4 Defeat『敗北』4
「人造人間って、どうして差別されてるのかな」
「はぁ?」
ごく普通の女子高生、水川奈桜(ミナカワナオ)の発言に、二人の少女はほぼ同時に頓狂な声を上げた。
都内の某高等学校。
今は昼休みで、ナオ達3人の女子は一つの机に集まって昼食を食べていた。
ちなみにナオは今朝慌てて弁当を忘れてきたため、食べているのは購買のホットドッグである。
「ナオ、あんた何言ってんの?」
金髪に濃い肌の色のいかにもな女子が言う。
「…この前さ、私が寝坊して遅刻してきた日あったでしょ?」
「あー、あったねぇ」
「実はあの日、暴走した人造人間に襲われて」
「え…ちょ」
「嘘っ!? ちょ、え!? 大丈夫だったの!? 怪我とかなかった!?」
「あわ、いや大丈夫だったよ?」
驚いた二人の剣幕に、むしろナオの方が気圧された。
もう既に察しがついているだろうが、ナオは小心者である。そしてどこか抜けているところがある。
「ほんと? ならいいけど……」
「…っていうか、それがどうして人造人間に対する妙な優しさにつながるのかわかんない」
二人のクラスメイトの箸が再び動き始める。
「…実はね、その時助けてくれたのも人造人間なの」
「ふーん、そうなんだ?」
「ああ、それ知ってる。『断罪者』でしょ?」
「断罪者?」
金髪の女子とナオが、頭の天辺で髪を一つに結った女子の顔を見る。
「そ。暴走した人造人間を破壊する人造人間の組織。暴走人間を利用した犯罪なんかも取り締まってるみたい」
「へー」
「ほぇー」
「…って、授業で言ってたんだけど。あんたら、ちゃんと授業聞いてる?」
「こっそりメールしてたカモ」
「…お…覚えてない……」
「あんたら…。ちなみにナオはその時おもっきし寝てたわよ」
「ふぇ!?」
どうやら、頭のてっぺんで髪を結った少女は優等生の部類に入るようだ。
そしてナオの成績は、もしかしたらちょっぴり残念なのかもしれない。
「とっ…とにかく、人造人間を差別する理由はなんなのかなー、って」
「…別に、それが普通じゃない? 正直考えたこともないわー」
金髪の女子が言った。特に何の思考も巡らさず。
「まーねぇ。そんなことよりナオ、一応勉強しといたらどーよ? 期末近いよ?」
「うげ、そういや来週じゃん…やだなぁ。ユナ、たすけてー。課題が終わんないよう」
金髪の女子が苦虫を噛み潰したような顔になって、髪を一つ結いにした少女は露骨に嫌そうな顔をする。
「課題って、ワークの? だーめ、自力でやりなさい」
「鬼!」
そしてその二人をなんとなく眺めながら、ナオは未だに先程の疑問に考えを巡らせる。
金髪の女子の懇願をあしらう、一つ結いの、ユナと呼ばれた少女はそんなナオの胸中を見てとったのか
「…ナオ。あんたってさ、掃除機とか洗濯機とかに愛情注ぐタイプ?
つまり、そういうことだよ」
その回答に、ナオはやはりどうしても疑問を拭いきれない。
ただひとつわかったのは、
人造人間を人間と対等に扱うのは、世間では『異端』だということ。
ナオは釈然としないまま、ホットドッグを食べることを再開した。
「っつーか、人造人間に助けられたっていっても、やっぱり原因は人造人間なんじゃん」
「結局ナオ、巻き込まれただけじゃない?」
あ、そっか、と妙に納得。
しかし、でも、また疑問は浮かび上がった。
―――その人造人間が暴走した原因は、製造した人間にあるんじゃ……?―――
だが、再びナオは考えることを放棄した。
きっと、こんなことを考える自分がおかしいのだろう、と。
ナオはどこかまぬけであることは自覚していたから、その理由で簡単に自分を納得させることができた。
おそらく一茶君に訊いてみても興味すら示さないだろうと予想し
教室のベランダの柵に背中を預ける男子の方へ視線を向けた。
その少年一茶薫(イッサカオル)はそちらに一瞥もくれず、それどころか普段から周囲に興味を示そうとすらしない。
常に着けているイヤホンは、まるで周囲への関心の無さを象徴にしたようだった。
実は内心密かに、ナオは最近この茶髪の少年に興味を寄せていたりする。そのことはまだこの友人二人にも打ち明けていない。
「あーそうそう。今度男子とカラオケ行くんだけどさ、ナオも来る?」
「ふぇっ!?」
いきなりの金髪の女子の発言に盛大にびっくりするナオ。
危うくナオの手から落ちそうになるホットドッグ。
「ナオって結構男子から人気あるじゃん? 男子集めたいんだよねー、頼むっ!」
「に…人気って…それはどーいう…」
「どうって…モテるってことだよ。
ってちょっとナオ大丈夫!? どしたのいきなり倒れて!」
もう一度言うが、ナオは小心者である。
いきなり椅子ごと倒れた音がする方向に、一茶薫は興味も示さない。
もしかしたら寝ているのかもしれなかった。
無論、人造人間連続暴走事件など関与する由も無い平和な日常の一幕である。今のところは。

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