ブラッドエッジ

作者/ 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE



#8 Death『死神』前篇5



 ローズは断罪者本部内の全ての機器にアクセスできる。

監視カメラに記録されていた、昨日の透と襲撃者の会話もすべて記録されている。

『―――随分と派手にやってくれるじゃない』

その言葉は、威嚇ではなく讃嘆。

『この断罪者本部を相手に加減できるほどの余裕なんて、無いでしょ?』

『あまり私の子供たちをナメない方がいいぜ』

その言葉は、挑発ではなく警告。

『…また随分と派手に壊さないでよ…』

その言葉は、文句ではなく注文。

『どの道、今のあんたは私を殺すことはできない。そうだろ?』

その言葉は、事実。

裏になっていたカードを表にしたように、

タロットのカードを逆位置に―――否、正位置にしたように事実が提示される。

全てが繋がってしまう。

何より、先程の態度とノワールの証言。

「全部…演技だったんですか……!?」

ローズもまた、透を睨みつける。

「全部……貴女の仕業だったんですか!?」




「―――撃て!!」




気が付けば、ノワール達、そして…ローズにも断罪者の精鋭達の銃口が向けられていた。

「っ!」

引き金が引かれる瞬間、ローズは思わず目を瞑った。

戦闘に向いていないローズでは弾丸をかわすことなどできない。

断罪者の人造人間をも粉砕するクラスター砲の弾丸が、ローズに襲いかかる。

爆音がする。

クラスター砲が炸裂する音。ローズは肩をすくませる。

が、ローズは粉砕されていない。

「………え?」




ローズがゆっくりと目を開けると、彼女はルージュの右腕に抱き寄せられていた。

ルージュが弾丸を両断したのだ。




「ルー、ジュ…?」

二の句を継げないローズの顔を見て、ルージュは微笑んで。

「…心配かけちゃったね、ただいま」

「…おかえりなさい、ばか」

ローズもまた、そう言ってルージュの胸に顔をうずめた。

ノワールとシオンの方では、当然のように彼らは無傷だった。

空中に閃光が奔った次の瞬間には、弾丸の全ては切断されていたから。

「クソっ……!」

透は毒づく。

「…本当に無粋だな。無理矢理操られている方にも同情するよ」

シオンがやれやれ、といった表情でため息をつく。




そして彼が一つ指を鳴らすと、他支部の断罪者達は全員ネジが切れたように意識を失って倒れた。




「なッ―――!」

「悪いが、こいつらには少しの間眠っていてもらう。これでアンタからの強制操作は受け付けない」

「強制操作! そういう事か……!」

ノワールが言った。

これで、確定した。

透はこの断罪者にいる全ての人造人間のメンテナンスを行う権限を持つ。

いざという時に自分の命令を聞くように細工するなど容易いだろう。

そして人造人間を強制的に操作することが可能という事はつまり、意図的に暴走させることも可能だと。

「俺の時も…ブランシュの時も、そうやって暴走させたのか……!」

ノワールの顔に、憤怒と憎悪が広がっていく。

「もう、逃げられないぜ? ―――断罪者統括、元『国立異能力研究所』所長・限前透」

静かに。だが、獲物を喰らう寸前のように。

『紫電スパイダー』シオンは宣告した。

透から表情が消える。

「―――っ、」

しかし、やがて笑みをひきつらせ、腹を抱えて狂ったように笑い出す。

「っは、はは、あはははははははははははははっ!」

天を仰いで両手を広げる透。

「ああ、そうだな……。お前達はもう全てを知ってしまった。逃げたりはしないよ……」




下から突如、幾つもの白いグライダーのようなものに乗った人間達が姿を現した。




それらの一つに、三日月達も乗っている。

紛れもない。昨日襲撃してきた茶髪の老人達の軍勢だ。

「ここで全員、廃品にしてやる!」

透が吼えた。

「…紫電スパイダー…いや、シオン」

ルージュがシオンに言う。

「全人類を滅ぼすってのはどうかと思うけどさ、…トモダチを助けるために、今だけは協力してやる」

「…好きにしろ」

ノワールは銃器を拾い上げ、

シオンは仮面を着け、

ルージュはローズを抱き寄せる腕に一層の力を込めた。