ブラッドエッジ

作者/ 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE



#8 Death『死神』前篇4



 断罪者本部は、この付近の建造物の中で一番高い。

その屋上、青い天空に向かってそびえたつそこで

ローズとベールはあまりに唐突な事に言葉も出ない。

ただ、グレーテルは口角を上げて笑みを浮かべていて、

透は歯ぎしりしてその焦燥と動揺を隠せない。

「…やっと姿を現したな……!」

「なんでお前がここに……!!」

一馬と透が言葉を吐き捨てる。

「やっと、起きた……!」

ローズはかろうじて言う。

ノワールの前に佇む二人を目の当たりにして、各々が彼らの名前を呼ぶ。




「紫電スパイダー!」

「ルージュ!」




ルージュは無言でオリハルコンの刃を構え、『紫電スパイダー』シオンは力を込めて手袋を嵌め直す。

「…お前ら……」

ノワールは二人を見上げる。

ルージュは振り返り、ノワールを見ると微笑んだ―――


と思ったら思い切り頭突きをかました。割と本気で。


「痛ってぇ!」

人造人間には本来痛覚は無いはずなのだが。しかし咄嗟にノワールはそう言った。

どういう訳だかいつしかの、ブランシュの一撃と重なるような不思議な感覚がした。

「い…いきなり何だ!?」

「うっさい腑抜け!」

ルージュの復活一発目の言動がこれである。

「腑抜けっ!?」

「さっき起きたと思ったらいきなり目の前に紫電スパイダーが居るわ状況説明されて助けに来てみたら

 なんかお前が拘束されて処刑三秒前だわそんでそんな腑抜けた表情してるわって

 だーれが『メンタル弱い』だよノワールだって他人のコト言えないじゃんかやーいやーいバーカバーカ!」

「だっ…誰がバカだ! バカって言う奴がバカなんだよ! っていきなり何だお前めちゃくちゃ元気じゃねェか!」

「うっさいバーカ!」

その言葉とほぼ同時にルージュが深紅の刃を振るう。

ノワールの拘束が解かれる。

「…ていうか、何で助けに来た」

「ん?」

「断罪者の規則に背いたらどうなるかぐらい……わかってんだろ?」

「やっぱりバーカ!」

「いやなんでだよ!」

「『トモダチ』が黙って破壊されるのを見過ごすよりは、何倍もマシだろ!」

その言葉を聞かされて、ノワールは言葉を詰まらせる。

その辛さを、死ぬほどの苦痛を知っているからこそ反論できない。

「それにノワールが破壊されるいわれはない。…ほら、立てよノワール」

ルージュはノワールに手を差し伸べる。

あの日。ブランシュという人造人間が彼にそうしたように。

「一緒に戦うよ」

「………ああ」

その手を掴んで、死神は今一度立ち上がる。

シオンはその光景を見守っていた。その仮面の下の表情はわからない。


しかし、がちゃりと銃器の音。


シオンは振り返って視線を上げる。

他支部の断罪者達が、再度こちらに照準を定めている。

彼らには表情が無い。まるで、操られているように。

「…紫電スパイダー、貴様ッ……! よくもやってくれたな!」

「折角の感動の場面の最中に、無粋だな」

透がシオンを睨みつけている。その形相は憤怒、惜しみない怒りを露わにしていた。

対してシオンの声は静かで、冷静なままで。

「どこまで、ノワールに教えた……!」

「全てだ」

シオンは静かに仮面を外して、透を指差す。




「―――アンタが俺の電磁波を解析し『トリガー』を造り出し数多の人造人間を暴走させ、
 その権力をもって『デウス・エクス・マキナ』の素材を―――人造人間の残骸を掻き集めていた事も、全てだ!」




「―――ッ!!」

「え………!?」

透は歯ぎしりする。ローズは一瞬、その意味を呑み込めない。

「どう…いう、事ですか………!?」

「…ローズ、私よりもあの違法人造人間の言葉を信じるのか?」

「そこのローズ、って言ったか。あんたは疑問に思わなかったのか?」

ローズはいきなり自分の名を呼ばれびくり、と肩を震わせる。

「昨日の襲撃で、なぜこいつが何の危害も加えられず無事だったのか」

「―――そうか」




それはなぜか。それは…限前透、彼女が昨日襲撃してきた集団の協力者だったから。