ブラッドエッジ

作者/ 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE



#6 Run recklessly『暴走』3



 銃声が鳴る。

ノワールの両の手の長銃から弾丸が連続で発射される。

ルージュは間一髪でそれらをかわす。

あの長銃は、というかノワールの装備は基本的に対人造人間用だ。SSランクといえど喰らえば相応のダメージを受ける。

頭部への、胸部への、脚部への攻撃。その一撃一撃が今のノワールには何の容赦も無い事を示していた。

銃口がルージュの眉間を狙った瞬間、彼の左腕はすでに動いていた。

引かれた引き金。

ルージュの左腕は彼自身の額の前に移動し、紅い刃が弾丸を迎え撃つ形になる。

両断された弾丸。

ルージュは一気に駆け出した。

右左と襲い来る弾丸を、銃口が向いた時点で軌道を計算して避ける。

左腕を振りかぶり、殴りかかる瞬間。

ノワールは両手に持っていた長銃をルージュへ投げ捨てた。

ルージュは予定変更しその二つを切り捨てたが、


その瞬間に対戦車砲を取り出したノワールは迷うことなくほぼ距離を詰めた両者の間の床に強力な一撃を撃ち放った。


「―――――ッ!」

床の破片と衝撃がルージュに襲いかかる。

ノワールは撃った衝撃をむしろ利用し、後ろに距離を取る。

更に対戦車砲を投げ捨て、人造人間をも一撃で葬り去るクラスター砲を取り出し、

撃ち放った。

死神の一撃がルージュに一直線に飛来してゆく。

当たれば内部から人造人間を破壊し尽くす一撃。

衝撃を受けた反動で避ける事が出来ない。


ルージュはその一撃を、横一閃に深紅の刃で薙いだ。


左斜め後ろ方で爆音を伴って着弾し破裂した、分断された弾丸。

その瞬間にはノワールは次の手に出ていた。

先程投げ捨てた戦車砲を再び拾い上げ、弾丸を装填し、

ルージュの頭上の天井めがけて撃ち放つ。

爆音の後、瓦礫が降り注ぐ。

ルージュはそれらの飛礫の間をくぐり抜けるように駆け出す。

が、瓦礫の一つが彼の頭を直撃した。

無論人造人間であるからそれで死にはしないし、眩暈を起こすことも無い。

しかしその衝撃はルージュの視界をほんの少し揺るがすには十分で、

その揺るがされたわずかな時間は、ノワールが再びクラスター砲の引き金を引くには十分だった。

「しまっ――…!」

今度こそ、回避も迎撃も間に合わない。

弾丸が瓦礫の間をすり抜け、一直線にルージュに向かう。




その時だった。瓦礫と一緒に落ちてきた緑色の髪の誰かが弾丸を両断したのは。




驚いた表情を見せたルージュの前に立っているロングスカートの日本刀を持った人物は紛れも無く。

「ベール!」

「ご心配をかけて申し訳ありません。気配を消す為、一時的に『能力無効化』を私の周囲に発生させていたもので」

ベールの『能力無効化』のベースは電磁波を無効化させる能力。

そのお陰で彼女自身が発する電磁波の類も全て無効化されていたのだろう。

「…状況から察するに、ノワールさんが暴走したようでありますが」

「けど、今ローズがその特効薬を持ってこっちに向かってる」

「それはなんと」

「だから、今の僕達の役割はノワールの足止めだ」

ルージュは赤い刃を構え、軽く前傾する。

「…了解です」

ベールもまた、右手で柄を持ち左手を刀身に添え刀を構える。

機械特有の音を立てノワールが機関銃を取り出し、


その連射が始まるのとルージュとベールの両名が左右それぞれに散り走り出したのはほぼ同時だった。


左右の機関銃はそれぞれルージュとベールを狙う。

ルージュは先程の三日月との戦闘の際に生じた瓦礫の山の後ろに回り込み

ベールは転がって弾丸を回避しつつ、駆けてノワールとの距離を詰める。

接近するベールにノワールは機関銃の銃口を向け、


鈍い音と共に、ノワールの背中にルージュの飛び蹴りが炸裂した。


ノワールがよろけるのと、ベールが一歩踏み込むのと、ルージュが着地するのがほぼ同時。

ベールとルージュは、それぞれが両手の機関銃を切断した。

だが、切断されるよりもわずかに早くノワールはそれらから両手を離していた。

取り出した散弾銃の銃撃が、左右の二人に襲いかかる。

「ぐっ……!」

「…………ッ!」

咄嗟に後ろへ跳びはしたものの、所々二人の皮膚に見える部分が抉れて機械の内部が見える。

この勝負、二対一でルージュ達の方が優勢に見えて実際は彼らは劣勢である。

その理由は二つ。

まず一つは元々ノワール、に限らずルージュなどに関してもそうだが、がそうだが、対多人数の戦闘に特化している事。

特にノワールに関して言えば2対1などリスクにはならない。

そしてもう一つ。破壊することができないというのが最も大きなネックであった。

ルージュ達の状況は劣勢のまま。構える2台と1台。




「ルージュ! お待たせしました!」




だが、その状況下、ようやく逆転の一手が、一筋の光明が到着した。

ローズが、特効薬を―――記憶媒体を持ってきたのだ。

「ローズ!」

階段を駆け下り、走ってルージュの方へ向かうローズ。

ルージュの顔に、思わず勝利を確信した笑みが浮かんだ。


が、それはすぐに消えた。ノワールの目線が明らかに、ローズの手に持っている物の方を、記憶媒体の方を向いていたから。


「ダメだ! ローズ、今こっちに来ちゃいけない!」

少々遅れて、ローズはルージュが叫んだその言葉の意図を理解する。

射程が短く狙いを定めにくい散弾銃を捨て、再度クラスター砲を取り出して狙いを定める。

記憶媒体共々ローズを吹き飛ばすつもりだ。

引き金が引かれた、その瞬間。


ベールの下段蹴りがノワールに炸裂した。


ノワールの体勢が崩れクラスター砲の弾丸は狙いを逸れて、ローズには当たらず壁に直撃した。

ノワールは体勢が崩れたことによって隙が生じる。

加えて銃を使用した直後。

次の銃を使用するまでに、次の銃を取り出すまでに若干のタイムラグが生じることは容易に予測できた。

足払い的な型になったことによって、ノワールの体は後ろに倒れていく。

どう考えても、チャンスは今しかない。

「今だ、ローズ! それを僕に投げ渡せ!」

判断能力に優れたローズも同じことを考えたようだ。

弧を描いて、記憶媒体が宙を舞う。

ルージュの手元めがけてそれは飛んでくる。




その瞬間に、ベールは見た。倒れる途中の不自然な体勢から、拳銃を持ったノワールが記憶媒体に狙いを定めているのを。




ノワールは、断罪者一の射程能力を持っている。

ベールが声を出す暇も無く引き金は引かれ、




銃声と共に、ルージュの目の前で最後の希望たる記憶媒体は砕け散った。