ブラッドエッジ
作者/ 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE

#10 Mayfly『煉獄』前篇1
「はじめまして。凄いね、SSSランクなんて!」
ブランシュに初めて話しかけたのは、同じく断罪者の少女。
第二部隊所属。肌の色は無機質だが良く笑う明るい性格だった。
ブランシュも決して暗い性格ではない。二人は引き寄せられるようにあっという間に意気投合した。
決して長くはない期間の間で、彼女らは確実に親友になった。
いつしか、同じベンチに座ってカフェオイルを飲むのは日課になっていた。
「肩の力を入れすぎない方がいい。ただ任務を軽んじることだけは止せよ?」
その断罪者は、当時の断罪者のまとめ役であった。
強大な火力と精密に任務を遂行する能力を持ち、彼の活躍で幾つもの大きな任務が成功した。
Sランクの、当時の断罪者の精鋭。
同時に、部下や後輩の相談にも乗ることが多々あった人格者。
とっつぁん、などと呼んでからかうと「やかましい」と言っていたその人造人間は
ブランシュを含む断罪者の全員から慕われていた。
「ふん、精々俺の足を引っ張らないでくれ」
もう一人の、Sランクの断罪者。
素っ気ない態度とぶっきらぼうな言動の持ち主ではあるが、紛れもない実力者だったという。
そして誤解されやすいが、実は優しい人造人間でもあった。
遠近両方の戦闘に長けた彼は、意外にも精神特化型だったらしい。
彼が率先して単独で難易度の高い任務をこなす理由は、おそらく周りの負担を減らすためだったのだろう。
こっそりと野良猫に餌をあげていた時の彼の笑顔を、ブランシュは忘れていない。
「あっさり死ぬのだけはやめてくれよ……どうでもいいけどさ」
一見すれば無気力なその人造人間の担当は、他の断罪者のメンテナンスや修理、技術担当の全般。
仕事があると聞けばあからさまに面倒くさそうな態度をとる。
しかし実質は断罪者の誰よりも仲間の身を案じ、仕事に真摯であった。
その仕事の量は、他の断罪者よりも圧倒的に多かっただろう。
しかし、彼はそれら全てをただ「めんどくさい」で一蹴し、その全てをこなし続けた。
メンテナンスの後、決まって彼は仏頂面のままカフェオイルを手渡すのだ。
まだまだ、ブランシュにとってはこれだけではとても語り尽くせない。
それだけ彼女の周りは素敵な仲間で囲まれていた。
それだけ魅力的な仲間達が居た。
ブランシュはこの仲間達が集まるこの『断罪者本部』という場所がとても大好きで、
そして、どんな場所よりも大嫌いだった。
それだけ多くの仲間が、ブランシュの目の前で破壊されたのだ。
当時は、第一部隊の仕事が『暴走した断罪者の処分』だった。
初めてブランシュに話しかけてくれた少女はある任務の終わり際に、暴走した原因の影響を受けて自身も暴走した。
そして、華奢な少女はまだ自分の能力の加減に慣れていなかったブランシュに
跡形もなく、粉砕された。
「ねぇ、どう思う?」
断罪者のまとめ役であった彼は、ある任務の最中に彼以外の仲間が全員暴走した。
ブランシュが暴走の鎮圧のために現場にたどり着いた時には
彼は既に、暴走した仲間達に八つ裂きにされ頭を粉砕されていた。
「あたしと仲良くなったそばから、皆消えていっちゃうんだ」
優しいが故に常に一人でいることを望んだ彼は、思考中枢へのハッキングによる暴走に最後の最後まで抗った。
精神特化型だったからこそ抗う事は可能だった。
が、自らの暴走を鎮めることは不可能だった。
自分が周りに危害を加える前に破壊しろと懇願していた。
ブランシュはそれを拒んだ。
しかし、彼がブランシュに襲いかかる『フリ』をした次の瞬間。
反射的にブランシュが放った一撃により、彼の胸と右肩は吹っ飛んでいた。
彼は最期の瞬間、「それでいい」と言って僅かに微笑んだ。
「あたしって、『カワイソウ』なのかな?」
技術担当の彼も、やはりネットワークを介したハッキングにより暴走した。
暴走した彼は、同時にメンテナンス中だった他の断罪者も暴走させた。
暴走した他の断罪者の処分が終わり、戦闘要員でない彼自身の処分はあっけなく終わってしまった。
仕事への誇りも何もかも踏みにじられて、あまりにもあっけなく彼は鉄屑へと姿を変えた。
「でも、そういうのってよくわかんないや」
まだまだ、ブランシュにとっては、これだけじゃ、とても語り尽くせない。
それだけ彼女の周りから彼女のたいせつなひとたちは消えていき、
やがてそんな、素敵な仲間達を破壊した彼女を周りは避けるようになり、
そして、
「ホラ、アタシッテ、ソウイウノコワレチャッテルカラ」
彼女の笑みからは、感情が消えていった。
「初めまして、ノワールといいます。よろしく頼みます」
ある日、断罪者本部に配属になったSランクの人造人間。
自己紹介の時に、その人造人間とブランシュは目があった。
ブランシュが二コリ、と微笑みかけるとノワールもまたにかっ、と笑った。
屈託のないその笑みに、ブランシュはかつての自分を重ねた。

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