ブラッドエッジ
作者/ 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE

#3 Enter secretly『潜入』1
「まずは裏社会に片っ端から探りを入れましょう。可能な限りの違法人造人間及び暴走をもたらす端末を検挙し
一刻でも早く、少しでも多くの『紫電スパイダー』に関する情報を手に入れましょう」
断罪者本部、モニター室。
「ルージュ、この前の暴走事件の犯人が取引相手の口を割りました」
ローズの指令と、タッチパネルを叩く音がモニター室内に反響する。
「あの端末は麻薬取引の交渉材料で、取引は各組織の末端で行われていた模様。
男はこきを使われながらも、自身が所属している組織の実態はつかめていなかった様子で
あの取り引きが成功していたら正式に組織の構成員として認められる、という話だったそうです。
取引相手の特徴は…」
「…この薬をこの辺りで売っていたのはお前か。これを何処で手に入れた?」
どさっ、と誰かが投げ捨てられる音、とある路地裏。
ルージュは深紅の瞳で相手を見据えながら、目の前で尻餅をついている男に問う。
男の外見年齢は20台後半~30台前半くらい、肌は浅黒く髪は茶色のバサバサの髪。
ルージュの抑揚の無い声が男の恐怖心を煽る。
「な…何のことだよ! そんな粉見た事ねえよ!」
男は明らかに動揺しながら必死に叫ぶ。
次の瞬間、壁に深紅の刃が突き刺さる。男の左耳すれすれの位置だった。
「ひッ!?」
「サーモグラフ変化あり、表情、瞳の動きが共に顕著。
…『断罪者』であるボクの前でどれだけ嘘を吐いたって無駄だ」
ルージュの眼がわずかに細くなる。
「『断罪者』…? へ、そうか。てめぇ、人造人間か…」
「? 何がおかしい?」
男が口角を上げ、指を口に咥え思い切り高い音を鳴らす。
路地の壁、扉、抜け道、そこかしこからいかにもガラの悪い男達が現れた。
男達の手には木刀、鉄パイプ、エトセトラ。
「へへへ、『人造人間は人間を殺せない』んだったよなぁ?」
不敵に笑う男達に囲まれたルージュ。更に目を細める。
「安心しな。スクラップには出しておいてやる!」
茶髪の男が吠えたのを合図に、ならず者達は一斉にルージュに襲いかかる。
次の瞬間。時間にして19秒、まさに早業。茶髪の男を除いて、ならず者どもは全員気絶させられた。
茶髪の男は
「え」
と間抜けに声を洩らすことしかできない。対しルージュは
「…安心しろ。峰打ちだよ」
ルージュが右手で茶髪の男の首を持ち上げる。茶髪の男は軽く「ぐぅっ」と呻き
「…もう一度だけ訊く。この薬の出自を」
ルージュの深紅の瞳と左腕の刃が、日陰で妖しく煌めいた。
「…『天堂組』っていうのはお前達か?」
「…あ? おいおいダメだろこんなところに来ちゃ。少年」
夜の港のとある倉庫。二台のトラック。
トラックの周りに黒いスーツを着た強面の男達が数人。男達から10m程離れてルージュ。
「単刀直入に訊く。人造人間を暴走させる端末と引き換えに麻薬を売っているのはお前たちだな?」
キン、と。冷たい音を立てて、深紅の刃がルージュの左腕から姿を現した。
「ッ!、オイ、あのガキ『断罪者』だ!」
「取引は中止だ、新入りどもはあのガキを足止めし…」
黒いスーツの男達は慌てふためく。しかし。
「遅い」
ルージュは0.5秒フラットで20mを駆け抜け、黒服の男達を全員…
否、一人だけ残して峰打ちで気絶させた。
「ッ…!」
一人だけ残された男の首筋に、深紅の刃が添う。
「…お前は天堂組の幹部だな? ボクをお前らのボスの元に案内しろ。
拒否したり、無駄な抵抗をすれば気絶させて強力な自白剤を使わざるを得ない。
但し自白剤は強い副作用を伴い、お前の思考や言語に障害をもたらす恐れがある。
…どっちが得かは、わかるな?」
「…さて、と」
ルージュはふぅ、と溜めていた息を吐いた。
あるビルの一室。暴力団天堂組はルージュに制圧された後だった。
「お前が元締めだな? 訊きたい事がある」
天堂組の構成員が全員気絶させられた中で、唯一意識を保っている男…
でっぷり太った天堂組の長に、ルージュは歩み寄る。
「人造人間を暴走させる端末、その出所について…教えてもらう」
「…断ると言ったら、どうする?」
天堂組の長が言った瞬間。
彼とルージュを隔てていたデスクが両断された。
天堂組の長は顔をひきつらせる。
「…確かに、『人造人間は生身の人間を殺せない』けどね、それは詰まり裏を返せば…」
ひゅぱん、と空を切る音。でっぷり太った男の首の皮一枚が横一文字に裂かれ、血が滲む。
天堂組の元締めは額に汗の球を浮かべ、ルージュは抑揚の無い、冷たい声で、
「殺さなければ何をしても良いってことなんだよ」

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