ダーク・ファンタジー小説
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- この馬鹿馬鹿しい世界にも……【番外編追加】
- 日時: 2025/05/23 09:57
- 名前: ぶたの丸焼き (ID: 5xmy6iiG)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12919
※本作品は小説大会には参加致しません。
≪目次≫ >>343
初めまして、ぶたの丸焼きです。
初心者なので、わかりにくい表現などありましたら、ご指摘願います。
感想等も、書き込んでくださると嬉しいです。
この物語は長くなると思いますので、お付き合い、よろしくお願いします。
≪注意≫
・グロい表現があります。
・チートっぽいキャラが出ます。
・この物語は、意図的に伏線回収や謎の解明をしなかったりすることがあります。
・初投稿作のため、表現や物語の展開の仕方に問題があることが多々あります。作者は初心者です。
※調整中
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ありがとうございますm(_ _)m
励みになります!
完結致しました。長期間に渡るご愛読、ありがとうございました。これからもバカセカをよろしくお願いします。
≪キャラ紹介≫
花園 日向
天使のような金髪に青眼、美しい容姿を持つ。ただし、左目が白眼(生まれつき)。表情を動かすことはほとんどなく、また、動かしたとしても、その変化は非常にわかりづらい。バケガクのCクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。
笹木野 龍馬
通称、リュウ。闇と水を操る魔術師。性格は明るく優しいが、時折笑顔で物騒なことを言い出す。バケガクのCクラス、Ⅱグループに所属する優等生。
東 蘭
光と火を操る魔術師。魔法全般を操ることが出来るが、光と火以外は苦手とする。また、水が苦手で、泳げない。 バケガクのCクラス、Ⅱグループに所属する優等生。
スナタ
風を操る魔法使い。風以外の魔法は使えない。表情が豊かで性格は明るく、皆から好かれている。少し無茶をしがちだが、やるときはやる。バケガクのCクラス、Ⅲグループに所属する生徒。
真白
治療師。魔力保有量や身体能力に乏しく、唯一の才能といえる治療魔法すらも満足に使えない。おどおどしていて、人と接するのが苦手。バケガクのCクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。
ベル
日向と本契約を交わしている光の隷属の精霊。温厚な性格で、日向の制止役。
リン
日向と仮契約を交わしている風の精霊。好奇心旺盛で、日向とはあまり性格が合わない。
ジョーカー
[ジェリーダンジョン]内で突如現れた、謎の人物。〈十の魔族〉の一人、〈黒の道化師〉。日向たちの秘密を知っている模様。リュウを狙う組織に属している。朝日との関わりを持つ。
花園 朝日
日向の実の弟。とても姉想いで、リュウに嫉妬している。しかし、その想いには、なにやら裏があるようで? バケガクのGクラス、IVグループに所属する新入生。
???
リュウと魂が同化した、リュウのもう一つの人格。どうして同化したのかは明らかになっていない。リュウに毛嫌いされている。
ナギー
真白と仮契約を結んでいる精霊。他の〈アンファン〉と違って、契約を解いたあとも記憶が保たれている不思議な精霊。真白に対しては協力的だったり無関心だったりと、対応が時々によって変わる。
現在行方不明。
レヴィアタン
七つの大罪の一人で、嫉妬の悪魔。真白と契約を結んでいる。第三章時点では真白の持つペンダントに宿っている
が、現在は真白の意思を取り込み人格を乗っ取った。本来の姿は巨大な海蛇。
学園長
聖サルヴァツィオーネ学園、通称バケガクの学園長。本名、種族、年齢不明。使える魔法も全てが明らかになっている訳ではなく、謎が多い。時折意味深な発言をする。
ビリキナ
朝日と本契約を結んでいる闇の隷属の精霊。元は朝日の祖母の契約精霊であったが、彼女の死亡により契約主を変えた。朝日とともにジョーカーからの指令をこなす。朝日とは魔法の相性は良くないものの、付き合いは上手くやっている。
ゼノイダ=パルファノエ
朝日の唯一の友人。〈コールドシープ〉の一族で、大柄。バケガク保護児制度により学園から支援を受け、バケガク寮でくらしている。バケガクのGクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。
≪その他≫
・小説用イラスト掲示板にイラストがありますので、気が向いたらぜひみてください。
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.285 )
- 日時: 2022/02/16 14:53
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: JJb5fFUo)
11
「ポイント・セット」
障害物にぶつかってはいけないのなら、馬鹿正直に真っ直ぐに進まずに元からぶつからないように軌道を指定して動けばいいんだ。
「物質変換・光」
自分の体を光に変換。打ち込んだポイントに向かって落雷のように落ちていく。その間は一秒未満。光属性での【瞬間移動魔法】だ。
大量の障害物(記者たち)の間を縫うように抜けていく。視界が一瞬の間で猛スピードで切り替わる。塵同然に見えていた影がどんどん大きくなる。一つ、二つ、三つとポイントごとに体が屈折する。
学園を囲む森の木々の葉すら輪郭を捉えられるようになった、そう思うが早いか、ボクの足は地についていた。
「ッ……。目、閉じておけばよかったかな」
最終ポイントとして指定した正門の前で、ボクは頭を抑えた。視覚情報が混乱して、頭が痛い。それに、吐き気もする。『魔法酔い』だ。
『いやいやいや、おかしいだろ! なんで一回見ただけで真似できるんだ?! てか【瞬間移動魔法】自体高位魔法なのにどうしてお前が扱えるんだよ!』
ビリキナが叫んだ。
「ちょっと、バケガクに入ったんだから静かにしててよ。それに、それを言うならビリキナだって使ってたでしょ、【フルガプ】」
『オレサマのような精霊とただの人間を同じに見るんじゃねえ!
あー、そうだったな、お前はあの女の弟だった。ったく、姉弟揃ってバケモンかよ。どいつもこいつも』
「!」
姉弟揃って、か。
「へへ」
『何にやにやしてんだよ。あの女のとこに行くんじゃねえの?』
「なっ、わかってるよ!」
教師たちはバタバタしていた。おそらく、あの記者たちの対応に追われているんだろう。急に現れたボクにビックリはしても「おはよう」と早口に言うだけで、すぐにほうきで飛んで行ってしまう。
行かないと。
姉ちゃんが近くにいることを再確認して、焦りがぶり返してきた。大きく開いた門の向こうにそびえ立つ校舎に向かって、歩みを進める。
生徒はまばらだ。そういえば、ボクが上空で止まっていたように、他にも何人かバケガクの生徒が登校できずに困って上空に留まっていた気がする。いまバケガク内にいる生徒はボクのように無理やり入ってきたか、元々バケガク寮に住んでいるかのどちらかだろう。
というよりも、まず今の時間帯が登校していない生徒がほとんどなのか。
姉ちゃんは、教室かな? まずは教室に行ってみよう。いつも登校時間が早いし、いてもおかしくないし、なんならその可能性が高い。
姉ちゃんが学ぶ館に入り、階段を上る。人のいない、やけに足音が響く長い廊下を進んでいく。もうすぐに着く、というところで、声が聞こえた。
「私とリュウは、距離を置いた方がいい」
幻覚にしても現実にしてもやけにはっきりと、距離が離れているはずの姉ちゃんの声が聞こえてきた。
「ま、って、おれ、は……」
息が上手く吸えていないような笹木野龍馬の声が、必死に姉ちゃんに訴える。
姉ちゃんたちに見られないように、教室のドアのそばまで音無く近づく。そして、集中して二人の会話を盗み聞きをする。
「こうなることはわかっていた。それはリュウも同じはず。私とリュウは、ずっとは一緒にいられない」
「それは、そう、だけど……」
「実害があった以上、それを無視するわけにはいかない」
「いや、嫌だ! おれは、日向が、貴女がいないと」
「あなたを連れてきたことを後悔はしていない。ごめんなさい、私はそれが出来ない。何が悪かったのかがわからない。私は私の罪を自覚できない」
「違う! 貴女は悪くない! 全部、おれが、おれが!」
「静かに。人がいないとも限らない」
「あ、ごめん……」
二人は何を話しているんだ?『貴女』なんて、笹木野龍馬がそんな呼び方をしているところは見たことないし、聞いたことがない。ボクが知らないだけか? だとしても、あまりにも不自然だ。
「リュウ、聞いて。私達は離れるべき。これ以上一緒にいると、あなたに害しか与えない。これは良い機会なのかもしれない」
「で、も、おれは、独りじゃ生きていけない」
「大丈夫と後押しもできないことはとても心苦しい。
私のわがままなの。ごめんなさい。私は誰かを自分の運命に巻き込む覚悟ができていない。だから、もう、連れて行けない。ここまでしか、無理」
「だけど、おれは……!」
ふう、と吐息が空気を揺らす音が微かに聞こえた。そして、一言。
「もう、疲れたの」
そのたった一言だけで、空気は静寂に包まれた。
「……じゃあね」
姉ちゃんがそう言った直後、椅子を引いて立ち上がる音がした。響く足音がどんどん大きくなる。
まずい! どうしよう。こっちに来てる。でも隠れる場所なんてないし。いや、姉ちゃんのことだからボクがいまここにいることくらいわかっているはず。よし。このまま見つけられよう。
ガラガラッ
「姉ちゃん、おはよう」
「おはよう」
笑顔で言うと、姉ちゃんは無表情のまま言った。
「来て」
話を盗み聞きしていたことを怒るでもなく、姉ちゃんが言った。なんだろう?
「分かった」
拒否なんて選択肢は存在しない。ボクは頷いて、姉ちゃんの背中を追いかけた。
12 >>286
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.286 )
- 日時: 2022/02/16 14:52
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: JJb5fFUo)
12
「……」
「……」
会話がない。
それでもいい。
それでいい?
よくない。
本当に?
違う。ボクは。
「ねえちゃ」
「朝日」
声が重なった。
「なに」
「なに?」
また、同じことが起こった。
「ふ、ふふっ」
ボクは笑った。息が合うって、こういうことを言うのかな。
「姉ちゃん、なに? 先に言っていいよ」
「そう?」
姉ちゃんはボクと肩を並べた。正確には身長差で並んではいないけれど、真上から見たら並んで見えるはずだ。姉ちゃんは高身長で、対してボクは相当な小柄だ。姉ちゃんの胸あたりまでしか背がない。
「さっきの会話。気になることがあると思う。でも、何も聞かないで」
ああ、あれのことか。
気にならないといえば嘘になる。でも、姉ちゃんがそう望むのなら。ボクはそれを拒まない。
「うん、わかった」
「朝日は?」
「え?」
「何、言おうとしたの?」
「あっ、ああ、えっとね」
どうして緊張するんだろう。いつもみたいに、話せばいいだけなのに。
「い、いまから、どこに行くの?」
違う。そんなことが聞きたいんじゃない、言いたいんじゃない。
ああ、さっき、無理にでも先に話せばよかった。寂しかったと、不安だったと。あの勢いのまま、家に記者が押しかけてきた時のまま、思考を恐怖に塗りつぶされたままでいれば、姉ちゃんに突き放されやしないかなんてことを考えずに済んだのに。
「私が過ごしてた部屋」
「それって、寮?」
「違う」
じゃあ、どこなんだろう。でも、姉ちゃんが言う通り、少なくとも寮に向かっていないことは確実だ。いや、まて。あれ? いまボクたちが歩いてるこの道って、進んだ先にあるのってあの部屋だけじゃなかったっけ。
コンコンコン
「入るよ」
返事を聞く間もなく、姉ちゃんは学園長室の扉をガチャリと開けた。
「珍しいね、お戻りになるなんて」
学園長は読んでいた本から目を離し、顔を上げてこちらを見た。
「……誰かを連れているのなら知らせてほしいね」
「気を抜くのが悪い」
ピシャリと言い放ち、学園長の横をスタスタと歩く。
「朝日、おいで」
いつも学園長が座っている大きな椅子の後ろの窓の横の、何も無い、影が落ちた白い壁の前で姉ちゃんは振り返り、ボクを呼んだ。
一応学園長に会釈をして、ボクは姉ちゃんのそばへ寄った。
姉ちゃんが壁に触れた。すると、壁が発光した。目を突き刺すような、意識が霞むような光だった。
ふと、右手にヒヤリとした感触が広がった。見ると、姉ちゃんがボクの手を握っている。そして、姉ちゃんはボクの右手を引いて発光している壁の向こうへと足を踏み入れた。変な感覚だ。これは、隠し部屋という認識でいいのだろうか。
眩む視界の中、脳が揺らされるような激しい光の中で、ボクは学園長の言葉を思い出した。
『珍しいね、お戻りになるなんて』
勘違いかもしれないけれど。
お戻りになる、って、敬語だよね?
13 >>287
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.287 )
- 日時: 2022/02/19 08:55
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: Tm1lqrhS)
13
その空間は、がらんとしていた。姉ちゃんらしいと言えばらしい。白いベッドと引き出しの付いた白い机と白い椅子。そして、果てが見えない、どこまでも続く白い空間。
「ここで、ずっと過ごしてたの?」
「そう」
ベッドの上に座り、姉ちゃんは自分の横をポンポンと叩いた。
「座って」
「え、うん」
戸惑いながらも姉ちゃんの言葉に従う。
ベッドは思ったよりやわらかくて、でも弾力がある。すごく眠りやすそうだ。
「今日の朝、バケガクもそうだけど、家にも来たよね?」
来たというのは、記者のことだろう。
「知ってるの?」
「あいつらの行動は読みやすい。それに、いくらでも動向は探ることが出来る」
あ、それもそうか。新聞とか色々あるもんね。
「様子を見に行こうかとも思ったけど、私が行くともっと大事になるかもしれないって理事長に止められた」
こころなしか顔を曇らせて姉ちゃんは言う。もしかして昨日の時点で家に帰ろうとしてたのって、ボクのことを心配したからなのかな。そうだったら、嬉しいな。
『どうか、幸せに』
あの時の声も、『心配』が滲んでいた。
ズキリと、心臓が痛む。
「姉ちゃん」
昨日みたいに、服の裾をきゅっと掴む。
「お願い。どこにもいかないで」
目尻が熱くなる。泣きたくない。でも、泣きたい。
「うん。どこにもいかない」
冷たい温度が、制服越しに背中に伝わった。ひんやりとした温もり。それは離れがたくて、甘くて、寒くて、暖かくて。しばらくボクは姉ちゃんに抱きしめられたまま、姉ちゃんに頭を、体を、預けていた。
「怖かったね」
ボクの背中を擦りながら、姉ちゃんが囁く。
「辛かったね」
少し低い、聞き心地のいい姉ちゃんの声。
気づけばボクは、泣いていた。
「姉ちゃん」
「なに?」
「姉ちゃん」
「うん」
「ボクね、寂しかった」
「ごめんね」
「ずっと会えなくて、ずっと会ってくれなくて」
「そうだね」
「もうこのまま、一生会えないのかなって、おもって」
「そうだったかもしれない」
「ボクは姉ちゃんに会いたかったのに、誰も許してくれなくて」
「辛かったね」
「わがまま言って嫌われるのが不安だった」
「怖かったね」
「想像しただけで体の震えが止まらなくて」
「うん、うん」
「本当はもっと一緒にいてほしかった。一緒にどこかに出かけたりしたかった。勉強も魔法も教えてほしかった。一緒に遊んでほしかった。理不尽な大人が大嫌い。姉ちゃんは綺麗で強くて、こんなにも優しいのに、ただ白眼だってだけで差別するのが許せない。大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い」
顔を上げて、姉ちゃんを見る。
「大好きだよ」
依存でも偽りの人格でも、ボクは、俺は、姉ちゃんのことが大好きなんだ。昔も今も、これからも。たとえ思い込みであっても、ずっと。
「私、は」
姉ちゃんの瞳が、悲しげに揺れた。どうして?
「朝日が大切。
多分、好きではない、と思う」
姉ちゃんは目を逸らさない。
「私は愛が分からない。その感情を理解出来ない。理解したいけど、それは不可能。だから、朝日のその感情に応えることは出来ない。朝日を大切に思うこの感情すら本物なのか分からない。でも、ね」
ぎゅうっと抱きしめられる力が強くなった。
「大切にしたい。この感情は確かなもの。その結果私も朝日も間違えてしまった。
ごめんなさい」
ボクが苦しんでいたように、姉ちゃんも背負うものがあるのだろう。
震える声が、ボクの耳に届く。
「大丈夫だよ」
ボクは掴んでいた服を離して、姉ちゃんを抱きしめる。細くて冷たい姉ちゃんの体。
「また、こうして会えたんだから。ボクはそれだけで十分だよ」
二度と会えないと思っていた。誰もそれを許してくれなかったから。みんな、みんな、ボクの記憶から『姉ちゃん』という存在を消そうとしていた。誰も彼もがボクを洗脳しようとしていた。心休まる時がなかった。
それでも、いつかまた会えると信じていた。なんの根拠もない、ただ自分を生かし続けるために立てた仮初の希望。姉ちゃんを忘れてしまわないように、毎晩毎晩、少ない姉ちゃんとの思い出を数えて夜を過ごした。姉ちゃんを忘れるのが怖かった。大人の思い通りになるのが気に食わなかった。
ボクが姉ちゃんを忘れたら、姉ちゃんもボクを忘れてしまうと思った。
でも、覚えていてくれた。ずっと気にかけていてくれたんだ。八年間、ずぅっと。これ以上に幸せなことはない。これ以上を望む必要なんてない。
涙は自然と止まった。どこにも吐き出せなかった『何か』が消えて、スッキリした。そして、泣いたせいかまぶたが重い。
意識が消える直前に、姉ちゃんの声が聞こえた。
「お や す み な さ い」
14 >>288
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.288 )
- 日時: 2022/02/26 10:25
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: reIqIKG4)
14
体がふわふわしたものに包まれている、そんな感覚。意識も不安定で、何を考えているのか、自分でも分からない。いや、そもそも何も考えていないのかもしれない。分からない。
ボクは白いような黒いような空間に、ぽつんと浮いていた。冷たくもなく、暖かくもなく、光源の存在しない、明るくも暗くもない空間。光と影が蠢く空間。
ここは、どこなんだろう。
突然、ぐにゅりと影が動いた。それはボクの目の前で形を成す。ただ、それがなんなのかは分からない。人のようにも見えるし、ただの塊のようにも見える。
影が、にたりと笑った気がした。
『君はよく働いてくれている』
ザラザラした声が、辺りに響いた。口の中に砂を含んだような不快感がボクを襲う。
『もうすぐだ。もう少しで、世界はようやくあるべき姿に戻る』
世界? あるべき姿? 何の話だ。
『君が自分の役割を全うした暁には、褒美を与えよう』
いらない。そんなものに興味はない。
ボクの役割? なんだそれ。
『君が望むものを与えよう』
望むもの? 望むもの、なんだろう。姉ちゃんと一緒に過ごすこと。姉ちゃんを知ること? わからない。
『彼女を壊せ。君にはそれが出来る』
彼女? 誰のことだ? わからない。
わからない。
『頼んだよ』
_____
体がふわふわしたものに包まれている、そんな感覚。触れているものはさらさらしていて気持ちいい。
冷たい誰かの手が、ボクの頭を撫でている。
「う……ん」
「おはよう」
姉ちゃんが言った。ぼんやりとした頭を動かして、姉ちゃんを見る。そして、自分の状況を確認する。
ボクはベッドで眠っていた。姉ちゃんがかけてくれたのか、ちゃんと掛け布団も被っている。思った通りだ、すごく眠り心地が良かった。
なにか夢を見ていたような気もするけど、なんだったっけ? ……思い出せないことは大したことじゃないよね。いいや。
「気分、どう?」
姉ちゃんは首を傾げる。
「かなり良くなったよ」
すると、姉ちゃんの表情が変わった。ほっとしたような、安心したような、そんな表情。
胸が苦しいくらいに、熱いくらいに、気持ちが高揚した。
「じゃあ、戻ろうか」
ボクははっとした、そうだ、ここはバケガクで、今日は授業がある。しまった、寝すぎたかもしれない。今は何時なんだろう。まさかお昼時?
「姉ちゃん、いま何時?」
「この空間に時間という概念は存在しない。出ればわかる」
姉ちゃんはボクの手を握った。そして、またあの強い光が空間を支配する。
「また、何かあったら、話して」
光に覆われた道を歩きながら、姉ちゃんがボクを見て言う。
「うんっ!」
姉ちゃんは立ち止まり、ボクの手をぐっと引いた。その勢いに逆らわず足を動かすと、そこは学園長室だった。ボクと姉ちゃんは、学園長室の壁の前に立っていた。
「やあ、おかえり。随分と時間がかかったね」
また本を読んでいた学園長がこちらを見た。薄明るい朝の陽の光が大きな窓から差し込む。
「戻る」
「うん、どうぞ」
「朝日、行こう」
姉ちゃんに言われるがまま、ボクは出口に向かう。
「失礼しました」
裏が知れない笑みを浮かべる学園長に、そう、声をかけて。
「今日の放課後、予定ある?」
廊下を歩きながら、姉ちゃんが言った。
「んー、どうだろ。なんで?」
すぐに思いつく用事はない。意識に引っかかるのはゼノとの勉強会だけど、これはゼノの予定もわからないとなんとも言えない。二人の時間が合う日にしようという話だったから。
「何も無ければ、一緒に帰ろうと思って。朝日が良ければだけど」
「すっごく暇だよ! 何もないよ!! 寄るところもないし、授業が終わったらすぐに帰ろうと思ってた!!!」
ボクは必死に言う。こんなチャンスを逃してたまるか。それに、嘘は言ってない。今日は姉ちゃんが帰ってくるということで、ゼノとの勉強会は今日は無しにしてもらうつもりだった。姉ちゃんの帰宅時間がわからないから、少し迷っていただけだ。
「そう?」
「うん!」
「じゃあ、一緒に帰ろう。えっと」
姉ちゃんが言い淀むなんて珍しいな。どうしたんだろ?
「五時頃朝日の教室に迎えに行くから、待ってて」
そっか、クラスによって授業数や一限の時間数が異なるから下校時刻がずれるんだっけ。
「わかった。待ってるね」
GクラスとCクラスでは、下校時刻の差は大きいだろう。でも、大丈夫。待てる。姉ちゃんと一緒に帰れるのなら、それくらいどうってことない。
15 >>289
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.289 )
- 日時: 2022/02/26 10:26
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: reIqIKG4)
15
「ってことがあったんだよ」
弁当を片手に、ボクは歩きながらゼノに今朝のことを話していた。ただし、学園長室に行ったことやあの変な空間で話したことは省いて。なんとなく言わないでおこうと思ったのだ。
「ヨかッたね、アサヒ」
ゼノはにこにこ笑いながらボクの話を聞いている。
「それにしても、今日はやけに人が少ないね」
周囲を見ながらボクは言う。今は四限目が終わってから少し経ったくらいで、もうみんな、昼ごはんを食べる場所を押さえている頃だ。いつもなら。なのに今日は、流石に誰もいないということは無いが、普段と比べると圧倒的に人がいない。何かあったのかな?
「笹木ノ先輩が登校しテルってこトで、見にイく人が多いみタいだよ。行っテみる?」
「いや、いいよ。興味無い。それより、この機会を活かそうよ。『四季の木』の下で食べよ」
ちょうど近くを通りがかったということもあり、ボクはそう提案した。
『四季の木』は、冬も葉を落とさない。白銀に輝く幹。純白の葉。そしてその葉の間からのぞく、銀灰色の実のような球体。
不思議な木だ。季節によって顔を変える。冬の『四季の木』は特に綺麗だと有名だったが、これなら納得だ。まるで氷の彫刻のごとくそこに佇む大きな木。
「ウん、そうだね」
ゼノも頷いたので、ボクたちは『四季の木』まで歩いた。思った通り、人が少ない。最近は冷えるので外で食べる人も減っているが、『四季の木』は相当な人気スポットなのでなかなか空いていない。でも、今日は空いている。
今日は楽に食べる場所が見つかった。そうほっとすると、昨日同様、また見知った影を見つけた。今度は姉ちゃんではない。ほつれのないさらさらの桃色の髪を風になびかせ、膝の上に弁当を広げてる。『四季の木』の元でぴんと背筋を伸ばして、綺麗な動作でものを口へと運ぶ。その場の神秘的な雰囲気も相まって、一瞬だけ、本当にただ一瞬だけ、見惚れてしまった。
「あれ、朝日くん?」
スナタはボクらに気づいたらしく、箸をとめ、顔をこちらへ向けて言葉を発した。
「久しぶり。そばにいるのはお友達? 初めまして。ⅢグループCクラスの、スナタです。よろしくね」
スナタは座ったままでにこやかに自己紹介を済ませた。
「ワッ、わたしはゼノイダ=パルファノエです。ゴぐるープGクラスです!」
「パルファノエさんか、いい名前だね。良ければ隣どうぞ?」
「では、お言葉に甘えて。失礼します」
「そんなに固くしなくてもいいよ。気楽に気楽に!」
こうも連日続くとなると、明日は東蘭か笹木野龍馬とでも鉢合わせそうだ。
「いい天気だね」
「そうですね」
「ハイ」
今日は雲もなくて風もない。ただ痛いくらいの冷気が肌を刺激するだけだ。
「二人って、仲良いの?」
ボクはゼノを見た。それはゼノも同じで、ボクらは顔を見合わせる。
「えと、たぶん?」
「オソラク」
「自信ないんだ? でも、一緒にお昼ご飯を食べるってことは、結構仲良いんじゃない?」
そう思うのなら、なんでわざわざ質問して来たんだろう。
「喋ることないなあ。ね、なにか話題ない?」
話題か。
「ゼノ、なにかある?」
「ふェっ?!」
そんなに驚かなくても。
ゼノはしばらくうんうんと唸って、ようやく絞り出すように口を開いた。
「きょウも花園セン輩とハ一緒じャナいんデすね」
「ん、ああ、日向? 声をかけようとは思ったんだけどね、教室の前の人垣が凄くてさ、諦めたんだよ。それに聞いた話によると、二人──日向と龍馬の間に不穏な空気が流れてるらしくてさ。そんな状態の日向を誘っても気まずくなる気がしてね」
「ケンカしたんでスカ?」
「いや、それはありえないよ。あの二人が喧嘩なんて、絶対にない」
よほど自信があるのか、スナタは言い切った。確かに朝の会話は『喧嘩』ではなかったけど、どうしてそう思うんだろう?
「何があったかは、大体想像つくけどね」
聞き取れるか聞き取れないかの狭間にあるような声でスナタは言った。どこを見ているのかわからない目は、一瞬、光を失ったように見えた。
なんか、姉ちゃんも同じ仕草をよくしているはず。
「ああ、ごめん。なんでもない。ほら、食べよ! お箸が止まってるよ」
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