ダーク・ファンタジー小説

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この馬鹿馬鹿しい世界にも……【番外編追加】
日時: 2025/05/23 09:57
名前: ぶたの丸焼き (ID: 5xmy6iiG)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12919

 ※本作品は小説大会には参加致しません。


 ≪目次≫ >>343


 初めまして、ぶたの丸焼きです。
 初心者なので、わかりにくい表現などありましたら、ご指摘願います。
 感想等も、書き込んでくださると嬉しいです。

 この物語は長くなると思いますので、お付き合い、よろしくお願いします。



 ≪注意≫
 ・グロい表現があります。
 ・チートっぽいキャラが出ます。
 ・この物語は、意図的に伏線回収や謎の解明をしなかったりすることがあります。
 ・初投稿作のため、表現や物語の展開の仕方に問題があることが多々あります。作者は初心者です。
 ※調整中



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 ありがとうございますm(_ _)m
 励みになります!

 完結致しました。長期間に渡るご愛読、ありがとうございました。これからもバカセカをよろしくお願いします。

 ≪キャラ紹介≫
 花園はなぞの 日向ひなた
  天使のような金髪に青眼、美しい容姿を持つ。ただし、左目が白眼(生まれつき)。表情を動かすことはほとんどなく、また、動かしたとしても、その変化は非常にわかりづらい。バケガクのCクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。

 笹木野ささきの 龍馬たつま
  通称、リュウ。闇と水を操る魔術師。性格は明るく優しいが、時折笑顔で物騒なことを言い出す。バケガクのCクラス、Ⅱグループに所属する優等生。

 あずま らん
  光と火を操る魔術師。魔法全般を操ることが出来るが、光と火以外は苦手とする。また、水が苦手で、泳げない。 バケガクのCクラス、Ⅱグループに所属する優等生。

 スナタ
  風を操る魔法使い。風以外の魔法は使えない。表情が豊かで性格は明るく、皆から好かれている。少し無茶をしがちだが、やるときはやる。バケガクのCクラス、Ⅲグループに所属する生徒。

 真白ましろ
  治療師ヒーラー。魔力保有量や身体能力に乏しく、唯一の才能といえる治療魔法すらも満足に使えない。おどおどしていて、人と接するのが苦手。バケガクのCクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。

 ベル
  日向と本契約を交わしている光の隷属の精霊。温厚な性格で、日向の制止役。

 リン
  日向と仮契約を交わしている風の精霊。好奇心旺盛で、日向とはあまり性格が合わない。

 ジョーカー
  [ジェリーダンジョン]内で突如現れた、謎の人物。〈十の魔族〉の一人、〈黒の道化師〉。日向たちの秘密を知っている模様。リュウを狙う組織に属している。朝日との関わりを持つ。

 花園はなぞの 朝日あさひ
  日向の実の弟。とても姉想いで、リュウに嫉妬している。しかし、その想いには、なにやら裏があるようで? バケガクのGクラス、IVグループに所属する新入生。

 ???
  リュウと魂が同化した、リュウのもう一つの人格。どうして同化したのかは明らかになっていない。リュウに毛嫌いされている。

 ナギー
  真白と仮契約を結んでいる精霊。他の〈アンファン〉と違って、契約を解いたあとも記憶が保たれている不思議な精霊。真白に対しては協力的だったり無関心だったりと、対応が時々によって変わる。
  現在行方不明。

 レヴィアタン
  七つの大罪の一人で、嫉妬の悪魔。真白と契約を結んでいる。第三章時点では真白の持つペンダントに宿っている
が、現在は真白の意思を取り込み人格を乗っ取った。本来の姿は巨大な海蛇。

 学園長
  聖サルヴァツィオーネ学園、通称バケガクの学園長。本名、種族、年齢不明。使える魔法も全てが明らかになっている訳ではなく、謎が多い。時折意味深な発言をする。

 ビリキナ
  朝日と本契約を結んでいる闇の隷属の精霊。元は朝日の祖母の契約精霊であったが、彼女の死亡により契約主を変えた。朝日とともにジョーカーからの指令をこなす。朝日とは魔法の相性は良くないものの、付き合いは上手くやっている。

 ゼノイダ=パルファノエ
  朝日の唯一の友人。〈コールドシープ〉の一族で、大柄。バケガク保護児制度により学園から支援を受け、バケガク寮でくらしている。バケガクのGクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。

≪その他≫
 ・小説用イラスト掲示板にイラストがありますので、気が向いたらぜひみてください。

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.275 )
日時: 2022/07/25 08:13
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: /p7kMAYY)

 5

「ねえねえ、アサヒ。それデ、なにガあっタノ?」
 ボクの姉自慢を聞き終えて、ゼノが言った。

「あ、そうだね。ごめん、今から話すよ」
 忘れていたわけではない、というのは、嘘といえば嘘だし、嘘じゃないと言えば嘘じゃない。姉ちゃんに会ったことで意識の隅に追いやっていたのは否定しないけど。

「どこから話せばいいかな」
 どこまで話せばいいかな。

 姉ちゃんは確実に、先日バケガクで起こったことを秘密にしたがっていると思う。その場にいた全員が口封じの契約を結ばされていたことからもそれは明らかだ。でもボクは契約を結んでいない。ボクはあの日何があったのかをゼノに伝えることが出来る。そういえば、学園長も姉ちゃんも誰も、どうしてボクに口封じをしなかったんだろう。契約はおろか、口外するなとも言われていない。

「ゼノは、どこまで知ってるの?」
 真白のことから話さないといけないのかな。

「確かバケガクの生徒が悪魔化して、校舎を破壊シタんだよね? それで、そノ場には花園先輩と笹木野先輩がイテ……エット」

 なるほど、その辺りか。
 まあ、ボクも真白が暴走した時のことは知らないんだよね。
「そうだね、その辺りはボクも詳しく知らない。あの時は知っての通り、学園長の【転移魔法テレポート】で広場にいたからね」
 そして確か、ゼノは図書室に居たんだっけ?

「うん、覚えてル。あの日アサヒと合流デキテ、スごく安心した」
「ゼノ、少し涙ぐんでたもんね」

 くすくすと笑いながら言うと、ゼノは顔を真っ赤にして黙ってしまった。

「ボクが知ってるのは、バケガク修復について。ほら、校舎を見てご覧。真白先輩が暴れてバケガクが崩壊したはずなのに、まるで何事も無かったかのように元通りでしょう?」
「アッ、それ、噂にナッてたよ。《バケガクよろずの謎》でしょ?」

 急に出てきたゼノの言葉に、ボクは首を傾げた。

「なにそれ?」

「シラナイの? 
 そっか、アサヒはバケガクに入学して一年目だもんネ」

 ゼノはバケガクに入学して六年めになる。姉ちゃんや真白もそうだけど、退学しない限り、Ⅴグループの生徒は在学期間が長い場合がほとんどだ。それは他種族の生物が在学するバケガク故の進級システムが関連する。

 まず、希望者は年度末に進級テストというものを受けることが出来る。その結果次第で進級、飛び級が可能だ。このテストはペーパーテストだけでなく、魔族は魔法実技試験も加わる。バケガクは魔法が全てという考え方ではないのでそれ以外にも進級する方法は無くはないが、基本はこうだ。

 そしてその『テスト以外で進級する』方法の一つに、『在学日数』というものがある。在学日数が三年になると進級テストの合格基準点が下がり、進級しやすくなる。在学日数が五年になると、進級テストがペーパーテストか魔法実技試験のどちらかだけ、あるいは合格基準点をさらに下げることが出来る。

 在学日数が十年になると、自動的に進級出来る。

 寿命の短い種族だともう少し間隔が短くなったり、個人の能力によって例外として多少変わったりするけれど、原則としてはこうだったはずだ。

「デモ、言葉の通リだヨ。《バケガク万の謎》は、バケガクにたくサンアる都市伝説や伝セツノ総称。その一つに、『再生する校舎』っていうのがあるの。誰カがツけちゃったキズなンかが翌日には直っテイたりスるラシいの。
 他にモ『通達の塔』とか、あと図書館にツイテの都市伝説とか、とにカクいッぱいあルンだよ」

 言われてみれば、確かに、バケガクほど歴史もあり特殊な学校なら、都市伝説くらいあっても不思議じゃない。

「そうなんだ。えっと、それでね、このバケガクを直したのは姉ちゃんなんだ」
「そうなの!?」
 ゼノは驚いたようで、目を見開き口を手で覆った。そして口に含んでいた食べ物を飲み込み、言う。
「すごいね……こんなに大きなバケガクを直しちゃうなんて」
 おそらくゼノはわかっていない。きっとゼノは、姉ちゃんが行った魔法をただの【修復魔法】だと思っているのだろう。元の状態に戻すのではなく、あくまで『自分の脳内にある元の形』に戻す魔法である、と。
 まあ、それもそうだ。その【修復魔法】ですら、一人でこの大きなバケガク、そしてあの崩壊具合を元に戻すとなるととんでもない労力が必要となる。誰が【再生魔法】──空間精霊を寸分すらの狂いなく再構築する魔法を使ったなど考えるだろう。そんな魔法が存在することすら知らない人がほとんどに違いない。

「うん。姉ちゃんは凄いんだよ。でも、やっぱりすごく疲れちゃったらしくて、ずっとバケガクで休んでいて、この学園閉鎖期間、家に帰って来なかったんだ」
「そういうコトだったんダね」

 朝のボクの言葉の理由を理解してくれたのか、ゼノは頷いた。
「デモ、今日帰ってくるンだよね。ヨカったね」
「うん!」

 話すのは、この辺でやめておこう。全てを話すにはあまりにも濃い。それにただ単に、知られたくない。ようやく知れた、姉ちゃんの知らなかった部分を教えたくない。

「そういえば、進級試験の勉強は進んでる?」
「むぐっ!」

 ボクが言うと、ゼノは咳き込んだ。

「シ、神話なら、多分デキるか、なあ?」
「それは元から知ってることであって勉強したわけじゃないでしょ? というかそれすらも曖昧で、大丈夫?」
 ゼノは〈呪われた民〉を調べるついでに神話にも興味を持ったらしく、神話の雑学のようなものも沢山知っている。

 ただしその分、授業で習うようなことは度々抜けている。

「がんばッてはイルんだよ?」
「ゼノはFクラスに上がれるのかなー? ゼノが一緒じゃないとボク寂しいなあー?」
「ウッ」

 黙り込んでしまったゼノを見て満足し、ボクはゼノに笑いかけた。

「だからさ、これから時間が合うときは、放課後一緒に勉強会しない? ボクも勉強したいところとかあるからさ」
「イイノ? あ、でも、アサヒって頭いいのに、何を勉強するノ?」
「いやいや、買い被りすぎだよ。ゼノが得意な神話、苦手だし」
「そんなこと言って、『ニオ・セディウムの六帝』言えるデショ?」
「えーと、順番にテネヴィウスプァレジュギスイノボロスドュナーレディフェイクセルムコラクフロァテノックスロヴァヴィス……」
「ほラぁ!!」

 6 >>278

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.276 )
日時: 2022/01/20 19:32
名前: げらっち (ID: 7dCZkirZ)

第一部、RPGの冒険みたいで面白い!
ダンジョンやアイテムボックスの設定も凝っていていいねぇ。
メイン4人のキャラが立っていて、お互い弱い所をカバーしているのもよかった。
日向の殺戮シーンは何度見てもえぐい(←過去の感想でもこれ書いてました)。しかし、腕は蹴っただけで取れるのか?
真白つかえん…スナタがにこやかに真白を諭すのもgood。

第三幕あたりから、「さらさらさら」「じゃぶじゃぶ」「ごそごそごそ」「ぐらぐら」など、擬音語が続いて居るのも特徴的。
「無理、だろうね。」「楽しみで、仕方ない」「嗚呼、楽しい。」などの日向の視点にドキドキしますなぁ。

謎のジョーカー。ボスの下の下の下で、組織の切り札。結構上ってことか?
キャノンボールクラゲェ!!

感想書くの下手だ……

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.277 )
日時: 2022/01/22 09:59
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: feG/2296)

>>276
いつも感想をありがとうございます。

面白いですか、良かったです!
そう言って貰えて嬉しいです。
キャラのバランスは特に苦手としている要素の一つなので、そう言って貰えて嬉しいです。
言ってましたね笑 あのシーンは自分でもギャーギャー言いながら書いてました。お気に入りです。腕のことは気にしないでください。私も疑問に思ってるんです。殺戮シーンを書きなれていなかった頃に書いたやつなのでおかしな点は多々ありますがご了承ください。
真白さんにはもう少しくらいは活躍してもらうはずだったんですがね。あれ?

バカセカは擬音語多いですね。
日向は危なっかしい、しかしそこがかわいい。

ジョーカーについてはようやくもう少しで出てくる『予定』です。ようやく。クラゲェ

感想ありがとうございました!!

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.278 )
日時: 2022/01/26 08:00
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: sqo3oGwV)

 6

 あー、面倒くさいな。

 ゼノと色々話し合った結果、今日から勉強会をすることになった。下校時刻までは放課後でも教室は開放されているから、教室で勉強会をする。これは今回が初めてではないのですんなりと決まった。ただし、ボクはアビア=カシェと先生とで話をしないといけないので、それが終わってから。待っている間、ゼノは図書館にいるらしい。

 本当に面倒くさい。

 一人で教室の席に座って待っていると、アビア=カシェが側へ寄ってきた。
「残ってくれてありがとう。そろそろ先生が来るはずだから、もう少しだけ待っててくれる?」
 言われなくても、今更去るわけないじゃないか。馬鹿なのか?
「うん、わかった」

 愛想笑いは得意だ。

 アビア=カシェはほっとしたように表情を緩める。そしてボクの前の席に座り、体をこちらに向けた。
「朝日くんは、パルファノエさんと仲がいいんだね」
 黙っててくれないかな。別に、ボクは会話がなくても気まずくもならないし不快にもならないんだけど。むしろ会話が不快だ。
「そうだね。話す人はほかにもいるけど、特に仲がいいのはゼノかな」
「そっか。実はね、僕も朝日くんと友達になりたいと思っててさ。良かったら、これから仲良くしてくれると嬉しいな」
「え、ボクと?」
「うん」

 なんで?

「もちろんいいよ。そう言って貰えて嬉しい」
「よかった! 改めてよろしくね」

 ガラッ

「待たせちゃってごめんね!」
 慌ただしく登場したのは担任のロアリーナ先生。通称ローナ先生と呼ばれている女性で、性格のキツそうな顔立ちに反して天然の混じった柔らかな性格の、占いが得意な先生だ。

 ロアリーナ先生はボクたちが座っていた席の近く、正確にはアビア=カシェの隣に座った。すると、ボクが二人と対面する形になった。少し距離や座る位置を調整したあと、ロアリーナ先生が切り出した。

「何を話すか、もう聞いてる?」
「いえ、特には」
「あら、そうなの?」
「はい」
 ロアリーナ先生は疑問符を顔にうかべてアビア=カシェを見て、それからボクに言った。

「話したいことはね、朝日くんのお姉さんのことなの」

 ゾワッと全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。すぐには消えない悪寒の余韻が気持ち悪い。
 なんだ? 何が聞きたい? 話したいってなんだよ何を話すつもりだよ嫌だ嫌だこっちに来るな近寄るな踏み込むな踏み荒らすな。

「カシェくんがね、朝日くんのことを心配していたの。それで自分に出来ることがないかってまずは私のところに相談に来てくれて、それで、朝日くんがどうして欲しいのかを聞こうって話になったの」

 ボクは自分から姉ちゃんのことを打ち明けたことは無い。けれど苗字も同じで名前も似ているし、髪色や髪質も似ている、それに姉ちゃんが悪魔祓い師の家系なことは有名でボクの魔法適性もそちらに傾いているので、ボクと姉ちゃんの関係に気づくことは容易だ。ボクは姉ちゃんと違って、姉ちゃんの弟であることを隠しているつもりは無い。大っぴらにひけらかすのは姉ちゃんが望まないから、『自分から』言わないだけだ。

「朝日くん。もし、もしよ? もし何か悩んでいることがあるのなら、教えて欲しいの」
 ああそうか、ロアリーナ先生は少なからず人の心が読めるんだっけ。それで『勘違い』したんだな。
「悩んでることなんて、ありませんよ」
 あったとしても、お前らに言うもんか。
 お前らに、何が出来るっていうんだよ。

「急に話してって言われて混乱するのはわかる! でも、信じて欲しい。僕と先生は本気で朝日くんのことを心配してるんだ!」
 アビア=カシェが言った。

 だから? 心配してて、それがなんだって言うんだよ。迷惑でしかない。なにもありがたくない。なにも。
 あー、なんて言おう。面倒くさいな。いちいち関係を悪くしないためにどうするべきか考えないといけないのが本当に面倒くさい。
 いっそ怒鳴り散らして、教室を飛び出してしまおうか。

「これ、見て」
 そんな風に思考を巡らせていると、ロアリーナ先生が持っていた紙、資料を広げた。
「知ってる? バケガク保護児の話」
 ボクは頷いた。その話は以前ゼノに聞いたことがある。

 周知の事実、バケガクには様々な生徒がいる。姉ちゃんみたいに自分の力を隠している生徒、笹木野龍馬のような天才や、真白のような根本から全てに劣っている生徒。

 そして、ゼノのような複雑な生い立ちを背負う生徒。

 ある意味ゼノはボク以上の苦労人だ。ゼノみたいな特殊な事情を抱えた生徒は在学中や卒業後、生活することすら困難な場合が多い。そんな彼らを救うべくして出来た制度が、バケガク保護児制度だ。
 厳密な審査に受かって保護児になると、奨学金や寮、個人に合った冒険者ギルドのクエストの手続きなど、学園側から多大な支援がもらえるらしい。保護児の主な就職先は、バケガク職員だそうだ。

「実はね、そのバケガク保護児になるための条件に、朝日くんも該当する場所があるの。ここを見て」
 ロアリーナ先生が指した部分には、こう書いてあった。
『聖サルヴァツィオーネ学園 保護児の条件
 …………
 ・家庭内に、生徒に肉体的又は精神的に危害を加える恐れのある者がいる場合
 …………』

 紙を埋め尽くすかのごとくびっしりと並べられた文字の中で、その文言だけが目に入ってきた。

 怒りは湧いてこなかった。こんなことにはもう慣れた。
 怒りは湧いてこなかった。その代わり、ため息が出た。

「じ、実際にどうなのかは、僕たちにも分からないよ。でも要は、審査を通り抜けられればそれでいいんだ。朝日くんのお姉さんは、きっと朝日くんから学園に申請すれば、きっと学園も認め」
「いらない」

 ボクはアビア=カシェの言葉を断ち切って言った。笑みを浮かべて、アビア=カシェを見た。
「ボクね、幸せなんだ。ずっっっと姉ちゃんと離れ離れに暮らしてたんだ。わかる? 八年間だ。八年もの間、ボクは最愛の姉に会うことを許されなかったんだ。ようやく会えたんだ。姉ちゃんに、やっと。
 それを邪魔するな」

 もっとオブラートに包むつもりだったのに。まあ、いっか。こいつらを怒らせてしまったとしても、ポクには関係ない。ボクには姉ちゃんさえいればそれでいいのだから。

「失礼します」
 そう声をかけて、何か言っている二人を残して教室をあとにした。

 7 >>279

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.279 )
日時: 2022/01/29 08:00
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: iTqIkZmq)

 7

 ゼノの姉は、〈呪われた民〉だった。

〈呪われた民〉というのはいわゆる蔑称で、種族を指すものではない。彼らは突然変異で生まれてくる。
 白い髪に白い瞳、白い肌に、額には蒼の水晶。寿命は短く、死ぬと大地が凍る。近くにいる者は〈呪われた民〉が放つ魔素に耐えきれず、耐性のない者は酷い場合は命を落とすこともある。
 そんな彼らを快く思う者など、誰もいない。今でこそ〈呪われた民〉は誕生せず、おとぎ話の中の存在と化しているが、実際に彼らに会ったことがある者はたまったものじゃないだろう。

 しかし、ゼノはそうではなかったらしい。ゼノは姉を慕っていたそうだ。
 姉は一族の領地にある隔離塔に幽閉され、滅多に会うことは出来なかったとゼノは言っていた。ボクたちが親しくなったのは、そういう似た境遇に立っていたという親近感が始まりだった。
 姉ちゃんも昔、今の家ではなくじいちゃんたちの家で一緒に住んでいた頃は、一人だけ離れに隔離されていた。だからボクもゼノと同じように、姉ちゃんとは簡単には会えなかったのだ。

 ゼノの姉は、自身のことを理解していた。なぜ自分が生まれたのか、〈呪われた民〉とはなんなのか、この世界のこと、神について。けれどゼノにそのことは語らなかった。話すことは許されていないことだと、拒んだそうだ。

 だからゼノは姉が知ったことを知るべく理解すべく、〈呪われた民〉に関する書物を読んでいる。
 今日もきっとその目的で図書館に行ったのだろう。ゼノを迎えに来たことは何度もあるので、ゼノがどのコーナーにいてそれがどこであるのかも地図を見なくてもわかる。

 自分自身で何かを読むために訪れることはほとんどない図書館の中を、迷うことなく進む。

 ほらいた。
「ゼノ」
「ひゃアっ」
 驚いて肩を大きく動かし、ゼノはおそるおそるこちらを見た。
「ふふ、ごめんね。先生たちとの会話終わったよ」
 数秒固まっていたゼノだったが、特にボクに恨み言を言うでもなく笑みを見せて言った。
「ソッカ、じゃあ教室戻ロうか」
 それどころか申し訳なさそうに声を小さくしてボクに謝罪する。
「ワザワザ往復させチゃっテ、ゴメンね」
「いいよいいよ。行こう」

 そんなゼノは嫌いじゃないけど、時々、変なやつに目をつけられやしないか心配になる。

「チョッと待ってて」
 ゼノは持っていた本を本棚に片付けて、二冊ほどを貸出口まで運んだ。どうやら借りるつもりらしい。あの本は前にも借りていた気がする。前にもと言うよりも、何度も。

 在学する生徒の総数を考えると図書館にいる人は少ないのかもしれない。しかし何処であろうと視界を向ければ十人は目に入る程度には、図書館に人はいた。そういえばバケガクの図書館って世界的にも有名なんだっけ?

「おマたせ!」

 ぼんやりと何気なく思考を回しているとゼノが戻ってきたので、ボクたちは教室へと向かった。
 あの二人は、もう教室からはいなくなっただろうか。いたとしても無視すればいいか。重要な話でもしてればさすがに空気を読むけど、同じ日に臨時で誰かと話してさらに何か話すことなんて滅多にないだろうし、大丈夫だろう。

 道中ヒソヒソとボクらを、ボクを見て話す連中をいくつか見かけた。あれは図書館に向かうまでにも見たし、なんなら最近はよく見かける。真白の件が原因かなぁ。いくらなんでも真白あいつは派手にやり過ぎた。それは別にいいけど、そのせいでこっちにまで飛び火が来るのは鬱陶しい。あの事件の直前に真白と関わっていたから仕方ないと言えばそれまでだけど。
 それに、ボクが姉ちゃんの弟だということが広まりつつある気がする。あぁ、大分前に新聞記事になっていたから、それかな。そっか、今もボクを誰かが見ているんだな。気持ち悪い。

 しかしそれ以外には特に目立ったことは起こらなかった。教室の中にも誰もいない。それぞれ自分の席に座り、教材をだす。
「テスト範囲ってどこからだっけ?」
 昼に話していたので『神話史』の教科書をパラパラとめくりながらゼノに尋ねる。
「え、アサヒってわたしトテスと範囲違うよネ?」
「うん、だから、教えるからどこが分からないか教えて」
 ゼノはそんなこと考えてもいなかったと表情で語っていた。そして、遠慮してるのかおずおずと自分が開いたページをボクに見せた。
「ニオ・セディウムの始めノ方だカら、百四十一ページだよ。わからないところは」
 そこで言葉を切り、言いにくそうにボクに言う。
「えと、ホトンド……」
「え?」
「わたしがトク意なのはAの時代でアッてSの時代じゃないカら、Sの時代の部分は簡単な流レくらイシかわかんない……」

 そうか、ゼノが調べているのは〈呪われた民〉で、それは主にAの時代に大量発生したから、そうなるのか。
 そしてボクたちGクラスの進級テストは、各教科の基本しか出ない。つまり神話史だと始まりの辺り、Sの時代の序盤くらいしか出てこないのだ。

「わかった。じゃあ、一緒に見ていこうか」

 8 >>280


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