ダーク・ファンタジー小説

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この馬鹿馬鹿しい世界にも……【番外編追加】
日時: 2025/05/23 09:57
名前: ぶたの丸焼き (ID: 5xmy6iiG)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12919

 ※本作品は小説大会には参加致しません。


 ≪目次≫ >>343


 初めまして、ぶたの丸焼きです。
 初心者なので、わかりにくい表現などありましたら、ご指摘願います。
 感想等も、書き込んでくださると嬉しいです。

 この物語は長くなると思いますので、お付き合い、よろしくお願いします。



 ≪注意≫
 ・グロい表現があります。
 ・チートっぽいキャラが出ます。
 ・この物語は、意図的に伏線回収や謎の解明をしなかったりすることがあります。
 ・初投稿作のため、表現や物語の展開の仕方に問題があることが多々あります。作者は初心者です。
 ※調整中



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 ありがとうございますm(_ _)m
 励みになります!

 完結致しました。長期間に渡るご愛読、ありがとうございました。これからもバカセカをよろしくお願いします。

 ≪キャラ紹介≫
 花園はなぞの 日向ひなた
  天使のような金髪に青眼、美しい容姿を持つ。ただし、左目が白眼(生まれつき)。表情を動かすことはほとんどなく、また、動かしたとしても、その変化は非常にわかりづらい。バケガクのCクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。

 笹木野ささきの 龍馬たつま
  通称、リュウ。闇と水を操る魔術師。性格は明るく優しいが、時折笑顔で物騒なことを言い出す。バケガクのCクラス、Ⅱグループに所属する優等生。

 あずま らん
  光と火を操る魔術師。魔法全般を操ることが出来るが、光と火以外は苦手とする。また、水が苦手で、泳げない。 バケガクのCクラス、Ⅱグループに所属する優等生。

 スナタ
  風を操る魔法使い。風以外の魔法は使えない。表情が豊かで性格は明るく、皆から好かれている。少し無茶をしがちだが、やるときはやる。バケガクのCクラス、Ⅲグループに所属する生徒。

 真白ましろ
  治療師ヒーラー。魔力保有量や身体能力に乏しく、唯一の才能といえる治療魔法すらも満足に使えない。おどおどしていて、人と接するのが苦手。バケガクのCクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。

 ベル
  日向と本契約を交わしている光の隷属の精霊。温厚な性格で、日向の制止役。

 リン
  日向と仮契約を交わしている風の精霊。好奇心旺盛で、日向とはあまり性格が合わない。

 ジョーカー
  [ジェリーダンジョン]内で突如現れた、謎の人物。〈十の魔族〉の一人、〈黒の道化師〉。日向たちの秘密を知っている模様。リュウを狙う組織に属している。朝日との関わりを持つ。

 花園はなぞの 朝日あさひ
  日向の実の弟。とても姉想いで、リュウに嫉妬している。しかし、その想いには、なにやら裏があるようで? バケガクのGクラス、IVグループに所属する新入生。

 ???
  リュウと魂が同化した、リュウのもう一つの人格。どうして同化したのかは明らかになっていない。リュウに毛嫌いされている。

 ナギー
  真白と仮契約を結んでいる精霊。他の〈アンファン〉と違って、契約を解いたあとも記憶が保たれている不思議な精霊。真白に対しては協力的だったり無関心だったりと、対応が時々によって変わる。
  現在行方不明。

 レヴィアタン
  七つの大罪の一人で、嫉妬の悪魔。真白と契約を結んでいる。第三章時点では真白の持つペンダントに宿っている
が、現在は真白の意思を取り込み人格を乗っ取った。本来の姿は巨大な海蛇。

 学園長
  聖サルヴァツィオーネ学園、通称バケガクの学園長。本名、種族、年齢不明。使える魔法も全てが明らかになっている訳ではなく、謎が多い。時折意味深な発言をする。

 ビリキナ
  朝日と本契約を結んでいる闇の隷属の精霊。元は朝日の祖母の契約精霊であったが、彼女の死亡により契約主を変えた。朝日とともにジョーカーからの指令をこなす。朝日とは魔法の相性は良くないものの、付き合いは上手くやっている。

 ゼノイダ=パルファノエ
  朝日の唯一の友人。〈コールドシープ〉の一族で、大柄。バケガク保護児制度により学園から支援を受け、バケガク寮でくらしている。バケガクのGクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。

≪その他≫
 ・小説用イラスト掲示板にイラストがありますので、気が向いたらぜひみてください。

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.85 )
日時: 2021/04/17 09:54
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: wECdwwEx)

 2

 舞弥姉が食事を取りに部屋を出た直後に、声が頭に響いた。
『何で血を飲まねえんだよ。理性吹っ飛ばそうぜ』
 なんでだよ。
『俺が体を乗っ取りやすい』
 知ってる。だから飲まないんだ!
『そうでなくても、おまえが理性飛んだところは見てて飽きねえからな』
 それも含めて嫌なんだ!!
『つまんねえの』
 それで良いんだよ。
 おれの両親は、人間と〈吸血鬼ヴァンパイア〉。おれはいわゆる、〈半怪人ハーフ〉。ハーフには様々な『異形』が生まれるが、その中でも、特におれは特殊とされている。
 ヴァンパイアとしての血と、人間としての血の割合が、ほぼ一対一。しかも、その両方の『良い部分』のみを受け継いでいるのだ。
 具体的に言うと、一般的なヴァンパイアの、人間とはかけ離れた優れた能力を持ち、なおかつ、太陽の光に弱いといった、ヴァンパイアの弱点がないのだ。
 適応属性が闇ということもあり、≪光の御玉みたま≫や≪聖水≫には拒否反応を示してしまうが、そこを含めても、他のヴァンパイアと比べると、弱点が異様に少ない。
 故におれは幼い頃から、〔邪神の子〕として、期待に包まれて育ってきた。
 それはいい。
 だけど、不満が一つある。
 血を飲むと、理性が飛ぶのだ。
 良いところ、というのは、ヴァンパイアたちが欠点としている部分以外、ということだ。
 他のヴァンパイアたちは、自分の理性が飛ぶことをさほど気にしてはいない。それはごく普通のことであり、恥ずかしいことではないからだ。
 感情をコントロール出来るに越したことはないが、おれの家系の本家の祖父ですら、完全なコントロールは出来ない。
 そして、おれは、理性が飛んだときの記憶が残る。
 別に、それ自体も問題ない。
 要は、日向の目の前で理性を飛ばすのが嫌なんだ。
 思い出すのも嫌な記憶が、おれの頭の中で再生される。
 苦い味が、口の中に広がるのを感じた。
『てかさ、なんでそこまであいつに気を回すんだよ。理解できねえ』
 こいつに思考を読まれることには、もう、諦めた。
 理解してもらう必要はないので、おれは無視した。

 どどどどどっ

 突如、部屋の外から、大きな音がした。

 ばあん!

「お兄様!」

 大きく開いたドアの向こうから、特徴的な、やや青紫色の光を帯びた黒髪の、ドリルツインテールの少女、ルアが現れた。
「ノックはしような?」
 おれは努めて笑顔で言った。それに対し、ルアはわずかに頬を赤らめた。
「お兄様に、すぐにお会いしたかったものですから」
「ルアが来たってことは、明虎あきともいるのか?」
 すると、ルアは機嫌を損ねたらしく、そっぽを向いた。
「あんなやつ、知りませんわ」
「そう言うなって」

 どどどどどっ

「ルアー! 抜け駆けすんじゃねえよ!!」

 先ほどのルアと全く同じ動作で、明虎が部屋に入ってきた。
 新緑を思わせる鮮やかな緑色の髪に、おれは目を細めた。
「ふん! 出来損ないの人間が、ヴァンパイアのすることに口を出すんじゃありませんわ」
「はあっ?! おれと龍にぃは実の兄弟だぞ!? ただの従妹のおまえこそ、口出すんじゃねえよ!」
 ぎゃいぎゃいと元気に喚く弟と従妹の声で、おれの耳は痛かった。
「なんの騒ぎ?」
 舞弥姉が、またジャストなタイミングで部屋に入ってきた。
 天の救いだ!
「龍馬、朝食を持ってきたけど、あとにする? こんなに騒がしいと、ゆっくり食べれないでしょう」
 じと、と、舞弥姉が二人を睨む。途端に、部屋は静かになった。
「あら? 舞弥さん、お兄様の朝食が、何故、人間が口にするものですの?」
 ルアが厳しい口調で言った。
「龍馬のリクエストよ」
 舞弥姉はそう言って、机に次々と中身の入った食器を並べていく。
「お兄様?」
 おれはため息を吐いた。
「おれは血に関しては潔癖なんだ。誰のか知れない血なんか、飲みたくない」
 ルアは腑に落ちない様子だったが、しぶしぶ頷いた。
「そう、そうでしたわね。それなら、仕方ありませんわね」
 ぶつぶつと、自分に言い聞かせるように、繰り返し唱えていた。

 3 >>86

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.86 )
日時: 2021/04/16 20:52
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: wECdwwEx)

 3

『おい』
 なんだよ。
『めっちゃ見られてるぞ』
 それくらい、わかってるよ。
 おれは食べる手を止め、スプーンを置いた。
「ルア、明虎」
「はい!」
「なに?」
 瞳をキラキラと輝かせ、二人がおれの言葉に応える。
「後でちゃんと遊んでやるから、向こうで本でも読んでろ」
 おれがぎっしりと本で埋め尽くされた本棚を指差すと、二人はむうっとむくれた。
 なんだ?
 二人の(成長速度を考えて比べたときの)年齢はおれよりも低いが、ヴァンパイアの家系に属しているにふさわしいだけの知能が備わっている。少々二人の年代には合わない本もあるが、内容は理解出来るはずだ。何が不満なのか。
『二人の年代には合わないって、いかがわしい本でもあるのか?』
 ねえよ! ばか!
「お兄様」
「龍にぃ」
「ん?」
「「ばかあ!!」」
 そう同時に叫ぶと、仲良く(?)二人で部屋を飛び出していった。
「舞弥姉、おれ、なんか悪いことした?」
「あのね、龍馬。二人は、龍馬とお喋りしたかったのよ。遊びたいのももちろんだけどね」
 あー、なるほど。
『あーあ。せっかく慕ってくれてるのになー』
 お前に言われたかねえよ!
「食べ終わってからでいいから、二人のところに行ってあげなさい。なんだかんだ言って、龍馬のことが大好きなんだから」
 大好き。その言葉にくすぐったさを感じ、おれは自分の頬がかすかに緩むのを感じた。
 舞弥姉が微笑ましそうにおれを見ているのに気づいて、すぐにそれを消したけど。
「うん、わかった」
「あ、でも、ちゃんと味わって食べなさいよ。食材にはきちんと感謝して」
「それもわかってるから!」
 おれは舞弥姉の言葉を遮り、食事を再開した。

 4 >>87

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.87 )
日時: 2021/04/25 08:37
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: AUvINDIS)

 4

 おれは食事を終えて、二人がいると思われる、居間に向かっていた。
『別に行かなくてもいいだろ。ほっとけよ』
 そんなことしねえよ。おまえと一緒にするな。
 懲りずに何度も言われて、そろそろおれもイライラしてきた。
 ろうそくの火だけが点々と灯る、暗く長い廊下を歩いて、おれは目当ての部屋に到着した。
『なんでわざわざガキのために五分もかけて移動するんだよ。呼べば来るだろ、あいつらなら』
 だから、おまえと一緒にするな! 反吐が出る!
『きったねえな。吐くなよ?』
 言葉の綾だ!
 頭の中で押し問答を繰り広げながら、おれは扉をノックした。

 コンコンコン

「ルア、明虎? 居るか?」
 そう言い終わるや否や、勢い良く扉が開いた。
「げっ」
 目に飛び込んできた巻き毛の黒髪。
 気の強そうな紫の瞳と目があって、思わず声が出た。すぐさま肩に腕を回される。
「お姉さまに向かって『げっ』はないでしょう?」
『相変わらず香水臭い女だな』
 おれはなんとも思わないが、一般からするとかなり強い力で、華弥かや姉はおれの首を絞める。かなりほっそりとした体型であるにも関わらず。体を流れる血がほとんど吸血鬼なだけある。
「華弥姉、離せよ。ってか、なんでいるんだよ。男と暮らしてんだろ?」
 なにかわけありなのはすぐにわかった。吸血鬼、ということを念頭に置いても、華弥姉の顔は青白い。
 華弥姉は、空いている右手で演技めいた動作をしながら、やれやれと首をすくめた。
「あんなの、ポイよ。聞いてよー。あいつったらすっかり太っちゃってさ、血が不味いのなんの。つい最近まで健康的だったのにね。私まで太っちゃうわ」
「つい最近って、何十年前だよ。成長速度が全く違うんだから、仕方ないだろ? 学習しろよ」
 言った直後に、後悔した。
 おれはあまり、この人(吸血鬼)が得意ではない。やたらとベタベタ絡んでくるタイプは、苦手だ。
「人間の血が一番美味しいんだって! 栄養価も高いしね。知ってる? 美しい人間の血を飲み続けると、若返るんだって! ちょっとあんた、バケガク通ってんでしょ? しかも、なんだっけ? Ⅱグループ? って、優良物件多いんでしょ? あんた顔も外面そとづらもいいんだから、交友関係広いでしょ? 良さそうなの何人か見繕みつくろってきなさいよ。そうね、女がいいわ。あごがつかれないし。とにかく美味しい血を飲んで、口を洗いたいのよ」
 一度にまくし立てられ、おれは自分でも、げんなりとしているのを感じた。
『あごの心配するって、こいつも老けたな』
 こいつの相手をしているというのも、その理由の一つだろう。
「やだよ、めんどくさい」
「てかさー、なんであんたは血を飲まないわけ? 潔癖性とは言うけどさ、他のことはそうでもないじゃない? 綺麗好きとは思うけど。
 この屋敷の貯血庫ちょけつこにあるのは、どれも一級品だし、保存方法にも細心の注意を払ってるから、舌の肥えてないあんたには十分すぎるほど美味しいわよ?」
 おれの話を聞いているのか。
 いや、それよりも。
 華弥姉は話すことに意識を向けているらしく、おれの首を絞める強さが弱まった。
 すぐさま、振りほどく。
「それなら、華弥姉がその血を飲めばいいだろ。好きなだけ口を洗え」
「舌の肥えてない、って言ったでしょ。あたしはSランクの血を求めてさ迷ってるのよ。一級品とはいえAランクの下の方の血なんか、飲めたもんじゃないわ」
 舞弥姉が聞いたら、怒るだろうなあ。食材には感謝って。
 食材、か。
「舌の肥えてないおれに、華弥姉の舌を満足させる逸品を見極められるわけないだろ」
「はあー。冷たいわねえ。だからあの二人もへそを曲げてるのよ」
 華弥姉は、くいっと親指で部屋の中央の椅子に座る、ルアと明虎を示した。
 特に何をするわけでもなく、茶色い革製の大きなソファに腰かけて、うつむいている。
 さっきから騒いでいたのだから、おれが来ているのには気づいているはずだ。なのに、一向にこちらを見る気配はない。
 おれは二人に近づいて、机を挟んだ向かい側に座った。
「ルア、明虎」
 一瞬だけ、目が合った。
「「ふんっ!」」
 明らかに拗ねている。
「ごめんな、二人とも」
『謝んなよ。悪いことしてねえだろうが』
「おれ、ちょっと疲れてたのかな。八つ当たりみたいなもんだ。ごめん」
『む、し、す、ん、な!』
「お詫びに、今日一日、二人がやりたいことに付き合うよ。それで機嫌を直してくれないか?」
 沈黙が、この部屋を支配した。
『はーあ。このヘタレ。クズ。なあーにが『ごめん』だよ。悪いのはそいつらだろうが。あほらし。こんなガキ相手に頭下げんじゃねえよ!』
 おれの頭の中以外。
「じゃあ」
 ルアが口を開いた。
「読んで欲しい本がありますの! 異国の言葉で、わたくしには読めませんから」
「そっか、わかった。後で一緒に取りに行こう」
「はい!」
「あ、おっおれは!」
 慌てたように明虎が言った。
「魔法教えて欲しい! 火属性の攻撃魔法!」
 火属性か。
 おれの適応属性は闇と水。しかし、明虎に教えるくらいのものならば、一人前以上に使いこなせる。
「ああ、いいぜ」
「剣術も教えて! あと、一緒に鬼ごっこしよ! それからかくれんぼと、えっと、えっと、あっそうだ! ステータス見せて!」
「ちょっと明虎! 多すぎますわよ!
 お兄様! わたくしもまだしていただきたいことがありますわ!」
「わかったわかった。とりあえず落ち着け。順番に一つずつやっていこう。おれの体は一つだぞ?」
 おれはいま、苦笑いを浮かべていることだろう。
 しかし、全く、苦い感情はわき出てこない。

 世界は、これを、『幸せ』と呼ぶのだろうか。

 5 >>88

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.88 )
日時: 2021/10/03 19:13
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: OypUyKao)

 5

「ふわーあ、じゃああたしは寝るから、あんまりうるさくしないでよ」
 華弥姉が大きくあくびをした。
「棺桶にでも入ってりゃ良いじゃねえか。そのためのもんだろ?」
 明虎が言った。その通りだ。おれも何度も頷き、同意を示す。
「寝心地が悪いのよ。ただでさえ最近まともに食事してないんだから、のびのびと寝るくらいさせてよね」
「華弥さんは、睡眠が深い方ですから、よほどのことでない限り起きないのではないですか?」
 おれはルアの言葉にも、同じように同意を示した。

 ごんっ

「いって!」
 突然、頭に衝撃が走った。
「なんでぶつんだよ!」
「お姉さまに向かって失礼でしょう!!」
「なんでおれだけ?!」
 それと、お姉さまってなんだよ!
「もう、華弥ねぇ! 早く寝ろよ!」
 明虎が、華弥姉をぐいぐいと押しやり、部屋の外へ追い出した。ナイス!
「ええっ! ちょっとぉ」

 ばたん!

「明虎、ナイスファインプレー!」
「へへっ」
 明虎は、得意気に人差し指で鼻の下をこする。
「じゃあ龍にぃ! 何からする?」
 おれは少し考えた。
「ステータスを見せるのを最初にするよ。一番手間が少ないしな。ちょっと待ってろよ。
 ステータス・オープン」

 ふおんっ

 淡い青の光が、部屋全体に行き渡る。
 大量の文字の羅列の中から、おれは操作用のボタンを探しだし、情報を一部、非表示にする。
 ふと視線をそらすと、明虎とルアが、そわそわした様子で、おれの手元を見ていた。
 無意識に、笑みがこぼれる。
 ステータスは、スキル【鑑定】を使うか、特定のアイテムを使うかしない限り、本人の同意なく、見ることは出来ない。二人の目には、青みがかった白い横長の長方形の無地の画面しか写っていないはずだ。にもかかわらず、この状況。
『こいつら、ばかかよ』
 黙れ。
「良し、出来たぞ。
 ステータス・オープン・リリース」
 ぶうんと音がして、一瞬、画面が光る。
「どうだ、見れたか?」
「うん!」
「はい!」
 二人に見えているステータスは、こうだ。

『【名前】
  笹木野 龍馬

 【種族】
  ハーフ〈ヴァンパイア/人間〉

 【職業】
 ・魔術師  level358
 ・剣士   level179……

 【使用可能魔法】
 ・水属性
  └水魔法
   ├攻撃類
   │└水矢……
   └応用類
    └害物排除……
 ・闇属性
  └拘束類
   └ブラックホール……

 【スキル】
 ・空間同化 level23……

 【称号】
 ・世界に優遇されし者
 ・邪神の子……』

「すげえ! すげえ! すげえ!」
「それしか言えませんの?」
 ルアはあきれた口調で言う、が、ルアも興奮しているらしく、その目のきらめきのせいで、あまり効果はなかった。
「お兄様、さすがですわね! 職業のレベルが全て三桁を越えていらっしゃいますわ!
 それに、スキルも! いくつか30に迫っているものもありますし、さらには越えているものまでありますわ!」
「使える魔法もめっちゃ多いし! 技見せてもらえないのが残念だけど」
 明虎がぼそっと言った。
「ごめんな」
 明虎が言う技とは、例えば剣技などの、魔法を使わない(使うものもある)技のことだ。おれは技を修得しすぎていて、ステータスに表示するとややこしいので、非表示にしている。
「ほお、これはすごいな」
 後ろから声がした。全員気配を感じ取っていたので、特に驚くこともなく、振り向く。
「父さん、起きたのか」
「父ちゃん! 見ろよ! すごいだろ!」
辰人たつとさん、おはようございます」
 全員が口々言ったことで、父さんは少し困惑しながらも、穏やかな笑みを浮かべた。浅葱あさぎ色の瞳に、優しい光が灯る。
「おはよう、皆。朝から元気だね。そういえば、ルアちゃんは寝てなくていいのかい?」
「言われてみれば、そうだな。ルア、どうしてこんな時間から起きてるんだ?」
 吸血鬼は、夜行性。ルアはおれと違い、正真正銘の吸血鬼。おれたちが住んでいるこの屋敷は、大陸フィフスにある。大陸フィフスは年中特殊な雲(諸説ある)に覆われ、太陽の光が届かない。故に、昼間に起きていても何ら問題はないのだが、生物は、摂理にはどうしても逆らえない節がある。だからこそ、華弥姉は眠りに行ったのだ。
「お兄様にお会いしたかったものですから。
 普段からわたくしとお兄様は生活リズムが合わず、当然ながら、あまり会うことが出来ません。ですが、疲労したお兄様がお帰りになったと聞いて、きっとぐっすりお眠りになるのだと思って、起床時間と就寝時間を調節し、お目覚めになるのをお待ちしていたのですわ」
 これには苦笑せざるを得なかった。なんとも、正確に行動を予測されている。
 いまルアが言った通り、おれは普段、一般の人間と同じような生活をしている。一日おきに目覚め、寝て、また翌日に目覚め、寝て。
 しかし、おれに吸血鬼の血が流れているのは事実。吸血鬼は、一度眠ると、少なくとも一ヶ月は眠ったきりになる。そこまで疲れがたまることはほとんど無いが、おれは疲れていた。ありがたいことに、バケガクも《サバイバル》後は二週間ほど生徒に休みを与えている。理由は、おれのような生活リズムの感覚が人間よりも遅い種族の生徒の休息ためと、教師たちの後片付け。
「わたくしも、今朝起きたばかりですのよ。真弥さんに、この日に起こすようお願いしていましたの。お兄様はだいたい一週間ほどでお目覚めになられますから」
「なあ、ルア。おれって、そんなに行動に変化ないのか?」
 ルアの目が泳ぐ。
 これはある種仕方の無いことなのだ。なんせ、
『面白味の無いやつってことだな、はっはっは!』
 こいつが! いちいち! おれの行動に文句をつけるから!
 今朝だって起こされたし!
「ルアは本当に龍馬が好きなんだね」
「それはもう。お慕いしておりますわ」
 そう言ってルアは、おれにもたれかかる。
「おっおれだって龍にぃのことすきだぞ!?」
 負けじと明虎もおれに抱きつ、いや、しがみついた。
 父さんは目をほそめ、微笑んだ。
「それじゃ、私は朝食をとってくるよ。邪魔みたいだからね」
 父さんは、穏やかな笑みに少し寂しさを混ぜて、首に手を当てた。成人男性にしては珍しい水色の長髪が、ふわりと手に当たる。
「邪魔って、そんなこと」
 おれの言葉を、二人が遮った。
「じゃーね父ちゃん!」
「ごきげんよう」
「否定しようぜ?!」

 6 >>89

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.89 )
日時: 2022/09/18 23:24
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: bGiPag13)

 6

「……また、創造神が使っていたとされる呪文には、火、水、風、土、光、闇といった属性名は含まれておらず、その代わり、赤や青といった、色名が用いられていたと伝えられている」
 そこまで読んだところで、おれは両脇から聞こえる静かな寝息に気づき、読むのを止めた。
「寝たか」
 疲れを吐き出す溜め息と共に、かすかな笑いが口から漏れた。
「こんな本を、子守唄代わりに読ませるとはな。末恐ろしい」
 おれはそう呟き、たった今まで朗読していた『私達の呪文』という、呪文について書かれた書物を、丁寧に閉じた。
 二人を起こさないようにゆっくりとベッドから降り、布団を綺麗にかけ直したあと、二人の頭を軽く、二度撫でた。
 わずかに微笑むその顔を見て、思わずおれも笑顔になる。

『すっかり腑抜けやがって』

 不機嫌な声が、頭の中で響いた。

『むかしっから思ってたけど、近頃、ますます毒気が無くなってきてるよな』
 おまえに関係ないだろ。
『むかつくんだよ。見たくなくても、感覚はリンクしてるしな』
 しるかよ。
『誇りもなにも持ってない。力はあるのに、それを使うことをしない。
 あーあ。こんなことなら、【憑依】なんてするんじゃなかったぜ』
「う」
 うるさいと、怒鳴ってしまいそうになった。
 二人が寝てるのだ。静かにしないと。
『それだよ、それ。他人に気を遣うなんて、何でするんだよ? 訳わかんねえ』
 吐きそうなほどの、怒りが込み上げた。
 何に怒っているのか、何に怒ればいいのか、わからない。わからない。
 物音を立てないように、暴れだしたりしないように、必死に自分の感情を押さえて、部屋を出た。

「龍馬?」

 また、タイミング良く、いや、悪く、真弥姉に会った。
 いまは、一人になりたかったのに。

「龍馬、その顔」

 真弥姉は言葉を切った。そして、話題を変える。
「二人が起きて来たときのことは気にしないで。外の空気でも、吸ってきなさい」
 ありがとうと言う気力も沸かなくて、おれは歩けているのかすらもわからずに、ふらふらと真弥姉の横を通った。
「これは、しまっておくわね」
 おれの手から、本を抜き取り、小さく、そう言うと、真弥姉は、おれの部屋に入っていった。
 おれは薬を閉まっている部屋に行き、戸棚をあさった。

 何度も出し入れして、目を閉じてでも見つけられる小箱を戸棚から出し、開く。
 これはおれしか開けられないように、魔法をかけてある。中身は、『オレ』と日向しか、知らない。
 薬包紙に包まれた錠剤の一つを取り出し、水を汲む手間すら惜しんで口にいれ、飲み込んだ。

 途端に、心臓が大きく跳ねた。
 血の流れが、拍動が、胸に手を当てなくても、手放しで感じられる。
 立っていられなくて、おれは倒れ込んだ。
 これは、魂に作用する薬。一定の時間『あいつ』の意識を強制的に眠らせることが出来る代わりに、おれの体内に魔力が十分に巡らなくなる。
 魔力を血液とするならば、魂は、心臓だ。魂を中心として、魔力は全身を回る。
 血液の流れが止まれば、身体はその活動を意思に関係なく終了せざるを得なくなる。
 魔力でも、それは同じだ。魔力によって体を動かしているに等しいおれのような魔法使いは、魔力の供給が鈍れば、死にも似た苦しみを与えられる。
__________

 しばらく苦しんだ後、ようやく『あいつ』は眠ったらしく、薬の作用が弱まった。
「はあ、はあ、はあ」
 錠剤は、もうすぐで底をついてしまう。
 次日向に会った時に、追加の薬を頼もう。
 意識がだんだんと正常に戻ってきたので、膝をついていた足をあげ、近くの椅子に腰かけた。
 息を整え、目を閉じる。

 おれだって、望んでこんなことしている訳じゃない。
 おれは、あいつが、大嫌いだ。
 おれを蔑んだ、『あいつら』なんか、大嫌いだ。
 でも、おれが『出来損ない』だったのは、事実なんだ。おれの意識に、そう、刷り込まれている。刷り込まれているということを自覚しているのにもかかわらず、おれはそれを否定出来ない。

「ひなた」

 情けない声が、漏れた。

「メンバーチャット・オープン」

 やわらかな緑色の光が、暗い部屋に溢れる。
 通知はない。日向からの着信はなかった。それでも、おれは、日向との個人のチャットを開いた。
 だけど、パネルを操作しているうちに、手の動きは遅くなっていき、止まった。

「メンバーチャット・クローズ」

 おれはメンバーチャットを閉じた。
 そして立ち上がり、小箱をしまって、部屋を出た。廊下を右に曲がって、突き当たりまで歩く。
 大きなはめ殺し窓に手を当て、念じる。

【闇魔法・破壊】

 どろりと、窓が溶けるようにして、穴が開く。
 おれは、背から羽根を出した。最近はあまり出していなかったので、かすかに、むずむずとした違和感がする。
 おれは床を蹴り、穴から飛び出した。体は重力にさからうものをうしなったために、落下を始める。
 ばさりと強く羽根を動かし、体を安定させる。
 おれは壊れた窓に近寄り、再び念じる。

【闇魔法・修復】

 時間が巻き戻るように、窓の穴は塞がっていった。
 これで良し。
 そう思ったところで、苦笑が込み上げた。
 自分だって無理をするくせに、日向には無理をするなと言うのだから。
 魂に作用するあの薬によって、おれの中の魔力は、いま、とても不安定だ。そのため、おれの魂は、魔力を必死になって循環させている。魔法を放つということは、その循環の流れに、外部から変化をもたらすということだ。そんなことをすれば、魂は循環のリズムを狂わせてしまい、魔力は暴走を始めてしまう。
 だから、たぶん、おれの魂は、もう、ボロボロなんだと思う。だからあいつも、気が立ってるんだろうな。

 いや、あいつはもとから、ああだ。

 おれは首を振った。
 わざわざ薬まで飲んで、あいつを眠らせたんだ。いまはそんなこと、考えなくていい。
 おれは羽根を動かした。
 高く飛んで、光の無い森を、一望する。夜目が効くので、見えないなどということは、一切無い。これは魔力とは何の関係もないのだから。

 さて、今日はどこへ行こう。

 当てなどまったく無い。ただ本能に従い、おれは、闇の中を彷徨さまよった。

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