ダーク・ファンタジー小説

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この馬鹿馬鹿しい世界にも……【番外編追加】
日時: 2025/05/23 09:57
名前: ぶたの丸焼き (ID: 5xmy6iiG)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12919

 ※本作品は小説大会には参加致しません。


 ≪目次≫ >>343


 初めまして、ぶたの丸焼きです。
 初心者なので、わかりにくい表現などありましたら、ご指摘願います。
 感想等も、書き込んでくださると嬉しいです。

 この物語は長くなると思いますので、お付き合い、よろしくお願いします。



 ≪注意≫
 ・グロい表現があります。
 ・チートっぽいキャラが出ます。
 ・この物語は、意図的に伏線回収や謎の解明をしなかったりすることがあります。
 ・初投稿作のため、表現や物語の展開の仕方に問題があることが多々あります。作者は初心者です。
 ※調整中



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 ありがとうございますm(_ _)m
 励みになります!

 完結致しました。長期間に渡るご愛読、ありがとうございました。これからもバカセカをよろしくお願いします。

 ≪キャラ紹介≫
 花園はなぞの 日向ひなた
  天使のような金髪に青眼、美しい容姿を持つ。ただし、左目が白眼(生まれつき)。表情を動かすことはほとんどなく、また、動かしたとしても、その変化は非常にわかりづらい。バケガクのCクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。

 笹木野ささきの 龍馬たつま
  通称、リュウ。闇と水を操る魔術師。性格は明るく優しいが、時折笑顔で物騒なことを言い出す。バケガクのCクラス、Ⅱグループに所属する優等生。

 あずま らん
  光と火を操る魔術師。魔法全般を操ることが出来るが、光と火以外は苦手とする。また、水が苦手で、泳げない。 バケガクのCクラス、Ⅱグループに所属する優等生。

 スナタ
  風を操る魔法使い。風以外の魔法は使えない。表情が豊かで性格は明るく、皆から好かれている。少し無茶をしがちだが、やるときはやる。バケガクのCクラス、Ⅲグループに所属する生徒。

 真白ましろ
  治療師ヒーラー。魔力保有量や身体能力に乏しく、唯一の才能といえる治療魔法すらも満足に使えない。おどおどしていて、人と接するのが苦手。バケガクのCクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。

 ベル
  日向と本契約を交わしている光の隷属の精霊。温厚な性格で、日向の制止役。

 リン
  日向と仮契約を交わしている風の精霊。好奇心旺盛で、日向とはあまり性格が合わない。

 ジョーカー
  [ジェリーダンジョン]内で突如現れた、謎の人物。〈十の魔族〉の一人、〈黒の道化師〉。日向たちの秘密を知っている模様。リュウを狙う組織に属している。朝日との関わりを持つ。

 花園はなぞの 朝日あさひ
  日向の実の弟。とても姉想いで、リュウに嫉妬している。しかし、その想いには、なにやら裏があるようで? バケガクのGクラス、IVグループに所属する新入生。

 ???
  リュウと魂が同化した、リュウのもう一つの人格。どうして同化したのかは明らかになっていない。リュウに毛嫌いされている。

 ナギー
  真白と仮契約を結んでいる精霊。他の〈アンファン〉と違って、契約を解いたあとも記憶が保たれている不思議な精霊。真白に対しては協力的だったり無関心だったりと、対応が時々によって変わる。
  現在行方不明。

 レヴィアタン
  七つの大罪の一人で、嫉妬の悪魔。真白と契約を結んでいる。第三章時点では真白の持つペンダントに宿っている
が、現在は真白の意思を取り込み人格を乗っ取った。本来の姿は巨大な海蛇。

 学園長
  聖サルヴァツィオーネ学園、通称バケガクの学園長。本名、種族、年齢不明。使える魔法も全てが明らかになっている訳ではなく、謎が多い。時折意味深な発言をする。

 ビリキナ
  朝日と本契約を結んでいる闇の隷属の精霊。元は朝日の祖母の契約精霊であったが、彼女の死亡により契約主を変えた。朝日とともにジョーカーからの指令をこなす。朝日とは魔法の相性は良くないものの、付き合いは上手くやっている。

 ゼノイダ=パルファノエ
  朝日の唯一の友人。〈コールドシープ〉の一族で、大柄。バケガク保護児制度により学園から支援を受け、バケガク寮でくらしている。バケガクのGクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。

≪その他≫
 ・小説用イラスト掲示板にイラストがありますので、気が向いたらぜひみてください。

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.65 )
日時: 2021/04/17 09:44
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: wECdwwEx)

 4

 声のした方を見ると、やや遠い、壁の少し出っ張っている部分に、男が立っていた。
 黒い髪に、黒い瞳。目は細く、笑っているくせに鋭い光を放つ。
 赤と黒で統一された、派手な格好。
 視界に入れるだけで、反吐へどが出る。
 男は頭のシルクハットを取り、演技めいた動作でお辞儀をした。
「そこの、りゅーくんだっけ? 初めまして。ボクは〔黒の道化師〕。道化師と言っても、ボクの仕事は裏側だどね。
 仲間内でからかい半分で呼ばれてただけなんだけど、おおやけになっちゃった」
 リュウは、目を見開いた。
「黒の……? 〔十の魔族〕か!」
「ピンポンピンポン。大正解。知ってるんだね、えらいえらい」
 からかうように、いや、からかっている。男は、ジョーカーは、からかう言葉をリュウに言ったあと、なめ回すように、リュウを見た。
「日向、あいつ、なんなんだ?」
 リュウは私に説明を求めた。
「呼び名は、〔ジョーカー〕。本名は知らない。
 例の組織の、幹部」
 ジョーカーは微笑んだ。
「そーそー。例の、ね。幹部って言っても、ボスの下の下の下くらいだけど。
 ああ、警戒しないで良いよ。今回の目的は、君じゃないから」
 ジョーカーは、ふわりと飛翔し、とんっと小さな音をたて、私たちの前に立った。
 そして、まっすぐにリュウを見た。
「今回『は』って言ったけど、正直、君に興味ないんだよね。『日向ちゃん』と関われるから、ボスの下にいるけどさ」
 眉間にしわが寄るのがわかる。
「あれえ? 嫌だった? だって、ボクの知ってる日向ちゃんの名前を呼ぶのは、タブーなんでしょ?」
 楽しそうに。可笑しそうに。ジョーカーは言う。
「そのくせに、りゅーくんは良いんだね。細かいし面倒臭いくせに、穴はあるんだ。
 楽しいね」
 知るか。
「ってことだから、安心して良いよ。ボクはジョーカー。組織の切り札。だけど君に手を出さない。
 だから、日向ちゃんもわかってたんでしょ?

 ボクがいると知っていて、ボクを放置したんだから」

 リュウが、声を漏らした。
「え」
 そして、私に問う。
「日向、知ってたのか? こいつがいること」
「うん」
 ジョーカーは満足げにうなずいた。
「うんうん。君はボクがあとをつけていることに気づいてなかったんだね。当然さ。君と僕じゃあ、レベルどころか次元が違う」
 次元が違う。その言葉で、リュウは全てを理解したようだった。説明する手間が省けて、助かる。
 私はリュウの前に立った。
「何の用?」
 ジョーカーは嬉しそうに目を細める。
「日向ちゃんに聞きたいことがあるんだよね」
 そして、両手に三本ずつ、計六本の小さなナイフ、投げナイフを手にした。

「そこのりゅーくん、殺して良い?」

 5 >>66

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.66 )
日時: 2021/04/01 18:16
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: eUekSKr/)

 5

「は?」
 私が睨み付けると、ジョーカーは頬を赤らめた。
「あー、良いね。その表情、素敵だよ」
 気持ち悪い。
「さっき言った『手を出さない』っていうのは、あくまで『ボスの命令』が理由で手は出さないってことね」
 くるくると、ジョーカーの手の上でナイフがまわる。
「ボクはね、日向ちゃんが大好きなんだよ」
 唐突に、ぼそりと、ジョーカーが言う。
 リュウは何も言わずに、ジョーカーの言葉を聞いている。
「さっき冒険者を殺したときみたいな、わかりやすく頭のネジがぶっ飛んだような、あの、狂った、昔の日向ちゃんが」
 ジョーカーは言葉を続ける。
「いまみたいな静かな狂気は、ボクの好みに合わない」
 そしてナイフをそれぞれ指の間に挟み、私の後ろ、リュウに向けた。
「君を殺せば、きっと、日向ちゃんはおさえきれない狂気をボクに向ける」
 紅潮した、うっとりとした表情。
「見たい。見たい。ボクは見たい。
 あの日向ちゃんが、どうしようもなく!
 ああ羨ましい! 日向ちゃんの狂気を一身に受け、死んでいったあの三人が!!」
 気持ち悪い。

 何も、感じない。

 こいつは昔からそうだ。何も変わってない。

 そして、私も。

「日向ちゃん。ボクを止めてみなよ。そいつを殺すからさあ。怒ってよ。
 狂ってよ」
 馬鹿馬鹿しい。
「!」
 ジョーカーの顔色が変わった。
「おい、日向!」
 リュウは私を、私が自分の首に突き立てた短剣を見て、叫んだ。
「だめ?」
「だめに決まってるだろ! やめろ!」
 リュウは珍しく本気で怒っていた。
 わからない。なぜ怒るのか。その必要があるのか。

 理解したいのに、わからない。

「こうするのが一番早いよ」
「だめだ!」
 そう私たちが話していると。
「やっぱりそうか」
 呆れたような、がっかりしたような、ジョーカーの声。
 ……違う。
「お前が元凶なんだ」
 怒りの声。

 6 >>67

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.67 )
日時: 2021/04/01 18:17
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: eUekSKr/)

 6

「おれが、元凶?」
 これまで沈黙を貫いていた、リュウが呟いた。
 ジョーカーは答えずに、ナイフを投げた。

 ひゅんっ

 空気を切る音がする。
 私は魔法の障壁でナイフを防ぐことにした。あのくらいなら、これで十分だ。
 魔力を集め、薄く広げる。そしてそれをだんだん濃縮させ、層状にする。
 うん、一瞬で行った割にはそこそこの出来ではないだろうか。
「あっ」
 小さく、声が漏れた。私は急いで短剣を構え直し、飛んでくるナイフを見据えた。

 バリィィイン!!

 障壁が壊れる音。しかし、ナイフの勢いは緩まない。

 ガキッ

 短剣とナイフがぶつかり合った。バチバチと、火花が散る。
 重たい。ナイフを止めるだけで精一杯だ。力を溜めるだけの時間がなかった。
 というのは、ただの言い訳にしかならない。
 力を見誤った。それが招いた結果だ。
 気を抜けば短剣が吹き飛ばされる。もしかしたら、腕が折れるかもしれない。

 私はいい。リュウにこのナイフが当たらないようにしないと。

【風魔法・突風】
【白魔法・筋力補強】

 二度の魔法を同時に使い、ナイフを弾き飛ばした。

 キィィィィン

 金属音が響き渡る。
 地面に突き刺さったナイフを見て、ジョーカーは満足げにうなずいた。
「うんうん。流石だね。すぐに間違いに気づいたんだ」
 そして、にやりと笑う。
「『日向ちゃん』がボクと戦うのは、初めてだからね。以前と同じ戦い方じゃ、ボクとの力量の差には対応できない」
 そんなこと、わかってる。
 自分より弱いものに遭遇することがいままでなかったから、忘れていた。それだけだ。
 それだけ、ではある、けど、それで、リュウを、危険に、さらした。
「リュウ、動かないで」
 私は後ろにいるリュウに言った。
「絶対に守るから」
 返事が、ない。
「リュウ?」
 私は振り返り、リュウを見た。
 リュウは、目を見開き、驚いたような、絶望したような、そんな表情をしていた。
 私は理解が出来ず、戸惑った。
 でも、リュウに尋ねることはできなかった。
 リュウの目は焦点を失い、光が失くなっていく。
 目が虚ろになり、ガクンと膝をついた。
 しばらくその体勢で停止したあと、右手がびくんと動いた。
「あ、あー」
 声が出ることを確認するように、リュウが言う。
 そして、立ち上がり、顔を上げる。
 右目と前髪が一房ひとふさ、真っ黒に染まっていた。
 首を回すも音はならない。そりゃそうだ。体はリュウなのだから。
「あー? 何見てんだよ」
「リュウと話してたから」
 するとリュウは鼻で笑った。
「話してなんかねーだろ。こいつが何してたのかは全部わかってんだ」
「なら訊かないで」
 私はジョーカーに目線を戻した。ジョーカーは、困惑しながら笑っていた。
「えーっと、その現象、なに?」

 7 >>68

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.68 )
日時: 2021/06/05 23:57
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 7WA3pLQ0)

 7

「お前、ジョーカーか。『イロツキ』、いや、『イロナシ』だな、なんで『モノクロ』じゃないんだよ」
 リュウの言葉を受けて、ジョーカーは目を丸くした。
「どうして君がその言葉を知ってるんだ?」
 リュウはふふんと笑った。
「イロナシでもわからねえか。流石は俺だな」
 そして、胸に手を当て、意気揚々と説明する。
「俺はこの体に【憑依】してるんだよ。魂の融合ってやつだな」
「魂の、融合?」
 ジョーカーはあごに手を当て、ぶつぶつと言い始めた。
「そんなことが出来るのは……それでボクとアイツを知っていて……ってことは……」
 ジョーカーはにやりと笑った。
「なるほど、キミか。
 しかし、そんなことが可能なのかい? 日向ちゃん」
「なに」
「いや、どうなんだい?」
「現に、起きてる」
 ジョーカーは苦笑した。
「それもそうだね。
 ところで、どうしていま、出てきたの?」
「俺はこの身体の主導権が欲しいんだよ。こいつのせいで肉体が消滅しちまったからな。
 魂の融合を行うときに、人格の出入りの主導権は俺が握るよう設定しておいたんだが、なかなか簡単には出来ない。こいつもこいつで持ってる力が強大だからだろうな。
 でも、さっきのタイミングで、こいつの精神が揺らいだんだよ。で、出てきた」
「ご丁寧にどうも」
 私はジョーカーが投げつけたナイフを弾き飛ばした。

 ギィィイイン

 今度は力を十分に溜めていたから、先程よりかはましだ。しかし、手はビリビリと痛む。
「でも、それでもボクの目的は変わらない。君を殺す。そしたら日向ちゃんはまた狂ってくれるんだ!」
 今度は二連続でナイフが飛んできた。

 ガキィィイインッ

 私はもうひとつの短剣を瞬時に出し、ナイフを弾き飛ばした。
 今はナイフの距離が近かったから、まだ対応できた。だけど、ジョーカーが本気を出したら、危険だ。
「あれえ? 《サバイバル》のルールで、武器は一つってことじゃなかったっけ?」
「この短剣は、ついになってるから。二つで一つ。問題ない」
「そういうもん? じゃあ不規則に飛ばさなきゃだめだね」
 そう言うと、ジョーカーは、残りの二本を投げた。
 上へ下へ、右へ左へ。不規則で、二つのナイフの距離は近づき遠のき、軌道が読めない。

 仕方ない。

 じぶんできめたんだ。

 必ず、守ると。

「黒よ、世のことわりくつがえし、我の意にたがうものを無へ還せ」

 私が呪文を唱えると、赤く光る黒い魔法陣が地面に浮かび上がった。

 シュウウウウッ

 煙を上げて、ナイフが消滅した。
「これ、奴隷紋か?」
 リュウが屈み、魔法陣をよく見た。
「なあ、たしかお前って」
 リュウはそこで言葉を切った。
「おい! お前!」
 リュウの声が、遠く感じる。
 すぐ後ろに、いるはずなのに。
 どさり。私は地面に膝をつく。

「はぁーっはぁーっはぁーっはぁーっ」

 息が苦しい。体が重い。
 胸をおさえて、ただ呼吸を繰り返す。
「おい! えっと、日向!」
 リュウが私を大きくゆさぶる。
「う、るさい」
 まだ終わってない。ジョーカーはあと六本、ナイフを隠し持っている。
「なんて無茶をするんだ」
 ジョーカーは苦しそうに顔を歪めた。
「悪かったよ。ボクは君を苦しめたいわけじゃない」
 体をくるりと反転させ、小さく告げる。
「君を取り戻すのは、もっとあとにすることにするよ」
 そして、どこへともなく消えていった。

 8 >>69

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.69 )
日時: 2021/04/01 18:18
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: eUekSKr/)

 8

 息を吸っているはずなのに。
 足りない。足りない。
 この感覚は、嫌いなんだ。
「おい! しっかりしろ!」
 うるさい。
「なんでこんなことしたんだよ。その力を使ったら」
 リュウは私の右腕を指した。

「呪いが進行するんだろ?!」

 真っ黒に染まった右腕を、私は見た。
 呪い、か。
「それが、なに」
 私は声を絞り出した。
「この呪いは、死を招く、ものじゃ、ない」
 息を整えながら、私は言葉を発する。
「ただただ私の身体をむしばむ、毒のようなもの」
 どうしてこんなことを、話しているんだろう。
 頭が、働かない。
「放っておいても、どうせ、進行、するから、それなら、使えるうちに」
 リュウが言葉を遮った。
「お前、どうかしてるぞ」
 静かに、静かに、リュウが言う。
「我が身を犠牲にして守ったところで、なんになる? こいつだって、いつか寿命を迎えて死ぬだろうが」
「『リュウが生きている』ことが重要なんじゃない」
 止まれと思うのに、体が言うことを聞かない。
「『リュウを守れた』ということが、最重要」
 まあ、いい。いつかは話すつもりだった。
 しばしリュウは沈黙した。その後、ぽつりと言った。
「そういうことか」
 そう言うリュウの表情は、それまでの理解が出来ないという困惑ではなく、納得し、半ば興味が失せたような表情だった。
「ようやくわかった。お前とこいつで、そこのすれ違いがあったんだな。
 お前もわかってるんだろ? わかってて、言わなかった。どうしてかまでは知らねえけど」
 ずいぶんと、呼吸が楽になってきた。
「ついでに聞くけどさ、お前、あの二人とこいつじゃ、接し方に明らかに差があるよな。なんでだ?」
 答える義理は、ない。
「ここらではっきりしとけよ。こいつも気にしてたぜ」
「なら、貴方じゃなく、リュウに言うべきだと思う」
「俺が気になるんだよ」
「人格がリュウになっても、貴方はリュウが何をして何を感じて何を思っているかはわかるでしょう」
 リュウはある程度しかわからないと、言っていたけれど。
 リュウはまた、少しの間黙った。
 そして。
「わかった。今回出てきたのは、魂の濃度の俺の分が薄れてたからだしな。乗っ取るつもりはまだないから、今日のところは戻るぜ」
「二度と来なくて良い」
「それは無理だ」
 にやりと、リュウの顔で笑う。
「わかんねえと思うけど、身体がないって、結構不便なんだぜ」
 リュウは地面に座り込み、目を閉じた。
 次に目を開けたとき、髪の色も、瞳の色も、元に戻っていた。
 眠気を振り払うようにぶんぶんと頭を振ったあと、私を見て、すぐ怒鳴った。
「力を使ったのか!!」
 キーンと頭に響く。
「あっ、悪い」
 すぐに申し訳なさそうに頭を下げる。
「この感じ、たぶん、あいつが出てきたんだろうな。何があったんだ?」
 私は先程までに起きた出来事を、かいつまんで説明した。
「そんなことでその力を使うなよ!」
「そんなことじゃ、ない。私にとってリュウは、掛け替えのない存在だから」
 リュウは苦しげに胸をおさえる。
「おれだって、日向が大事だ。日向に苦しんで欲しくない」
 そう。苦しそうに。
「知ってるんだ。日向はおれが弱いと思ってるんだろ? だから、守るって言ってるんだろ?」
「私より、ね」
 苦しそうに、悲しそうに、笑う。
「おれも、日向みたいに、力が欲しいよ」
 私みたいに、か。

 無理、だろうね。

 9 >>70


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