ダーク・ファンタジー小説

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この馬鹿馬鹿しい世界にも……【番外編追加】
日時: 2025/05/23 09:57
名前: ぶたの丸焼き (ID: 5xmy6iiG)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12919

 ※本作品は小説大会には参加致しません。


 ≪目次≫ >>343


 初めまして、ぶたの丸焼きです。
 初心者なので、わかりにくい表現などありましたら、ご指摘願います。
 感想等も、書き込んでくださると嬉しいです。

 この物語は長くなると思いますので、お付き合い、よろしくお願いします。



 ≪注意≫
 ・グロい表現があります。
 ・チートっぽいキャラが出ます。
 ・この物語は、意図的に伏線回収や謎の解明をしなかったりすることがあります。
 ・初投稿作のため、表現や物語の展開の仕方に問題があることが多々あります。作者は初心者です。
 ※調整中



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 ありがとうございますm(_ _)m
 励みになります!

 完結致しました。長期間に渡るご愛読、ありがとうございました。これからもバカセカをよろしくお願いします。

 ≪キャラ紹介≫
 花園はなぞの 日向ひなた
  天使のような金髪に青眼、美しい容姿を持つ。ただし、左目が白眼(生まれつき)。表情を動かすことはほとんどなく、また、動かしたとしても、その変化は非常にわかりづらい。バケガクのCクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。

 笹木野ささきの 龍馬たつま
  通称、リュウ。闇と水を操る魔術師。性格は明るく優しいが、時折笑顔で物騒なことを言い出す。バケガクのCクラス、Ⅱグループに所属する優等生。

 あずま らん
  光と火を操る魔術師。魔法全般を操ることが出来るが、光と火以外は苦手とする。また、水が苦手で、泳げない。 バケガクのCクラス、Ⅱグループに所属する優等生。

 スナタ
  風を操る魔法使い。風以外の魔法は使えない。表情が豊かで性格は明るく、皆から好かれている。少し無茶をしがちだが、やるときはやる。バケガクのCクラス、Ⅲグループに所属する生徒。

 真白ましろ
  治療師ヒーラー。魔力保有量や身体能力に乏しく、唯一の才能といえる治療魔法すらも満足に使えない。おどおどしていて、人と接するのが苦手。バケガクのCクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。

 ベル
  日向と本契約を交わしている光の隷属の精霊。温厚な性格で、日向の制止役。

 リン
  日向と仮契約を交わしている風の精霊。好奇心旺盛で、日向とはあまり性格が合わない。

 ジョーカー
  [ジェリーダンジョン]内で突如現れた、謎の人物。〈十の魔族〉の一人、〈黒の道化師〉。日向たちの秘密を知っている模様。リュウを狙う組織に属している。朝日との関わりを持つ。

 花園はなぞの 朝日あさひ
  日向の実の弟。とても姉想いで、リュウに嫉妬している。しかし、その想いには、なにやら裏があるようで? バケガクのGクラス、IVグループに所属する新入生。

 ???
  リュウと魂が同化した、リュウのもう一つの人格。どうして同化したのかは明らかになっていない。リュウに毛嫌いされている。

 ナギー
  真白と仮契約を結んでいる精霊。他の〈アンファン〉と違って、契約を解いたあとも記憶が保たれている不思議な精霊。真白に対しては協力的だったり無関心だったりと、対応が時々によって変わる。
  現在行方不明。

 レヴィアタン
  七つの大罪の一人で、嫉妬の悪魔。真白と契約を結んでいる。第三章時点では真白の持つペンダントに宿っている
が、現在は真白の意思を取り込み人格を乗っ取った。本来の姿は巨大な海蛇。

 学園長
  聖サルヴァツィオーネ学園、通称バケガクの学園長。本名、種族、年齢不明。使える魔法も全てが明らかになっている訳ではなく、謎が多い。時折意味深な発言をする。

 ビリキナ
  朝日と本契約を結んでいる闇の隷属の精霊。元は朝日の祖母の契約精霊であったが、彼女の死亡により契約主を変えた。朝日とともにジョーカーからの指令をこなす。朝日とは魔法の相性は良くないものの、付き合いは上手くやっている。

 ゼノイダ=パルファノエ
  朝日の唯一の友人。〈コールドシープ〉の一族で、大柄。バケガク保護児制度により学園から支援を受け、バケガク寮でくらしている。バケガクのGクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。

≪その他≫
 ・小説用イラスト掲示板にイラストがありますので、気が向いたらぜひみてください。

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.315 )
日時: 2022/07/27 20:42
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: /JJVWoad)

 7

 姉ちゃんはバケガクに着くと、馬車庫へ向かった。Ⅴグループである姉ちゃんは馬車の操縦が許されていないし、それはボクも同じだけどそもそもそれ以前に技術面で操れない。それに馬車は定期便があってわざわざ馬車庫に行く必要は無いから、何をしに行くんだろうと不思議に思った。

 それ以上に不思議なものが、そこにはあった。
 馬車庫に来ることは何度かあった。そこは第一館からあまり遠くない場所で、校門に入って右側、きちんと整備された道を歩いた先にそれはある。広い敷地を持つこのバケガクにおいて、馬車は不可欠な移動手段。定期便に乗るのもいいけど、Ⅱグループ以上の生徒は馬車の操縦が許されているので、そっちに乗った方が自由に動き回れる。愛想を振りまいておけば馬車に乗せてもらうことくらいは出来る。
 客車と馬車馬は、当然ながら違う場所に収納されている。いや、馬に収納という言葉は不適切か。休ませている、とでも言おうか。馬車庫は本来客車を収めている場所を指すけど、バケガク生徒は馬小屋も含めてそう呼ぶことが多い。けど、姉ちゃんは本来の意味の馬車庫に向かっている。生徒が馬車庫に用があるとしたら、大抵自分で馬車を操る時くらい。そういうときはまず馬小屋へ行って馬を借りたり色々面倒な手続きをする。時間はそんなにかからないけど、確実に面倒臭そうな、手続きを。なのに姉ちゃんはそれをしなかった。まっすぐに馬車庫まで歩くと、木製の扉に手を当てた。扉の向こうでがちゃんと重たい音がして、勝手に開いた。

 まだ冷たさの残るこの季節。でも、それ以上に冷たい空気が外へ流れ出た。思わずぶるっと身震いする。ボクはあまり寒さを感じる方ではないのに。

 ボクは目を見張った。不思議なものが、そこにあった。
 馬車があった。確かにここは馬車庫なのだが、ちがうのだ。『馬ごと』馬車があった。

 漆黒の馬車は、形だけはほかの馬車と同じだ。ああ、違うな。色だけが違うんだ。あまりにも異質でほかの馬車とはかけ離れていると錯覚してしまった。
 馬車には聖サルヴァツィオーネ学園の校章が刻まれている。だからバケガクが所有する馬車であることは間違いない。だとしても、ここまで黒い馬車は他にない。こんなの、見たことがない。

「姉ちゃん」

 なんとなく、どうしようもない不安に駆られ、ボクは姉ちゃんに手を伸ばした。
「行こう」
 姉ちゃんはボクの手を取り、歩こうとした。けれどボクの足は動かない。姉ちゃんがボクを見て、首を傾げた。
「どうしたの」
 それから少しして、言った。
「怖い?」
 ボクは頷いた。姉ちゃんは数歩歩いた足を戻して、ボクのそばに来た。
「これは、Ⅴグループ寮へ行くための馬車。グループごとに、寮が分かれてるのは、知ってる?」
「うん。見たことはないけど、建物の造りとかも全然違うんだよね?」
「そう。個人の能力によって必要な設備は変わってくる。だからグループで分かれてるんだけど」
 冷たい風が、ボクらの間を通り抜けた。

「クラスでいいと思わない?」

 姉ちゃんがボクに、馬車に乗るよう促した。今度は逆らわない。そういえば、馬に取り付けられている馬具の色は鮮血に近い赤色だ。

「それは、ボクも思ってた」

 馬車の中は、思っていたより明るかった。外から見た時は窓なんてないように見えたけど、大きな吹き抜けの窓が空いている。
 ボクと姉ちゃんが隣合って座ると、馬車はのろのろ動き出した。
「あれ、御者っていたっけ?」
 確かボクが見たときは、御者席は無人だった。いくら大人しく従順な馬でも、御者は必ずいるものだ。御者がいないのに動き出す馬車なんて、そんなの聞いたことない。
「必要ない。あれは、馬じゃない」
「そうなの?」
「うん。仮想生物」
「ああ、なるほど」
 それならまだ理解出来る。久しぶりにまともな仮想生物を見た気がする。仮想生物にまとももなにもないけれど、[通達の塔]の二人といいジョーカーといい、わけのわからない仮想生物に会ったから妙な安心感がある。自分が正しかったのだと、向こうがおかしかったのだと、安心する。

「ネクタイやリボンは、常時着用。それが規則」
 姉ちゃんが話を戻した。
「理由はいくつかある。貴族や平民を区別するためとか、クラスよりも大まかに分けるためとか。でも、それは全て表向き」
 ガタゴトと揺れる馬車の音が、やけに大きく聞こえる。この馬車の揺れはほかの馬車と比べるとかなり小さい。それなのにいつもより音が大きく聞こえるのは、普段賑やかなバケガクに、人がほとんどいないから。
「朝日の周りにも、何人か、Ⅴグループの生徒はいたよね」
 ボクは首を縦に振る。なんなら、目の前にいる姉ちゃんがそうだ。
「真白は、朝日にはわからないかもしれないけど、私やゼノイダがわかりやすい。Ⅴグループは劣等生のグループじゃない。素行が悪いという意味ではない、問題を抱えた生徒という意味の『問題児』のグループ」
 問題児?
「能力、境遇、体質、それ以外にも色々『問題児』と判断される材料はある。問題児なら誰でもⅤグループになる訳じゃない。保護が必要だと判断されるほど、個人の抱える問題が個人あるいは他者に害を及ぼす場合にその個人はⅤグループに位置づけられる」

 ガタン、ガタン、馬車の揺れる音がやけに目の前の光景の現実味を薄れさせる。手を伸ばせば届く距離にいるはずの姉ちゃんが、まるで画面の向こう側にいるような錯か──画面って、なんだ?

「木を隠すなら森の中。問題児バケモノ生徒バケモノの中に隠すための制度。それがグループ。劣等生というレッテルを貼る代わりに、学園がバケモノを守ってる。寮がクラスではなくグループで分かれているのも、Ⅴグループ寮だけが他の寮と隔離されているのもそれが理由」
 姉ちゃんは手の平を虚空に差し出した。赤い光が姉ちゃんの手に集まって、その上にⅤグループを象徴する赤いネクタイが落ちた。
「理事長に話はつけてある」
 白く細い指で優しく包まれたネクタイが、二つの選択肢とともにボクに迫った。
「どうする?」

 これはつまり、ボクにⅤグループに入れということか。確かクラスやグループの移動は年度が切り替わるときに行われるはずだが、何事にも例外は付き物だ。
 受け取らなければ姉ちゃんと寮が分かれる。受け取ればボクは問題児の仲間入り。さあ、『どうする?』
 悩んだ時間はほんの数秒だ。ボクはネクタイを受け取った。結論の決め手になったのは、うーん、なんだろう。姉ちゃんの言う『劣等生というレッテル』とやらが罪を償うために背負う十字架みたいに感じたのかもしれない。
「リボンの方が良かった?」
 珍しく姉ちゃんが冗談を言ったので、ちょっと口角が上がった。
「いや、これでいいよ」
 姉ちゃんがくれたものをボクが変更なんてするわけないじゃないか。
「そう」
 ボクは受け取ったネクタイを掲げた。光沢のある布に染め入れられた赤色が、どろっとボクの手を伝う。なぜか目を引かれる紅にぼうっと意識を飛ばしていると、突然ガタンッと大きく馬車が揺れて停止した。どうやら目的地に着いたらしい。馬車の扉が開いて外の景色が顕になる。

 周囲から隠すように敷地をぐるりと囲む背の高い深緑の木々、それらに日光を遮られ影を反射するこぢんまりとした重厚な漆黒の宿舎、粗い石が散乱する雑草だらけの荒れた地面。大陸フィフスで見たカツェランフォートの屋敷が放つものよりも重苦しい雰囲気に息が詰まる。冷たくはないが不快なほどに生ぬるい風が背をなぞる。寒くはないのに、体のあちらこちらがゾワゾワする。
「オマチシテオリマシタ」
 髪の長い少女の形をした赤い塊がボクたちを出迎えた。手のようなもの、足のようなものはあるがそれらの境界線は見当たらない。特有の淡い輝きを全身に巻き付けるこれが、一目で仮想生物だとわかる。本来仮想生物というものはかなり特徴的な見た目をしているものだ。……仮想生物って基本喋れないから、目の前の仮想生物が俗に言う仮想生物と同じものかどうかは怪しいところだけど。
「ワタクシノナハネイブ。コノリョウノホゴシャデス」
 ネイブは歓迎の意を示すように両腕らしきものを広げた。
「ヨウコソ、ガクエンノマクツヘ」

 8 >>316

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.316 )
日時: 2022/08/20 00:09
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 0vtjcWjJ)

 8

「マクツトイッテモミンナネチャッテマスケドネー」
 ネイブが飛び跳ねながらボクたちを寮の中へ招き入れた。あの馬車は気づいたら消えていた。
「寝てる?」
「ハイ。ア、デモオキテルコモイマスヨ」
 寮の入口である両開きの扉を小さな手で押し開けて、ネイブは呼び慣れた名を呼んだ。
「ゼノ、アタラシイヒトガキマシタヨー」
「はーイ」
 暗闇の向こうから、大柄な少女が小さく駆けてきた。見覚えがある。癖のあるくるくるの黒髪とそれによく似た色の瞳、焦げ茶の肌と全体的に黒い見た目をした怪物族。民族衣装らしい頭に被る白い布がより一層黒を際立たせる。ゼノイダ=パルファノエは驚いた顔をした。
「アサヒ?」
 友達ごっこの一環だ。ボクは左手をあげた。
「やあ、ゼノイ──」
 出てきた言葉を飲み込み、言い直す。
「ゼノ、久しぶり」
 ゼノは姉ちゃんを除けばバケガクで唯一気の許せる相手だ。もう会えないかもしれないと思っていた自分もいたから、また会えて嬉しい。会えなかったとしても特になんの感情も抱かなかったと思うけど、それとこれとはまた別の話だ。
「ヒさしぶり。どうシタの? どうしテネくタイの色ガ」
「ホラホラ、オシャベリノマエニマズハオキャクサマノアンナイデス。ワタクシハオジョウサマヲアンナイスルノデゼノハソチラノカタヲオネガイシマスヨ」
 ネイブは姉ちゃんを見て、「イキマショウ」と促した。それを確認した姉ちゃんは頷いて、ボクを見た。

「また後で」

 ボクは大きく手を振って、一度姉ちゃんと別れた。
「ねえアサヒ、ソれでどうシたノ?」
 ゼノは心配そうにボクの顔を覗き込む。そのときにふと気づいたように視線がボクの手に向いたけど、ひとまずは無視してくれた。
「どうしたって?」
「だカラ、アサヒはⅣぐるーぷだっタデしょ? ナんでⅤグルーぷのねくたイをツけてルの?」
 なかなか答えないボクにやや怒りを込めながら言葉を続ける。だけどその怒りはボクを心配してのことなのだろうと容易に想像できる。ボクは意地悪をするのはやめて、ゼノに話した。
「来る途中の馬車で、姉ちゃんにネクタイを渡されたんだよ。あ、ちゃんとボクにⅤグループに入るかどうかの意思確認はしてくれたよ」
「そうなんダ」
 そう返事をしたゼノだったけど、まだ納得いかない様子でうーんと唸る。
「でモ、そんなこトデきるの?」
 そんなこと、というのはきっと『年度が終わっていないのにグループを変えること』を指している。確かにボクもそれは気になる。何事にも例外はある。でもこんな年度の終わりが鼻の先であるこの時期に?
 今度はボクが唸った。しかしボクの口はあっさりと言葉を告げる。
「ボクがバケモノだから、いいんじゃない?」
「エッ?」
 ボクは右手の手袋に左手の指をひっかけた。ゼノも気になっているようだし、ボクがバケモノであることの証明にもちょうどいい。そう考えて手袋を外そうとした。だけど、右手の黒が見えた瞬間に手を止める。
 さあっと血の気が引いて、慌てて手袋を引っ張り黒を隠す。血の流れを激しくする心臓の音を聞きながらゼノの顔を見ると、きょとんとしていた。よかった、バレていない。

 危なかった。数秒前のボクは何を考えていたんだ。おかしくなっていた。おかしくなっている。ボクの頭は、ボク自身が、おかしくなっている。こんな気持ちの悪い肌を見せたら嫌われるに決まってる。ゼノは唯一無二の存在だ。恋愛感情とかそんなものは抱かない。あんな気持ちの悪い感情なんか抜きにして付き合ってくれるゼノは、失いたくない。別に失ってしまっても良いと言えば良いけれど、できることならそばにいて欲しい。これは恋愛感情じゃない。
 恋愛感情なんて冗談じゃない。教室にいると周りの奴らはボクとゼノが恋愛感情を抱いて付き合っているとか言って冷やかしてくる。反吐が出る。気持ち悪い。トラウマと呼べるほどのものでは無いが、ボクは恋愛感情というものに嫌悪感を抱いている。
 容姿とか能力とか家の権力とか、ある程度優れているボクに言いよる女は多かった。じいちゃんや姉ちゃんみたいに背が高くないのでまだマシだったかもしれないがそれでも多かった。多いと感じた。本当にボクに恋愛感情を抱いていたのかわからない奴もいた。でも、抱いてるとか抱いてないとかそんなことはどうでもいい。ただひたすらに気持ち悪かった。
 相手がボクに恋愛感情を抱いているかどうかは大抵すぐにわかる。わからないのもいたけど。男女の友情は成立しないとかいうあれが本当なんじゃないかと思うくらいあいつらの態度は両極端だ。でもゼノは違う。あの純朴な瞳に何度救われたことか。それに美しさを感じたことこそないが、気持ち悪いあの連中と比べれば月とすっぽんほど違った。

「もウ一ついイ?」
 ゼノが疑問符の残る顔をボクに向けたまま言う。
「ん、なに?」
 問い返しながら、感情が揺れた。ゼノの視線がボクの右手に向いているのに気づいたから。冷や汗の不快感をゼノに気づかせないように笑顔を取り繕う。
「そのテ袋ってあたラシク買ッたの? 格好イイネ」
 幸いゼノは何も気づいていないらしい。にこにこしながら手袋を褒めてきた。ボクはほっとして、繕った笑顔を安堵と共に本物に置き換えた。
「うん。姉ちゃんにもらったんだ」
 ゼノは羨ましそうに、へぇと言うだけでそれ以外に何も言わない。

「ア」
 ゼノが呟いた。
「ごメんね、早く部ヤにあン内しなきゃ」
 焦ったようにゼノはボクの手を引いた。と言っても手を繋ぐわけじゃなくて、動き出す合図としてボクの腕の裾を少し引っ張った程度。それを受けてボクはゼノの後ろを歩いた。ボクたちは身長差が激しいけど歩調の差にストレスを感じたことはない。ゼノはのんびりした性格なので自分でも歩くのが遅いと語っていたが限度があるだろう。ゼノがボクに合わせてくれているのは考えるまでもない。
「静カニ歩いてネ」
 歩いている途中に前を歩くゼノが振り返り、口元に人差し指を立てた。
 階段を上がったところでそう言われた。目の前にはずらりと並ぶ頑丈そうな扉。廊下に光はほとんどなく、夜目の効かないボクには厳しい条件だ。ん? いや、そんなことないか。案外見える。
 ボクは黙って頷いた。さっきネイブがみんな寝ていると言っていたから、その連中を起こさないように歩けということなのだろう。足音を極力たてないように気をつけながら暗い廊下を歩く。ボクはともかくゼノからも足音は聞こえない。気をつけているのはわかるけどそれでも意外だ。普段おっちょこちょいなのに足音は消せるんだ。
 ボクたちはしばらく歩いた。距離を考えても結構歩いた気がするがどうだろう。雰囲気に侵されて実際の距離よりも多く歩いたと勘違いしているだけかも。とにかくある程度歩いて、そこでゼノは立ち止まった。廊下の端。他の部屋は廊下を挟んで扉が向かい合わせに位置しているが、おそらくボクが入るのであろう部屋は廊下を歩いた方向に対し逆向きに位置していた。よって向かいというものは存在しない。こころなしか扉の大きさもちょっと大きい気がする。他の部屋と何かが違うと、ボクの本能は告げている。
 ボクの緊張に気づかず、ゼノは手に持っていた鍵を扉に差し込んだ。鳴った音はわかりやすく重たい。ガチャン、その金属音がなぜか、扉が開く音よりはボクを閉じ込める牢屋の施錠の音に聞こえた。やけに心臓が冷たくなって、緊張は解けた。

「オソイ!」
 扉を開けた先で、鱗粉にも似た赤い光を儚く散らすネイブが立っている。腰に手を当て、仁王立ちしていた。たぶん。実際に腰や手があるわけじゃないから人間の真似事だけど。ネイブはゼノに詰め寄った。
「ナニヲシテイタノデスカ? コンナニジカンガカカルナンテ」
「ご、ゴメんなさイ、ツイ……」
「ツイジャアリマセン。イマカラコノチョウシジャコマリマスヨ」
「はい……」
 ネイブの言葉に違和感を覚えながら二人を眺めていると、ネイブの首がくるりと動いてボクを見た。
「サアサア、ソンナトコロニツッタッテナイデドウゾナカヘ。ココガコレカラオキャクサマノオスゴシニナルヘヤデゴザイマス。ゴユルリトオクツロギクダサイ」
 やっぱり違和感がある。でもいまはそれを無視してネイブを見る。ネイブは不思議なオーラを放つ。ネイブがそばにいるとなぜか心が安らぐんだ。これがどうしてなのかは本当によくわからない。なんとなく姉ちゃんに似た雰囲気を感じるけど、それがなぜかもわからない。
「ゼノ、コチラヘ」
 ネイブはゼノのスカートを握って部屋を出ていった。本来なら手を握るところなのだろうが、身長が足りない。ネイブの背はボクの腰に届かない程度だ。

「さて」
 ボクは部屋の空気を吸った。じめじめはしてないけど、うーん、じわじわする。自分でも変な表現だと思う。でもそう感じるのだ。まるで暗いこの部屋に巣食う闇がボクの体を侵食して、染み込んでくるような感覚。

 右腕が、むずむずする。

 9 >>317

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.317 )
日時: 2022/08/20 00:10
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 0vtjcWjJ)

 9

 突然、黒が動いた。
『久しぶりだね』
 その言葉を受けて声を出したのはボクでありボクではなかった。
『はい』
『そんなにかしこまる必要は無い。キミはワタシの恩人に近い存在であるのだから』
『ありがとうございます』
 黒は笑った。そう見えた。よく見えない。意識そのものに霞がかかったようだ。この感覚は、そうだな、夢だ。夢を見ているときに似ている。夢の中にボクとボク以外の誰かがいて、ボクが動いてるはずなのにそれをボクは第三者の視点で見ているような、あの感覚。ここにいるのはボクだけど、ボクじゃない。
『キミの仕事は最早終わっていると言っていい。後は時間が経つのを待つだけだ。キミは何もしなくていい』
『はい』
 黒はボクに触れた。頬を撫で、額を覆い、目の縁に指みたいなものが当たる感覚がした。それに合わせてボクは目を閉じる。
『これは報酬の一環だ。遠慮なく受けとってくれ。それから、まだあの子のことを知りたいのなら、図書館に行くことをお勧めするよ』

 目を開けると、そこに黒はなかった。代わりに見えたのは、並んで歩くネイブとゼノ。

「イイデスカ? ワタクシハアナタヲヒョウカシテイルノデス。アナタダカラオキャクサマノアイテヲタノンダノデスヨ?」
「案内を忘れていたのは、ごめんなさい。次からは気をつけます。でも──」
 ゼノが言い淀む。ネイブはその背中を押した。もちろん物理的にではなく精神的に。
「ドウシマシタ?」
「えっと、どうしてあの部屋なのかな、と。他にも空いてる部屋はありますよね?」
 今度はネイブが言葉を出し渋る。真実を隠すつもりはなさそうだが、どう話すべきかで悩んでいるらしい。
「『オキャクサマ』ダカラデス。アレハモウガクエンノセイトデハナイ」
「えっ?」
 ゼノが困惑してネイブを凝視した。
「どういう意味ですか?」
「ソノママノイミデス。アナタモジキニシルトキガクルデショウ」
 ゼノは納得したように見えない。さらに問い詰めるか否かを判断している最中、唐突に二人のそばにある部屋の扉が開いた。

「面白そうな話だネ、あたいも混ぜてヨ」

 出てきたのはルーシャル=ブートルプ。深紫の短髪に柑子こうじ色の瞳と、派手、と言うよりも毒々しい色合いをした女。しかし体型も含め外見は整っていて、その毒々しい色は欠点ではなく立派な個性として溶け込んでいた。ここが寮ということもあり彼女は部屋着で、白い肌は見せつけるかのように汚らしく顕になっている。腕や太ももや胸元など。頭から飛び出した円錐状の黄色の角を見るに、鬼族であることは一目瞭然だ。
「ルーシャル、リョウノナカトハイエソノカッコウハイカガナモノカトオモイマスヨ」
「いいジャン。楽なんだヨ。ねぇねぇそんなことよりサァ、あの部屋埋まったんだネ。あたいはてっきり白眼が入ると思ってたから意外だったヨ」
 ルーシャルが言うあの部屋とは、先程朝日が入った部屋のことだ。そもそもが特別製であるこの寮の中でも特に頑丈に作られたあの部屋は『要注意人物用』だった。あの部屋に入れられるほどの危険人物はそうそう現れないし、実際ここ数年間は空室だった。その部屋にあんな平凡な少年が入るなど誰が想像したことだろう。少なくとも朝日は見た目だけは歳の割に小柄で細身。危険どころかむしろ周囲から心配されそうな見た目をしている。
「まさかあんな可愛い男の子が入るなんてネ。好みじゃないけど結構美味しそうジャン」
 ゼノがあわあわと口を動かすが、肝心の言葉が出ていない。そんなゼノを見かねてか、ネイブがルーシャルに言う。
「オキャクサマヲアノヘヤニオトオシシタイミヲカンガエナサイ。アナタガテヲダシテイイ『モノ』デハアリマセンヨ」
「モノ? 珍しいネ、あんたがそんな言い方をするなんテ。ますます気になるジャン」
 ルーシャルはネイブの忠告など右から左へ聞き流す。ぺろりと舌なめずりをして、ゼノの眉間のしわが深まった。
「なにか文句でもあんノ?」
 ゼノが向ける視線に気づいたルーシャルが声を荒らげた。
「いえ」
「なぁんか鼻につく言い方するネ。言いたいことあるなら言いなヨ、マモノオンナ」
 怪物でもないバケモノでもないゼノに与えられた蔑称。ゼノの過去、すなわちゼノの姉のことを知る者はバケガクにおいて少数だが、長年共に過ごしている寮生だと隠し通すにも無理がある。魔物の家族なのだからお前も魔物だろ、ということだ。厳密には〈呪われた民〉は魔物でもなんでもないのだが。
 ゼノはこの蔑称を嫌だとは微塵も感じていない。自分が慕う姉の家族であることを誇りに思っているからだ。呼ばれ出した当初は眉をひそめていたが、それは姉を魔物扱いすることが気に入らなかったからだ。

「コラ、ケンカヲウルノハヤメナサイ。ゼノハソンナチョウハツニハノリマセンヨ」
「ハイハイ。ネイブはうるさいナ」
 鬱陶しそうにそう言いながらも、ルーシャルはニヤニヤとした顔を直さずにゼノを舐めまわすように見続ける。
「確か、あの男の子と仲良いんだよネ? あたいが手を出すと嫌な顔するってことはそういうコト?」
 途端にゼノの顔は真っ赤になった。それは羞恥と怒りの感情が複雑に混ざりあった結果であった。先程ネイブに「ゼノハソンナチョウハツニハノリマセン」と言われたばかりだが、こればかりは言い返さねばゼノの気は収まらなかった。
「違います!」
「むきになってどうしたノ? そんなに強く否定するなんて逆に怪しいジャン」
「私と朝日は友達です。勝手なこと言わないでください!」
「ふぅン?」
 ルーシャルが納得した様子は微塵もない。見下すような嘲るような目を隠さない彼女に、ネイブは大きく跳び上がって彼女の頭を叩いた。
「痛ァ!」
「イイカゲンニシナサイ、ゼノヲカラカウンジャアリマセン」
「なんであたいだけなのサ!? 虐待だヨ虐待!」
「アイノムチデス。ゼノハダイジナ、オキャクサマノオメツケヤクナノデス。アナタノセイデヤクヲオリルトイッタラドウセキニンヲトルノデスカ」
「お目付け役ゥ?」
 ネイブは小さな見た目に反し、ルーシャルに相当なダメージを与えたようだ。ルーシャルは微かに涙目になりつつ頭をさすり、ゼノを睨む。
「このぼんくらにそんなこと出来るわけないヨ」
「ナントデモオイイナサイ。イキマスヨ、ゼノ」
「はい」

 ボクは目を閉じた。瞬きをしてもう一度目を開くと、もうそこにゼノやネイブの姿はないし、もちろんルーシャル=ブートルプの姿もない。目の前にあるのはボクに当てられた部屋の大きな扉。これからなにをしようか、そんな疑問さえ浮かんでこないままにぼんやりと扉を見つめる。
「あのー……」
 背後から声がした。誰かいたっけ? そう自問しながら声の主を確認する。
 左右に広がった特徴的な形をした、銀にも見える灰の混ざった白髪と、赤青黄がそれぞれ混在する瞳の色。すらっと伸びた体に纏うものは色とりどりの派手な衣装。継ぎ接ぎだらけとも形容できそうなちぐはぐな服だ。腰を越える長い髪は性別を判断する材料には成り得ず、男にも女にも見えるし、なんならどちらにも見えない。よくわからない風貌だ。顔でも性別は判別できない。ただ、なんだか見覚えのある顔だ。
「驚かないんですねー」
「そういえばそうだね。で、誰?」
 ボクが訊くと、そいつは答えた。左手を胸に当て、見本のようなお辞儀を見せる。
「申し遅れました。ワタシはジョーカー。イロナシと対を成すイロツキでございます」
 なるほど。道理で見たことがあると思った。特にその馬鹿みたいな格好。白と黒のイロナシでさえ派手だったのに、そこに色が加わると目が痛くなる。
「なにしに来たの?」
「なに、と言いますかー」
 イロツキは困惑したように微笑んだ。冷たい微笑だ。氷よりは極寒に晒した鉄と表現する方が適切だと思える、そんな冷たさ。

「ご相談に伺ったのです。そこの精霊をお貸しいただけませんか?」
「精霊?」
 ボクは鞄から出て机の上に座っているビリキナを見た。イロツキに視線を戻して再び問う。
「ビリキナのこと?」
「はい」
「いいよ別に。好きにして」
 二つ返事で了承したことを怒鳴ってくるかなと思ってもう一度ビリキナを見る。ビリキナは不自然なくらい体を強ばらせて固まっていた。よく見るとうっすら汗もかいている。どうしたんだろ。
「そうですかー! ありがとうございます! いやぁ助かったなー。なんせずっと一緒にいるんですもの。なかなか引き剥がせなくてー。いやはや流石でございます。貴方は二度も精霊を捕まえていてー」
 イロツキの声は感情がわかりにくい。この台詞も何の意図で言っているのだろうか。本当に褒めているようにも嫌味のようにも聞こえる。どうでもいいや。
「さてさて契約主のお許しも頂いたことですしどこで話しましょうか? ワタシはここでもいいのですがー」
 ビリキナは慌てた調子の声を出した。
『待ってくださいっ、場所を変えましょう!』
 なにをそんなに焦っているんだ。そういえば反応からしてビリキナはイロツキのことを知っているらしい。イロナシの方はよく知らないみたいだったのに。
「ボクはいまから出るからここで話してもいいよ。勝手にして」
 それだけ言い残して、ボクは身一つで部屋を出た。姉ちゃんの部屋はどこなんだろう。把握しておいた方がいいよね。ネイブに訊けばわかるかな? 前は学園長室の壁の中で過ごしていたって言ってたけど今回は寮にいるよね。ネイブが案内していたし。姉ちゃんを案内していたはずのネイブがさっきボクの部屋に先回りして待ってたということは少なくとも学園長室には行ってないはずだ。

 部屋から出る直前、既に話を始めたイロツキの言葉を背中に受けて、ボクは部屋を後にした。

「あの方とあの御方、キミはどちらにつくつもりー?」

 10 >>318

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.318 )
日時: 2022/10/07 05:49
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: rrGGtC6v)

 10

「オジョウサマノオヘヤデスカ?」

 まずはネイブを探そうと意気込んでいたが、呆気なく見つかった。一階に降りて正面玄関に行くとそこにいた。まあ確かに、仮想生物であるネイブに部屋なんか必要ないからね。ただ、少なからず人に近い姿をしたネイブが特に何もない空間にぽつんと佇んでいる光景は少し違和感がある。すぐに慣れるんだろうけど。
「うん。どこにあるの?」
「カゾクトハイエレディノヘヤニジゼンノモウシデモナクタズネルノハドウナノデショウネ」
 ネイブは仁王立ちの真似をした。
「トイウノハジョウダンデス。オジョウサマカラ、オキャクサマガノゾマレレバヘヤヘアンナイスルヨウニトオオセツカッテオリマス。ドウゾコチラヘ」
 ネイブはいつの間にか二人分の食事をふよふよと浮かせて、ボクの前を歩いた。
 なんだよ。だったらはじめから素直に案内していればいいのに。変に勿体ぶっちゃって。口に出したりはしないけどさ、ちょっと面倒くさいよ。
「ジョウダンモコミュニケーションノイッカンデスヨ」
「え?」
 ネイブが進む方向は階段の方ではない。姉ちゃんの部屋は一階なのかな?
 一階の奥まで進むと、そこには下へと続く階段があった。なるほど、この寮には地下もあるのか。かなり大きな寮だな。そう思ったけどそもそもバケガクに通う生徒の数も膨大なのでなにもおかしくはないか。

「オキャクサマハオジョウサマガスキナンデスネ」
 階段を降りながらネイブが言った。
「え? ああ、うん」
 そうだね。ボクは姉ちゃんが好きだ。この世の誰よりも。昔からボクの一番は姉ちゃんのものだ。そして姉ちゃんの一番もボクであるべきなんだ。実際には、姉ちゃんはボクよりも笹木野龍馬の方が大切なんだろうけど。笹木野龍馬が消えてしまったいま、姉ちゃんの一番は誰なのかな。ボクだったら嬉しいけど、たぶん違う。なんとなく、そんな気がする。
「ナカガイイコトハヨイコトデス。オモイノシュルイコソチガエドオジョウサマモオキャクサマヲタイセツニナサッテイルノデショウ」
 知ったような口をきくネイブに少々腹を立てつつ、ボクは頷いた。ボクが頷いた動作をネイブが確認することはないとわかっていたけど。
「大切にされている自覚はあるよ」
「ヒッカカルイイマワシヲナサイマスネ。ナニカキニナルコトデモ?」
 ネイブはボクを見ていないと思っていたけど、どうなんだろう。歩いている方向と同じ方向に目鼻に当たるものがあると思い込んでいたが、もしかしたらこちら側に顔があるのかもしれない。そもそも全身が顔の役割を果たしているのかもしれないな。
「気になるってほどでもないんだけどさ。『家族として』大切にされているわけじゃないのはわかってるから、それがちょっと寂しいなって。それだけ」
「ナルホド。タシカニオジョウサマハオキャクサマヲカゾクトシテアイスルコトハデキマセンネ」
「改めて他人に言われると腹立つんだけど?」
「タニンデハアリマセンヨ。ワタクシハコノリョウノホゴシャデス」
「あっそ」
 地下一階を素通りし、もう一つ階を降りる。地下二階に着いて、比較的階段に近い中途半端な場所でネイブは立ち止まった。

 コンコン、コンコン

「オジョウサマ、オキャクサマヲオツレシマシタ」
 静かな廊下に、ネイブの角張った声が染み込む。その声は女性的であったがやや低めで、聞いていて落ち着く声だった。
 静かな廊下に、静かな扉の開閉音が鳴った。
「入って」
 明かりらしい明かりもない暗い廊下に、存在を主張する美しい金髪が見えた。廊下の壁や床、部屋の扉の黒とは、正反対で異質な白い肌が気持ち悪いくらい妖艶だ。姉ちゃんの青眼と白眼にはやっぱり光や覇気がない。
「デハ、ワタクシハシツレイイタシマス。コレハオジョウサマトオキャクサマノオショクジデス」
「うん」
 ネイブは姉ちゃんに食事を渡すと、静かに立ち去った。
 姉ちゃんは黙って部屋に入ってしまったけど、扉を開けたままだし、さっき「入って」と言われたから入っていいんだよね?
「お、お邪魔しま、す?」
 家族の部屋に入るのにお邪魔しますは他人行儀だし変かな。だけど他に適切な言葉を思い浮かばない。何も言わずに入るのも一つの手だけど、それはやめておいた方がいい気がした。
 八年の月日を越えて家に帰ってきたあの日から、姉ちゃんの部屋に入るのにはなぜか緊張するようになっていた。昔から感じていた姉ちゃんとの距離が、長い時間が空いたことでより鮮明に自覚するようになったからだ。
 場所が変わったからかな、いつもより緊張する。部屋の中は真っ暗で何も見えない。
「待って」
 姉ちゃんが言った数秒後に明かりがついた。姉ちゃんの魔法だ。明かりがついたことでこの空間の全貌があらわになった。と言ってもボクの部屋と同じで移動したばかりなので物は少ない。明かりがついているにも関わらず廊下とよく似た暗い雰囲気の部屋。黒い壁に黒い床、灰色のベッドと机と椅子と。暮らすにあたって必要最低限の家具だけが揃えられた質素な部屋だ。本来ならここから家具を揃えたりするのだろうが、この家具たちは随分姉ちゃんに似合っていた。ネイブに渡されていた食事は机の上に置かれていた。

「座って」
 姉ちゃんはベッドに腰掛ける。
「ここしかないから」
 ボクは姉ちゃんの右側に座った。窮屈に感じないようにゆとりを持ってベッドに体を預ける。
「どうしたの」
 姉ちゃんは目線だけを動かしてボクを見た。吸い込まれそうなほど澄んだ青眼は、光を失っているのに外からの光の反射で輝いて見える。
 ボクはちょっと考えてから笑顔を作った。
「姉ちゃんに会いたくて」
「そう?」
「うん!」
 せっかくだから何か話したいな。そうだ、特に興味はないけどこの寮について聞いてみよう。何から聞こう。不思議なことといえば『どうしてこんなに暗いのか』『どうしてここは隔離されているのか』『ネイブは何者なのか』、この辺かな。まだあるけどとりあえず。
「姉ちゃんはなんでここがこんなに暗いのか知ってる?」
 姉ちゃんは数秒の沈黙のあと言った。
「さあ」
「知らないんだ」
「雰囲気じゃないかな。ここはバケモノの巣窟だから」
 ふむふむ。確かにボクもこんな胡散臭い建物に自分からは近づきたくないな。
「それってここが隔離されているのと繋がりがあったりする?」
「そうだね」
 今度の返事は速かった。頷くことなく肯定する。

「関連はある。でも逆。黒い見た目はバケモノから外部を守るためのもの、隔離は外部からバケモノを守るためのもの。バケモノと一言で言っても色々ある。破壊衝動や虐殺願望を常に抱いている人もいれば、物理的にも精神的にも魔法的にも弱い人もいる」
 へー、ちゃんと意味があったんだ。
「じゃあさじゃあさ、ネイブは? なんでいるの? 寮の管理人なら人間でもいいよね。あいつも寮がバケモノの巣窟であることに何か関係があるの?」
 仮想生物がああやって職を持っているところは見たことがない。仮想生物に与えられるのはあくまで役割だ。仮想生物を維持するためには術者は仮想生物に魔力を提供し続ける必要があるし、仮に永続で仮想生物を維持できたとしたら、僕たちは仮想生物に仕事の大半を押し付けて、しまいには廃れてしまうだろう。はじめは便利だと喜んだとしても、働くことをやめた生物は壊れる。便利なものでも適度に使わなきゃいけないんだ。魔法は便利なものだからこそ、慎重に向き合わなきゃいけない。

「管理人じゃない。保護者」

 姉ちゃんから訂正があった。そういえばそんなこと言ってたっけ。保護者って親みたいだな。実際母親じみた言動もいくつかあったし。
「ネイブはこの寮だけにいるんじゃなくて、他の四つの寮にもいる。ここのネイブの体の色は赤で、他のネイブの体の色はそれぞれのグループを象徴する色に対応している」
 あっ、ほんとだ。よく考えたら赤の魔力で作られたわけないからあの赤は意図的に付けられた色ということになるのか。
「なんで寮の保護者がネイブなのかは、学園の職員だから。学園で働く教職員の内、教員はこの地に生きる種族で構成されていて、職員はほとんどが仮想生物で構成されている。教員になれなかった少数の人が職員になっていることもあるけど」
 聞いたことがある。バケガクは生徒、つまり子供だけでなく大人の面倒も見ていると。バケガクで働く人たちはバケガク卒業生であることが多い。その理由はバケガクに通うようなバケモノは社会に出ても就職先に困る場合が少なからずあって、バケガク卒業生じゃない先生も何かしらの社会一般で言う『欠陥』を抱えている。そして社会一般で言う『まとも』な先生の方が少ない。まともならバケモノが通う、社会的に評価の低いバケガクに勤めようなんて思わない。堅実で普通の生活を送ってきた人でバケガクに勤めたいと思う人は頭がイカれていて、やっぱり普通じゃない。図書館の番人さんや守人さんもきっと特殊な事情を抱えているんだろうと予想できる。あの二人もそうだし、バケガクの教職員は身元が不明な人が多い。

「仮想生物なら術者がいるよね。誰か知ってる?」
「理事長」
「だと思った」

 自分で聞いといてなんだけど、じゃなきゃ誰が術者なんだって話だ。学園で働く職員の全員を把握しているわけじゃないが、学園の敷地の広さを考えれば大体の数は推測できる。その全ての仮想生物を維持し続けるなんて大量の魔力が必要となる。それこそ、そうだな、無尽蔵の魔力が。
 ……感覚がおかしくなっているのかな。一体の仮想生物だけでも永久に出し続けることなんてできないから学園の職員のほとんどが仮想生物だっていう言葉自体信じがたいもののはずなんだけど。
「理事長には底なしの魔力がある」
 姉ちゃんは言う。
「言葉通りの意味。魔力を大量に保持しているわけじゃない。本当に制限がない」
 一般的な思考なら学園長についてさらに追及するところなんだろう。魔力の底がない種族なんて聞いたことがない。だけど、ボクは学園長にさほど興味がなかった。
 それよりも気になるのは。
「なんでそんなこと知ってるの?」
 以前から思っていた。姉ちゃんに対する学園長の態度は、生徒に向けるものではない。姉ちゃんに敬語を使っていたし、姉ちゃんが学園に滞在していたときは学園長室の一部(?)を使わせていた。姉ちゃんがただの生徒ならそんなことはしないだろう。学園長自身に何かあるのは確実として、生徒としての姉ちゃんにも何かある。ボクはそっちの方が知りたい。

「在学日数が長いから」
「それだけ?」
 姉ちゃんは沈黙した。だからボクは姉ちゃんの顔を覗き込んだ。言うことを悩んでいるのか、言う気がないのか、どっちだろう。
「まだそのときじゃない」
 悩んでいるのか、その気がないのか、どちらでもないような表情を浮かべる。悲しそうで苦しそうな姉ちゃんの顔。いつもの無表情を崩すほどのことがいまこの瞬間に起こったのか? なにがあったんだろう。気付けなかった。残念。それにしてもそのときじゃないってどういうことだ? 教えてくれる気はあるってことでいいのかな。
「物事には順序がある。神が望む順序に従う必要がある。だからまだ、言えない」
「神?」
「うん」
「姉ちゃんは神と関係があるの?」
 姉ちゃんはまた黙った。だが、今度はいつもの無表情で首を傾げた。
「朝日が言う神がどの神であるかによって、その回答は変わる。私が把握している神は四種類ある。関係があるという表現も曖昧で答えづらい。全種族と関係がある神もいる」
 だからなんで姉ちゃんはそんなことを知っているの? 姉ちゃんは何者なの? 姉ちゃんは何を隠しているの? 
「そうなんだ」

 ──じゃあ、姉ちゃんは神なの?

 その問いを口に出す勇気は、ボクにはなかった。

 11 >>319

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.319 )
日時: 2022/10/07 06:13
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: rrGGtC6v)

 11

 姉ちゃんの部屋で過ごしていたら、外が暗くなっていることに気付けなかった。姉ちゃんの話によると、この寮は各部屋にお風呂なんかがあるらしく、共有スペースとやらは団欒部屋だけだそうだ。これは全ての寮がこうなんじゃなくて、これもⅤグループ寮の特殊性なんだって。Ⅱグループ寮とかになってくると部屋の質が上がってお風呂も付いていたりするんだけど、IVグループ寮とⅢグループ寮は他の学校の寮と同じで共有で使うものが多いらしい。だけどこれにもちゃんと理由があって、ⅡグループやⅠグループの生徒は貴族や王族が多く、他人と物を共有して使うことに抵抗がある人が多いからなんだと姉ちゃんは言っていた。ならⅤグループ寮の共有スペースが少ない理由はというと、バケモノ同士の接触を減らすため。納得できるようなできないような。

「ただいま」と言いながら部屋の扉を開ける。寮の部屋の扉は扉に手をかけたときに、それぞれの部屋の主の魔力を認証して鍵が開く仕組みだ。そんな技術があるのかと聞いた直後は驚いた。
 部屋の中は静かだ。イロツキは帰ったのかな。明かりもついていない。見えなくもないけど見えづらいな。
 ボクは魔法で灯りをつけた。違和感があった。なんだろうと考えたかどうかわからないくらいすぐにその正体に気づく。
「ビリキナ、いないの?」
 返事がない。どこに行ったんだろうか。

『いやはや、流石でございます。貴方は二度も精霊を捕まえていてー』

 まさか連れて行かれたのか? それか場所を変えて話したのかもしれない。てっきりここで話していたのだと思ったのに。
『ああ、ここで話したよ』
「わあ! びっくりしたな。あと心の中を読まないでくれる?」

 ビリキナの声は確認できたけど、どこにいるのかはまだわからない。キョロキョロと辺りを見回し首を上に回してようやく見つけた。
「なにしてるの?」
 なにもない空中の、しかもボクの目線よりもはるかに高い場所で停止している。異様な光景だ。本当になにしてるんだ?
『万が一お前が暴走状態で帰ってきたら、オレなんてすぐに死んじまうからな』
「なに言ってんの? ボクが暴走状態ってなんのことだよ。そもそもビリキナは精霊なんだから死なないでしょ」
『精霊だって死ぬときはある。死ぬっつーか消滅だな。世界から外れたり長生きしたり、神が気まぐれを起こしたりしたらあっけなく消えるぜ』
 ビリキナは喋りながら下降をしてきて、机の上に座った。
「え、なにそれ」
 世界から外れたら神によって存在を削除されることは知っている。それは精霊に限ったことではない、世界の共通認識だ。種族によってその線引きは違っていて、それを越えることはなかなかないから前例は少ない。

「気まぐれでも消されるの?」
『安心しろよ、それは精霊だけだ。種族精霊の中のごく一部の、特に神に近い精霊だけ。例外もなくはないけどな。勘違いされちゃ困るから言っとくが、そのことに関して不満はないぜ。オレたちは生まれたときからそう考える存在だ。オレがいま消えたくないのは人間みたいに本能から来る感情じゃなくて、まだやることが残ってるからだ』
「やり残したことでもあるの?」
『すぐにでも死にそうなやつに言うことだろ、それ。お前が暴走さえしなけりゃ少なくともまだ消されねーよ』
 ボクは自然と笑顔になった。ビリキナとこんなふうに話したのは久しぶりだ。なんだか嬉しい。
「元気になったんだね。欠片ほども心配してなかったけど、ずっと暗い顔されてて鬱陶しかったから良かったよ」
 ビリキナは溜め息を吐いた。
『お前ってたまに辛辣になるよな。
 まあ、そうだな、やっと頭の整理ができたよ』
「なんで急におかしくなったの?」
『一言で言えば、お前のせいだ』
「へ?」
 ビリキナの顔には大きく『面倒くさい』と書かれていた。

『知りたきゃ教えてやるよ。オレが許されている範囲でな。知りたいか?』

 考える前に言葉が出た。
「別に。そんなに勿体ぶられたら聞く気なくしちゃったよ」
『空気を読まないやつだな』
 ビリキナは頭をガリガリとかいた。
「ビリキナ自身に興味なんてないし。様子がおかしかったことについてはちょっと気になってたけど、理由が知りたいほどではないかな」
『お前の姉も関係するぞ。いいのか?』
 そろそろお風呂に入ろうかな、それかご飯にしようかな。ビリキナの言葉を聞きながらそんなことを考えていたけど、すぐに消し去りビリキナが座っている机の椅子に座ってビリキナに尋ねた。
「どういうこと?」
 ビリキナはニヤリと笑った。なのに憂いを帯びた不思議な表情だ。見間違いかもしれないけどその微妙な表情の中に、同情によく似た慈しみがこちらを伺い見ていた。

『オレは神に会った』

「それで?」
『驚かないってことは、お前も会ったのか』
「うん。ニオ・セディウムの神々にね」
 ビリキナは少し驚いた顔をした。でも特にボクになにかを尋ねることはなく、続きを話す。
『オレが会ったのは、ディミルフィア神だ』
 なるほどね、ビリキナの言葉の意味がなんとなく分かったよ。この話を聞く気が強くなった。確かこの寮のご飯は自分で取りに行かないといけなくて、その時間も決まっていると聞いた。だからそろそろ行かないと今日のご飯がないかもしれない。そんなのどうでもいい。一晩ご飯を抜いたくらいで人間は死にやしない。
『神から聞いた話はにわかには信じがたかった。精霊であるオレはなにかと神が気まぐれを起こすところを見たことがあったけど、あんなことを告げられたのは初めてだ。しかも誰もいない空間でオレ一人に向かって。なんだと思う?』
 そんなこと聞かれたってわかるわけないだろ。ボクは首を横に振った。

『お前は神になるんだとよ。よかったな、ただの人間が神になるなんて前例のないことだ。喜べよ』

「は?」
 本心からそう言った。なにを言い出すかと思えば。
「ふざけてんの?」
『オレもそう思ったからさっきまであの状態だったんだよ。わかったか』
 ボクは言葉選びに時間を要した。言いたいことはなんとなく理解できた。確かにそんなことを言われたら思考を放棄して頭がおかしくなってしまう。精霊であるビリキナに神の言葉を疑うなんて選択肢は与えられていないだろうから余計に混乱したはず。
「わかったけど、どういうこと? なんでボクが神なんかに」
『神なんかなんて言うな。言葉には気をつけろ』
 ビリキナは見たことがないくらい鋭い目でボクを睨んだ。
「ご、ごめん」
 確かに失言だった、反省。つい最近まで神の存在を信じたことはなかったけど、この目で神を見てしまったいまとなっては神に敬意を払わざるを得ない。
『ったく』
 呆れた色がビリキナの目の中に表れる。
『オレも全てを知ったわけじゃない。そんな権利はないからな。あくまでオレに与えられた役割を果たすにあたって必要なことしか知らされていない。神はどうやらお前の神化を止めたいらしい。引っ張りだこだ、羨ましい限りだよ』
 知らないよ、そんなの。引っ張りだこ?
 むっとしてビリキナを見ると、ビリキナはふっと笑った。
『なんて顔してんだよ、事実だろ。ほとんどの干渉をやめた神に存在を認識されるなんて光栄なことだ。
 でも同情するよ、神々の都合に振り回されるんだからな。お前はなにも悪くない、誰も悪くない。お前は道を踏み外したんじゃなくそうさせられた被害者だ』
 ビリキナが浮かべる、楽しい感情から来るものじゃない作られた微笑とその中に見える慈愛の色に既視感があった。

「姉ちゃん?」

 ビリキナは表情を崩して変な顔をした。苦虫を噛んだみたいなバツの悪そうな顔。
『オレの中にあの方が見えたのか。オレも元はあの方に作られた身だからあの方の一部が残ってるのかもな。知ってるか? 闇の隷属の種族の全てがニオ・セディウムの神々に作られたわけじゃないんだぜ』
「あの方って、姉ちゃんのこと? 姉ちゃんは神なの?」
 ビリキナの言葉の後半は意識に入れずに問う。言葉を被せて半ば強引に言ったので、ビリキナは不快そうに口をひん曲げながら答えた。
『そうとも言えるし、違うとも言える。実質的にはそうだし、厳密には違う。花園日向は神ではなく正真正銘人間であり天陽族であり、お前の姉だ』
「どういうこと?」
『オレはあの方につく。お前はもう救われない。これは結論であり、神が組み立てた物語の順序だ。抗うことはできない。それでもオレはあの方の望むように動く。しかしこれはオレの意思ではなく既に決められていたオレの使命だ』
「ちょっと、答えてよ!」
『いいか、何度でも言ってやる。お前はもう救われない。なにもかもが遅すぎた。経緯や理由はどうあれお前が犯した罪は間違いなくお前の罪だ。神はお前の贖罪をご所望であり、オレもそれに従う。お前の意思は関係ない。この地に生きる我々は神に逆らうことは許されない』
 ビリキナは立ち上がり、机の上に置いていた鞄に近づいた。
『オレはお前の罪に巻き込まれたくない。だけど、オレの意思は無視される。とことんお前とお前の運命と、お前の罪に付き合ってやるよ』
 鞄を開けて中に入り、最後にボクを見て言った。
『神は気まぐれだ。気に入られる行動をしていれば、もしかしたら助かるかもな』
 鞄がパタンと閉まる乾いた音が部屋全体に広がってから、ボクはぽつりと呟いた。
「なんだそれ」

 結局なにもわからなかった。ビリキナの言葉だけを考えると。だけどいままでに起こったことを思い返して整頓すると答えに近いものにたどり着ける気がする。もっと情報が集まれば、きっと。ビリキナからはもう情報は得られない。次は誰を当たろうか。確か東蘭もスナタも寮暮らしだったよね。やろうと思えばいつでも聞きに行けるか。とりあえず近いうちに図書館に行こう。あそこにもまだ謎があるはず。今日はもう寝てしまいたい。お風呂に入って歯磨きもして。疲れた。なんだか疲れた。ベッドの寝心地はどうだろうか。たとえ悪くてもこの眠気なら床でだって寝られる気がする。

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