ダーク・ファンタジー小説

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この馬鹿馬鹿しい世界にも……【番外編追加】
日時: 2025/05/23 09:57
名前: ぶたの丸焼き (ID: 5xmy6iiG)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12919

 ※本作品は小説大会には参加致しません。


 ≪目次≫ >>343


 初めまして、ぶたの丸焼きです。
 初心者なので、わかりにくい表現などありましたら、ご指摘願います。
 感想等も、書き込んでくださると嬉しいです。

 この物語は長くなると思いますので、お付き合い、よろしくお願いします。



 ≪注意≫
 ・グロい表現があります。
 ・チートっぽいキャラが出ます。
 ・この物語は、意図的に伏線回収や謎の解明をしなかったりすることがあります。
 ・初投稿作のため、表現や物語の展開の仕方に問題があることが多々あります。作者は初心者です。
 ※調整中



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 ありがとうございますm(_ _)m
 励みになります!

 完結致しました。長期間に渡るご愛読、ありがとうございました。これからもバカセカをよろしくお願いします。

 ≪キャラ紹介≫
 花園はなぞの 日向ひなた
  天使のような金髪に青眼、美しい容姿を持つ。ただし、左目が白眼(生まれつき)。表情を動かすことはほとんどなく、また、動かしたとしても、その変化は非常にわかりづらい。バケガクのCクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。

 笹木野ささきの 龍馬たつま
  通称、リュウ。闇と水を操る魔術師。性格は明るく優しいが、時折笑顔で物騒なことを言い出す。バケガクのCクラス、Ⅱグループに所属する優等生。

 あずま らん
  光と火を操る魔術師。魔法全般を操ることが出来るが、光と火以外は苦手とする。また、水が苦手で、泳げない。 バケガクのCクラス、Ⅱグループに所属する優等生。

 スナタ
  風を操る魔法使い。風以外の魔法は使えない。表情が豊かで性格は明るく、皆から好かれている。少し無茶をしがちだが、やるときはやる。バケガクのCクラス、Ⅲグループに所属する生徒。

 真白ましろ
  治療師ヒーラー。魔力保有量や身体能力に乏しく、唯一の才能といえる治療魔法すらも満足に使えない。おどおどしていて、人と接するのが苦手。バケガクのCクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。

 ベル
  日向と本契約を交わしている光の隷属の精霊。温厚な性格で、日向の制止役。

 リン
  日向と仮契約を交わしている風の精霊。好奇心旺盛で、日向とはあまり性格が合わない。

 ジョーカー
  [ジェリーダンジョン]内で突如現れた、謎の人物。〈十の魔族〉の一人、〈黒の道化師〉。日向たちの秘密を知っている模様。リュウを狙う組織に属している。朝日との関わりを持つ。

 花園はなぞの 朝日あさひ
  日向の実の弟。とても姉想いで、リュウに嫉妬している。しかし、その想いには、なにやら裏があるようで? バケガクのGクラス、IVグループに所属する新入生。

 ???
  リュウと魂が同化した、リュウのもう一つの人格。どうして同化したのかは明らかになっていない。リュウに毛嫌いされている。

 ナギー
  真白と仮契約を結んでいる精霊。他の〈アンファン〉と違って、契約を解いたあとも記憶が保たれている不思議な精霊。真白に対しては協力的だったり無関心だったりと、対応が時々によって変わる。
  現在行方不明。

 レヴィアタン
  七つの大罪の一人で、嫉妬の悪魔。真白と契約を結んでいる。第三章時点では真白の持つペンダントに宿っている
が、現在は真白の意思を取り込み人格を乗っ取った。本来の姿は巨大な海蛇。

 学園長
  聖サルヴァツィオーネ学園、通称バケガクの学園長。本名、種族、年齢不明。使える魔法も全てが明らかになっている訳ではなく、謎が多い。時折意味深な発言をする。

 ビリキナ
  朝日と本契約を結んでいる闇の隷属の精霊。元は朝日の祖母の契約精霊であったが、彼女の死亡により契約主を変えた。朝日とともにジョーカーからの指令をこなす。朝日とは魔法の相性は良くないものの、付き合いは上手くやっている。

 ゼノイダ=パルファノエ
  朝日の唯一の友人。〈コールドシープ〉の一族で、大柄。バケガク保護児制度により学園から支援を受け、バケガク寮でくらしている。バケガクのGクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。

≪その他≫
 ・小説用イラスト掲示板にイラストがありますので、気が向いたらぜひみてください。

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.240 )
日時: 2021/08/14 23:31
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: QT5fUcT9)

 13
__________

「日向、朝日!」

 庭にいた父さんがボクが開けようとしていた扉から現れた。しかしそれ無視して、母さんは鍵付きの箱から剣を持ち出した。鍵は特定の人物が魔力を流すと開くタイプのもの。がちゃんがちゃんと音を立てて出てきたのは全長一メートルほどの両手剣で、鉄製のどこの市場でも出回っているようないわゆる粗悪品だ。箱に鍵が着いているのは泥棒に護身用に使われないためで、保管するためではない。そんな価値はあの剣にはない。

「これならいくらお前でも……」
 包丁を投げ捨て、剣を構える。カランと音がして、包丁がくるくる床を滑る。
 大して鍛えていない母さんはふらふらと足もとがおぼつかず、頼りなく剣を振りかざした。

あや! それを早く降ろ……」

 ザクッ

 また、嫌な音がした。視界が紅に覆われる。
 一体、何が起こったんだ?

 それを俺が知る前に、姉ちゃんがよろよろと立ち上がり、そばによって正座し、自分の胸に俺の顔をうずめた。
「見たら、だめ」
 小さく、声が聞こえた。

「あ、そんな……」

 か細い、母さんの声。なにが、あったんだろう。

 ガタンッ
 ゴッ

 何かにぶつかる音と、昔俺が階段から転げ落ちて頭を打った時の音に似た音がした。
「ね、え、ちゃ……」
 姉ちゃんは、さらに強く俺を抱きしめた。姉ちゃんから流れる血が、温かくて冷たい。
「大丈夫。大丈夫。大丈夫。私が守るから。大丈夫」

「大丈夫だよ、姉ちゃん」
 ・・
 ボクはそう言って、姉ちゃんの体を押して、にこっと笑った。
 姉ちゃんの向こうの世界では、紅が満ちていた。暗い部屋に紅が上塗りされた世界。黒と赤の二つの色で支配された世界はあまりにも醜くて、ボクは顔をしかめた。

 母さんは頭から血を流していた。机の角にぶつけたらしく、当たりどころが悪かったらしい。血を流しながら座り込んだようで、机に血の跡があり、机の上に出来た血溜まりが血の跡を伝って垂れて、倒れた母さんの体に落ちている。

 父さんは首から血を流していた。大動脈を切ったようで出血が酷い。こちらはまだ息があるのか、腹部が上下に小さく動いている。ぶつぶつと何かを呟いているけれど、ボクには関係の無いことだ。

 こんなに醜いのに。それなのに。

 それなのに、どうして姉ちゃんはこんなにも美しいんだろう。
「ボクなら、平気だか、ら」

 一滴、冷たい雫が姉ちゃんの頬を伝い、床に流れる姉ちゃんの血に吸い込まれた。それを見たボクは──

 顔が笑みに歪むのを自覚した。初めてだった。初めて姉ちゃんの涙を見た。どうして泣いたのかはわからないけど、そんなことはどうでもよかった。『ボクが』『姉ちゃんの』『表情を変えた』ということだけが重要だった。

 もっと、色んな顔が見たいなあ……。

 姉ちゃんはまたボクを抱きしめた。

「ごめんなさい」

 微かに震えながら、強く強く、そして儚く。何度も何度もボクに謝り続けた。
__________

 14 >>241

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.241 )
日時: 2021/08/15 09:39
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: lQjP23yG)

 14

「バケガクの学園長なんて役職に着いていると、それはもういろんな生徒を見てきたんだよ。つまり、経験だね。今だって精神を病んだ生徒は大量に在籍している。不登校の生徒もいれば、君みたいに悪意を秘めて生活している生徒だってたくさんいるよ」
「そんなのボクには関係ないね。ボクとそいつらは違う人間なんだから」
「君がどうしてわかるんだって聞いたんだろう?」
「ああそうかい! もういいよわかった!」
「不貞腐れられてもなあー」

 学園長は苦笑いをしてくしゃりと軽く頭をかいた。

「聞きたいことはないし、君のこともわかったし、初犯だし、一年生だし、実害はないし、そもそも君が侵入してるってことはわかっていたし、今回は見逃してあげよう。でも、本当なら牢屋に入れなければいけないようなことを自分がしたってことを自覚して、ちゃんと反省するんだよ。いいね?」
「……はい」
「拗ねない拗ねない。ほら、そろそろ始まるみたいだよ」

 学園長が指さした方向を、バケガク本館があった場所を見るが、ぼんやりと瓦礫の色が広がっているように見えるだけで、他には何も見えない。ここからの距離が遠すぎるのだ。

「【百里眼】を使わなかったのは偉いね。今はいいけど結界が発動されたら魔法反射の影響でとんでもないことになるよ。彼女の魔法反射は凄まじいからなあ」
 そうしみじみと語る学園長を見て、ボクは何かあったのだろうかと思った。
「さ、一度目を閉じて。見えるようにしてあげるから」

 ちょっと待って! なんで【百里眼】の名前を知ってるの?! 魔法を使って覗いていたことはわかっても、魔法の名称、しかも公認されていない魔法の名称がわかるわけないじゃないか!

 そう質問しようとするが、その前に両手で目を塞がれた。
「すぐ済むから、大人しくしなさい。
 ……はい終わり、いいよ」
 学園長は言葉通り、三秒ほどでボクを解放した。
 そして目を開けると、

 視界がまるっきり変わっていた。

 見えているものは変わらない。変わったのは、視界の明晰度だ。さっきまでぼんやりとしか見えていなかったものまでがハッキリと視界に映っている。

 視力が、上がってるのか?

「私の視界の情報を君の頭に直接流しているんだ。【百里眼】は視界を直接その場所に持っていく魔法だけど、私のこれは【視力強化】。魔法の効果を結界の中に入れるわけじゃないから魔法反射は行われない。
 ただし、この魔法を実際に自分で使うと目への負担が酷いから、朝日君は使わない方がいいね。生半可な鍛え方をしても耐えられない。私の体は『おかしい』から問題ないんだけどね」
「あの、さっきから言ってる『結界』ってなんのことですか?」

 ボクが疑問をぶつけると、学園長は言った。

「地面に黒い文字が刻まれているのが見えるかい? 歩いてきたときは気づかなかっただろうけど、こうして遠くから見たら、何かわかるだろう?」
 うーん? なんだろう。
 あっ!

「魔法陣だ!」

 そういえばベルに「魔法陣の用意完了」とか言ってたっけ。これのことだったのか。
 それにしても大きな魔法陣だ。なんと書いてあるのかわからない、見たことの無い文字が円状に敷地をぐるりと囲み、それが何重にも連なっている。

 そしてその中心、破壊し尽くされたあの場所の中で唯一無事だった『四季の木』の元で、姉ちゃんが佇んでいた。

『四季の木』って無事だったんだ。気づかなかった。それにしてもどうして無事だったんだろう。本当に不思議な木だな。
 見ると、姉ちゃんの傍にベルがいる。そうか、これを見て「そろそろ始まる」と言ったのか。

 姉ちゃんとベルは何かを話している。けど、もちろん聞こえないからその内容まで分からない。今のボクは二人の唇の動きまで見えているけれど、読唇術なんて使えないし。
 そんなことを考えている間に二人の会話は終わったらしく、ベルが何か唱えた。するとベルの体が光に包まれ、そしてその光の中にベルが溶けた。光はさらに姉ちゃんを覆い、姉ちゃんの体が発光しているみたいな状態になった。

 そこから魔法陣が発動するまでは、本当に一瞬の出来事で、ボクは何が起こったのか、すぐに理解することは出来なかった。そんなことは不可能だったのだ。

 15 >>242

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.242 )
日時: 2021/08/16 11:57
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: zpQzQoBj)

 15

 ごおおぉぉおおうううぅぅぅうっっ!!!!!

 強烈な轟音と共に、災害級の竜巻を連想させるほどの突風強風が吹き荒れた。それは魔力によって引き起こされる錯覚で、例えば木々がなぎ倒されるだとか、建物の屋根が剥がれるだとかの物理的な被害は何も無かった。しかしこの場にいた人々の六割は占めるであろう魔法適性を持つ人(魔法使いでない人も含む)は、突然起こった魔力の風をもろに受け、魔力酔いで倒れる人が続出した。

 ボクはあまりそういう体調の変化は感じないが、それはそういった感情がないだけで、実際には身体は負荷を受けているはずだ。なんせ魔力の源は姉ちゃんだ。学園長なんか比べ物にならないくらい魔力濃度は濃いに決まってる。
 今は良くても、後から反動が来るだろうな。それに、不調は感じなくても風は感じるので、ボクはあまりの強い向かい風に身体を浮かされそうになった。風自体は濃密な魔力による錯覚ではあるが、魔導師クラスの魔力は術者が意識していなくても周りに物理的・身体的・精神的な影響を及ぼしてしまう。なので魔法耐性のない人は、風を感じずただ急に自分の体を投げ飛ばされたという感覚に陥っていることだろう。
 柱に掴まった学園長がボクの腕を掴んだので、なんとか塔から投げ出されることは免れた。

 次に、猛烈な白銀の濃密な光が視界を貫いた。ボクは直視する前に学園長に目を塞がれたけれど、目をやられた人はかなりの量いるんじゃないだろうか。

 その白銀の光の中に、黒い文字がうっすらと浮かび上がった。魔法陣に記されていた、あの文字だ。黒く見えているのは元から黒い文字が光を吸い込んでいるかららしい。文字そのものが黒い何かを放っているわけでは無さそうだ。
 そう思ったのに。

 いきなり、黒い炎が文字から噴き出した。

 魔法陣が発動したのだ。

 魔法陣の文字一枚一枚が地上からめくれ上がり、そして剥がれ、ふよふよと空を舞う。そのそれぞれがある一点でピタリと止まり、それは魔法陣を底面とした巨大なドームを形作っていた。

 そう。結界の完成だ。

 手当たり次第に吹き荒れていた風も、四方八方に襲いかかっていた光も、それでようやくおさまった。

 ……というのは、後から理解したことだ。これらが一瞬のうちに行われ、そして終了した。ボクはしばらく唖然とし、改めて自分の姉が常識外の至高の存在であることを再認識した。

 結界の中には光が満ちていて、大きなスノードームみたいだと呑気なことを思った。

「やりすぎだ」

 学園長はポツリとこぼした。

「今ので魔法障害と失明を負った者は数知れない。元から警告していたが、ここまでのものとは誰も想定していなかったろう……頭が痛いな」

 魔法障害とは、その名の通り魔法により引き起こされる障害のことで、滅多に起きないことでもある。主に魔法が使えなくなったりだとか、多属性使いなら一部の属性魔法が使えなくたったりする。しかしそれ以外にも、手足の痙攣、脳の機能の損失、五感の内のいずれか、もしくは複数稀に全て機能しなくなるといった身体的な障害や、パニック障害や統合失調症、てんかんなどの精神的な障害なんかも引き起こしてしまう。これは人が他人の血液に拒否反応を示すこととよく似ていると言われているが諸説あり、具体的な原因、対策方法、治療法などは確立されていない。

「警告って、どういうことなんですか?」
 頭を抱えていた学園長だったけど、ボクが質問すると、苦々しい顔を取り繕うこともせず、しかしきちんと答えてくれた。

「警備に来てくれた連中には、事前に私達が、正確には花園君がだけど、今日何をするのかを説明し、人体に影響が及ぶ可能性があることを知らせてあったんだよ。でも誰がそれをするのかは教えていなかったからね。多分ほとんど笹木野君か東君がバケガクの修復をすると思っていたろうから、主に魔導師は油断していただろう。あの二人の魔法使いのランクは『魔術師』だから。
 始めから日向君が術者だと知っていればそれこそ油断してしまうと思ったから敢えて伝えなかったんだけど、ここまで力を解放するとは思わなかった。失敗した。

 ちなみに、朝日君にはさっきの風の影響は少ないはずだよ。君の場合感情がないから自覚しにくいだろうが、この塔にはさっきも言った通り結界が張ってあるからね。それよりスナタ君が心配だな。ほかの二人にガードしてもらっているだろうけど、あの三人も予想外の威力だったろうから」

 光は目を閉じて発光源の逆法を向いていればある程度被害を抑えられる。事前に何が起こるのか分かっていれば対応も出来ただろうし、他の奴らとは違って姉ちゃんの力のことを理解しているから、起こる出来事を甘くも見なかっただろう。
 でも風の方は対応のしようがない。魔法耐性が足りない人は影響が及ばないところまで避難する必要があるが、『あれ』を免れるほど遠くへなんて、移動する時間がなかったはずだ。それにさっき学園長は、バケガクを外界から隔離したと言っていた。おそらく魔力の影響が街に及ぶ可能性を懸念したからだろう(単純に、魔法を人に見られると困るという理由もある)が、ということはつまり逃げられる範囲に限りがあるということ。ならば下手に逃げずに十分な魔法耐性がある魔法使いに守ってもらった方が確実ということだ。

 最後の言葉に納得しつつ、無視しがたい言葉が聞こえたので、さらに質問を重ねた。
「あ、あの。魔法の術者が姉ちゃんだって知られているんじゃないですか? だって、笹木野龍馬も東蘭も他の人達から見える場所にいるんですよね? 隠れたりしてませんよね?」
 少なくとも、そんな指示をしているようには見えなかったし、そんなところも見ていない。

「ああ、そうだね。彼等の仕事は日向君の魔法が万が一被害をこうむった時に備えることだから。下手に隠れて対応に遅れたりなんかされたらたまったもんじゃない。日向君の魔法はその名の通り規格外だからね。魔法士とか魔術師とか魔導師とか、そういうランク以前の問題だ。今回日向君が使うのは【創造魔法】。スナタ君が言っていた通り最上級魔法だ。魔力を全解放した日向君の魔法に対抗出来る存在なんて、少なくとも私が用意出来る人材ではあの二人しかいない。
 あー、厳密に言うと、あの二人が一緒になってやっと対抗できるんだけどね。ギリギリで。

 君は日向君の力が世間一般に知られることを懸念に思っているんだろうけど、問題は無いよ。今日来てもらった全員に、神の御前で誓いを立ててもらったから。『今日この日に聖サルヴァツィオーネ学園で見たことは、第三者に口外しない』とね。契約ではなく誓いだから、破られることは決してないよ」

 神の御前。神の。神、ねぇ。

 神への誓いは、村や街など、一つの居住地区に必ず一つはある祭壇の前に跪き、そして両手を組み、そこで自分がすること、守ることを宣言することだ。誓いを破れば神に偽りを告げたことになり、神に逆らうことになる。なので神から神罰が下る。破るというか、破る直前とか、破ろうとする意識を持った時点で神罰が下るので、実際に『誓いを破る』という行為が成立することはありえないことなのだ。
 つまり、姉ちゃんの力が外部に漏れることは防げると、そういうことだ。

 でも、なあ。

「どうした? なんだかいまいちピンとこないって顔をしてるけど。日向君のことだから、神のことについては色々聞いていると思っていたんだが、違うかい?」
 学園長の問に対し、ボクは首を横に振ることで応え、そして昔姉ちゃんが嫌という程ボクに聞かせ、そして覚えてしまった言葉を口にした。

「神とは全てに等しく、優しく厳しい存在。加護という名の飴を与え、試練という名の鞭を与える。そして神々は傍観者。神罰は与えるが決して救いはもたらさない。加護も祝福もあくまで助力であり後押しであり、直接的な助けの手を差し出すことは無い。そういう意味ではとても勝手な存在で、だけど我々下界人は神には逆らえず、そして逆らってはならない。間違ってはならない。神は我らの母であり父であり、そして冷酷な支配者。自身の子供だと認識しているうちはまだまだ甘いが、敵とみなせば容赦はしない。だから神々は神罰を下し、救いの手は差し出さないのだ」

 ボクが言い終えると、学園長は苦笑した。
「うん、日向君らしいね。その長文を覚えてしまうほど繰り返したんだ。なんともまあ、過保護だね。
 それも無駄に終わったようだけど」
 ボクは眉を潜めた。
「どこまで知ってるんだ?」
「さあね。それに君は知らなくていいことだ。神への冒涜への罰は神の仕事。私が告げ口をするまでもなく、じきに神は君のしでかした罪を知るだろう」

 そして、ぽつりと言葉をこぼす。

「彼女は、悲しむだろうね」

 かな、しむ? 姉ちゃんが?
 そっか、それなら、ボクがしたことは……

 何も、間違っていなかったんだね。

 16 >>243

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.243 )
日時: 2023/05/05 05:28
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: YC5nxfFp)

 16

 風も止み、光もだんだんと収まってきた。一時的な失明から回復した僅かな数の人がざわざわと騒ぎ始めている。
 ボクは【聴域拡大】を使って、彼等の会話を聞くことにした。

「一体、何が起こったんだ?!」
「わからない……うっ、気持ち悪い……」
「誰か、回復魔法を!」
「駄目だ、魔導師や魔術師は皆意識を失ってる!」
「なんだとっ!?」
「おそらく、魔法感覚が鋭敏な分影響を強く受けてしまったのかと」
「魔術師達どころか魔導師達まで気絶させてしまうなんて有り得るのかっ?!」
「一人ならまだしも全滅させてしまうなど、聞いたことがありません!」
「ええい! この際魔法士でも構わん! 誰かいないのか!」
「試しましたが無理です! どうやら魔法障害を引き起こしているらしく、回復魔法が効きません! 失明も、組織が死滅しているようで、完治させるのは不可能です!」
「なんだとっ!?
 っ、そうだ! 確か今日呼び出されていた学園の生徒で魔術師が二人居たな。その二人の無事を確認して来い!」

 これはつまり、『あの』二人のことだろう。そういえば、笹木野龍馬たちは何処にいるのだろうか。学園長の口ぶりから察するに他の奴らとは違って無事ではあるだろうが。
【聴域拡大】は、あくまで意識的に視界に捉えている範囲。視界の中にあの三人がいたとしても、ボクがその場所を把握していなければ声を拾うことは出来ない。

 どこだろう、と全体を見渡してみると、案外簡単に見つかった。森からすぐ脇の、結界の魔法陣の縁辺りに三人で固まって何かを話しているようだった。

「び、っくりした。いまのなに?」
「いままで抑えていた魔力を一気に解放したから起きたことだと思うけど……いやはや、流石だな」
「でも、このままだと本当に魔力切れするんじゃないか? 心配だな」

 不安そうに結界の向こうを見やる笹木野龍馬に東蘭は言った。
「どうせあいつに何かあってもおれたちは中に入れないんだから、とりあえずそこはおいておこうぜ。心が乱れると魔法も乱れるんだし。
 ああ、そうだ。スナタ、気分悪いとかあるか? まさかこんなに強い衝撃が来るとは思ってなかったから、防ぎきれてなかったかもしれない。一応必要以上にガードの強度はあげてたけど」

「うん、平気だよ。やっぱりすごいね、二人は」

 そう言うスナタの表情は、なんとなく、暗かった。

 まあそうだよな。四人の中で一人だけ平凡そうだし。いや、でも、ジョーカーの魔法を破ったんだよな。姉ちゃんのそばにいるってことは、やっぱりスナタも何か持っているんだろうか。
 むしろスナタは、あの中で一番謎の多い人物かもしれない。

 17 >>244

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.244 )
日時: 2021/08/19 08:56
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: y3VadgKj)

 17

「ねえ、向こうの人たちの様子を見に行ってもいい? 多分混乱してると思うし、それと、今の魔力量と濃度を直撃して魔法障害を起こした人って多いと思うの」
「うーん、確かに人手は必要になってるかもな。それに結界の近くにいるよりは離れた場所にいる方が安全……いや、おれたちのそばにいた方が良いのかな? なあ、リュウ。どう思う?」
 笹木野龍馬は数秒間思考を巡らせた末に、きっぱりと言い放った。
「スナタには向こうに行っていてもらいたい。おれたちが大きな魔法を使うとなったら、スナタを気遣いながらだと厳しいから。特に、相手にするのは日向の魔法だ。おれたちに余裕はない」

 きっぱりと、しかしどこか申し訳なさそうにそう言う笹木野龍馬に、スナタは笑顔を見せた。

「うん、わかった! 二人共頑張ってねー!!」
 先程の様子から見て、スナタは劣等感を抱いているらしかった。故に今見せている笑顔が本心なのか偽物なのか、その区別はボクにはつかなかった。
 たったったとそこそこ速い足で離れていくスナタの背を見つめると、東蘭がボソッと言った。

「スナタって、不思議だよな」
「ん?」
「だって、おれたちや日向とは、事情が違うだろ? おれはあまりスナタのこと知らないから、スナタにもなにかしら『ある』とは思うけど。
 でもほら。希少だよな」

 ぼんやりと呟くようなその言葉を受けて、笹木野龍馬は目を伏せた。

「ああ、そうだな」

 そして、噛み締めるように、そう言った。
「おれたちからしてみれば、他の人たちよりもスナタがおれたちに近い。だけどスナタからしてみれば、おれたちは紛れもない『バケモノ』だ。一般人に『成れる』可能性があるのは、おれたちの中で唯一、スナタだけだと思う」
 その声に自嘲や卑屈などは感じられず、ただ淡々と事実だけを笹木野龍馬は並べ立てる。その姿にボクは、一瞬とはいえ姉ちゃんを重ねてしまった。

「チッ」

 すっかり身に染み付いてしまった汚い動作を行って、ボクは気持ちを切り替えた。

「……リュウ」
「ん?」
「もしも、さ。もしも、スナタがおれたちから離れることを望めば、その時はどうなるんだろうな」
「え?」

 笹木野龍馬が目を見開き、唖然としたあと、ゆっくりと口を開いた。

「そ──」

「えい」
「わあっ!?」
 急に目の前が真っ暗になった。学園長に目を塞がれたのだろう。視界にあの二人を捉えられなくなったせいで、いかにも重要そうな笹木野龍馬の言葉を聞くことが出来なかった。
「何するんだよ!」
 ボクが怒鳴ると、学園長はやれやれといった調子でボクに言った。
「気づかない方も悪いからしばらく様子を見ていたけれど、それ以上はだめだ。君には少なくとも、まだ早い」
「そんなの」
 知らない、とボクが言う前に、学園長はボクの目に当てていた両手をずらして頬を挟み、ぐっとボクの顔を無理やり上に向かせて目を合わせた。

「聞きなさい。理解しなさい。これは注意じゃない。警告だ。この世界には、誰しも一つは知ってはいけないことがあるんだよ」
 ゾク、と、背筋に悪寒が走った。今回は魔力によるものでは無い。あんな子供だましではない。

 本物の、『気迫』。

「チッ」
「舌打ちが癖なのかは知らないけど、止めた方がいいよ」
 舌打ちは、母さんの癖だった。直したいけどなかなか直らない。癖というものは厄介だ。
「うるさい」
 そう吐き捨てると、ボクは身を捩って学園長の手から逃れた。
 苦笑のような表情を浮かべて溜息を吐く学園長を尻目に、スナタが向かったと思われるさっき騒いでいた兵士たちの所へ視点を移した。

「……ですから、二人とも回復魔法は使えません! 蘭は治癒魔法系統の魔法は苦手ですし、闇属性の回復魔法は外傷にのみ適応されるんです! 王国の騎士団なら知っていらっしゃるでしょう?!」
 何やら揉めているようだ。偉そうな男とスナタが言い争っている。内容は、あの二人に回復魔法を使わせるか否か、ってところかな。
「苦手ってことは使えないことは無いんだろう? こんな事態だ、贅沢は言ってられない。魔法障害は素早い応急処置が肝心なんだ。時間が経過してしまうと本当に治らなくなってしまう。わかってくれ」
「魔法障害に時間も何もありません! なってしまったらそれで最後、治ることは奇跡でも起こらない限り治らないんです! それに失明だって、組織が死滅してる人のものは治りません! 【蘇生】は禁術中の禁術ですよ!? 適性がある人だってほとんどいないのに!」
「やってみなければ分からないだろう? 頼む、君から彼等を説得してくれないか?」

 あー、いるんだよな、こういう魔法不適応者にんげん。魔法を奇跡と勘違いして、なんでも出来ると思ってて、なおかつ魔法使いを道具かなんかだと思ってる奴。そしてそういう奴に限って、魔法に関する知識が乏しい……というか、間違った情報を信じている場合が多いんだ。

 魔法というのは何も知らない人からしてみれば確かに奇跡に近いものだ。けれど魔法には限界がある。属性という縛り、魔力という縛り、禁術という縛り。人によって使えない魔法や、神によって禁じられた魔法が存在する。魔法はどこまでいっても魔法で、『奇跡』には成れないのだ。

 偉そうな男はスナタの「苦手」という言葉を聞いてすっかり安心したのか、さっきまでの焦りはまるで見えない。むしろ道具には気を使う必要などないとでも言うように、話を聞かずに主張ばかりをしている。

「第一、結界が作動する前に、君が『二人は万が一のために離れた場所で待機している』と言ったんだろう? これが万が一でなくて、何が『万が一』なんだ?」
 話を聞く気がない男に対し、スナタからは苛立ちが垣間見えた。
「結界の破損や、それに伴う高濃度の魔法爆発です。もしそうなった場合、その土地一帯、そしてわたし達は無へと還ります」
 何かが『切れた』スナタは、これまでとは打って変わって静かに言った。しかしそんなスナタの様子に気づかない男は、鼻で笑って言葉を放つ。

「そんなことが有り得るわけ……」

「魔法を甘く見ないでください下手をすればわたし達は死すら許されない空間に飛ばされるんです日向が行っている【創造魔法】はそれほどまでに危険な魔法なんですそりゃあそうでしょうだってバケガクですよバケガクはただ修復すればいいってもんじゃありません知っているはずですバケガクというものはそもそも歴史的価値が高いために建設当時のまま後世に残す必要があるんですだからわたし達が駆り出されたんですわたしはほとんどおまけのようなものですけれど日向の魔法を抑え込めるのは今日この場にいるたくさんの人の中で蘭とリュウしかいないんです魔法使いはランクが全てじゃありませんというかあなたは魔法使いをなんだと思っているのでしょうか魔法をなんだと思っているのでしょうか一度世の中のことを勉強し直してきた方がよろしいのでは?」

 スナタのそのいきなりの豹変ぶりに、場にいた面々の顔が驚愕の一色に染まった。そして、ボクも。
 何かを知っているらしい学園長だけが、楽しげに口元に弧を描いていた。

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