ダーク・ファンタジー小説
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- この馬鹿馬鹿しい世界にも……【番外編追加】
- 日時: 2025/05/23 09:57
- 名前: ぶたの丸焼き (ID: 5xmy6iiG)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12919
※本作品は小説大会には参加致しません。
≪目次≫ >>343
初めまして、ぶたの丸焼きです。
初心者なので、わかりにくい表現などありましたら、ご指摘願います。
感想等も、書き込んでくださると嬉しいです。
この物語は長くなると思いますので、お付き合い、よろしくお願いします。
≪注意≫
・グロい表現があります。
・チートっぽいキャラが出ます。
・この物語は、意図的に伏線回収や謎の解明をしなかったりすることがあります。
・初投稿作のため、表現や物語の展開の仕方に問題があることが多々あります。作者は初心者です。
※調整中
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ありがとうございますm(_ _)m
励みになります!
完結致しました。長期間に渡るご愛読、ありがとうございました。これからもバカセカをよろしくお願いします。
≪キャラ紹介≫
花園 日向
天使のような金髪に青眼、美しい容姿を持つ。ただし、左目が白眼(生まれつき)。表情を動かすことはほとんどなく、また、動かしたとしても、その変化は非常にわかりづらい。バケガクのCクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。
笹木野 龍馬
通称、リュウ。闇と水を操る魔術師。性格は明るく優しいが、時折笑顔で物騒なことを言い出す。バケガクのCクラス、Ⅱグループに所属する優等生。
東 蘭
光と火を操る魔術師。魔法全般を操ることが出来るが、光と火以外は苦手とする。また、水が苦手で、泳げない。 バケガクのCクラス、Ⅱグループに所属する優等生。
スナタ
風を操る魔法使い。風以外の魔法は使えない。表情が豊かで性格は明るく、皆から好かれている。少し無茶をしがちだが、やるときはやる。バケガクのCクラス、Ⅲグループに所属する生徒。
真白
治療師。魔力保有量や身体能力に乏しく、唯一の才能といえる治療魔法すらも満足に使えない。おどおどしていて、人と接するのが苦手。バケガクのCクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。
ベル
日向と本契約を交わしている光の隷属の精霊。温厚な性格で、日向の制止役。
リン
日向と仮契約を交わしている風の精霊。好奇心旺盛で、日向とはあまり性格が合わない。
ジョーカー
[ジェリーダンジョン]内で突如現れた、謎の人物。〈十の魔族〉の一人、〈黒の道化師〉。日向たちの秘密を知っている模様。リュウを狙う組織に属している。朝日との関わりを持つ。
花園 朝日
日向の実の弟。とても姉想いで、リュウに嫉妬している。しかし、その想いには、なにやら裏があるようで? バケガクのGクラス、IVグループに所属する新入生。
???
リュウと魂が同化した、リュウのもう一つの人格。どうして同化したのかは明らかになっていない。リュウに毛嫌いされている。
ナギー
真白と仮契約を結んでいる精霊。他の〈アンファン〉と違って、契約を解いたあとも記憶が保たれている不思議な精霊。真白に対しては協力的だったり無関心だったりと、対応が時々によって変わる。
現在行方不明。
レヴィアタン
七つの大罪の一人で、嫉妬の悪魔。真白と契約を結んでいる。第三章時点では真白の持つペンダントに宿っている
が、現在は真白の意思を取り込み人格を乗っ取った。本来の姿は巨大な海蛇。
学園長
聖サルヴァツィオーネ学園、通称バケガクの学園長。本名、種族、年齢不明。使える魔法も全てが明らかになっている訳ではなく、謎が多い。時折意味深な発言をする。
ビリキナ
朝日と本契約を結んでいる闇の隷属の精霊。元は朝日の祖母の契約精霊であったが、彼女の死亡により契約主を変えた。朝日とともにジョーカーからの指令をこなす。朝日とは魔法の相性は良くないものの、付き合いは上手くやっている。
ゼノイダ=パルファノエ
朝日の唯一の友人。〈コールドシープ〉の一族で、大柄。バケガク保護児制度により学園から支援を受け、バケガク寮でくらしている。バケガクのGクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。
≪その他≫
・小説用イラスト掲示板にイラストがありますので、気が向いたらぜひみてください。
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.235 )
- 日時: 2021/08/10 10:38
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: taU2X.e0)
8
って、うわっ! ボク、どれくらい気を失っていたんだ?!
と思ってかなり焦ったが、実際は気を失ってなんかいなかった。まだ体は重くてだるいが、目はしっかり覚めている。
ただし気は遠くなっていたから、その間にあそこまで移動したんだろうなと、小さくなった笹木野龍馬の背をぼんやりと見つめながら思った。
あいつ、幻影魔法を張ったって言ってたか? なら、ここから【百里眼】を使えるんじゃ! 姉ちゃんが大事にしてる人なら、この場面で嘘なんてつかないだろう。なんとなく幻影魔法の魔力も感じるし。うん!
ただ、いくらなんでもこの状態で使うのは危険なのはわかっている。【百里眼】を使って【聴域拡大】も使うわけだし。魔力は魔法石のものを使うからいいとして、体力が心配だ。笹木野龍馬が到着していないなら、まだ焦る必要は無い。
そう思うと一気に疲れが押し寄せ、ボクは体を休めるために目を閉じた。
__________
母さんは醜い人だった。急に癇癪を起こしては姉ちゃんに当たり散らして気を失ったように寝込む日々。その精神疾患のせいで仕事も出来なくなり、家に引きこもるようになった。
父さんは弱い人だった。母さんがそんな状態になった時はいつも仕事に行っていて、肝心な時に居ない。後から何があったかを知っても姉ちゃんやボクに謝るばかりで、実際に行動を起こしたりはしなかった。
姉ちゃんは強い人だった。最悪な家庭環境で育ったのに、一言も弱音を吐いたことがない。母さんが癇癪を起こした時は部屋からボクを力ずくでも放り出して、巻き込まれないように守ってくれていた。ボクに勉強や魔法を教えてくれたのも姉ちゃんだった。
その日は雨が激しい日だった。雷がゴロゴロと空を走り、家の中はじめじめと暗かった。
「朝日!」
そんな日は母さんの癇癪がいつにも増して酷くなる。不穏な空気を感じ取った姉ちゃんは俺の名を呼んで、外に出るように促した。
「待ちなさい、朝日」
だけど、しっとりと冷たい母さんの声が俺をその場に留めた。
「貴方はこいつのことを慕っていたわね。この悪魔の姿をよく見なさい」
ザシュッ
人の肉を裂く音が、鈍く鈍く頭の中で木霊した。母さんの手は真っ赤に染まり、握る包丁の先端には紅い液体が滴っていた。姉ちゃんの鮮やかな金髪に紅が錆のようにこびりつく。大きな大きな紅色の水溜まりの中に姉ちゃんが浮かんでいる。
「はっ、はっ、はっ、はっ」
動機が乱れて、不規則な息が喉を乾かせた。
「朝日」
痛みに震える様子を見せない姉ちゃんは、先程とは違い小さく俺を呼んだ。
「部屋の、外へ」
そして、鋭く叫ぶ。
「早く!」
母さんが姉ちゃんに暴行するところは何度も見てきた。でも、こういう風に体を傷付けるところは見たことがない。いつもなら殴る蹴るの後に刃物を持ち出すので、その前に俺は逃げるのだ。始めから刃物を振るうのは初めてかもしれない。俺は初めて見る人の血にパニックになって、その場から動けなかった。
それを察したのか、姉ちゃんは魔法を使って止血をし、既に流れてしまった血も消した。
金色の光が暗い部屋に差し、そして溶けると、母さんは悲鳴を上げた。
「この悪魔! 怪我もすぐに治る! 人間じゃないわ!」
こんな速度で怪我を治す回復魔法なんて、姉ちゃん以外は使えないだろう。しかも今の姉ちゃんは怪我をしていて体力を奪われている。悪魔は言い過ぎだとしても、母さんの言いたいことは多少は分かった。
「朝日!」
俺はガタガタと震える手でドアノブに触れ、それを回そうとした。けれど上手く手を動かせず、なかなか開かない。
ザシュッ
また、肉を裂く音。
ザシュッ ザシュッ ザシュッ
「お前なんか! お前なんか!」
母さんは同い年の女性と比べても貧弱で、魔力も衰えてきている。姉ちゃんなら、反抗くらい出来るはずだ。なのにあえて逆らわず、動かず、されるがままになっている。
『なあ、なんで姉ちゃんは母さんから逃げないんだ? 家出とか考えねえの?』
『カゾクは、大事にするべき』
『あんなの家族じゃないだろ』
『それに、朝日がいる。朝日は優秀だし私とは違って瞳の色も桃色だから私ほどの冷遇は受けないだろうけど、母さんから生まれた子だから、一族からは蔑視される可能性がある。それに、いつ母さんが朝日にも手を出し始めるか分からない』
『俺なんてほっとけよ!』
『私が嫌』
そんな会話を、いつだったかしたことがあったっけ。
__________
両親が死んだことは、大して問題じゃなかった。あの時、自分が何を思っていたのかはもう覚えていない。覚えていることは、両親が死んだという事実と、それから──
うん、充分体は休まっただろう。そろそろ、行動に移そう。
9 >>236
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.236 )
- 日時: 2022/06/13 20:48
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: ZZRB/2hW)
9
ボクは目を閉じたまま、【百里眼】を発動した。視界は厳重な警戒をすり抜けて、図書館の入口を通過する。図書館の中にも見張りは当然居たが、スルー。本の森を通って、二階への階段を上がる。それを繰り返して、四階まで。
魔法石をもらったとき、ジョーカーから【百里眼】は酔いやすい魔法だから注意するように言われたっけ。でもボクは【百里眼】で酔ったことは無い。そもそも馬車なんかに乗っても乗り物酔いを体験したことがないので、おそらく酔いに強いのだろう。
一階には管理人がいなかったが、ここにはいるようだ。あまり人を近付けたくないのか、見張りが一人たりとも居ない。
「ほお、そんなことをしようとしているのか。流石学園長だ。無茶をさせるね、まったく」
「予想ですけどね。送られてきた手紙の内容はただ自分を呼び出すだけの文言しか書かれていませんでしたから」
「いやいや、いかにも学園長が考えそうなことだ」
四階では、笹木野龍馬と老人が仲良さげに話していた。
「引き止めて悪かったな。ほかの全員はもう揃っているよ」
「いえ、楽しかったです。ありがとうございました。では、失礼します」
そう言って、笹木野龍馬は老人が背を向けている奥の扉へ消えていった。その扉の上には、『第一読書室』と書かれてある。
これが、噂の。
図書館には、自習にも使われている個室で読書が出来る場所がある。図書室は静かだとはいえ周りに人がいるというだけで読書に集中出来ないという感覚が鋭敏な人もいるらしく、そういった人のために用意されたものなんだとか。
個室は『第一読書室』、『第二読書室』、『第三読書室』、『第四読書室』、『第五読書室』まであり、それぞれ使うことの出来るクラスが分けられている。グループではなくクラスであることが学園長の指示だそうで、理由はグループだと昇進が難しいが、クラスなら在籍日数や授業態度などの実技(魔法だけに限らない)以外の成績で昇進可能なためらしい。
第五読書室を利用可能な生徒はGクラス以上(つまり全校生徒)、第四読書室を利用可能な生徒はCクラス以上……といった調子で第二読書室を利用可能な生徒はAクラス以上となる。
ボクは利用したことがないので詳しくは知らないが、数字が小さくなるごとに部屋の中身が読書に適した環境が整えられていくらしく、部屋の広さも大きくなっていくらしい。そのため複数人で一つの部屋を借りて読書会や勉強会を開いたりする生徒も多数いるんだとか。
第一読書室は特別扱いで、他の読書室が最低二十部屋用意はされているのに対し、一部屋しか用意されていない。最上階に保管されてある持ち出し禁止の本を、一冊ずつであるとはいえ唯一部屋の外に持ち出して良いとされている部屋がその第一読書室なのだ。
そのため他の読書室は図書館の横にある別館に設置されているのだが、第一読書室だけは図書館内に置かれている。位置は『番人』と呼ばれる、最上階のみの担当管理人である老人が座る受付台の後ろだ。
ここに、姉ちゃんたちがいるんだ。
ボクが第一読書室の中を見るために視界を動かすと、老人が口を開いた。
「誰だ」
その声は笹木野龍馬と話していた時とは比べ物にならないほど、重々しいものだった。
「いくら魔法を使おうとも、わしの眼は誤魔化せんぞ。ここに留まるくらいなら許してやるが、わしの管理下にある場所に踏み込むんじゃない」
ちょっと、ジョーカー! どうなってるんだよ! こんな老人にすら魔法が破られてるじゃないか!
「ん? ……ああ、君は大丈夫みたいだね。悪意は見えるが、それは暴力的じゃない。この場所に危害を加えるような悪意じゃなければ、問題は無いよ。
入室の手順を知らなかったんだね。少し待ちなさい」
そう言うと、番人はサラサラと手元の紙に何かを書いた。
「はい、いいよ。本当なら申告書が要るんだけど、まあ、あれは別に体裁を繕うためのもので特に意味は無いものだから、気にしなくていい」
これは、入ってもいいということなのだろうか。
「気を付けなさい。今のままだと、君の悪意は君を滅ぼす。少しでも早く罪を吐き出し、考えを改め神に祈りを捧げた方がいい。老いぼれからの忠告じゃ」
視界を移動させて番人の後ろを通ろうとすると、ふとそんなことを言い出した。
神、か。神なんて、いるわけないじゃないか。くだらない。それにもう、手遅れだよ。ボクは──
うるさいうるさい。何も考えるな。
とにかく中に入ろう。後のことは後で考えれば良いんだから。
10 >>237
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.237 )
- 日時: 2021/08/13 18:07
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: XyK12djH)
10
「諸君、よく集まってくれたね。礼を言うよ」
中はあまり豪奢な雰囲気ではなくむしろ質素で落ち着いた印象を受けた。広いといえば広いが『個室』と称するに相応しい程度には小さい。ただし日光を遮るためか窓が一枚もない。ちょっとした興味で壁の中に入ってみると、かなり分厚かった。
姉ちゃんたちは椅子や机を脇に避け、立って対峙していた。
「花園君。君が真白君と戦う時、私が何とお願いしたのか覚えているかい?」
「真白の身柄の確保、バケガクの修復」
学園長の言葉に間髪入れず、姉ちゃんは即答した。へえ、そんなこと頼まれてたんだ。
「よくわかっているじゃないか。でも前者は果たしてくれなかったよね?」
「わかってる。ちゃんと修復はする」
「言い訳しないところが君らしいね」
バケガクの修復? どういうことだ? いや、姉ちゃんを疑うわけじゃないけど、バケガクというのはまずとてつもなく広大だ。建物の被害はというと、バケガク本館は全壊、バケガク別館の方は八割が破壊されて、それ以外にも食堂や森も尋常ではない有様だ。
「何を言い出すのかは薄々予想は着いていたけど、ねえ日向、大丈夫なの? そんなこと出来るの?」
スナタの言い分はもっともだ。姉ちゃんの力は知っているが、それでも不安になる。
姉ちゃんは淡々と言った。
「もちろんいつもみたいに余裕を持って行えることではない。でも失敗しないから、大丈夫」
「いや、そうじゃなくて、日向自身のことだよ! 魔法じゃなくて!」
「私?」
「だって今回の魔法って、【創造魔法】でしょ? いくら日向でも、今の体で最上級魔法をこんな広範囲に発動すれば、まず急激な魔力の減少による副作用とか、魔法の過剰行使による身体的な体の負担とか、色々あるじゃない。だって、日向がやるんでしょ?」
なんだろう。今のスナタの言葉が、なにか引っかかる。でも、それが何なのかわからない。違和感の正体が掴めない。
「平気。流石に終えたばかりだと動けないかもしれないけど、すぐに回復する」
「ほんと?」
「うん」
姉ちゃんとスナタの会話が一段落すると、学園長が言った。
「今回のことは四人全員に協力してもらうよ。
笹木野君と東君は、万が一花園君に何かあったときのために備えておいてほしい。
スナタ君は、変な魔法が入り込んでいないか確認してほしい。
出来るね?」
有無を言わさぬ声に、それぞれ反応した。
「黒と白じゃなくて、闇と光ってのが心配だけどな」
「それはもうどうしようもないだろ。黒も白もおれ達は操れないんだから」
「頑張る!」
その言葉に学園長は満足気に頷き、
ボクを見た。
え?
「じゃあそろそろ取り掛かろうか。人払いをしよう。スナタ君、悪いけど下に行って一人だけ馬に乗ってるデカい男に結界を発動させることを伝えてくれるかい?」
「わあああっ!!」
スナタが返事をする前に、ボクの体が宙に浮いた。違う、第一読書室の中に転送されたんだ。え、どうして?! なんでバレたんだよ、どうなってるんだ!?
体がぼんやりと白い光に包まれ、ゆっくりと床に降ろされた。けれど急なことに体が対応しきれず、がくんと膝を着いてしまう。
「じゃあ行ってきまーす!」
「よろしくね」
ボクが居ることに誰も不思議に考えることをせず、まるで始めからボクがここにいたかのように振る舞う。
え、なに、どういうこと?
「さて、花園君──紛らわしいな、朝日君。君のことだから日向君が何をするのか気になるだろう? 特等席を用意してあげるからさあおいで」
「え、は、わ、なんですか?!」
「いいからいいから。後で色々説明してあげるからさ」
学園長はボクを無理やり立たせ、背中を押した。助けを求めて姉ちゃんを見たけれど、姉ちゃんは何故だか辛そうな表情をしていて、そちらの方が気になった。なんだか疲れているような、しんどそうな雰囲気。ボクのことなんか見ないで、少し息を荒くしてぼんやりと何も無い空間を見つめている。「大丈夫か?」などと笹木野龍馬が心配そうに声を掛けている。
姉ちゃんに近付くなよ!
そう思うが学園長の力は案外強く、ボクは逆らうことが出来ずに第一読書室の外まで連れ出された。
「あの、何処に行くんですか?」
「ん? 特等席と言っただろう?」
だから、それが何処なのかと聞いているんだって!!
11 >>238
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.238 )
- 日時: 2021/08/13 18:09
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: XyK12djH)
11
特等席、というのはつまり、『通達の塔』のことらしい。チャイムや緊急事態のアナウンスが流れる塔で、バケガク内に点々とある。ただ、『通達の塔』は立ち入り禁止で、内部がどうなっているのか、アナウンスの声が誰のものなのかは明らかにされていない。
アナウンスといえば、今も鳴らされている。学園内に居る見張りの兵や少数の教師たちに向けて、大規模な魔法が行われることを知らせ、避難を促すアナウンスだ。
「あの、ボクがはいってもいいんですか?」
塔の中にある長い螺旋階段を登りながら学園長に訊くと、学園長は笑った。
「だから『特等席』なんじゃないか。でも秘密だよ。学園長に贔屓されてるなんて言われたくないだろ?」
「そう、ですね」
「さあさあ着いたよ! ここが塔の最上部。今まで誰も見たことがない、訳では無いけれど、特別な人以外でここを見せるのは君が初めてだ」
階段は天井まで続いていて、天井は手動で開けられるようになっていた。重そうな扉を不快音を奏でながら学園長は涼しい顔で開く。扉が開くごとに差し込む光が強くなっていく。
「おいで」
学園長の声に従い、開いた扉をくぐると、そこには──
二人の子供がいた。女なのか男なのかわからない。見た目の年はボクよりも少し幼いかな。見た目は瓜二つで、白い髪に白い瞳、白い肌に白い布を巻き付けた子と、それを黒くした子。
ボクはまさかと思い白髪の子の額を見たが、水晶はない。〈呪われた民〉ではないのか。
「驚いたかい? 信じられないと思うけど、この二人は仮想生物だよ。各塔にそれぞれ置かれている」
「えっ!」
この二人が仮想生物だって? 仮想生物というのは単なる魔力の塊で、鳥に見えたり蝶に見えたりしたとしても、それはただ形がそう見えるだけで、実際には生物ですらない。ただ役割を持っただけの道具に過ぎない。
でも、この二人にはどう見ても髪と肌の区別が着く。目や鼻や口、耳や手足があるし、布を巻き付けただけとはいえ服を着ているじゃないか!
「これはこの学園の秘密の一つだ。詳しくは教えてあげられないけど、そうだね、この真っ白な子は白子、こっちの真っ黒な子は黒子って名前だよ」
どうでもいいよ!
「代わりにこっちを教えてあげよう。ここはこんなに開放感があるけど、外からは何も無いように見えるんだ。強い結界が張られているからね。図書館よりも強くなっているんじゃないかな」
「強く、『なっている』?」
ボクの問いに学園長は答えず、不敵に笑った。
この場所は四方八方が見渡せる。四本の柱が円錐状の屋根を支えているだけで、他に視界を遮るものがないのだ。
「そろそろ準備をしててもらえるかい? もうすぐで全員移動が完了しそうだ」
『わかったわ』
そう言って、姉ちゃんの契約精霊であるベルが学園長の懐から飛び出した。
「なんでベルがここにいるの?」
ボクが尋ねると、ベルはふわりと微笑んだ。
『日向は学園長さんの合図を受け取れないから、代わりにわたしが貰うために着いてきたの。学園長さんが「良し」と言ったらスナタの所に確認しに行って、リュウ達の状態を確認して、それから日向のお手伝いをしに行くの』
「お手伝い?」
『それは内緒』
ベルは両手の人差し指を交差させ、それを自分の口の前に持っていった。
「魔法陣の用意完了。学園の外界からの隔離も完了。さすがは魔導師部隊だね。仕事が早くて丁寧だ。仮想生物も消滅してる。
もういいよ。私が確認すべきことは終わった。スナタ君のところへ」
『ありがとう』
ベルはそう言って、金粉を散らしながら飛び立った。
「というわけで、私がするべきことは無くなったわけで、魔法が実行されるまでの間、暇が出来たわけだ」
学園長はゆらりとボクを見た。
「どうして頑丈な守りであった学園に侵入したのか、じっくり話を聞かせてもらおうか」
12 >>239
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.239 )
- 日時: 2021/08/14 11:12
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 8AM/ywGU)
12
学園長の表情は穏やかな笑顔で、それ自体はいつもと変わらない。何を考えているのかを悟らせないのも普段通りだ。
ただし雰囲気が違う。心臓を直接撫でられるような不快感がボクを襲った。
「姉ちゃんが学園に呼び出された理由も知りたかったし、なにより笹木野龍馬も来ると思ったから。
方法は教えない。対策されたら嫌だから」
「えっと、色々聞きたいことはあるんだけどまず、私は学園長で君は生徒。敬語を使おうとは思わないのかい? ましてやこの状況で」
「必要ないと思うから」
「ああ、そうだったそうだった。君は日向君の弟なんだっけ……」
それってボクと姉ちゃんが似てるってこと? 嬉しい。
「次に、どうして笹木野君が来ると思ったから来たんだ?」
「だって、絶対姉ちゃんのこと友達以上に見てるから。何か変なことしないか見張るために」
「彼らは友達ですらないんだけどね。まあ心配する気持ちも分からないことはないかな。あの二人の間の感情は、異常ではあるからね」
は?
「どういう意味?」
「ひ、み、つ」
学園長は人差し指を口の前にかざし、茶目っ気たっぷりにウインクをした。
「チッ」
「まあまあ。
それからさ、君、鈍感ってわけじゃないよね? なのにどうして私の『圧』を正面から受けて平然としてるのかな? こう見えて魔力だけは大量にあるんだけど」
そう。先程学園長を取り巻く雰囲気が変わったのは、学園長から魔力が放出されたからだ。他人の魔力が自分の体の周りに満たされたことにより、魔法使いだけが感じる独特の不快感を与えられたのだ。
魔力濃度が濃ければ濃いほど、その不快感は増し、耐性のない人は体調を崩すことすらある。魔法酔いとか、魔力酔いとか呼ばれている。
ボクの家系はエクソシスト。悪魔の『気』を敏感に感じ取らなければならない職業だ。そしてボクはその力を正常に受け継いでいる。悪魔を祓ったことはまだないが、『悪意』に成長する前の『邪気』を祓ったことなら何度もある。正確には祓わされたんだけど、ね。
「うーん、なんでだろ?」
誤魔化している訳ではなく、本当に分からない。昔はもっと過敏に反応してしまっていたんだけど。慣れたのかな。
「ふむ」
学園長は腕を組んでなにやら考えているようだ。しかし数秒後、すぐにボクに尋ねた。
「君、感情が欠落しているんじゃないか?」
「……え?」
「前からなんとなく思っていたんだよ。君が笑うとき、どこか空虚な感じがして。上手く言えないんだけどね。
と言っても完全に無くしている訳ではないみたいだ。さっき私が【転移魔法】で部屋に入れた時驚いていたみたいだしね。
でもこの真冬に寒そうな素振りひとつ見せないし」
「……」
「なにか条件があるのかな。ねえ、どう思う?」
「……」
「返事くらいして欲しいな」
「……わからない」
「そうか。なら憶測で語らせてもらうけど、日向君が関係するんじゃないかな?」
「!」
ヒヤリと背中に嫌な汗が流れた。
「多分、感情の優先順位があるのかな。日向君のことを考えている時はそれでいっぱいいっぱいになって、感情なんか感じてる場合じゃないんだよね。
でも、自分の核心を突かれたときは取り乱す。今みたいに。何か間違えているかい?」
「……」
「九年前、君たち姉弟にとって運命の日となった『白眼の親殺し』の事件当日、何があったのかは全て知っている。人が、しかも実の両親が目の前で死んでしまえば、精神がおかしくもなるよね。だから君は自分を保つために日向君に依存することを決めたんだ。多少人格はおかしくなってるけどね。昔は自分のことを『俺』と言っていたし、話し方も違っていた。君は忘れてしまったかもしれないが、随分と昔に授業参観で君と私は会ったことがあるんだよ。
なのに周囲の人間は君と日向君を引き離した。依存対象から離されて会うことも許して貰えない生活の中で君の人格はさらにねじ曲がった」
「……」
「その証拠に、君は実の祖母と祖父を殺しているだろう? 方法は単純。祖母は命を繋いでいる契約精霊を引き剥がして衰弱死。祖父は君が間接的にとはいえ祖母を殺したことを知り絶望し、衰弱しきったところで毒殺。全く、日向君は弟になんてことを教えているんだ」
「姉ちゃんを悪く言うな!」
「すまない、そんな気はなかったんだ。でもその様子は、図星だね」
「なんでわかるんだよ、そんなことが……!」
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