ダーク・ファンタジー小説
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- この馬鹿馬鹿しい世界にも……【番外編追加】
- 日時: 2025/05/23 09:57
- 名前: ぶたの丸焼き (ID: 5xmy6iiG)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12919
※本作品は小説大会には参加致しません。
≪目次≫ >>343
初めまして、ぶたの丸焼きです。
初心者なので、わかりにくい表現などありましたら、ご指摘願います。
感想等も、書き込んでくださると嬉しいです。
この物語は長くなると思いますので、お付き合い、よろしくお願いします。
≪注意≫
・グロい表現があります。
・チートっぽいキャラが出ます。
・この物語は、意図的に伏線回収や謎の解明をしなかったりすることがあります。
・初投稿作のため、表現や物語の展開の仕方に問題があることが多々あります。作者は初心者です。
※調整中
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ありがとうございますm(_ _)m
励みになります!
完結致しました。長期間に渡るご愛読、ありがとうございました。これからもバカセカをよろしくお願いします。
≪キャラ紹介≫
花園 日向
天使のような金髪に青眼、美しい容姿を持つ。ただし、左目が白眼(生まれつき)。表情を動かすことはほとんどなく、また、動かしたとしても、その変化は非常にわかりづらい。バケガクのCクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。
笹木野 龍馬
通称、リュウ。闇と水を操る魔術師。性格は明るく優しいが、時折笑顔で物騒なことを言い出す。バケガクのCクラス、Ⅱグループに所属する優等生。
東 蘭
光と火を操る魔術師。魔法全般を操ることが出来るが、光と火以外は苦手とする。また、水が苦手で、泳げない。 バケガクのCクラス、Ⅱグループに所属する優等生。
スナタ
風を操る魔法使い。風以外の魔法は使えない。表情が豊かで性格は明るく、皆から好かれている。少し無茶をしがちだが、やるときはやる。バケガクのCクラス、Ⅲグループに所属する生徒。
真白
治療師。魔力保有量や身体能力に乏しく、唯一の才能といえる治療魔法すらも満足に使えない。おどおどしていて、人と接するのが苦手。バケガクのCクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。
ベル
日向と本契約を交わしている光の隷属の精霊。温厚な性格で、日向の制止役。
リン
日向と仮契約を交わしている風の精霊。好奇心旺盛で、日向とはあまり性格が合わない。
ジョーカー
[ジェリーダンジョン]内で突如現れた、謎の人物。〈十の魔族〉の一人、〈黒の道化師〉。日向たちの秘密を知っている模様。リュウを狙う組織に属している。朝日との関わりを持つ。
花園 朝日
日向の実の弟。とても姉想いで、リュウに嫉妬している。しかし、その想いには、なにやら裏があるようで? バケガクのGクラス、IVグループに所属する新入生。
???
リュウと魂が同化した、リュウのもう一つの人格。どうして同化したのかは明らかになっていない。リュウに毛嫌いされている。
ナギー
真白と仮契約を結んでいる精霊。他の〈アンファン〉と違って、契約を解いたあとも記憶が保たれている不思議な精霊。真白に対しては協力的だったり無関心だったりと、対応が時々によって変わる。
現在行方不明。
レヴィアタン
七つの大罪の一人で、嫉妬の悪魔。真白と契約を結んでいる。第三章時点では真白の持つペンダントに宿っている
が、現在は真白の意思を取り込み人格を乗っ取った。本来の姿は巨大な海蛇。
学園長
聖サルヴァツィオーネ学園、通称バケガクの学園長。本名、種族、年齢不明。使える魔法も全てが明らかになっている訳ではなく、謎が多い。時折意味深な発言をする。
ビリキナ
朝日と本契約を結んでいる闇の隷属の精霊。元は朝日の祖母の契約精霊であったが、彼女の死亡により契約主を変えた。朝日とともにジョーカーからの指令をこなす。朝日とは魔法の相性は良くないものの、付き合いは上手くやっている。
ゼノイダ=パルファノエ
朝日の唯一の友人。〈コールドシープ〉の一族で、大柄。バケガク保護児制度により学園から支援を受け、バケガク寮でくらしている。バケガクのGクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。
≪その他≫
・小説用イラスト掲示板にイラストがありますので、気が向いたらぜひみてください。
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.245 )
- 日時: 2021/08/18 22:58
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: fIcU8FL5)
18
なんだ、あれ。二重人格? それとも、今まで猫を被っていて、あれが本性なのか? いや、二重人格は別人が一つの体に入っている状態のことだから違うだろうし、猫を被るような奴と姉ちゃんが仲良いわけない。でも、だとしたらなんだ? ただ怒っているというだけには見えないけど。
「おやおや、あの状態のスナタ君を見るのは久々だなあ」
あくまで面白そうにしみじみとそう言う学園長に、ボクは尋ねた。
「あれって、どうなってるんですか?」
すると学園長はクスッと笑い、説明を始めた。
「スナタ君はね、感情が一定以上溜まると自分の感情を抑えられなくなるんだ。そしてあんな風に、人格が変わったかのように口調や雰囲気が変わるんだよ。二重人格と間違われることが多いけど、厳密には違うかな」
つまりは感情によって起こるってわけか。魔法が暴走しない分まだましだな。世渡りは下手そうだけど。
「な、な、な……魔法使いのくせにその口の利き方はなんだ! しかもお前は魔術師ですらない魔法士じゃないか! 兵器としての役割もこなせない奴が偉そうにッ」
「わたしとしては、どうして魔法も使えない不適応者が『自分たちの方が上だ』なんて思っているのか理解出来ないですけどね。もちろん魔法が全てではありませんが、わたしたちの生活を守っているのは魔法です。我々魔法使いを『兵器』と称している時点で、魔法使いを兵力として認識していると、魔法の力をあてにしていると思うのはわたしの気のせいですか?」
「なっ、なっ……」
先程とは立場が逆転し、今度は男が顔を真っ赤にしている。スナタの目は完全に冷えきっていて、変わらぬ無表情で男を射抜く。
感情に任せて男が怒鳴ろうとしたところで、姉ちゃんが張った結界に変化があった。
ゆっくりと、やわらかな光が押し寄せた。結界が発動した時のような唐突で強烈な光ではない。
ぼんやりとした光。
その表現が正しいと思われる程の、穏やかな光だった。
「とうとう始まるみたいだね」
ぽつりと学園長が音を零した。表情を見てみると、真剣な中に僅かに『楽』がチラチラと顔を出していた。しかしやはり緊張感が漂う、何とも言えない表情だ。
そう言うボクも人のことは言えない。言葉にして表すことの出来ない高揚が心臓を包み込み、無意識に両手を握りしめていた。
大きな魔法を行うには、準備が必要となる。魔法陣や結界なんかの『下準備』とは別に、精神を安定させたり術式を組み立てたり長い詠唱を行ったり。【創造魔法】がどのようなものなのか、詳しいことはボクは知らないけれど、姉ちゃんでも簡単にこなすことの出来ない魔法だってことくらいは分かる。
これから何が起こるのか分からない。だからこそ未知のものに対する恐怖と不安、一抹の興奮がザワザワとボクの中で複雑に絡まりあっている。
「姉ちゃん、頑張って」
気付かない内に漏れていたその言葉を、ボクは自覚しないまま、じっと結界を見守っていた。
19 >>246
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.246 )
- 日時: 2021/08/19 21:46
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: y3VadgKj)
19
結界の中を漂っていた雪のような純白の光の粒は、だんだんと金粉へと変わっていった。やがて白と金の比率が等しくなった頃、ボクは金粉の発生源に気がついた。
それは、ボロボロに崩れた瓦礫や、なぎ倒された木々だった。個体であるはずのそれらは春風に連れられるかのように金粉と化して白を彩る。
サラサラと砂のように空気に溶けだす金粉はふよふよとさまよった後に消えてしまうものもあるし、複数の金粉が合わさって、一つの淡い光になるものもある。
その光はまるで、精霊使いが稀に見せる可視化された〈媒体精霊〉によく似た──
まさか。
「くうかん、せいれい?」
震える口から乾いた息が吐き出された。
いや、そんなわけない。そんな魔法があるわけが無い。物体を『最小の単位』まで【分解する魔法】なんて……。
いや。
空間精霊。それは物質を構成しているとされている最小の単位。『精霊を寄せ付ける力』にも関係したものとされているが、それはあくまで一説であり仮説。しかし現段階で一番有力な説でもある。
物質を構成しているもの。それと【創造魔法】が無関係であるわけが無い。それを何故、今の今まで忘れていたのだろうか。【創造魔法】が難しいと言われる所以。それは『確実でない説を信じ、いかに自分のものとするか』が問われるからだ。立証されていないということは、正解が定められていないということ。いくら書物を読んでも無いものは無いのだ。そのため、自分の中で穴のない完璧な理論を組み立てる必要がある。それは本を読んだり人から習うだけで満足するような魔法士や魔術師には出来ない所業で、魔道士ですら自分で理論を組む──オリジナル魔法を開発することが出来る者はほんのひと握りだと聞く。ちなみに姉ちゃんはそれを昔から平然とやってのけていたのですごい人なのだ。
今現在一般に知られている【創造魔法】の方法は、『決まった空間精霊を決まった位置関係で組み合わせて形を作り性質を与える』というもの。空間精霊の種類は数億にのぼると言われており、決まった種類や組み合わせを覚えるなど常人には出来ない。これはボクが【魔力探知】で姉ちゃんしか探せないのと同じような理由。この世のありとあらゆるものの構造を空間精霊のレベルまで覚えていては脳が情報に耐えきれないのだ。だから【創造魔法】で作り出されるものには小岩や造花などの比較的小さなものが多い。また、魔法の理屈が同じなため、錬金術もこれに分類すると記された魔法書が多い。
「朝日君」
ボクは思考に耽っていたが、学園長の呼び掛けにより現実世界に戻った。反射的に素早く学園長を見ると、何故か目を伏せていた。
「もう気づいているかもしれないけれど、日向君が行っている魔法は【創造魔法】だけでは無い。日向君のオリジナル魔法【分解魔法】があの中で行われているんだ」
学園長は、何を言おうとしているのだろうか。
うっすらと開かれたその目は姉ちゃんがいる方向を向いているが、意識はボクに向いている。どうしてだかボクは鋭い視線を学園長から感じ、足に力を入れて身構えた。
「【分解魔法】は【創造魔法】の発想を逆転して生み出された魔法。そして、おそらく日向君にしか扱えないであろう特殊な魔法だ。
朝日君。日向君からの頼みでね、君が望むようなら今日日向君が行う魔法のことを教えてやって欲しいと言われている。君のことだから、ノーなんて言わないだろう?」
目がボクに向いていないため、学園長には見えないと知りながら、ボクは大きく頷いた。
そんなの知りたいに決まっている。ボクは姉ちゃんの全てが知りたい。そのために生きているんだから。
ボクが頷いたのを見ていたはずはない。しかし学園長はボクの反応を確認する素振りもなく、静かに語り始めた。
20 >>247
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.247 )
- 日時: 2021/08/20 23:50
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 0.f9MyDB)
20
「この聖サルヴァツィオーネ学園が、どうして歴史的価値が高いのか知っているかな?」
どうやら学園長は順序立てて話そうとしているようだ。ボクは頷き、ボクの知るバケガクの価値についてを口にした。
「今のBの時代よりも前の時代に出来た、利用を続けられている唯一の建築物だからですよね」
バケガクは、建築当時の状態を極めて綺麗に保ち続け、改築なども行われたことがないため、『奇跡の遺跡』だとも呼ばれている。ただ、世間の大多数は「そんな建築物が存在するわけが無い」という意見を持っている。それもそうだ。数多の種族が生息するこの世界にも、流石に百万年生きる種族は存在しない。建築当時を知る者が一人もいなく、Bの時代より前の時代の文献もほとんど残っていない。証拠が残っていないのだ。
「そうだね。君がそれを信じているのかは知らないが、それは真実だ。しかしそれだけでは無い。この学園は、文字通り神の創造物なんだよ」
「は?」
思わず声を出してしまった。なんだ、どういう意味だ? 神の創造物?
「何故作られたのかは分からないけれどね。神がその手で造ったんだ。この世界に存在する遺跡は古代の『人々』が建造した物がほとんど。神が作成したと分かっている創造物は少ないから、そういった意味でも価値が高いんだ」
そこまで聞いた時、ボクはとある疑問が浮かんだ。
「あの、学園長はどうしてそんなに物知りなんですか? 他にも色んなことを知っているみたいですし」
「年の功さ」
学園長は即答した。それはなんだか用意していた言葉を伝えられたようで、ボクはその言葉を全く信用出来なかった。そしてそのことを察したのか学園長は苦笑した。しかし、それだけだった。
「だから、後世にも『建築当時のままの状態』で残す必要がある。なのにバケガクは壊れてしまった。そんなことになれば、普通なら業者に頼んで修繕してもらうところだが、バケガクではそうもいかない。破壊されてしまえば、『破壊される前の状態』に、『完璧に』直さなければならない」
ボクはゾッとした。学園長が言おうとしていることを、言われる前に、理解したからだ。そしてそれは、とんでもないことだった。
「言う前に分かったみたいだね」
そう言ってボクに体ごと目線を向けた学園長は、仄かな白い光に当てられて、右半身が白く染まり、反して左半身は影が落ちていた。視界から色彩が失われ、白と黒が『色』を侵食していく。
身体中が震え、力が抜けていき、立っていられなくなる。そしてとうとう、がくんと膝をついた。かなり痛みが走ったようだけれどそんなどうでもいいことに構っていられるほどの余裕はボクにはなかった。
思い出したんだ。
ずっと昔、家族全員が大好きなんだと思っていたくらいの幼い頃に、姉ちゃんがボクに話してくれたこと。その頃からボクは姉ちゃんに魔法のことを教えてとねだり、そうして教えてもらったことの一つだった。
例えば一つの石があったとして、【創造魔法】でその石そっくりの石を作ったとする。けれど元の石と魔法によって作った石は別物だと。しかし唯一、元の石と全く同じ石を作る方法がある。
『その石を構成している空間精霊と同じ空間精霊を用いて、寸分の違いもない構成で石を作り上げる』。そうすればその石は完璧なコピーとなる。しかしそれは不可能に近いのだとも、姉ちゃんは言っていた。
当時のボクにはその話は難しすぎて理解出来ず、そのため今の今まで忘れていたのだ。
何故不可能なのか。その理由は簡単だ。『魔力がもたない』からだ。
数億にのぼるのは、あくまで空間精霊の『種類』であり、空間精霊の『総数』ではない。総数の話になればその数は無限大になる。その無限大の数の中から一つ一つを区別することなんて……
『難しい』んじゃない。
『不可能』なんだ。
そんなの魔力だけの問題じゃない。複雑な魔法を使い続ける精神的疲労と体の負担で心身共に影響が出る。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ」
喉に水分を奪う熱い風が吹いた。バクバクと心臓が肉を食い破ろうとして、ドクドクと血管が破れるくらいに脈を乱す。頭がぼうっとしているのに意識はしっかりとしていて、嫌な考えばかりが頭の中でぐるぐると回る。
姉ちゃんは『不可能に近い』と言った。不可能だと、断言した訳では無いのだ。
姉ちゃんを疑うわけじゃない。逆だ。姉ちゃんならそれが出来かねないから、不安なんだ。
姉ちゃんは確実に、『完璧にバケガクを修復する』ことが出来るだろう。
たとえ、命を落としたとしても。
姉ちゃんがバケガクに命を賭けるほど思い入れているなんて思わないけれど、ボクはあまりにも姉ちゃんを知らない。こんなに大きな魔法まで使えるなんて知らなかった。『使える』という事実に違和感は感じなかったが、実際に目に見るまで、『知らなかった』のだ。
吐き気がする。気持ち悪い。くらくらする。
「か、はっ」
吐瀉物は出なかった。代わりに胃酸が喉を逆流し、口からは出ずとも喉を焦がした。冷えきった手で喉を抑えても熱はいっこうに引かず、火は勢いを増していた。
息が出来なくなり、四肢の感覚も薄れてくる。脳は収まりきらない恐怖に押しつぶされて、ぐしゃぐしゃに破壊されそうだった。
死にはせずとも、急激な魔力の損失による魔法障害を引き起こすかもしれない。姉ちゃんに何かあったらボクは生きる意味を失う。ボクは姉ちゃんがいないとだめなんだ。母さんも、父さんとも、じいちゃんもばあちゃんもいない。ボクには姉ちゃんしかいないんだ。そうでないといけないんだ。ボクは──
あああああぁあああああぁああああああああああああああああああぁぁぁああああぁああああああああああああぁぁぁあぁああああああああああああああぁぁぁあぁあああああぁああああああああああああぁぁぁああああぁあああああぁああああああああああああああぁぁぁあああああぁあああああぁああああああああああああああああああぁぁぁああああぁああああああああああああぁぁぁあぁああああああああああああああぁぁぁあぁあああああぁああああああああああああぁぁぁああああぁあああああぁああああああああああああああぁぁぁあああああぁあああああぁああああああああああああああああああぁぁぁああああぁああああああああああああぁぁぁあぁああああああああああああああぁぁぁあぁあああああぁああああああああああああぁぁぁああああぁあああああぁああああああああああああああぁぁぁあああああぁあああああぁああああああああああああああああああぁぁぁああああぁああああああああああああぁぁぁあぁああああああああああああああぁぁぁあぁあああああぁああああああああああああぁぁぁああああぁあああああぁああああああああああああああぁぁぁ
21 >>248
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.248 )
- 日時: 2021/08/21 08:55
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: ZgzIiRON)
21
「…………く……」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
「あさ……ん」
ボクには姉ちゃんしかいないんだ。姉ちゃんがいないこの世界なんて何の価値もない。
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
『ボクは不幸なんかじゃない』
『ボクは不幸だ』
『心を病んだ母親と弱気な父親』
『違う違う違う違う違う違う』
『姉だって人間離れした力を持っていて不気味で』
『やめろ』
『それでいていつも無表情なのが異様で』
『姉ちゃんはボクの光だそんなこと言うな』
『だってそうじゃないか』
「あ……ぁ、あ、あ」
『姉がいなければ、ここまでひどいことにはならなかった』
「やめろ」
「あさひくん」
『頃合だろ? 目を覚ませよ、ほら……』
「朝日君!」
「うるさい!!」
ボクは喉から叫んだ。途端に痛みが勢いを増して、喉を焼いた。痛い、熱い、苦しい、寒い。
震える身体を必死で抱いて、それでも冷えは治まらない。気温も関係しているのだろうか。心臓は烈火のごとく熱いのに、体は氷漬けにでもされたように冷たい。中と外の温度差が気持ち悪い。
「煩いんだよ黙れよ。俺だってわかってるよ。姉ちゃんが……自分が狂っていることくらい。仕方無いじゃないかこうでもしないと俺は気がおかしくなってたんだから」
ぶつぶつと俺が唱えていると、学園長がもう一度俺の名を呼んだ。
「朝日君!!」
その瞬間に目が覚めて、頭の中の靄が晴れた。目を二、三回瞬きして、呆然と学園長の顔を見る。
「あ、あれ?」
俺は一体何をしていたんだろう。意識ははっきりしているけれど、記憶が曖昧だ。えっと確か、バケガクに来ていて……なんでだっけ。ああそうだ、ここに姉ちゃんが来ているから──笹木野龍馬が来ているから、アイツが姉ちゃんに変なことをしないか見張るためだ。
なぜ?
別にいいじゃないか。姉ちゃんが誰と親しくしていようが。一人たりとも友達を作らず、俺以外に話し相手すらまともにいなかった姉ちゃんに大事な人が出来たんだ。むしろ喜ぶべきことで、二人を邪魔する必要は無い。
『だめなんだ』
どうして?
アイツと一緒にいる姉ちゃんは、他のどんな時よりも幸せそうだ。無表情を貫いてはいるけれど、俺ならわかる。言葉では説明しづらいけれど、アイツがそばに居ると、いつもの糸がピンと張っているような雰囲気が緩んでいるのだ。
『姉ちゃんには、ボクだけがいればいいんだ!』
違うだろ。姉ちゃんが俺を大事なのは、俺が弟だからだ。それ以上でも以下でもない。姉ちゃんは俺に依存してはいない。だからお前も、早く目を覚ま──
『うるさいうるさいッ! ボクは姉ちゃんの唯一の家族だ。ボクと姉ちゃんは姉弟なんだ、他人の笹木野龍馬なんかに姉ちゃんが取られてたまるか!』
俺は神の怒りを買ったんだ。懺悔するなら今のうちだ。神は敵には容赦しない。いつまでも姉ちゃんに依存しているようじゃ、九年前のあの事件から成長出来ないんだ。分かっているんだろ?
『だまれ! だまれだまれ! 神がなんだ! そんな奴いない、ボクは神なんて信じない!』
ああ、いないだろうな。もし神様がいるのなら、俺たちがこんなに不幸になる理由がわからない。俺たち姉弟が何をしたって言うんだ。
『違う、ボクは不幸じゃない! だって姉ちゃんがいる! 姉ちゃんがいればボクは幸せで──』
ああもう、仕方ないな。
俺は脳内の押し問答を、無視という形で無理矢理終わらせた。
ふと目を向けると、学園長が興味深そうに俺を見ていた。
「君は……今の君は、過去の朝日君かい?」
俺は学園長が何を言っているのかわからず、眉間にしわが寄るのを感じた。
「は? 何を言っているんですか?」
すると今度は「ふーん?」と意味深に首を傾げ、ぼそりと独り言を口にした。
「そういう訳では無いのか。じゃあ、一時的に自己暗示が取れた状態ってことかな」
それは確かに独り言で、俺への問いでは決してなかった。しかし俺は苦笑して、学園長の言葉に対し、苦笑気味に返事をする。
「はい、そんな感じですね。ここまで意識がはっきり分かれていると二重人格と称しても良さそうですけど」
そう。『ボク』ではない『俺』は、『俺』としての意識をしっかりと持っている。『ボク』とは自己洗脳をかけて作り上げた仮の人格であり、本来の『花園朝日』は『俺』だ。
だけど、『俺』も『ボク』も根本は同じだ。『俺』だって姉として姉ちゃんを慕っていたし、慕っている。『ボク』は姉ちゃんを『依存対象』として意図的に向ける感情を膨張させてしまっているため性格が歪んでしまっているが。『ボク』になる前から姉ちゃんの魔法を真似して使っていたし、姉ちゃんから避けられていた。俺がしつこく食い下がっていたから、割と一緒に過ごす時間は長かったような気もする。
『俺』と『ボク』は同じ人格だ。精神状態により多少性格にズレが生じるタイプ、スナタさんと似ているかな。だから、俺は二重人格ではない。
「君は、君自身のことをきちんと理解しているのかい?」
「それは、俺が犯した罪の話ですか?」
学園長が頷くのを見て、俺は肩を竦めた。
「はい、知っています。祖父母を殺したことはもちろん、『他人の精霊に手を出した』ことも」
神の眷属である精霊に対する違反は、この世界における大罪だ。なぜならそれは、神に背くということだから。
今は『俺』に『ボク』を『被せているような状態』だけど、そのうち『俺』は消滅するんだろうな。
そうなる前に、『ボク』が正気に戻ってくれるといいんだけど。と言っても、『ボク』という人格を形成したのは俺自身なんだけどな。
俺は再度、苦笑した。
22 >>249
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.249 )
- 日時: 2022/07/31 21:36
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: VmDcmza3)
22
「ん? というか、どうして『俺』が出てきたのがわかったんですか?」
学園長の「今の君は、過去の朝日君かい?」という言葉は、明らかに『俺』と『ボク』を区別した言い方だった。『俺』と『ボク』の違いは一人称と口調。しかしその違いに気づける人はそうそういない。違和感を感じたとしても、まさか『人格が入れ替わった』なんてわかるはずないだろう。
学園長は何者なんだ? 知っているはずのないことばかり知っている。気味が悪い。
「うーーん」
学園長は腕組みをして唸った。と思えば急にクスッと笑い、俺に言った。
「では、ヒント。
私は、とある『権限』を持っている」
権限? なんだ、それ。
「これ以上は教えないよ。というよりも、教えられない。私にも事情というものがあるんだ。これで満足してくれ」
それなら、これだけでも教えてくれたことに感謝すべきかな。
「わかりました。ありがとうございます」
そう言って頭を下げる俺を見て、学園長はうんうんと頷いた。
「君はいい子だね」
ああそうだ。『俺』は元々普通だった。異常な家庭で生まれ育った身だけれど、精神が歪むことは九年前のあの事件までなかった。それ以降も『ボク』という殻で『俺』を守ることで、俺は正気を保っている。
だけど──
「学園長」
「ん?」
「学園長は、教師──先生ですよね?」
俺の問いに対し首を傾げた学園長は、数秒してから頷いた。
「ああ。一応そういうことになっているね。どちらかと言えば職員だけど。それがどうかしたのかい?」
『俺』は、もう二度と表に出てくることは無いだろう。俺の中のもう一つの、『ボク』とはまた違った、俺が殺した『狂った俺』がもうすぐで混ざる。そうなるとこの『花園朝日』という人間は破滅へと向かうことだろう。二重の殻を使わなければ正気を保てなかった弱い『俺』なんて、すぐに消えてなくなるだろう。
歯車は揃った。今更運命に逆らう気は無い。そんな気力は残っていない。そりゃあ、あわよくば九年前より前に、姉ちゃんと俺の二人だけでも、戻れたらいいなとは思うけど。
「なら、聞いて欲しいです」
『ボク』は、姉ちゃんしか見えていない。見ようとしていない。なら、俺が『俺』であるうちに、花園朝日としての人生に、少しでも悔いが残らないようにしたい。
「学園長」
助けの手を、求めたい。
出来る限りのことをしておきたい。
「俺……」
涙は、出ないな。最後に泣いたのっていつだっけ。昔から全然泣かない子だったと、母さんは言っていたな。
「……生まれてきたく、なかったです」
なあ、『ボク』。もっと本心を口に出せよ。
辛いなら、そう言えよ。
姉ちゃんなら、きっと、助けてくれたはずなのに。
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