ダーク・ファンタジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

この馬鹿馬鹿しい世界にも……【番外編追加】
日時: 2025/05/23 09:57
名前: ぶたの丸焼き (ID: 5xmy6iiG)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12919

 ※本作品は小説大会には参加致しません。


 ≪目次≫ >>343


 初めまして、ぶたの丸焼きです。
 初心者なので、わかりにくい表現などありましたら、ご指摘願います。
 感想等も、書き込んでくださると嬉しいです。

 この物語は長くなると思いますので、お付き合い、よろしくお願いします。



 ≪注意≫
 ・グロい表現があります。
 ・チートっぽいキャラが出ます。
 ・この物語は、意図的に伏線回収や謎の解明をしなかったりすることがあります。
 ・初投稿作のため、表現や物語の展開の仕方に問題があることが多々あります。作者は初心者です。
 ※調整中



 閲覧回数 300突破11/25
 閲覧回数 500突破12/11
 閲覧回数 700突破12/28
 閲覧回数1000突破 3/13
 閲覧回数1200突破 3/22
 閲覧回数2000突破 5/26
 閲覧回数3000突破 8/16
 閲覧回数4000突破 1/ 4
 閲覧回数5000突破 2/26
 閲覧回数6000突破 4/22
 閲覧回数7000突破 7/15
 閲覧回数8000突破 8/31

 ありがとうございますm(_ _)m
 励みになります!

 完結致しました。長期間に渡るご愛読、ありがとうございました。これからもバカセカをよろしくお願いします。

 ≪キャラ紹介≫
 花園はなぞの 日向ひなた
  天使のような金髪に青眼、美しい容姿を持つ。ただし、左目が白眼(生まれつき)。表情を動かすことはほとんどなく、また、動かしたとしても、その変化は非常にわかりづらい。バケガクのCクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。

 笹木野ささきの 龍馬たつま
  通称、リュウ。闇と水を操る魔術師。性格は明るく優しいが、時折笑顔で物騒なことを言い出す。バケガクのCクラス、Ⅱグループに所属する優等生。

 あずま らん
  光と火を操る魔術師。魔法全般を操ることが出来るが、光と火以外は苦手とする。また、水が苦手で、泳げない。 バケガクのCクラス、Ⅱグループに所属する優等生。

 スナタ
  風を操る魔法使い。風以外の魔法は使えない。表情が豊かで性格は明るく、皆から好かれている。少し無茶をしがちだが、やるときはやる。バケガクのCクラス、Ⅲグループに所属する生徒。

 真白ましろ
  治療師ヒーラー。魔力保有量や身体能力に乏しく、唯一の才能といえる治療魔法すらも満足に使えない。おどおどしていて、人と接するのが苦手。バケガクのCクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。

 ベル
  日向と本契約を交わしている光の隷属の精霊。温厚な性格で、日向の制止役。

 リン
  日向と仮契約を交わしている風の精霊。好奇心旺盛で、日向とはあまり性格が合わない。

 ジョーカー
  [ジェリーダンジョン]内で突如現れた、謎の人物。〈十の魔族〉の一人、〈黒の道化師〉。日向たちの秘密を知っている模様。リュウを狙う組織に属している。朝日との関わりを持つ。

 花園はなぞの 朝日あさひ
  日向の実の弟。とても姉想いで、リュウに嫉妬している。しかし、その想いには、なにやら裏があるようで? バケガクのGクラス、IVグループに所属する新入生。

 ???
  リュウと魂が同化した、リュウのもう一つの人格。どうして同化したのかは明らかになっていない。リュウに毛嫌いされている。

 ナギー
  真白と仮契約を結んでいる精霊。他の〈アンファン〉と違って、契約を解いたあとも記憶が保たれている不思議な精霊。真白に対しては協力的だったり無関心だったりと、対応が時々によって変わる。
  現在行方不明。

 レヴィアタン
  七つの大罪の一人で、嫉妬の悪魔。真白と契約を結んでいる。第三章時点では真白の持つペンダントに宿っている
が、現在は真白の意思を取り込み人格を乗っ取った。本来の姿は巨大な海蛇。

 学園長
  聖サルヴァツィオーネ学園、通称バケガクの学園長。本名、種族、年齢不明。使える魔法も全てが明らかになっている訳ではなく、謎が多い。時折意味深な発言をする。

 ビリキナ
  朝日と本契約を結んでいる闇の隷属の精霊。元は朝日の祖母の契約精霊であったが、彼女の死亡により契約主を変えた。朝日とともにジョーカーからの指令をこなす。朝日とは魔法の相性は良くないものの、付き合いは上手くやっている。

 ゼノイダ=パルファノエ
  朝日の唯一の友人。〈コールドシープ〉の一族で、大柄。バケガク保護児制度により学園から支援を受け、バケガク寮でくらしている。バケガクのGクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。

≪その他≫
 ・小説用イラスト掲示板にイラストがありますので、気が向いたらぜひみてください。

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.230 )
日時: 2021/08/08 09:03
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: /GGwJ7ib)

 3

 あれから急いで支度をして、ボクはバケガクに向かっていた。姉ちゃんの飛行速度は速いから、ボクが追いつくことは無いだろう。

「ん?」

 ボクは一度止まった。簡易な柵でバケガクの所有する敷地がぐるりと囲われていたのだ。柵の向こうには、無惨に破壊し尽くされた森の木々と、ぼんやりと遠くに見える崩壊し放置された元々壁であったり屋根であったりした瓦礫があった。
 柵の前には点々と見張りらしき人が立っている。そのほとんどが屈強な男で、それ以外でも、新聞でたまに見かけるどこかの国の騎士団に所属する間違えても下っ端ではない面々が揃っていた。上空には見るからに魔法により生み出された鳥の形をした仮想生物(本当の生物ではない、形と役割だけを持った魔力の塊。役割は形作る魔力によって異なる)が大量に飛び交っている。あれで情報疎通を行っているようだ。

「……ふうん」

 随分と大層な守りだ。何かあるのは間違いない。
 まあそれは後でわかるだろうと自分の心に区切りをつけて、ボクは前進を再開した。
 ボクは今、ジョーカーに渡された無色の魔法石を持っている。これは術者が自分の魔力を込めて用途を定めるタイプのもので、仮想生物とよく似ている。仮想生物はその形から作らなければならず、その上特定の魔力のみで作る必要がある。魔法石は元から存在する物に魔力を込めるだけでいいが、その魔法石が耐えられる量・種類の魔力を込める必要がある。どちらが難易度が高いのかと言われると悩ましいところで、「時と場合による」が正当だろう。

 ブレザーの内ポケットの中から、安っぽいビーズのような大きさと形の魔法石を取り出した。手のひらに乗せてみると、確かに、微かにではあるが魔力を感じる。これを受け取った当初は何も感じなかったが、最近になってようやく魔力を感じ取る力が着いてきた。

『知ってるかい? この地上に住む魔法使いと、魔法使いを超越した存在が使う魔法の違い』

 ジョーカーは、姉ちゃんを相手に行動するなら直接的な魔法の使い方だけではなく魔法や魔力の根本の仕組みなんかも学んでおいた方がいいと、ボクが聞いてもいないことをペラペラと喋る時がある。

『え、わからない? 魔法の量を操るか、魔法の質を操るか、だよー。魔法の質を操ることが出来たらそれはもう、神様の域だよねぇ。
 まあ、それが出来ないカミサマも一人……いや、これはまだ早いね。機会があれば話してあげるよぉ』

 それにしても、この守りの中誰にも気付かれずに入れるだなんて、ね。自分で大口叩くだけあるや。
 この魔法石には、【意識阻害】【百里眼】【聴域拡大】の三つの魔力が込められている。【意識阻害】は今のように自分の存在を周りに認知されない力。【百里眼】は【千里眼】をいじったもので、一キロメートル範囲内であれば自由に視界を操作できる力。【聴域拡大】は視界に収まる距離、正確には意識的に目に入れてる範囲の音を拾える力。三つもの魔力、しかもこの大人数に通用する魔力にこんなちっちゃな石が耐えているのかと思うと、半ば信じ難い心境に駆られる。

『見て分かると思うけど、ボクはかなりの手練だからねぇ。そんじょそこらの奴にはその石の効果をガード出来ないよぉ。まあ万が一バレても【意識阻害】は誰でも使えるような初歩的な魔法だし、他の二つは正式に世に認知されてないから問題無し。だいじょぶだいじょぶ。
 あ、でも、流石に日向ちゃんとかりゅーくんとかは長時間は無理だよ? あー、りゅーくんは大丈夫かな? あまり彼のこと知らないんだよねぇ。ま、よろしくー』

 この魔法石は何かと便利に使える。ジョーカーの手を借りているという事実は癪だけど、今回もお世話になるだろうな。

 4 >>231

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.231 )
日時: 2021/08/08 21:30
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: a0p/ia.h)

 4

【スキル・魔力探知・波動パターン識別・発動】

 見渡す限り瓦礫、瓦礫、瓦礫。始めは目星を付けて探していたものの、痺れを切らしてスキルを使うことにした。
 ボクの使うこのスキルは一般的なものとは少し違う。本来の【魔力探知】は自分の魔力を周囲に満たし、他者の魔力の波動を感じ取ることで『何処に何がいるのか』を把握するもので、特定の人物を探すに至るまではかなりレベルを上げなければならない。だけどボクのスキル【魔力探知・波動パターン識別】は『自分が記憶した魔力の波動パターン』を探ることにより、『特定の一人』を見つけ出すことが出来る。ただしこれは裏を返せば一人一人のパターンを完璧に記憶しなければ使えない裏技なので、ボクは姉ちゃんを探すことにしか使えない。

 意識を『一人一人が放つ魔力』に集中させるために、ボクは目を閉じた。この時に言う魔力というのは『魔法を使うために世界にアクセスする力』ではなく『精霊を寄せつける力』のことで、これは魔法を使えない種族にも備わっている。これはどうしてかというと、生物であろうと無生物であろうとこの世に存在する全てのものは創造神の創造物であるから、創造神の生み出した精霊の庇護下にあるんだとか。
 ちなみにこの魔力は質とか量とか、強いとか弱いとかはなく、ただ波動のパターンが人によって違うというだけらしい。しかしそのパターンを覚えるのは至難の業で、それは人が寄せつける精霊の種類は数千万に及ぶためだ。故に複数人のパターンを覚えようとすると情報過多で頭がショートしてしまう。

 でも、姉ちゃんなら。姉ちゃんなら、色んな人のパターンを覚えていたりするのかな。このスキルを教えてくれたのも姉ちゃんだったし。

 こういったスキルを発動するのに使うのも、この魔力だ。ボクは魔力を『満たす』のではなく全域に『飛ばし』、数多の波動パターンの中から姉ちゃんのものを探し始めた。
 本来のものであれば魔力は『触覚』として扱うのだが、ボクの場合は『視覚』として扱う。感覚的に探すといった面では共通しているので具体的にこの違いを説明するのは難しい。姉ちゃんは「意識の違い」と言っていた。そんなことできちんと発動するのかと、昔のボクは思ったのだが、杞憂だった。
 本来のスキルは自分よりもレベルの高い人には発動したことを気付かれてしまうことが多いのだが、ボクの使うスキルだと気付かれにくい。これが何故かと言うと、『触覚』だと触られた感覚がして気付きやすいけど、『視覚』だと触られるよりかは気付きにくい、らしい。しかも凝視するわけでなくサラッと見て回るだけなので、余計に分かりにくいんだとか。

【魔力探知】は『視る』数が多いと情報の量に頭が耐え切れなくなるのでかなりの経験を積む必要があり、実際に使えるようになるにはレベルは少なくとも5に達していないと使えない。しかし【魔力探知・波動パターン識別】は違う。数はあまり問題とせず、ただ目的の波動パターンを探せばいい。

「……いた」

 かつてのバケガク本館よりも敷地の奥にある図書館の中に、姉ちゃんはいる。そうか、図書館や特別倉庫なんかは無事なんだっけ。確か重要な物が保管されている場所には特別な結界が張られているらしいから、そのお陰で? 

 噂だと、光魔法の使い手が魔法障壁を張ったって聞いたけど。結界は確かに今の技術じゃ再現出来ないほど強力だけど、古代の魔法を用いて張られたものだから、同じ古代の存在である悪魔、しかも『大罪の悪魔』相手だといくら結界でももたないからと周りの「危険だ」という警告を無視した男子生徒がいるらしい。
 その時、水柱を大量に出現させた術者が大罪の悪魔の契約者だとは分かっていなかった。真白あのおんなが誰かに話していない限り、戦闘になっていた場所にいた姉ちゃんと笹木野龍馬と学園長と真白の四人、そして真白をけしかけたボクくらいしか、バケガク内であの魔法が大罪の悪魔の魔力によるものだということを知る者はいなかったはずだ。

 つまりその男子生徒は、魔力から術者を特定したということ。そんなことが出来て、かつ大罪の悪魔の力に対抗する魔法障壁を展開できる奴なんて──おそらく、東蘭。あいつならそれが出来るんだろう。あいつは同じ天陽族ということもあって幼い頃から色んな噂が流れてきた。一族きっての才児だとか神童だとか、かと思えば一族の力【解呪】を操れずに落ちぶれたとか。それでもあいつの力はとにかく強く、気性に合っている魔法であれば制御も完璧に行えるらしい。

「……」

『大丈夫』

 ボクは大丈夫だ。ボクは姉ちゃんさえいればいい。

 そうだろう、ボク?

 5 >>232

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.232 )
日時: 2021/08/09 11:08
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: a0p/ia.h)

 5

 ボクは正門の上をほうきで通ると、人影の少ないところで降りた。【意識阻害】はあくまで他者の意識を自分に向けにくくするだけで、自分自身が透明になったり存在そのものが無くなったりする訳では無い。歩けば足音が鳴るし、魔力の流れも感知される。
 こうした守りに当てられる人材は五感や魔法感覚に限らず色んな感覚が研ぎ澄まされていることが予想される。確かにボクは動けば何かしらの音を鳴らす。音なく長距離を移動出来るような技術は備わっていない。けれど意識して気をつける程度なら出来る。ほうきで移動すると嫌でも魔力が流れてしまう。ボクが見張りよりも圧倒的に経験や技術が劣っている以上、こうした場面では自分自身の体で、魔法やスキルなしで動いた方がいいのだ。

 ほうきを『アイテムボックス』にしまい先に進む。瓦礫は大きいものも多く、また、さっきの柵を越えて侵入してくるような輩はいないだろうと想定されているのか、数値的な人数はそこそこあるものの、配置としては一人一人の間隔が大きく、人目を避けることは容易だった。ただし見つかれば仮想生物の鳥を伝って一気に情報が拡散されるだろうから、油断は出来ない。

 うーん。一応制服で来たけど、動きやすい格好の方が良かったかなあ? そういえばボクって金髪で目立つしなー。帽子くらい持ってきても良かったかも。
 まあ今更後悔しても遅い。どうせ一旦家に戻るなんて出来ないんだし、頑張ろう。

「わあ、蝶がいる!」

 えっ?!

「ぅ」

 ボクは驚きのあまり声を出しそうになり、慌てて両手で口を押さえた。
 は? 誰だ? 全然気配を感じなかった。音だって聞こえなかったし、なによりさっきまで周りには誰もいなかったじゃないか!

「あれ、これって仮想生物かー。侵入者を見つけるためのものかな? そっか、仮想生物って基本的に一つの命令しか下せないもんね。だから見張り用は情報伝達用とは別に用意しないといけないんだね」

 ボクとそんなに年の変わらない女の子の声だった。元気が良くて姉ちゃんとは真逆のタイプ。なのにどうしてか不快にはならない、不思議な声だ。

「ああ、行っちゃった。頑張ってねー!」

 ボクは物陰からそっと様子を伺った。女の子は向こうを向いていて顔は見えないが、ボクはひと目でそれが誰なのかわかった。

 淡い、少し灰色の混ざったような桜色の髪──スナタだ。

 なんであんな独り言を言ってるんだろう。癖なのか?
 ……ボクに見張り用の仮想生物がいることを教えたのだろうか。そんな、まさかね。

 でも、ボクはあの蝶に気付いていなかった。ボクの瞳と同じ色をした萩色の蝶。見張りなだけありボクと同じ【意識阻害】を掛けられているようだ。効力はボクのものよりは劣るがそれなりに強い。認識出来れば次からは見えるようにはなるが、今のことがなければ気付かなかったかも。

 まて。ということはスナタは蝶の【意識阻害】を破ったのか?
 予想外だった。姉ちゃんのそばに居る三人の中で唯一一般人の平均並みの魔力や知能、そして身体能力を持った、良くも悪くも『普通』だったから、警戒対象から除外していたのだけれど。
 一応ボクは昔から優秀だった。多分じいちゃんの血を素直に受け継いだのだと思う。新入生だからIVグループだけど、来年度からはⅢグループに昇級するだろうと先生にも言われたし。
 なのに、そんなボクでも分からなかった蝶をスナタは気付いたのか? ボクはIVグループでスナタはⅢグループ。でもそれは在籍日数の違いじゃないのか?

「さーて、早く行かないと。多分わたしが最後だろうしね。学園長は何するつもりなのかな? まあ、大体検討は着くけど」

 認めたくはないが、なんとなくスナタはボクにも気付いている気がする。でも、どうして? 媒体を通してではあるがジョーカーの魔法だぞ? 姉ちゃんとは違ってスナタは本当に魔力が一般平均くらいしかないからⅢグループなんだろうし、ジョーカーの魔法を破れるとは到底思えないんだけど。

 ジョーカーなら何か知っているのかな。また聞いてみよう。

 6 >>233

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.233 )
日時: 2021/08/09 15:01
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: a0p/ia.h)

 6

 わざわざ図書室に近寄らずとも、【百里眼】が使用可能になるエリアまで行けばそれでいいと思っていた。

 でも!

 蝶の数が多い!

 人の配置がまばらだったのは、この蝶の存在が大きかったのだろう。意識して確認してみれば、鳥の倍近くの数の蝶が飛んでいる。瓦礫に隠れても蝶が近くにいるからすぐに移動しなければならない。しかも蝶そのものが小さく何処にいるのか瞬時に把握するのは少し難しいから常に気を張っておかなければならず、そろそろ疲れてきた。

 けれど図書館に近付くにつれて蝶はおろか鳥の数も減っていき、代わりに人の数が増えてきている。
 どうしてだろう。ここで姉ちゃんたちが話しているのなら、ここが一番警戒するべきところじゃないのか? さっきのスナタの言葉からしてもそれは予想される。人が増えるのは分かるが、蝶や鳥の数を減らす理由がわからない。

 図書館とバケガク本館は中間に森がある。かなり大きい森で上空から見ると長細い形をしているが、真っ直ぐに横断しようとしても十分以上かかる。隠れながら進むので二十分はかかることを想定して進んでいる。

「く、あああぁぁ〜」
「おい、あくびなんかすんなよ!」
「そうだよ、もっとしっかりしなきゃ」

 ボクが進んできた方向から三人組の男達が歩いてきた。軽装の兵服を着ているので、おそらく騎士団の下等兵かそこらだろう。

「あくびしたくもなるだろ。誰もいないのにずっと警戒し続けないといけないんだから」
「それが俺達の仕事だろうが!」
「まあ、言ってることはわかるけどね。でもここは鳥や蝶が近寄れないらしいから仕方ないよ。
 でも、さっき入ってきた情報だとあと一時間か二時間で終わるって話だし、もうちょっとだよ」

 これは、もしかすると何か情報が得られるかもしれない。もう少しここに居てみよう。
 ずっと顔を出して三人の姿を見続けるわけにもいかないので、ボクと三人の距離は聞こえてくる足音だけで判断することにする。

「げぇぇ、あと二時間もあるのかー。
 というかなんで仮想生物が近寄れないんだよ。結界があるのはあの建物だけで、ここら一帯に貼られてるわけでもないんだろ?」
「はあ?! お前、話聞いてなかったのか!」
「まあまあ、落ち着きなよ。喧嘩してるとまた上官に怒られるよ?
 上官の話によると、自然と他人の魔力を弾く『膜』を展開してしまう魔法使いがいるらしいんだ。仮想生物は言ってしまえば魔力の塊だから、その『膜』の影響をもろに受けているんだろうね」

 あれ、これって姉ちゃんの話じゃないか? でもおかしいな。姉ちゃんは普段その力を抑えているはずなのに。

「へえ、凄い奴もいるもんだな。それってつまり今回動員された魔術師の奴ら全員の魔力を弾いてるって事だよな? ということは魔術師以上の実力持ちか。」
「ってことは〔邪神の子〕か光障壁の才児のどっちかってことか! 確かにあの二人ならそのくらいのことやってのけそうだな!」
「光障壁の子って、それって東さんのこと? いや、違うと思うよ。対一人ならともかく、騎士団魔術師部隊の一隊全員の魔力を弾くなんて、それは魔道士クラスの実力がないと不可能だよ。でも、改めて考えてみるとそんな人いたかなあ?」

 は?! 姉ちゃんとあの二人を一緒にするなよ!!

「今日ここに来た重要人物といえば、えーっと、学園長とスナタって女の子と光障壁の東くん? と白眼の花園日向だっけ? あれ、まだ〔邪神の子〕が来てないんだな」
「ああ、そういやさっき来たな、白眼。思い出しても気味わりぃや。なんであんな奴がいるんだろうな。いや昔の事件で存在することは知ってたけど、まさか会うことがあるとはなー」
「ちょっと! 誰が聞いているかわからないんだからそういうこというのはよしなよ!」

 ……。

 落ち着け。今出て行けば今までの苦労が水の泡だ。元からああいうことを思っている人しかいないことはわかっていた事だ。
 ボクは爪が食い込んで血が流れるまで強く、両手を握りしめた。

「いや、誰が聞いているかわからないってのはないだろ。そもそもここまで辿り着ける奴なんているのかねえ」
「そうだそうだ! それにこうやってちょくちょくガス抜きしねえとやってらんないしな」
「そんなのわからないじゃないか。もしかしたらこういう木の後ろに隠れているのかもしれないし」

 木の後ろ?

 っ、しまった!! あいつらの言葉の気を取られて距離を確認するのを怠った! ボクが背を預けている木ではないだろうが、足音からして三人のうち一人が近くの木に近付いて来るのがわかる。いくらこの森が深いとはいえ見つかる可能性は高い。
 どうしようどうしよう。もう移動が出来る距離じゃない。
 一か八か、飛び出して魔法で口封じをするか? それくらいならボクは出来る。でも魔法の兆候や痕跡を隠す術はまだわからない。侵入者の発覚は避けられない。

 いや、ここで捕まるか後で捕まるかの違いだ。いま抵抗しなければ確実に捕まるが、後のことは後になってみないとわからない。

 なら、賭けに出よう。

 ボクは肩から提げた小さな鞄から、杖を取り出した。白みがかった半透明の六角形の水晶が先端に取り付けられた一番流通量の多い種類の杖だ。ボクは水晶に光の魔力を溜め、発動の準備を整えた。


 7 >>234

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.234 )
日時: 2021/08/09 21:43
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: taU2X.e0)

 7

「こんにちは」

 突然、あの三人以外の、勿論ボクでもない人の声が重くのしかかった。

「見回りお疲れ様です。ところで随分と私の知り合いのことを悪く言っていたようですが、気の所為でしょうか?」

 ボクはこの声を知っている。こんな声音は聞いたことがないが、聞き間違えるはずがない。

 笹木野龍馬だ。

「え、あ、ははは……」
「いや、その、はい、気の所為で……」
「も、申し訳ありません!!!」

 笹木野龍馬の威迫に圧されたのか、三人はしどろもどろになって答えになっていない言葉を各々で口にする。

「肯定と否を言っている方がいらっしゃるようですが、事実はどちらなのでしょう? まさか真逆の事実が二つ存在するとでも? おかしいですね。未来はいくらでも枝分かれしますが、我らの辿る過去はただ一つであると他のどなたでもない神々が定めたのですから」

 静かな怒りを前面に出したような、空気が痺れる錯覚を感じさせる声が、この場を支配していた。いくらカツェランフォートの吸血鬼であり自分よりも長い年月を生きてきた人物を相手にしているとはいえ見た目だけではまだ子供の少年に怯えているようで、騎士団の兵士が務まるのだろうか。

「お、おい、さっさと謝れよ」
「はあ? お前だって止めなかっただろうが」
「ちょっと二人とも、今はそんなこと言ってる場合じゃ」

 ない、と最後の一人が言い切る前に、それは起きた。

 まず、ずしりと上から重圧が辺り一帯に掛けられた。それだけではなく、心做しか息苦しさも感じる。手足が痙攣し、自由に動かせなくなった。視界もかすみ、次第に体がふわふわと浮くような錯覚がし、触覚が正常に機能しなくなったように感じる。

「あれ、どうかしましたか? かなり顔色が悪いようですが。私なら楽になれる場所まで運んで差し上げられますがいかがでしょう」

「た、すけ、て……」
「あ、かはっ、がっ……」
「すみま、せ……」

 やや離れた場所にいるボクでさえこれだけの影響を受けているのだ。魔法の対象とされたあの三人は、これ以上に苦しい目に合わされているのだろう。声から察して、もはや死にかけている。
 どくんどくんと、心臓がゆっくり大きく異常な脈を刻んだ。[黒大陸]の住民は冷酷非情。それが今、実際に体験させられている。

 怖い、恐い、こわい、コワイ。恐怖という名の氷がボクの体を埋めつくし、急激に体温を奪っていく。この震えはきっと、魔法による痙攣だけではないはずだ。

「まあ、と言ってもこの場所はいま私の魔法が上手くコントロール出来ない状態にあるので、もしかすると案内し損ねるかもしれませんけど、ね。その時は寛大な心でお許し頂けると幸いです」

「……」

「はい? なんですか?」

「コロ……サ、ナイ、デ……」

「え?」

 数秒の沈黙の後、笹木野龍馬は変わらぬ落ち着いた声で言った。

「ああ、失礼しました。知らず知らず紛らわしい言い方をしてしまっていましたね。ご安心ください。殺しはしませんよ。いくら私が吸血鬼だからといって誰も彼も襲うわけではありませんし、殺すわけでもありません。

 ただ、闇の中に飲み込むだけです」

 その声はむしろ穏やかさすら感じさせるほど、冷たい怒りで満たされたものだった。体中を這いずり回すような不快感に包まれ、気を抜けばすぐにでも意識が飛んでしまいそうだ。

「闇の中では死ぬことはありません。ひたすら無限の時の中感覚を忘れ、記憶を忘れ、そして自分を忘れます。ね? 楽になれるでしょう?

 ……あれ?」

 数歩分の足音がした後に、ふっと魔法が解かれた。その瞬間ボクはその場に倒れ、パキパキと枯葉が割れる音がした。

「次はないと脅すつもりだったのにな。気絶してる。そんなにやりすぎたのかな、自覚ないや」

 朦朧とした意識の中聞こえたその声は、もう怒りはなかった。

「君も、えっと、誰かは知らないけど、巻き込んでごめんね。まさか森の中に隠れてるなんて思わなかったからさ。お詫びになるか分からないけど、この辺に幻影魔法敷いておくから、調子が戻ってきたらここから出ることをおすすめするよ。そう時間がかからないうちに大規模な魔法がバケガク全域に渡って発動される予定だから」

 ああ、笹木野龍馬にも破られたのか。でも、スナタよりも正確に破れてはいない、みたい、だ、な……。

 8 >>235


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。