死にたがりの私

作者/桜

―3章― 8


私の涙を止めてくれる人はいない。

自分でも止められない。

涙を止めてくれる人、仲間。

仲間のいない私には、いるはずがない。

ドタドタ

騒がしい足音がする。

「ねぇ、見なよ!」

亜美が浴室に駆け込んできた。

私は、首を動かし、亜美へ視線を向ける。

亜美の右手には、携帯。

「アンタって人気者だねぇ♪」

亜美がそう言って、私に携帯画面を見せた。

私の半裸の写真。

そして、私の写真の下に、沢山のコメント。

全て、聞き飽きた言葉。

私への悪口。

『何これwスタイル悪ッ!』

『あははっ!惨めな姿wウケるww』

『見てるだけで目が腐りそう。穂乃実、氏んでよw』

「どう?裏サイトに投稿したら、すぐにコメント来たのよ?凄くない?」

亜美が不快な笑みを浮かべながら、私の顔に携帯画面を近づける。

「それと、このコメントいいなぁ♪同感♪」

亜美があるコメントを指差す。

『氏ね氏ね。穂乃実に生きている価値何かないんだよ』

生きている価値?

私に生きている価値がない?

そんなの、知っている。

前から知っている。

だから死を求めているんだ。

だから死を望んでいるんだ。

「ホント、アンタに生きている価値はないよねぇ?」

私は、少し疑問に思った。

生きている価値って何?

多額のお金?

全知全能の力?

美しい心?

生きている価値って、何なの?

「……ねぇ、生きている価値って何……?」

私は、かすれた声で呟いた。

亜美は、私を見下すような笑みを浮かべた。

「そんなの決まってるじゃない。人に好かれているか、嫌われているかよ!」

「なら、私に生きている価値はないという事ね?」

私は、何故か微笑んだ。

目には涙を溜めて。

「そうよ、アンタには生きている価値はないのよ!」

「じゃあ、貴方には生きている価値はあるの?」

私は浴室の床を這いながら、ゆっくりと亜美に近づく。

「はぁ?あるに決まってるじゃない。私は人に好かれているもの」

亜美まで、あと50cmぐらい。

「私は、貴方に生きている価値はないと思う」

「な、何言ってんの!?私に生きている価値はないですって!?」

「生きている価値のない人は死ねばいい。それが皆の考え。なら、私は貴方に生きている価値はないと思う。だから、死んで」

私は体を起こし、亜美の体を押し倒した。

そして、亜美の首へ。

力をこめ、亜美の首を絞める。

「……い、いや……、やめて……」

かすれた声で、助けてと懇願。

自分はしたのに、自分にされるのは嫌なの?

我儘。

私は少し、力を緩めた。

けれど、亜美の体には全体重をかける。

逃げられない様に。

「今、この家には私と貴方しかいない。もしも、私が貴方を殺したら?いや、殺そうとしたら?貴方はどうする?助けを呼ぶ?人何てこないよ。じゃあ、どうする?」

「……や、やめて・・……、殺さないで……」

私は、首から手を離した。

けれど、亜美からは体をどかさない。

「今、私は貴方をいつでも殺せる。さぁ、どうする?逆らわずに死ぬ?」

「助けて、助けてよ!」

亜美の顔は、恐怖に染まっていた。

何故怖いの?

私が怖いの?

違う、仲間がいないから。

人は、集団になると強くなる。

単独になると、弱くなる。

仲間がいないから。

独りは怖いから。

「貴方も、私と同じね」

同じ、弱虫ね。