死にたがりの私
作者/桜

―4章― 7
私は、自殺しようとしたアパートに視線を向けた。
私を殺してくれなかったアパート。
死の怖さを教えてくれたアパート。
そして、何も変えてくれなかったアパート。
何故変わらなかったの?
私が自殺をしたら、何かが変わるんじゃなかったの?
何故、人は人をいじめるの?
それがルールだから。
たったそれだけの事なのに、私は受け入れられなかった。
いや、受け入れるのを拒否していた。
それを受け入れたら、自分までもを裏切っている様な気がして。
弱い者はいじめられなくてはいけないの?
それがルールだから?
だから強い者に付き、自分より弱い者をいじめるの?
それでは、何も変わらない。
一生変わらないの?
この世界は。
この世界のルールは。
もしかしたら変わるのかな?
信じられないけど、もしかしたら。
もしもこの世界が変わるとしたら?
もしも変わるとしたら、私は変える?
世界を敵にまわしてでも、私は変えようとする?
いや、しない。
できない。
誰かがするのを待つだけ。
だから、世界は変わらない。
私には無理な事。
そんな事、分かっていた。
自分には勇気がない事を。
飛び降りたのだって、勢いだって事を。
だから私は逃げた。
現実から目をそむけた。
亜美がいじめられている現実から。
転校すれば私は救われる?
いや、何も変わらない。
例え転校先の学校にいじめがなくても、世界のどこかでは、きっといじめは起きている。
ただ、私の目の前で起きていないだけ。
これで良かった。
私は生きているだけでも苦しい。
だから、もういい。
私は全てから逃げて、また人生を始める。
苦しい事から逃げて、楽しい事だけを見る。
苦しい事は夢だったのだと、自分に言い聞かせて。
私は静かに公園を出た。
そのまま家へ帰り、ベッドに横になった。
夢は、見なかった。

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