死にたがりの私

作者/桜

―4章― 12


私は、目覚まし時計の音で目が覚めた。

何も変わらない朝。

来てしまった朝。

私は、朝食は食べずに家を出た。

母と一緒に食べるのは、耐えられなかったから。


「穂乃実!」

学校へ着き、下駄箱で靴を履きかえていると、蓮華の声がした。

「おはよ♪」

私は蓮華の方へ視線を向け、微笑みを浮かべながら言った。

偽りの微笑み。

「おはよ♪」

蓮華も微笑みながら言った。

私の嘘、気づいてないよね?

いじめられないように、蓮華に気に入られようとしている、ズルい自分。

分かってるけれど、嘘をつかなければ。

もう、苦しみたくない。

私は、偽りの微笑みを浮かべたまま、蓮華と一緒に教室へ向かった。


教室のドアを開けると、皆の視線が私と蓮華に集まった。

けれど、私と蓮華だと分かると、皆の視線は逸れていく。

「ねぇ、穂乃実、蓮華。まだ春菜、来てないんだよ」

多分、園崎 心(そのざき こころ)という名前だった気がする子が、残念そうに言った。

いや、多分は間違い。

私は、クラスメイトと顔を名前を全員覚えた。

覚えなきゃ、クラスにとけ込めないでしょ?


「え?春菜、まだ来てないの?」

「うん、春菜いないとつまんない」

蓮華と心が話始めたので、私は教室の中へ視線を向けた。

春菜の机には、ゴミの山。

黒板には、春菜への悪口。

春菜の椅子には、卵が塗られていた。

私は、昔の自分の机を思い出した。

少し、哀しくなる。

自分がいじめられている訳じゃないのに、ね。

自分と同じように苦しんでいる人が目の前にいるのに。

助けを求めている人が、近くにいるのに。

助けられない自分が憎くて。

「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」

私はそう言い、教室から離れた。

いや、逃げた、の方が正しいかな?